学校で受けられる合理的配慮とは?制度と実例を紹介

学校で受けられる合理的配慮とは?制度の基礎から障害特性ごとの実例まで徹底解説
お子さんが学校生活を送る中で、「授業についていけない」「集団行動が苦手」「試験で実力を発揮できない」といった困難に直面し、「何か特別な支援が必要なのではないか」と感じたことはありませんか?特に、障害特性による困難は、努力や根性だけでは解決できないことが多く、適切な支援が不可欠です。
近年、日本では「障害者差別解消法」に基づき、学校での「合理的配慮」の提供が義務化されています。これは、障害のある子どもが障害のない子どもと同じスタートラインに立って学ぶための、きわめて重要な制度です。
この記事では、合理的配慮の基本的な考え方から、幼稚園・小中学校、高校・大学といった学校段階ごとの実例、そして「過度の負担」とならないための学校との建設的な交渉術までを、分かりやすく詳細に解説します。
この記事を最後までお読みいただくことで、お子さんに必要な支援を明確に理解し、学校と連携して適切な「合理的配慮」を引き出すための確かな知識と具体的な行動ステップが得られます。共に、お子さんの豊かな学校生活を実現していきましょう。
合理的配慮の基礎知識:なぜ学校は配慮を提供する必要があるのか
合理的配慮とは何か、その目的と法的な根拠を知ることは、学校との話し合いを円滑に進める上で不可欠です。まず、制度の核心を理解しましょう。
1. 合理的配慮の定義と目的
合理的配慮とは、障害のある子ども(学生)の教育上および生活上の困難を軽減するために、学校がその個別のニーズに応じて行う、調整や変更のことです。
- 目的:障害があるという理由だけで、教育の機会を奪われたり、参加を拒まれたりする「間接的な差別」を解消すること。
- 基本的な考え方:環境にある障壁(バリア)を取り除くことで、障害のある子どもが障害のない子どもと平等に学ぶ権利を保障すること。
例えば、車椅子の生徒に対してスロープを設置したり、聴覚障害の生徒に対して筆記通訳を付けたりすることは、個別の調整であり、典型的な合理的配慮の例です。
2. 法的根拠:障害者差別解消法と学校の義務
合理的配慮の提供は、2016年に施行された「障害者差別解消法」によって、公立・私立を問わず、幼稚園から大学までのすべての学校設置者に対して義務化されました(私立学校は努力義務)。
この法律により、学校側は、障害のある子どもから支援の申し出があった場合、「建設的対話」を通じてそのニーズを確認し、「過度の負担にならない範囲」で配慮を提供することが求められています。
「過度の負担」とは、学校の業務運営に著しい支障をきたすような、費用や人的資源、組織の変更を求めるような配慮です。配慮の提供の可否は、この「過度の負担」にあたるかどうかを基準に、学校と保護者との話し合い(建設的対話)によって決められます。
3. 特別支援教育との関係:配慮は誰でも受けられる
合理的配慮は、特別支援学校や特別支援学級に在籍する子どもだけが受けられるものではありません。通常学級に在籍し、療育手帳や身体障害者手帳を持っていなくても、医師の診断書や「個別の教育支援計画」などで教育的ニーズが確認できれば、配慮を受けることができます。
| 項目 | 合理的配慮 | 特別支援教育 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 障害者差別解消法 | 学校教育法 |
| 目的 | 差別解消(バリア除去) | 個別の教育的ニーズに応じた指導 |
| 対象 | すべての学校の障害のある子ども | 主に特別支援学校・学級・通級の児童生徒 |
合理的配慮は、「すべての教育の場」において、障害によるバリアを取り除くための最低限の義務であると理解しましょう。
💡 ポイント
合理的配慮を引き出すための最初のステップは、お子さんの「具体的な困りごと」と、その困難を解消するための「具体的な提案」をセットで学校に伝えることです。「なんとなく困っている」ではなく、「板書を写すのに時間がかかりすぎるので、写真を撮らせてほしい」といった具体的な要望を準備しましょう。
