配慮が必要な子どもへの“合理的配慮”の基本

配慮が必要な子どもへの“合理的配慮”の基本
「うちの子が学校でよりスムーズに過ごすためにはどうしたら良いのだろう?」
「先生にどんなことをお願いしたら、それは『わがまま』にならないのだろうか?」
配慮が必要なお子さんを持つ保護者の皆様は、学校生活における様々な場面で、このように悩まれた経験があるかもしれません。特に「合理的配慮」という言葉は聞くけれど、その具体的な内容や進め方がわからず、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
このページでは、配慮が必要な子どもたちが学校で自分らしく学び、成長していくために欠かせない「合理的配慮」の基本的な考え方から、実際に学校と話し合いを進めるための具体的なステップ、そしてよくある疑問点までを、分かりやすく丁寧にご説明します。
この記事を最後まで読んでいただくことで、きっと「合理的配慮」への理解が深まり、学校との建設的な対話を進めるための大きな一歩を踏み出せるはずです。
合理的配慮とは何か?その法的根拠と対象
合理的配慮の定義:なぜ学校で必要とされるのか
「合理的配慮」とは、障害のある人が、障害のない人と平等に全ての権利を享受し、活動に参加できるように、個別のニーズに応じて行われる調整や変更のことです。これは、単なる「特別扱い」ではなく、障害者差別の解消に向けた社会的なバリアフリーの一環として位置づけられています。
学校教育においては、障害のある子どもが他の子どもたちと同じように教育を受け、能力を最大限に伸ばせるように、学校側が提供すべき支援を指します。文部科学省の定義でも、学校教育における合理的配慮は、「障害のある児童生徒が、他の児童生徒と平等に教育を受ける権利を享受・行使することを可能にするための、個別の教育的ニーズに対応して学校が行う変更及び調整」であるとされています。
例えば、聴覚に障害のある生徒が授業の内容を理解するために、板書を拡大することや、要約筆記を提供することなどが具体的な合理的配慮にあたります。これは、その生徒が本来持っている学習能力を、障害というバリアによって妨げられないようにするための措置なのです。
「不当な差別的取扱い」との違いを理解する
「合理的配慮」とセットで理解しておきたいのが、「不当な差別的取扱い」の禁止です。これは、学校が障害を理由として、正当な理由なく、教育の機会や利益を拒否したり、制限したりすることを禁じるものです。
例えば、車椅子を利用しているという理由だけで、修学旅行への参加を認めない、あるいは特定のクラブ活動への入部を断るといった行為は、「不当な差別的取扱い」にあたります。このような差別は、法律によって明確に禁止されています。
⚠️ 注意
合理的配慮の不提供も、場合によっては「不当な差別的取扱い」と見なされることがあります。つまり、学校側が配慮の必要性を認識していながら、特別な理由なくその提供を怠ることは、差別解消法の精神に反する行為となるのです。
一方で、合理的配慮は、学校側に過度な負担を強いるものであってはならないとされています。この「過度な負担」の判断は非常に難しく、学校の規模や財政状況、教員の人数、影響を受ける他の生徒への影響などを総合的に考慮して、個別具体的に判断されます。この点が、学校と保護者がしっかりと話し合うべき重要なポイントとなります。
合理的配慮の法的根拠:障害者差別解消法の役割
合理的配慮の提供は、2016年4月に施行された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」に基づいて、行政機関や学校を含む事業者に対して義務付けられています。特に国立・公立の学校などは、この法律の対象となる「行政機関等」に含まれます。
