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個別の教育支援計画とは?作り方と保護者の関わり方

📖 約53✍️ 高橋 健一
個別の教育支援計画とは?作り方と保護者の関わり方
個別の教育支援計画(IEP)は、障害のある児童生徒が、乳幼児期から学校卒業後の生活まで一貫した支援を受けられるよう、教育、福祉、医療などの関係機関が連携するための設計図です。計画には、本人の現状、生涯を見通した長期目標、具体的な支援内容、多職種連携体制が明記されます。IEPの作成において、保護者は個別支援会議に積極的に参加し、家庭での様子や将来の希望を伝える「子どもの専門家」としての役割が非常に重要です。この計画は、学校での「個別の指導計画」の基礎となり、卒業後の福祉サービスへの円滑な移行を確実にするための重要な「支援のバトン」となります。

お子さんが学校や地域生活で特別なサポートを必要とする場合、「どのような支援を、誰が、いつまで行うのか」といった情報が、バラバラになりがちです。 学校の先生が変わるたびに、また、卒業して次のステップに進むたびに、同じ説明を繰り返すことに負担を感じる保護者の方も多いのではないでしょうか。

このような課題を解決し、切れ目のない一貫した支援を実現するための重要なツールが、「個別の教育支援計画(IEP)」です。 個別の教育支援計画は、お子さんの乳幼児期から学校卒業後の生活までを見通し、教育、福祉、医療、労働などの関係機関が連携するための設計図です。 この記事では、個別の教育支援計画の定義と目的、計画の具体的な作り方、そして保護者が積極的に関わるための方法を詳しく解説します。 この計画を理解し、お子さんの未来を一緒にデザインしましょう。


個別の教育支援計画とは?その定義と目的

個別の教育支援計画(Individualized Education Program, IEP)は、特別支援教育の推進において、中核となる文書です。 これは、文部科学省がその作成を推奨しているもので、法的な義務ではありませんが、多くの自治体や学校で活用されています。

「個別の指導計画」との違い

特別支援教育の現場では、よく似た名称の計画が二種類使われますが、それぞれ目的と範囲が異なります。

計画名 目的 対象期間と範囲
個別の教育支援計画(IEP) 生涯を見通した一貫した支援 乳幼児期から学校卒業後まで(長期)
個別の指導計画(IIP) 教育課程における具体的な指導目標 学校在籍期間中、特定の期間(短期)

個別の教育支援計画(IEP)が、「人生全体を見据えた目標」と、それを達成するために必要な「関係機関の連携」を主眼としているのに対し、個別の指導計画(IIP)は、「学校の授業の中で達成する、より具体的な学習・行動目標」を定めるものです。 IEPは、IIPを上位で統括する役割を持つと理解するとわかりやすいです。

支援計画が果たすべき重要な目的

個別の教育支援計画は、以下の三つの重要な目的のために作成されます。

  • 1. 切れ目のない支援の実現:

    幼稚園、小学校、中学校、高等学校、卒業後の福祉サービス、就労といった、ライフステージが変わっても、支援の情報や方針が途切れないようにします。 これにより、転校や進級のたびに生じる混乱を防ぎます。

  • 2. 多職種・多機関の連携:

    学校の教員だけでなく、福祉サービス事業所の職員、医療機関の医師や看護師、相談支援専門員など、お子さんに関わる全ての専門職が共通理解を持つための共通言語として機能します。

  • 3. 保護者と本人の意思の尊重:

    保護者の意向や、お子さん自身の希望(可能な限り)を計画に反映させ、支援の主体として当事者自身が関わることを促します。

💡 ポイント

個別の教育支援計画は、「支援のバトン」のようなものです。 支援者が変わっても、計画書を見れば、過去の経緯、得意なこと、苦手なこと、目指すべき方向性がすぐにわかるように設計されています。


