就労移行支援とは?内容・流れ・効果・対象を総まとめ

「一般企業で働きたいけれど、自分の障害や体調に合った仕事が見つかるか不安」「ブランクが長く、職場の人間関係や体力についていけるか心配」—。 障害のある方が就職を考えるとき、このような悩みを抱えるのは自然なことです。 就職活動は一人で進めるにはハードルが高いと感じる方も多いでしょう。
そんな「働きたい」という気持ちを力強くサポートしてくれるのが、障害福祉サービスの一つである「就労移行支援(しゅうろういこうしえん)」です。 就労移行支援は、一般企業への就職を目指す方に特化した訓練やサポートを提供し、就職から職場定着までを一貫して支援する心強いパートナーです。 この記事では、就労移行支援の具体的な内容、利用の流れ、得られる効果、対象者について、初めての方にもわかりやすいように総まとめします。 制度を理解し、あなたらしい働き方を見つけるための準備を始めましょう。
就労移行支援とは?制度の概要と目的
就労移行支援は、障害者総合支援法に基づく「訓練等給付」の一つであり、障害のある方の「就職」を最優先の目標として提供されるサービスです。
就労移行支援の基本的な役割
このサービスは、単に就職先を紹介するだけでなく、利用者が長く安定して働き続けるための土台作りを支援することを目的としています。
- スキルの獲得:
ビジネスマナー、PCスキル、職業適性など、就職に必要な知識や技術を習得するための訓練を提供します。
- 体調管理の確立:
規則正しい生活リズムの確立や、自身の体調・障害特性の把握、ストレス対処法など、働き続けるためのセルフケア能力を高めます。
- 就職活動のサポート:
履歴書・職務経歴書の作成支援、面接の練習、企業との連携など、専門的なノウハウを活用した就職活動を支援します。
サービスの対象者と利用期間
就労移行支援の対象者は、一般企業等での就労を希望する方で、原則として以下の要件を満たす方です。
- 年齢:
18歳以上65歳未満の方。
- 対象となる障害:
身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病など、障害者総合支援法の対象となるすべての方。
- 利用期間:
原則として2年間(24ヶ月)です。 ただし、特別な事情がある場合は、最長1年間(12ヶ月)の延長が認められることがあります。
⚠️ 注意
在職中の方や、既に就労継続支援(A型・B型)を利用している方は、原則として就労移行支援の対象外です。 ただし、就労継続支援から就労移行支援への移行を希望し、就職が見込まれる場合は、利用できる可能性がありますので、相談支援専門員に確認してください。
就労移行支援の具体的な訓練内容と効果
就労移行支援事業所で提供される訓練は、多岐にわたり、利用者の障害特性や希望する職種に合わせて個別に計画されます。
1. 職業準備性と基礎能力の向上
一般企業で働くために必要な基本的な能力や、職場での適応力を高めるための訓練です。
- ビジネスマナー・コミュニケーション:
報告・連絡・相談(ホウレンソウ)の練習、正しい敬語や身だしなみ、チームでの協力方法など、職場での円滑な人間関係を築くためのスキルを学びます。
- PCスキルの習得:
事務職を目指す方には、Word、Excel、PowerPointなどの基本的な操作や、ビジネス文書作成の訓練が行われます。
- アセスメント(適性評価):
様々な作業や訓練を通じて、利用者の得意・不得意、ストレス要因、適切な配慮事項などを客観的に評価し、自己理解を深めます。
2. 安定した就労に向けたセルフケア訓練
障害のある方が長期的に働く上で、最も重要となるのが、自身の体調や精神状態を管理するセルフケア能力です。
- 体調管理・生活リズムの確立:
週5日、毎日事業所に通所する訓練を通じて、規則正しい生活リズムを構築します。 また、疲労やストレスのサインに気づき、適切な休息を取るタイミングを学ぶ訓練も含まれます。
- 障害特性への理解と対処法:
自身の障害や病気の特性を深く理解し、体調を崩しそうになった時の対処法や、職場に求める合理的配慮の内容を明確にする支援が行われます。
「就労移行支援で自分の苦手なコミュニケーションパターンを知ることができました。その結果、職場に求める配慮を具体的に伝えられるようになり、自信をもって就職できました。」
— 精神障害のある利用者の声
✅ 成功のコツ
訓練の成果を最大限にするには、「通所の継続」が不可欠です。 事業所での訓練時間や活動内容が、実際の就労に耐えうる体力と集中力を養うための重要なステップとなります。
就職活動から職場定着までの一貫した支援
就労移行支援の最大の特徴は、就職活動中だけでなく、就職後の職場定着までを見据えた継続的なサポートが提供される点です。
1. 企業実習と職場体験
訓練の次のステップとして、実際の企業での実習(インターンシップ)が積極的に推奨されます。
- 実習の目的:
利用者は、実習を通じて職場の雰囲気を体験し、自身の適性を最終確認できます。 企業側は、障害特性や配慮事項を理解し、採用の判断材料とすることができます。