この法律の基本原則は、障害のあるなしに関わらず、全ての国民が相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現することです。法律が制定された背景には、日本が批准した「障害者の権利に関する条約」があり、この条約では、合理的配慮の不提供が差別にあたると明確に規定されています。
2024年4月からは、この法律の改正により、民間事業者も含めた全ての事業者に対して、合理的配慮の提供が義務化されました。これにより、学校だけでなく、塾や習い事などの教育関連の民間サービスにおいても、配慮の必要性が高まっています。
保護者や支援者としては、この法律の存在を知っていることが、学校との対話における根拠となり、スムーズな交渉に繋がるため、その名称と目的だけでも覚えておくと良いでしょう。
合理的配慮の「過度な負担」とは?判断の視点
「過度な負担」の判断基準と具体的な考慮要素
合理的配慮の提供は義務ですが、学校側に「過度な負担」がかかる場合は、その提供が免除されることがあります。しかし、この「過度な負担」という概念は抽象的で、多くの保護者の方が疑問に感じるポイントです。
「過度な負担」か否かを判断する際には、主に以下の5つの要素を総合的に考慮するとされています。
- 事務・事業の目的および内容: 学校教育という目的の達成に、その配慮がどれだけ不可欠か。
- 機能・体制の状況: 学校の職員数、専門家の有無、施設の状況など、学校が持つ資源。
- 費用・負担: 配慮を提供するためにかかる経済的なコストや、人的・時間的な負担。
- 影響の程度: 配慮を提供することによって、他の児童生徒や教員、学校全体の運営に与える影響。
- 代替措置の有無: 要求された配慮が難しい場合、それと同等の効果を持つ別の方法(代替案)があるか。
特に重要なのは、費用と影響です。例えば、全教室にエレベーターを設置することは、一般的な公立学校にとっては経済的に過度な負担となる可能性が高いですが、授業中に座席を最前列に変更することは、ほとんど負担になりません。
負担を軽減し実現可能性を高めるための視点
学校側が「過度な負担」を理由に配慮の提供が難しいと考える場合でも、保護者側からの提案の仕方によって、その実現可能性を高めることができます。
それは、最初から完璧な配慮を求めるのではなく、段階的な実施や、学校側の負担がより少ない代替案を提示することです。例えば、「全ての授業で専門の介助員を付けてほしい」という要求が難しい場合、「休み時間と移動時のみ、ボランティアの学生または教員の見守りをお願いできないか」という形に修正することで、学校側も受け入れやすくなることがあります。
✅ 成功のコツ
配慮を求める際には、その配慮がなぜ必要で、それがない場合にどのような不利益が生じるのかを具体的に説明することが成功の鍵です。その上で、学校側の負担を理解し、お互いに譲歩できる代替案をいくつか用意しておくと対話がスムーズに進みます。
また、学校側の「負担」は、時間とともに変化する可能性もあります。当初は難しかった配慮でも、予算の確保や人材の配置換えなどにより、翌年度以降に実現可能になることもあります。そのため、一度断られたからといって諦めず、定期的に状況を確認し、継続的な対話を心がけることが大切です。
判断が難しい場合の相談先と紛争解決の仕組み
学校との話し合いで「過度な負担」を巡って意見が対立し、合意に至らない場合は、第三者機関の力を借りることも視野に入れるべきです。
行政機関や公的機関には、差別に関する相談や紛争解決の仕組みが設けられています。主な相談先としては、
- 都道府県の教育委員会: 学校を所管する教育行政のトップ機関です。具体的な事例に基づいて、学校への指導や助言を行います。
- 法務局: 障害者差別解消法に関する相談窓口(人権相談)を設けており、差別的な取り扱いを受けた場合の解決に向けた助言やあっせんを行ってくれます。