個別の教育支援計画の主要な構成要素

個別の教育支援計画は、単なる指導内容のリストではなく、お子さんの全体像を把握し、長期的な目標から具体的なアプローチまでを体系的に記述する必要があります。

1. 基本情報とアセスメント(現状の把握)

まず、お子さんの現状を多角的に把握するための情報が記載されます。

  • 基本情報:

    氏名、年齢、障害名(ある場合)、利用中の福祉サービスや医療機関の情報。

  • 得意なこと・苦手なこと:

    学習、運動、コミュニケーション、社会性、情緒面など、様々な側面から強みと課題を具体的に記述します。 ここには、保護者や本人の「思い」も反映されるべきです。

  • 医療・福祉情報:

    服薬状況、医療的ケアの必要性、障害支援区分(成人期を見据えて)など、支援に不可欠な専門情報を記載します。

2. 目標設定(長期と短期)

支援計画の核となるのが、目標の設定です。 目標は、「本人がどうなっていたいか」を具体的に示すものです。

  • 長期目標(ライフステージ目標):

    「10年後、または卒業時に、どのような生活を送っていたいか」という、生涯を見通した目標を記述します。 例:「グループホームで自立した生活を送る」「週3日、就労継続支援B型に通い続ける」など。

  • 短期目標(達成目標):

    長期目標を達成するために、直近1年間(または半年間)で達成すべき具体的な目標を記述します。 例:「自分の気持ちを言葉で伝える練習をする」「決まった時刻に起き、登校準備を一人で完了させる」など。

3. 支援内容と連携体制

目標達成のために、誰がどのような支援を行うかを明確にします。

  • 具体的な支援内容:

    学校(通常学級、通級、特別支援学級)、放課後等デイサービス、相談支援事業所など、各機関が担う役割と具体的な支援方法を記述します。

  • 連携・引き継ぎ方法:

    関係機関との連絡会議の頻度、次年度や次のステージへの情報引き継ぎの方法などを明記し、支援の継続性を保証します。


個別の教育支援計画の作り方:保護者の積極的な関わり

計画作成は、学校や行政主導で行われると思われがちですが、保護者こそが「子どもの専門家」として積極的に関わることが求められます。

作成プロセスの流れ

作成は、一般的に以下のプロセスで進められますが、自治体や学校によって多少の違いがあります。

  1. 原案作成(情報収集):

    特別支援教育コーディネーターや担任などが、保護者、本人、関係機関から情報を収集し、計画の原案を作成します。

  2. 個別支援会議(カンファレンス)の開催:

    保護者、本人、学校関係者、福祉関係者などが一堂に会し、原案を基に目標や支援内容について協議します。 この場が、保護者が意見を述べる最も重要な機会です。

  3. 計画の確定と同意:

    会議での合意を経て、計画が確定します。 保護者は、内容を確認し、同意の署名を行います。

  4. 計画の実施と評価・見直し:

    支援計画に基づき、各機関が支援を実施します。 年に一度以上(または必要に応じて)計画の達成度を評価し、次の目標を設定するために見直しを行います。

保護者として準備すべきこと

個別支援会議に臨む前に、以下の情報を整理しておくと、議論がスムーズに進みます。

  • ライフヒストリー:

    これまでの生育歴、病歴、受けた検査や診断の内容を時系列でまとめたもの。

  • 家庭での様子:

    家庭での得意なこと(お手伝い、興味関心)、特に困っている行動や課題、最近の成長など。

  • 将来の希望(保護者の願い):

    「最終的に、どのような大人になってほしいか」「卒業後にどのような場所で暮らしてほしいか」といった、長期的な願いを明確にしておく。

「わが子の計画書作りでは、会議で発言する前に、あらかじめA4一枚に『要望と将来の目標』をまとめて配布しました。 これにより、議論がブレることなく、こちらの思いを正確に伝えることができました。」

— ある保護者からの声

✅ 成功のコツ

計画作成において、「できないことの克服」だけでなく、「得意なことや強み」を活かす視点を強調しましょう。 強みを伸ばすことが、自己肯定感を育み、困難な課題にも立ち向かう力になります。