学校段階別・障害特性別の合理的配慮の実例
合理的配慮は、子どもの障害特性や学校の段階によって内容が大きく異なります。ここでは、具体的な実例を通じて、どのような配慮が考えられるのかを見ていきましょう。
1. 小中学校(通常学級)における配慮の実例
小学校・中学校の通常学級では、学習環境の調整や行動・コミュニケーション面でのサポートが中心となります。
発達障害(ADHD、ASD、LDなど)の場合
- 環境調整:座席を教室の隅や刺激の少ない場所に配置する。気が散るものを視界から外す。
- 指示の出し方:指示を一度に一つに絞る、視覚的なチェックリストやタイマーを使って見通しを持たせる。
- 学習支援:板書を写すことに困難がある場合、学習用タブレットの使用や、先生が作成した資料の事前配布を行う。
肢体不自由・病弱の場合
- 移動支援:校舎内のエレベーター使用許可、休み時間の移動を優先させる、階段の昇降に支援員を配置する。
- 筆記支援:テストやノートの作成にパソコンやタブレット、または代筆を認める。
- 体調管理:授業中の体調不良時の休憩や、保健室・別室の利用を許可する。
2. 高校・大学等(高等教育機関)における配慮の実例
高等教育機関では、学問的な困難に対する配慮や、試験での公平性を担保するための配慮が中心となります。特に受験時の配慮申請は非常に重要です。
受験時の合理的配慮(大学入学共通テスト・個別試験)
- 試験時間:試験時間を1.3倍または1.5倍に延長する(聴覚障害、視覚障害、肢体不自由、発達障害など)。
- 情報保障:問題冊子の拡大文字印刷、点字による出題。
- 受験環境:静かな別室受験、机・椅子の持ち込み、補聴器の使用許可。
入学後の学習上の配慮
- 情報保障:講義内容を代筆するノートテイク、手話通訳の手配、講義資料の事前データ提供。
- 授業参加:授業中の座席の固定、音声の録音、集中困難時の一時的な離席を認める。
- 評価方法:レポート提出期限の延長、口頭試問への変更、試験時間の延長。
3. すべての学校段階で共通する配慮
- 危機対応:パニックや不安が高まった際のクールダウンのための別室利用を許可する。
- 生活支援:通学路や校内での移動支援、給食時のアレルギー対応や食事方法の個別対応を行う。
- コミュニケーション:学校からの連絡事項を視覚的なカードや簡潔な文章で伝える(発達障害・知的障害)。
✅ 成功のコツ
合理的配慮は、障害名を伝えることではなく、障害によって生じている具体的な「困難」を学校に理解してもらうことが重要です。例えば、「ADHDです」ではなく、「授業中、40分に一度席を立たないと集中力が持続しないという困難がある」と具体的に伝えましょう。
配慮申請のプロセス:学校との建設的対話を進める方法
合理的配慮を確実に、そしてスムーズに受けるためには、学校との「建設的対話」のプロセスを理解し、準備を整えることが重要です。配慮は「交渉」ではなく、「協働」であるという意識を持ちましょう。
1. 申請の事前準備:エビデンスの収集と要望の明確化
対話を始める前に、以下の3つの要素を準備し、文書化しておきましょう。
- エビデンス(根拠):医師の診断書、心理検査の結果(WISCなど)、過去の支援記録(高校までの個別の教育支援計画)など。
- 困難の言語化:「〇〇という特性があるため、△△という場面で□□という困難が生じている」と具体的に記述。
- 提案する配慮:その困難を解消するために、「✕✕という配慮」をお願いしたいと、具体的に提案する。
特に、学校内で支援を推進するキーパーソンとなる「特別支援教育コーディネーター」に、事前にこれらの文書を渡しておくとスムーズです。
2. 建設的対話のステップと記録の重要性
建設的対話は、学校の特別支援教育コーディネーター、担任、教頭などが出席して行われます。
- ニーズの提示:保護者が準備した困難と配慮の提案を提示し、学校側に理解を求める。
- 学校側の意見:学校側から、「人的資源や予算の観点から、提案された配慮は過度の負担となるか?」といった意見が出される。