- 地方自治体の相談窓口: 独自の障害者支援窓口や、福祉に関する相談窓口を設けている自治体もあります。
これらの機関に相談することで、専門的な見地からアドバイスを得ることができ、また、第三者の意見が入ることで、学校側も冷静に状況を判断しやすくなる効果が期待できます。
しかし、最も重要なのは、紛争になる前に、学校との信頼関係を築き、対話を継続することです。相談機関はあくまで最終手段として考えるべきでしょう。
合理的配慮を求める具体的なステップと準備
ステップ1:子どものニーズを明確にする「アセスメント」
合理的配慮を学校に求める際、最も初めにすべきことは、お子さんの「困りごと」と「ニーズ」を正確に把握することです。これを教育用語で「アセスメント」と呼びます。
「朝の登校が難しい」「授業中に集中力が続かない」「体育の授業で怪我をするリスクが高い」など、具体的な場面での困りごとを挙げます。そして、その困りごとを解消するために、どのような支援(配慮)が必要なのかを具体的に考えます。
アセスメントを行うためには、以下の情報を整理することが有効です。
- 医師や専門機関からの診断名や所見(もしあれば)
- 過去の支援経過や成功体験(「こういう時はうまくいった」という事例)
- 日常の行動観察記録(いつ、どこで、どんな時に困っているか)
- 保護者自身が考える「必要な配慮」とその理由
特に、「困りごと」と「必要な配慮」の間に明確な関連性があることが重要です。例えば、「聴覚過敏でチャイムの音が苦手」であれば、「チャイムの音量を下げる、または振動で知らせる」という配慮に繋がります。
ステップ2:学校との話し合い:具体的な提案と記録
ニーズが明確になったら、担任の先生や特別支援教育コーディネーターを通じて、学校と話し合いの場を設定します。この話し合いは、合理的配慮を具体化する上で最も重要なプロセスです。
話し合いの場では、感情的にならず、事前に作成したアセスメント資料や、必要な配慮の具体的な提案リストを提示することが大切です。提案する配慮は、学校側の負担も考慮し、実現可能性が高いものから優先順位をつけて提示すると効果的です。
「前年度は、国語のテストで時間が足りずに力を出し切れませんでした。つきましては、診断書に基づき、来年度の定期試験では、解答時間の1.5倍延長をお願いしたいと考えています。もし時間延長が難しいようであれば、問題数を減らす代替案も検討いただけませんか?」
— 保護者と学校との対話例
また、話し合いの内容は、必ず記録(議事録)に残しましょう。誰が、いつ、どのような提案をし、それに対して学校側がどのように回答したのか、そして最終的にどのような配慮で合意したのかを明確にしておくことで、後のトラブルを避けることができます。
ステップ3:合意と実施:「個別の教育支援計画」の活用
学校と保護者との話し合いを通じて、具体的な合理的配慮の内容が合意に至ったら、その内容を「個別の教育支援計画」や「個別の指導計画」に反映させることが一般的です。
これらの計画は、お子さんの教育的ニーズや目標、そして必要な支援(合理的配慮を含む)を文書化するもので、学校全体で支援の内容を共有するための重要なツールです。計画には、
- 提供される配慮の内容(例:座席の位置、試験時間の延長、視覚支援ツールの利用)
- 配慮の期間や頻度
- 配慮の担当者(教員、支援員など)
- 目標達成に向けた評価方法
などが明確に記載されます。この計画は、一度作ったら終わりではなく、定期的(学期ごとや年度末など)に見直しを行い、お子さんの成長や状況の変化に応じて、柔軟に修正していくことが必要です。
💡 ポイント
個別の教育支援計画は、就学前の支援機関から学校、卒業後の就労支援機関まで、生涯にわたる支援の一貫性を保つための基盤となる文書です。学校での合理的配慮を議論する際には、この計画の作成・活用を積極的に提案しましょう。
合理的配慮の具体例:学校生活のあらゆる場面で