「個別の指導計画」との連携:日々の教育現場での活用

個別の教育支援計画(IEP)で設定された長期目標は、学校教育の期間内で実現するための具体的な行動目標へと落とし込まれます。 これが、個別の指導計画(IIP)の役割です。

指導計画の具体的な項目

個別の指導計画は、IEPの大きな目標を受け、「学習指導」と「自立活動」の二つの側面から指導内容を詳細に定めます。

  • 学習指導:

    特定の教科(例:算数、国語)において、個別に配慮すべき内容、使用する教材、評価の方法などを記述します。 例:算数の授業では、計算ドリルではなく、生活に即した金銭計算を中心に指導する。

  • 自立活動:

    通級指導教室や特別支援学級などで提供される、コミュニケーション、感情のコントロール、感覚統合、身体の動きなどに関する指導内容を記述します。 例:週2回、通級指導教室でソーシャルスキルトレーニング(SST)を実施する。

学校内での情報共有と連携

個別の指導計画は、クラス担任だけでなく、通級指導教員、養護教諭、教頭など、学校内の全職員が共有し、日常の指導や関わり方に一貫性を持たせるために活用されます。

  • 日々の関わり方の統一:

    「パニックになった時の対応」「指示の出し方の工夫」「休憩時間の過ごし方」などについて、指導計画に明記することで、先生が変わっても同じ配慮を受けられるようになります。

  • 教材・環境の整備:

    計画に基づき、集中できる環境(衝立の設置、座席位置の配慮)や、個別教材の準備が行われます。

個別の指導計画は、年に数回、目標の達成度に応じて見直しが行われ、お子さんの成長に合わせて柔軟に内容が変更されます。


ライフステージを繋ぐ計画の活用:学校卒業後の展望

個別の教育支援計画の真価は、「教育」という枠を超え、学校卒業後の生活へと支援を繋ぐことにあります。

福祉サービスへの確実な引き継ぎ

義務教育を終えた後、お子さんが就労継続支援、生活介護、グループホームなどの障害福祉サービスへ移行する際、IEPは非常に重要な役割を果たします。

  • 情報伝達の効率化:

    IEPには、過去12年間の教育支援の履歴、本人の特性、成功体験、失敗から学んだことが凝縮されています。 これにより、福祉サービス事業所は、ゼロからアセスメントを行う手間が減り、すぐに適切な支援を始めることができます。

  • 「サービス等利用計画」との連携:

    福祉サービスを利用するために作成される「サービス等利用計画」の原案作成時に、IEPが基本資料として活用されます。 教育期間に培った目標やスキルが、福祉分野での生活目標に反映されます。

成人期を見据えた目標設定の重要性

小学校高学年以降、IEPの長期目標は、より具体的な成人期の生活を見据えた内容にシフトしていく必要があります。

  • 具体的な目標:

    「お金を管理する力」「公共交通機関を利用する力」「簡単な調理をする力」など、卒業後、家族以外の支援者とともに生活するために必要なスキルを洗い出し、目標に設定します。

  • 本人参加の促進:

    可能な限り、個別支援会議に本人も参加し、自分の将来について意見を表明する機会を設けましょう。 自己決定の経験が、将来の自立に不可欠です。

💡 ポイント

IEPの作成や更新時に、学校の特別支援教育コーディネーターと、地域の相談支援専門員が連携する機会を積極的に設けましょう。 この両輪が回ることで、スムーズな移行が可能になります。


よくある質問と教育支援計画の相談窓口

個別の教育支援計画に関する疑問点や、実際に相談できる窓口についてまとめます。

Q&A:計画作成に関する疑問

Q1. 個別の教育支援計画は、誰が管理・保管するのですか?

A. 計画は、主に学校の特別支援教育コーディネーターや、市町村の教育委員会が保管します。 進級や進学、転校の際に、保護者の同意を得た上で、次の学校や関係機関へ計画が引き継がれます。 保護者自身もコピーを保管し、常に最新の情報を確認できるようにしましょう。

Q2. 計画作成を拒否されたり、納得できない目標を設定された場合は?