- 代替案の協議:提案が難しい場合、学校側から代替案を出してもらうか、より負担の少ない別の配慮を協議する。
- 合意と文書化:最終的に合意した配慮の内容、期間、実施担当者を「個別の教育支援計画」または「合理的配慮提供文書」として文書化する。
この対話の議事録を必ず作成し、保護者もコピーを保管することが、後々のトラブルを防ぐために非常に重要です。
3. 配慮の提供が困難とされた場合の対処法
学校側が「過度の負担」を理由に配慮の提供を拒否した場合でも、そこで諦める必要はありません。
- 段階的な再提案:一度に拒否された大きな配慮を、期間や規模を限定した小さな配慮(スモールステップ)として改めて提案する。
- 第三者機関への相談:自治体の教育委員会や、発達障害者支援センター、法務局の「人権相談」窓口など、第三者の意見を取り入れる。
- 行政不服審査請求:公立学校の場合、行政不服審査法に基づき、教育委員会の決定に対して不服を申し立てることも可能です(最終手段)。
⚠️ 注意
学校が配慮提供を拒否した場合、その理由を「過度の負担となる具体的な根拠」として文書で提出してもらいましょう。理由の提示は学校側の義務です。
合理的配慮の課題:理解促進と提供の格差を乗り越える
合理的配慮の制度は進展していますが、日本の学校現場では、教員の理解度や人員配置の格差により、配慮の質に差が生じているのが現状です。これらの課題を理解し、対処することが求められます。
1. 教員の理解不足と専門性の向上
合理的配慮が義務化されても、すべての教員が障害特性や配慮の方法について十分な専門知識を持っているわけではありません。特に通常学級の担任は、多忙な業務の中で、個別の配慮に対応することに困難を感じるケースがあります。
- 課題:教員への研修の機会が不足していること、合理的配慮が「特別扱いの甘やかし」と誤解されることがある。
- 対処法:学校の特別支援教育コーディネーターを通じて、担任の先生にお子さんの特性を具体的に伝え、支援方法をマニュアル化してもらう。
教員の理解を促すためには、保護者自身が支援のプロデューサーとなり、情報提供を続ける粘り強さが必要です。
2. 人的・財源的資源の格差
公立学校では、特別支援教育支援員(補助員)の配置や必要な機材(タブレット、拡大機など)の予算が、自治体や学校規模によって大きく異なります。これが、配慮の提供格差の大きな原因です。
| 要素 | 提供格差の原因 |
|---|---|
| 支援員配置 | 各自治体の予算と判断に委ねられるため、配置時間に差が出やすい。 |
| 機材導入 | 必要な機材(デジタル教科書など)の導入が遅れており、学校間のデジタルデバイドが生じている。 |
保護者は、就学相談や教育委員会との面談の場で、これらの資源の状況を確認し、必要な支援員配置を強く要望することが大切です。
3. 合理的配慮と「わがまま」の境界線
合理的配慮は、障害による困難を解消するための調整であり、「子どもが単に楽をしたい、特定の要求を通したい」という「わがまま」とは明確に区別されます。
- 判断基準:配慮の内容が、「障害のない子どもと同じように学ぶ」という目的に沿っているか、「医学的・教育的な根拠」があるか。
保護者は、要求する配慮が「わがまま」ではないことを、客観的なエビデンスをもって学校に説明できる準備が必要です。
よくある質問(FAQ)と次のアクションプラン
合理的配慮に関する保護者の疑問と、支援を前進させるための具体的な次のステップをまとめました。
Q1. 合理的配慮の申請には診断書は必須ですか?
A. 厳密には必須ではありませんが、診断書や心理検査の結果がある方が、学校側も配慮の必要性を判断しやすく、話がスムーズに進みます。特に「発達障害」「精神障害」など、外見からは分かりにくい障害の場合、教育的ニーズの根拠として診断書は非常に有効です。
診断書がない場合は、「個別の教育相談」を通じて、学校の特別支援教育コーディネーターや外部の巡回相談員に、お子さんの行動を観察してもらい、学校内での評価(アセスメント)を根拠とすることも可能です。
Q2. 合理的配慮を求めることは「特別扱い」になりませんか?