学習環境・授業での配慮:学びに集中できる工夫
学習環境や授業中に提供される合理的配慮は、子どもが授業の内容を理解し、自分の力を発揮するために最も重要な部分です。
| 困りごと(例) | 合理的配慮(例) | 期待される効果 |
|---|---|---|
| ADHDで座っていられない | 立って作業できるスペースの確保、休憩時間の増加 | エネルギーの発散と集中力の維持 |
| ディスレクシアで板書を写せない | 板書の写真撮影許可、デジタル教科書の利用、プリントの提供 | ノートテイキングの負担軽減、学習内容の理解促進 |
| 視覚障害で教科書が読めない | 拡大教材、点字教材、音声読み上げソフトの使用許可 | 教材へのアクセス確保、平等な学習機会の提供 |
| 聴覚過敏で特定の音が苦手 | イヤーマフの使用許可、座席位置の調整(音源から遠ざける) | 感覚的な負担の軽減、授業への参加促進 |
例えば、LD(学習障害)のある生徒が、計算問題は解けるのに筆算の桁がずれてしまうという困りごとがある場合、配慮としてマス目を拡大した解答用紙を使用することが考えられます。これは、本質的な計算能力を測るという目的を邪魔せず、本人の困りごとを解消する、合理的な配慮の典型例です。
また、教員からの指示が理解しにくいASD(自閉スペクトラム症)の子どもに対しては、口頭指示を最小限にし、視覚的なスケジュール表や手順カードを用いる(視覚支援)ことも、重要な合理的配慮の一つとなります。
テスト・評価時の配慮:公平な評価を目指して
テストや評価の場面で配慮を求めることは、子どもが持つ真の学力を、障害による影響を受けずに公平に測るために不可欠です。
最も一般的な配慮としては、試験時間の延長があります。発達性協調運動障害などで書字に時間がかかる生徒や、思考に時間を要する生徒にとって、時間延長は自分の能力を発揮するための最低限の条件となり得ます。具体的な延長時間は、1.2倍や1.5倍とされることが多いですが、個別の状況に応じて検討が必要です。
さらに、以下のような配慮も行われています。
- 解答方法の変更: 書字が困難な場合、タブレットやPCでの入力、あるいは口頭での解答を認める。
- 問題用紙の調整: 文字のフォントサイズ拡大、行間調整、色覚特性に配慮した色使い。
- 別室受験: 感覚過敏などで周囲の音が気になり集中できない場合、静かな別室で受験する。
- 休憩時間の調整: 集中力の維持が難しい場合、短い休憩を頻繁に挟むことを認める。
配慮を求める際には、その配慮が「公平性を著しく損なわないか」という視点が重要になります。例えば、「他の生徒には許可されていない辞書の使用」を求めることは、公平性の観点から認められにくいかもしれません。あくまで「スタートラインを揃える」ための配慮であることを意識しましょう。
学校生活全般における配慮:安心・安全な居場所づくり
合理的配慮は、学習面だけでなく、学校生活全般にわたって適用されます。これは、学校が子どもたちにとって安心・安全な居場所であるために必要不可欠です。
具体的な生活面での配慮事例を見てみましょう。
- 移動に関する配慮: 車椅子利用者に対するスロープの設置、エレベーターの利用許可。移動に時間がかかる生徒に対する授業間の移動時間の延長。
- 集団行動に関する配慮: 朝礼や集会など、長時間じっとしているのが困難な場合の途中退出や別室待機。集団行動が苦手な生徒に対する、別場所での個別活動の提供。
- 給食に関する配慮: 食物アレルギー対応はもちろん、特定の食材や食感が苦手な場合の個別対応(持参弁当の許可など)。
- 災害時・緊急時の配慮: 聴覚障害のある生徒への視覚的な情報伝達手段の確保、避難経路や避難場所での介助者の配置。
✅ 成功のコツ
生活面での配慮は、特に「命の安全」と「心の安全」に関わる重要な要素です。集団のルールを守れないことよりも、その子の安全や心の安定を優先する配慮について、学校と深く連携することが大切です。