- 職員のサポート:
実習中も事業所の職員が定期的に訪問し、利用者と企業の間に入って調整やアドバイスを行います。 これにより、安心して実習に取り組むことができます。
2. 就職活動の徹底サポート
事業所の職員(職業指導員、就労支援員など)が、利用者の希望と適性に基づき、二人三脚で就職活動を進めます。
- 求人開拓と紹介:
障害者雇用に積極的な企業や、利用者の障害特性を理解している企業の求人情報を開拓し、紹介します。
- 応募書類・面接対策:
履歴書や職務経歴書、特に障害者雇用で重要となる「合理的配慮」に関する説明書類の作成を徹底的に支援します。 また、模擬面接を通じて、自信を持って面接に臨めるよう訓練します。
3. 就職後の「定着支援」への移行
就職が決まったら、サービスは「就労定着支援」へと移行します。
- 就労定着支援:
就職後6ヶ月〜3年半の期間にわたり、職場訪問や定期面談を通じて、職場での人間関係、業務上の悩み、体調の変化などについて相談に応じます。 企業側に対しても、より良い配慮を提供するためのアドバイスを行います。
- 定着率の向上:
この定着支援があることで、就職後のミスマッチや離職を防ぎ、安定して働き続けることにつながります。 多くの就労移行支援事業所が、高い定着率を維持しています。
就労移行支援の利用手続きと費用負担
就労移行支援の利用開始は、他の障害福祉サービスと同様に、市町村への申請から始まります。
サービス利用開始までのステップ
- 情報収集・事業所見学:
まずは、地域の就労移行支援事業所の情報を集め、複数の事業所を見学・体験利用します。 事業所の雰囲気やプログラム内容が、自分に合っているかを確認することが重要です。
- 市町村への申請:
利用したい事業所を決定後、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口に利用申請を行います。
- アセスメント・計画作成:
相談支援専門員が「サービス等利用計画案」を作成し、市町村が内容を審査します。
- 支給決定・受給者証交付:
審査の結果、利用が認められると、「受給者証」が交付されます。 これにより、正式に事業所と契約を結ぶことができます。
サービス利用にかかる費用
就労移行支援は、「訓練等給付」の一つであり、サービス本体の費用については、以下の原則が適用されます。
- 原則1割負担:
サービスにかかる費用の1割が自己負担となります。
- 所得に応じた上限額:
しかし、世帯の所得に応じて月額の自己負担上限額が定められており、上限額を超えて支払う必要はありません。
自己負担額の月額上限(例)
| 世帯区分 | 上限額(月額) | 備考 |
|---|---|---|
| 生活保護受給世帯 | 0円 | |
| 市町村民税非課税世帯 | 0円 | 前年の収入に基づく |
| 市町村民税課税世帯 | 9,300円 | 所得割16万円未満の方(中間所得層) |
実際には、利用者全体の約9割が自己負担なし(0円)で利用しているというデータもあります。 ただし、交通費、昼食代、活動にかかる実費などは、原則として自己負担となります。
就労移行支援 vs. 就労継続支援:どちらを選ぶべきか
就労を目指す障害福祉サービスには、就労移行支援の他に、就労継続支援(A型・B型)があります。 この3つのサービスは目的が大きく異なるため、自分の状況に合わせて適切なサービスを選ぶことが重要です。
サービス目的と目指す働き方の違い
それぞれのサービスが目指すゴールを理解しましょう。
- 就労移行支援:
ゴールは「一般企業への就職」であり、訓練期間は原則2年間です。
- 就労継続支援A型(雇用型):
ゴールは「事業所と雇用契約を結び、最低賃金以上の給与をもらいながら働くこと」です。 一般就労が困難な方が対象です。
- 就労継続支援B型(非雇用型):
ゴールは「自分のペースで軽作業などの訓練を行い、工賃をもらうこと」です。 A型や一般就労が困難な方が対象です。
サービスを選ぶ際の判断基準
現時点での「働く意欲」「体調の安定度」「目標とする働き方」に応じて選択します。
- 「一般企業で働くことを強く望んでいる」場合:
就労移行支援が最も適しています。 体調やスキルに不安があっても、2年間かけて克服し、就職を目指せます。
- 「今は体調が不安定だが、働く訓練から始めたい」場合:
就労継続支援B型で体調の安定や生活リズムの確立を優先し、その後、体調が整ったら就労移行支援へ移行するという方法も一般的です。
- 「一般就労は難しいが、安定した契約労働をしたい」場合:
就労継続支援A型を検討します。
💡 ポイント
迷った場合は、まず就労移行支援事業所の見学に行き、職員に相談してみましょう。 専門的な視点から、あなたに合ったステップアップの道筋を提案してくれます。
よくある質問と就労成功へのアクション
就労移行支援の利用に関して、利用者やご家族からよく聞かれる質問と、利用を検討する上での次のアクションについてまとめます。
Q&A:就労移行支援に関する疑問
Q1. 利用中にアルバイトはできますか?