A. 合理的配慮は、「特別扱い」ではなく、「公平な教育を受けるための調整」です。例えば、メガネをかけることが「特別扱い」ではないのと同じです。配慮がなければ、その生徒はスタートラインにすら立てないからです。
もしクラスの保護者から懸念の声が出た場合は、学校側から全保護者向けに「多様な学び」や「インクルーシブ教育」についての啓発を行うよう提案してみましょう。支援をオープンにし、肯定的に説明することが、最も誤解を防ぐ方法です。
Q3. 合理的配慮はいつまで続くのですか?
A. 合理的配慮は、子ども(学生)が困難を感じる限り、幼稚園から大学、そして就職後の職場に至るまで継続的に提供されるべきものです。
ただし、配慮の内容は固定ではありません。子どもの成長や環境の変化(例:新しい学年への進級、大学への進学)に伴い、定期的に見直しを行い、徐々に自己解決できる力を育む方向へ移行していくことが理想です。
「合理的配慮のおかげで、私も支援員も、パニック時の対応に共通のルールを持つことができました。『特別扱いでなく、ルールだ』と理解できたことで、不安が軽減しました。」
— 小学校教員・特別支援教育コーディネーター
相談窓口・参考リンク
合理的配慮の申請や、学校との連携に関する具体的な相談は、以下の窓口を活用してください。
- お住まいの地域の教育委員会:就学相談や支援員の配置に関する公的な窓口です。
- 学校の特別支援教育コーディネーター:校内での配慮の調整、個別の計画作成の中心となります。
- https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken03.html" target="_blank" rel="noopener noreferrer">法務局(人権相談窓口):学校からの不当な拒否や差別を受けた場合の人権相談が可能です。
- 発達障害者支援センター:障害特性に応じた専門的な助言や、配慮に関する情報提供が受けられます。
まとめ
学校で受けられる合理的配慮は、障害のある子どもが公平な教育を受ける権利を保障するための制度であり、すべての子どもの可能性を広げるために不可欠です。配慮を成功させる鍵は、「具体的な困難」を「客観的な根拠」とともに提示し、学校の特別支援教育コーディネーターと建設的な対話を重ねていくことです。
配慮は、子どもの成長や環境の変化に応じて柔軟に見直していくものです。この記事で得た知識を武器に、学校と協働し、お子さんに必要な支援を自信を持って要求していきましょう。それが、インクルーシブな社会の実現に繋がります。
まとめ
- 合理的配慮は、障害者差別解消法に基づく学校の義務であり、平等な教育参加を目的とする。
- 配慮の申請には、診断書などの客観的根拠に基づき、「具体的な困難とそれを解消する提案」をセットで提示することが重要。
- 学校の特別支援教育コーディネーターと建設的な対話を重ね、合意内容を文書化することが支援継続の鍵である。

伊藤 真由美
(いとう まゆみ)33歳📜 保有資格:
特別支援学校教諭免許、社会福祉士
特別支援学校で5年教員を務めた後、就労継続支援B型事業所で5年勤務。「学校から社会へ」の移行支援と、「自分のペースで働く」を応援します。進路選択や作業所選びの情報をお届けします。
大学で特別支援教育を学び、卒業後は特別支援学校の教員として5年間勤務。知的障害や発達障害のある生徒たちの進路指導を担当する中で、「卒業後の支援」の重要性を痛感しました。そこで教員を辞め、就労継続支援B型事業所に転職。現在は生活支援員として、様々な障害のある方が自分のペースで働く姿を日々見守っています。特に大切にしているのは、「働くことがすべてではない」という視点。一般就労が難しくても、作業所での仕事や日中活動を通じて、生きがいや居場所を見つけることは十分可能です。記事では、特別支援学校卒業後の進路選択、就労継続支援A型・B型の違い、作業所での実際の仕事内容など、「自分らしい働き方・過ごし方」を見つけるための情報を発信します。
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