一人の生徒の特性に合わせた配慮が、他の生徒の多様性への理解を深める機会にも繋がることも忘れてはいけません。合理的配慮は、全ての子どもにとってのインクルーシブな環境を作るための第一歩なのです。
保護者・支援者に求められる役割と心構え
学校との対話における「パートナーシップ」の意識
合理的配慮を実現するためには、学校と保護者が対立するのではなく、「チーム」として連携することが最も重要です。学校の先生方も、一人ひとりのお子さんのことを真剣に考えていますが、専門的な知識や経験が不足している場合もあります。
保護者は、お子さんの特性や困りごとについて、学校の先生方よりもはるかに深い知識を持っています。この知識を「武器」として使うのではなく、「情報」として共有するというスタンスが求められます。
具体的には、
- 感謝の言葉を伝える: 小さな配慮や努力に対しても、感謝の意を伝えることで、先生方のモチベーション維持に繋がります。
- 家庭での様子を具体的に伝える: 学校では見られない、家庭での困りごとや成功事例を詳しく伝えることで、学校での対応のヒントになります。
- 専門家からの情報を補強する: 医療機関や療育機関からの意見書やアドバイスを、学校に積極的に提供する。
こうした積極的で協力的な姿勢こそが、学校との間に信頼できるパートナーシップを築き、結果としてお子さんにとって最適な合理的配慮の実現に繋がるのです。
「義務」ではなく「権利」として配慮を求める
合理的配慮は、学校側の「善意」や「温情」によって提供されるものではなく、障害のある子どもが平等に教育を受けるための「権利」として、法律で定められた学校の「義務」です。この基本原則を理解しておくことは、対話における精神的な支えとなります。
しかし、この権利を主張する際にも、言葉遣いや態度には細心の注意が必要です。「これは法律で決まっているから、必ずやりなさい」といった強い口調は、学校側との関係を悪化させ、かえって配慮の実現を遠ざけてしまう可能性があります。
⚠️ 注意
権利の主張は重要ですが、感情論ではなく、あくまでお子さんの教育的ニーズと、法律や国のガイドラインに基づいた論理的な説明を通じて行うことが望ましいです。感情的な対立は、誰も得をしません。
権利を主張するということは、「私の子どもは、この配慮を受けるに値する」という、お子さんの価値と尊厳を尊重することと同義です。「合理的配慮は、お子さんの成長のために不可欠なもの」という確固たる信念を持って、学校と冷静に、そして粘り強く対話を続けることが大切です。
配慮の「見直し」と「自己決定」を促す
合理的配慮は、お子さんの成長とともに、常に変化していくものです。小学校で必要だった配慮が、中学校では不要になるかもしれませんし、逆に、高校生になってから新たな配慮が必要になることもあります。
保護者や支援者は、お子さんの成長を注意深く観察し、定期的に配慮の内容が適切かどうかを学校と一緒に見直す機会を持つ必要があります。これは、前述の「個別の教育支援計画」の定期的な見直しと連動して行うと効果的です。
また、成長に伴い、お子さん自身が「自分にはこの配慮が必要だ」と学校に伝えられる、自己決定(セルフアドボカシー)の力を育てることが非常に重要になります。幼い頃から、配慮は「してもらうもの」ではなく、「自分で求めて実現するもの」という意識を育めるよう、家庭でも話し合いを重ねましょう。
高校や大学、そしてその後の就職活動においても、自分で自分のニーズを伝え、適切な配慮を求める力は、社会で自立していくための不可欠なスキルとなります。学校との対話の場にお子さんを同席させ、徐々に発言の機会を与えることも有効なトレーニングになります。
よくある質問(FAQ)と具体的な対応策
Q1: 診断名がないと合理的配慮は受けられないのですか?