A. 個別の教育支援計画は、保護者と学校が協働して作成するものです。 保護者の同意なく支援内容を決定することはできません。 納得できない場合は、その場で署名を求められても応じず、「持ち帰って検討したい」と伝えましょう。 その上で、教育委員会の教育相談窓口や、地域の弁護士会などに相談することができます。

Q3. 療育手帳や障害者手帳がないと、計画は作れませんか?

A. 手帳の有無にかかわらず、特別な教育的支援が必要と認められる児童生徒であれば、計画を作成することができます。 IEPの目的は、行政的な証明(手帳)ではなく、教育的なニーズに基づいた支援の継続です。 学校の特別支援教育コーディネーターに相談してください。

相談窓口と連携の進め方

個別の教育支援計画について疑問や課題がある場合は、以下の窓口を活用しましょう。

  • 特別支援教育コーディネーター(学校内):

    計画作成の中心的な役割を担う教員です。 まずはこの先生に、保護者の希望や懸念事項を伝えましょう。

  • 市町村教育委員会・教育相談窓口:

    学校では解決が難しい問題や、就学前の支援、卒業後の福祉サービスとの連携について、相談できます。

  • 地域の相談支援事業所:

    特に福祉サービスとの連携を見据える場合相談支援専門員の意見を聞くことは非常に有効です。

個別の教育支援計画は、お子さんの可能性を最大限に引き出し、社会参加を確実にするための羅針盤です。 この計画を通じて、学校、家庭、地域が一体となったチーム支援を実現しましょう。


まとめ

  • 個別の教育支援計画(IEP)は、乳幼児期から成人期まで、切れ目のない一貫した支援を行うための生涯を通じた設計図です。
  • 計画には、お子さんの現状のアセスメント、生涯を見通した長期目標、教育・福祉・医療の多職種連携体制が記述されます。
  • 計画作成の鍵は、保護者が「子どもの専門家」として個別支援会議に積極的に参加し、長期的な希望と具体的な要望を伝えることです。
  • IEPは、学校卒業後、福祉サービス(サービス等利用計画)への円滑な情報引き継ぎを保証する重要なツールとなります。

高橋 健一

高橋 健一

たかはし けんいち50
担当📚 実務経験 25
🎯 制度・法律🎯 医療・福祉制度

📜 保有資格:
社会福祉士

市役所の障害福祉課で20年間勤務し、制度の運用や窓口対応を担当してきました。「制度は難しい」と言われますが、知れば使える便利なツールです。行政の内側から見た制度のポイントを、分かりやすくお伝えします。

大学卒業後、地方自治体に入庁し、障害福祉課に配属されて20年。障害者手帳の交付、障害福祉サービスの支給決定、各種手当の申請受付など、幅広い業務を経験しました。行政職員として心がけていたのは、「制度を正確に伝えつつ、温かく対応する」こと。窓口に来られる方は不安を抱えています。制度の説明だけでなく、その方の状況に合わせた情報提供を大切にしてきました。退職後、民間の相談支援事業所に転職し、今度は「申請する側」の視点も理解できました。行政と民間、両方の経験を活かして、制度の仕組みだけでなく、「実際にどう使うか」まで伝えられるのが強みです。記事では、障害者総合支援法、障害者雇用促進法、各種手当など、制度の正確な情報を「難しい言葉を使わず」解説します。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

公務員として地域に貢献したいと思い、障害福祉課に配属されたことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

窓口対応で、制度を活用して生活が楽になったと感謝されたこと。行政と民間両方の視点を得られたこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

制度の正確な情報を「難しい言葉を使わず」伝えることを大切にしています。

🎨 趣味・特技

将棋、歴史小説

🔍 最近気になっているテーマ

マイナンバーと福祉制度の連携、自治体DXの進展

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