A. 原則として、就労移行支援の訓練中は、アルバイトやパートなどの就労は認められていません。 これは、「一般就労に向けた訓練に集中すること」がサービスの目的であるためです。 ただし、就職活動の一環として行う企業実習は例外となります。
Q2. 2年間で就職できなかった場合はどうなりますか?
A. 2年間の利用期間が終了しても就職に至らなかった場合、原則としてサービスの延長はできません。 その後の選択肢としては、就労継続支援B型へ移行して訓練を継続する、または一旦サービス利用を終了し、体調を整えたり、自己訓練を行ったりするなどが考えられます。
Q3. 障害者手帳がないと利用できませんか?
A. 障害者手帳の有無は必須ではありません。 就労移行支援は、「自立支援医療の対象」や「医師の診断書等」により、障害者総合支援法の対象となる難病や障害があると市町村が認めた方も利用できます。 手帳がない場合は、申請時に必要な書類について市町村窓口に確認してください。
就労成功に向けた次のアクション
「働きたい」という目標を実現するために、ぜひ次のステップに進んでみてください。
- 事業所を見学する:
まずは、自宅や職場から通いやすい場所にある複数の就労移行支援事業所に見学や体験利用の申し込みをしてみましょう。 実際の雰囲気を感じることが、一歩踏み出すきっかけになります。
- 相談支援専門員に相談する:
サービス利用の手続きや計画作成は複雑です。 相談支援専門員に連絡を取り、利用計画の作成や、申請手続きのサポートをお願いしましょう。
就労移行支援は、あなたの「働きたい」という思いを形にするための最も確実な道の一つです。 専門家のサポートを得て、希望の就職を実現してください。
まとめ
- 就労移行支援は、一般企業への就職を目指す18歳以上65歳未満の障害のある方を対象とし、原則2年間で集中的な訓練を行うサービスです。
- サービス内容は、PCスキル・ビジネスマナーなどの職業準備訓練と、規則正しい生活と体調を整えるセルフケア訓練が中心です。
- 就職活動だけでなく、企業実習や就職後の「就労定着支援」まで一貫してサポートするため、高い定着率につながっています。
- 利用費用は原則1割負担ですが、所得に応じて月額上限があり、約9割の利用者が自己負担なし(0円)で利用しています。

金子 匠
(かねこ たくみ)55歳📜 保有資格:
社会福祉士、精神保健福祉士
障害者支援施設で30年間勤務し、施設長を経験。現在はすぐサポ編集長として、障害のある方とご家族が必要な情報にアクセスできる環境づくりに取り組んでいます。「制度は複雑だけど、使えば生活が楽になる」という信念のもと、分かりやすい情報発信を心がけています。
大学卒業後、障害者支援施設に就職し、30年間にわたり現場で支援に携わってきました。生活支援員として10年、サービス管理責任者として15年、そして施設長として5年の経験があります。特に印象に残っているのは、重度の知的障害があり、施設入所が当然と思われていた方が、適切な支援と環境調整により地域での一人暮らしを実現したケースです。「できない」と決めつけず、その人に合った支援を考えることの大切さを学びました。現在は現場を離れ、すぐサポの編集長として、これまでの経験を記事という形で多くの方に届けることをミッションとしています。制度や法律の解説記事では、「専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で」を心がけています。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学で社会福祉を学び、実習で出会った利用者の方々の笑顔に感動したことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
重度の知的障害のある方が、適切な支援により地域での一人暮らしを実現したこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で伝えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
読書、散歩
🔍 最近気になっているテーマ
障害者総合支援法の改正動向、ICTを活用した新しい支援の形