A: 診断名は必須ではありません。
合理的配慮は、診断名があるかどうかではなく、「個別の教育的ニーズ」があるかどうかによって判断されます。医師の診断書は、ニーズを裏付ける強力な証拠にはなりますが、それがないからといって配慮を受けられないわけではありません。
最も重要なのは、お子さんの行動観察記録や、「学校生活を送る上での具体的な困りごと」を明確にすることです。例えば、「授業中に立ち歩いてしまうことが多い」「特定の教科だけ極端に成績が低い」といった具体的な事実を基に、学校に相談をしましょう。学校の先生や特別支援教育コーディネーターが、その困りごとが障害特性によるものかどうかを判断するためのアセスメントを行ってくれます。
Q2: 合理的配慮を求めると、クラスで浮いてしまわないか心配です。
A: 配慮の方法を工夫し、クラスへの理解を促すことが大切です。
この心配は、多くの保護者が抱える共通の悩みです。配慮の提供によって、お子さんが「特別な存在」として見られ、いじめや仲間外れの対象になるリスクはゼロではありません。
しかし、配慮が目立たないように工夫することは可能です。例えば、試験時間の延長は別室で行う、視覚支援ツールを個人の机の中だけで使う、などは、周囲から見えにくい配慮です。
また、クラス全体に対して「合理的配慮」の考え方を教える啓発活動も非常に有効です。「人はそれぞれ得意なこと、苦手なことがある」「みんなが心地よく過ごすために、ちょっとした工夫(配慮)が必要な人がいる」といったことを、先生から丁寧に説明してもらうことで、他の生徒の多様性への理解と共感が深まります。これが、真のインクルーシブ教育の姿です。
Q3: 私立学校でも合理的配慮の提供は義務ですか?
A: 2024年4月以降、私立学校を含む全ての事業者で義務化されました。
障害者差別解消法の改正により、2024年4月からは、私立学校も含む全ての私立の事業者に対して、合理的配慮の提供が「法的義務」となりました。それ以前は努力義務でしたが、法改正により公立学校と同様に義務を負うことになりました。
ただし、公立学校とは異なり、私立学校は独自の建学の精神や教育方針を持っています。配慮の内容が学校の「教育理念」や「事業の目的」と著しく衝突する場合、それが「過度な負担」と見なされる可能性は公立学校よりも高くなるかもしれません。
私立学校との話し合いでは、その学校の教育方針を尊重しつつ、いかに合理的配慮がお子さんの成長、そして学校の多様性への貢献に繋がるかを丁寧に説明する姿勢がより一層重要になります。
より良い合理的配慮を実現するための情報源と連携
相談窓口と支援機関の活用
合理的配慮に関する疑問や困りごとを抱えたとき、一人で悩まず、外部の専門家や支援機関の力を借りることは非常に重要です。具体的な相談窓口としては、以下のようなものがあります。
- 特別支援教育コーディネーター: 学校内に必ず配置されている、特別支援教育の中心的な役割を担う教員です。まずはこの先生に相談するのが第一歩です。
- 発達障害者支援センター: 各都道府県・指定都市に設置されており、発達障害に関する総合的な相談支援を行っています。学校との連携方法についてもアドバイスがもらえます。
- 地域障害者生活支援センター: 地域で暮らす障害のある方の生活全般に関する相談・支援を行う窓口です。教育だけでなく、生活全般の配慮についても相談できます。
- ペアレント・メンター: 経験者の保護者(ペアレント)が、子育ての悩みを抱える保護者(メンター)に寄り添って相談に乗る活動です。具体的な成功事例や体験談を聞くことができます。
これらの機関は、学校との対話の進め方や、他の学校での成功事例(ベストプラクティス)などの情報も持っているため、具体的な提案のヒントを得るのに役立ちます。
地域のネットワークとペアレント・サポート
合理的配慮の実現は、単なる学校との交渉で終わるものではありません。地域全体で、障害のある子どもとその家族を支えるネットワークの存在が不可欠です。
地域の障害児・者団体や、同じような困りごとを持つ保護者の会(ペアレント・サポートグループ)に参加することは、精神的な支えになるだけでなく、貴重な情報交換の場となります。他の保護者から、どの学校でどのような配慮が実現できたか、どのような先生が協力してくれたかなどの具体的な体験談を聞くことは、ご自身の交渉の大きな参考になります。
💡 ポイント
インターネット上の情報だけでなく、実際に顔を合わせて話せる地域のネットワークを大切にしましょう。地域特有の行政の支援制度や、協力的な医療機関の情報など、「生きた情報」を得ることができます。
さらに、保護者自身が、地域の教育委員会や行政に対して、合理的配慮の研修の充実や、専門人材の配置を求める要望活動を行うことも、社会全体の理解を深めるための重要なアクションです。一人の声は小さくても、多くの声が集まれば、社会を動かす大きな力になります。
次の一歩:学校との対話のためのアクションプラン
この記事を読んで、合理的配慮の基本と進め方が分かったとしても、実際に学校との対話を始めるには勇気がいるかもしれません。そこで、今すぐにでも始められる次の一歩(アクションプラン)をご提案します。
- 困りごとの「見える化」: まず、この一週間、お子さんが学校で「困った」「辛かった」と感じた具体的な場面を、メモに記録してください。日時、場所、状況、お子さんの反応を客観的に記録することで、ニーズが明確になります。
- 配慮リストの作成: 記録した困りごとを解消するために、どのような「小さな工夫」があれば良いかを箇条書きにしてください。「座席を窓側から廊下側に変える」「音読を免除してもらう」など、すぐにできそうなことから書き出してみましょう。
- 相談相手を決める: 学校の担任の先生、特別支援教育コーディネーター、または外部の相談機関など、誰に最初に相談するかを決め、アポイントメント(面談の約束)を取りましょう。
無理なく、一歩ずつ進めることが大切です。あなたの行動が、お子さんの学校生活をより豊かなものに変えるための大きな鍵となります。焦らず、しかし着実に、お子さんの権利を守るための行動を始めましょう。
まとめ
- ✅ 合理的配慮は「権利」: 合理的配慮は、障害のある子どもが平等に教育を受けるための「権利」であり、学校には「義務」として提供責任があります。単なる特別扱いではありません。
- 🗣️ 対話と記録が重要: 学校との対話は、信頼関係に基づく「パートナーシップ」が不可欠です。感情的にならず、ニーズを明確にした具体的な提案を行い、話し合った内容は必ず記録に残しましょう。
- 🔄 見直しと成長: 配慮の内容は、お子さんの成長とともに見直す必要があります。お子さん自身が、自分のニーズを伝えられる「自己決定力」を育むことが、最終的な目標です。

谷口 理恵
(たにぐち りえ)45歳📜 保有資格:
介護福祉士、ケアマネージャー、サービス管理責任者
介護福祉士として15年間現場で働き、現在はグループホームの管理者。「地域で自分らしく暮らす」を支えるために、住まい・生活・地域資源に関する情報発信を担当しています。実際の支援現場で感じた「これ知りたかった!」という情報をお届けします。
介護福祉士として障害者施設で10年、その後ケアマネージャーの資格を取得し、相談支援専門員として5年勤務。現在はグループホーム(定員10名)の管理者として、利用者の方々の日々の生活を支えています。この仕事を選んだきっかけは、大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会ったこと。「普通」の定義は人それぞれで、大切なのは本人が望む生活を実現することだと気づかされました。特に力を入れているのは、地域との繋がりづくり。近所のスーパーや美容院、カフェなど、日常的に利用できる場所を増やすことで、「施設の中だけ」ではない豊かな生活を支援しています。記事では、グループホームでの実際の生活の様子や、地域の障害福祉サービス事業所の選び方など、現場の生の声をお伝えしていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会い、「普通」の定義は人それぞれだと気づいたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
近所のスーパーや美容院など、日常的に利用できる場所を増やすことで、利用者の生活が豊かになったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
現場の生の声を大切に、「これ知りたかった!」という情報を届けることを心がけています。
🎨 趣味・特技
料理、ガーデニング
🔍 最近気になっているテーマ
一人暮らし支援の新しい形、地域住民との共生





