教室がつらい…環境調整で変わる学校生活

学校の教室は、多くの子どもたちにとって学びと成長の場ですが、障害特性を持つお子さん、特に感覚過敏や不安傾向が強いお子さんにとっては、そこが「つらい場所」になってしまうことがあります。教室の環境が合わないことで、集中力の低下、体調不良、感情の不安定さ、そして不登校につながってしまうケースは少なくありません。
この問題の解決の鍵は、「環境調整」にあります。環境調整とは、お子さん自身の努力や根性に頼るのではなく、教室の物理的な環境や、先生・友達との関わり方といった人的環境を、お子さんの特性に合わせて変えることです。これは、文部科学省が推進する「合理的配慮」の中核をなす考え方です。
この記事では、発達障害(特にASD、ADHD)や精神障害を持つ子どもたちが教室で感じる具体的な「つらさ」を、感覚、認知、社会性の3つの側面から深掘りします。そして、それらのつらさを解消するために、ご家庭や学校、支援者が連携して取り組むべき具体的な環境調整の方法を、詳細なガイドとしてご紹介します。
「教室がつらい」というSOSを、「環境調整」というポジティブな行動に変え、お子さんが本来持つ力を発揮できる、安心な学校生活を取り戻すための一歩を踏み出しましょう。
教室の「つらさ」を紐解く:3つの環境要因
お子さんが教室で感じる「つらさ」は、一つの原因ではなく、複数の環境要因が複雑に絡み合って生じています。これらを具体的に理解することが、適切な環境調整への出発点です。
要因1:感覚情報の過負荷(物理的環境のつらさ)
教室は、光、音、におい、人の動きなど、大量の感覚情報に満ちています。感覚過敏があるお子さんにとって、これらは常に脳を刺激し続ける「騒音」となり、学習どころではない状態を生み出します。
- 聴覚過敏:蛍光灯の小さな「ブーン」という音、隣の席の子どもの貧乏ゆすりの音、教室全体のざわめきなどが、全て同じ音量で耳に入ってくるため、先生の声が聞き取れない。
- 視覚過敏:窓からの強い日差し、壁に貼られた大量の掲示物、教室内を動き回る子どもの動きなどが、集中すべき対象から注意を逸らす原因となる。
- 触覚過敏:制服のチクチクした素材、給食のエプロンの感触、椅子の硬さなどが気になり、常に体の不快感に意識が向いてしまう。
要因2:認知の負荷(学習環境のつらさ)
授業の進め方や課題の出し方が、お子さんの認知特性に合っていない場合、強い「認知的な負荷」がかかります。これは、ADHDやLD(学習障害)のお子さんに顕著です。
- 指示の理解困難:先生の口頭による一斉指示が長く複雑であるため、最初に聞いた内容を忘れてしまい、何をすべきかわからなくなる。
- 課題の曖昧さ:「自由に絵を描きましょう」といった曖昧な課題に対し、何をどう始めればいいか手順が立てられず、フリーズしてしまう(実行機能の困難)。
- 時間の管理:チャイムが鳴ってから次の行動に移るまでの切り替えが苦手で、常に時間に追われている感覚に陥り、強い不安を感じる。
要因3:社会性の不安(人間関係のつらさ)
集団生活特有の「暗黙の了解」や「人間関係の機微」を理解するのが難しいことが、社会的な孤立や不安につながります。ASD(自閉スペクトラム症)のお子さんに特に見られます。
- 交流の困難:友人グループに入るタイミングがわからない、相手が怒っている理由がわからないなど、対人関係のルールが予測できないことによる強い緊張感。
- 非言語の読み取り:先生や友達の表情や声のトーンから感情を読み取ることが難しく、常に誤解を恐れて不安を感じる。
- ルール変更への脆弱性:急な時間割の変更や、予定外の集会など、予期せぬ変更に対して強いストレスを感じる。
💡 視点を変える
「この子は落ち着きがない」ではなく、「この教室の環境が、この子を落ち着かなくさせている」と視点を変えることが、環境調整の第一歩です。
具体的な環境調整ガイド:教室を変える3つの方法
つらさの原因を特定したら、次は具体的な環境調整に取り組みます。調整は、物理的な変更、学習ルールの変更、そして人間関係の変更の3つの側面から行います。
方法1:物理的環境の調整(感覚過負荷の軽減)
感覚過敏が強いお子さんにとって、教室の一部を「刺激が少ない安全地帯」に変えることは、非常に有効な合理的配慮です。
- 座席の工夫:
- 刺激の少ない場所(窓際やドアから離れた壁際など)に固定する。
- 前方の掲示物や黒板を遮るものがなく、先生の声が聞こえやすい位置にする。
- 遮断具の使用:
- 授業中のざわつきが強い時は、ノイズキャンセリングヘッドホンや耳栓の使用を許可する。
- 視覚的な刺激が多い時は、簡易的なパーテーションや衝立を机の横に設置し、視界を制限する。
- 触覚・運動の調整:
- 長時間椅子に座っていることが困難な場合、バランスボールチェアやクッションの使用を許可する。
- 制服の代わりに、肌触りの良い体操服や指定外のインナーの着用を認める。
方法2:学習環境の調整(認知の負荷の軽減)
指示や課題の構造を明確にし、曖昧さを排除することで、お子さんの認知的な負担を大幅に減らすことができます。
- 指示の視覚化・構造化:
- 先生の指示は、口頭だけでなく、必ず「やることリスト(チェックリスト)」として黒板の右端などに掲示する。
- 時間割の変更や、急な予定は、前日に必ず個別に伝達し、不安を軽減する。
- 時間の視覚化:
- 課題の残り時間や休憩までの時間を、タイマーや砂時計(タイムタイマーなど)で「目に見える形」で示す。
- 苦手な作業の際は、「まずは10分だけ」と区切りをつけ、短い成功体験を積み重ねる。
- タスクの分解:
- 複雑な宿題や課題は、手順を3ステップ程度に分解し、一つずつクリアするまで次のステップに進まないように指導する。
方法3:人的環境の調整(社会性の不安の軽減)
先生や友達の関わり方、集団のルールを調整することで、社会性への不安を減らし、孤立を防ぎます。
- 先生の関わり方:
- 指示を出す際は、他の子どもの名前を出さず、静かに個別に声をかける。
- 授業中に正しくできている時こそ、周囲に聞こえない声で「よくできたね」と静かに褒める(ポジティブな関わり)。
- ピアサポートの活用:
- お子さんの特性を理解し、支援の意欲がある「ピアサポーター(支援的な友人)」を担任の先生の監視の下で配置し、授業中のノート取りや、休憩時間の声かけを依頼する。
- クールダウンスペースの確保:
- 保健室や相談室を、授業中や休憩時間に「つらくなったら逃げられる場所」としてあらかじめ確保し、利用ルールを明確にしておく。
⚠️ 最も重要な配慮
最も重要な環境調整は、先生や友達が「つらい理由」を理解し、受容してくれる「心の環境」です。物理的な調整は、その「心の環境」を安定させるためのツールです。
環境調整の成功を支える3つの連携視点
これらの環境調整を「一時的なもの」で終わらせず、「継続的な支援」とするためには、ご家庭、学校、外部機関の連携が不可欠です。
視点1:保護者による「トリセツ(取扱説明書)」の提供
保護者は、お子さんの特性について最も豊富な情報を持っています。この情報を整理し、「この環境調整が、なぜうちの子に必要か」という根拠を学校側に提供する必要があります。
- トリセツに含める情報:「蛍光灯の光で頭痛が起こる」「複雑な指示を出すと固まる」「不安な時は特定の先生に声をかけてほしい」など、具体的で行動的な情報をリストアップする。
- 目的:学校側に、お子さんのつらさを「わがまま」ではなく「障害特性に基づく合理的なニーズ」として理解してもらうこと。
視点2:個別教育支援計画(IEP)への明記
口頭で約束した環境調整は、先生の異動やクラス替えで忘れられがちです。個別教育支援計画(IEP)に、ノイズキャンセリングヘッドホンの使用許可や座席の位置、避難場所のルールなど、全ての環境調整を明記することで、継続性が担保されます。
- IEPは、支援の法的根拠となります。保護者は、この計画の作成と見直しに、積極的に関わることが重要です。
視点3:外部専門家(OT、ST)の知見の活用
感覚過敏や認知特性の問題は、学校の先生だけでは対処が難しい場合があります。地域の作業療法士(OT)や言語聴覚士(ST)などの専門家に、教室の環境を評価してもらい、専門的な見地からの環境調整の提案をしてもらいましょう。
- OTは、感覚統合の視点から、どのような物理的環境(照明、音、座面)が必要かをアドバイスできます。
- これらの専門家の意見を「支援計画」に盛り込むことで、学校側もより納得感を持って環境調整に取り組むことができます。
まとめ
「教室がつらい」という問題は、お子さんの努力不足ではなく、環境とのミスマッチによるものです。つらさの原因は、感覚の過負荷、認知の負荷、社会性の不安の3つに分類されます。
- 解決策としての環境調整は、ノイズキャンセリングヘッドホンの許可や衝立の設置といった物理的な調整と、指示の視覚化、クールダウンスペースの確保といった学習・人的環境の調整の組み合わせで実現します。
- これらの配慮を継続させるためには、保護者による「トリセツ」の提供、IEPへの明記、そして外部専門家(OT/ST)の知見の活用が不可欠です。
環境を調整すれば、お子さんは必ず、本来持つ集中力と力を発揮し、学校生活を楽しむことができるようになります。家庭と学校、地域が連携し、誰もが安心できる教室環境を一緒に作っていきましょう。
✅ 次のアクション
お子さんが最もつらいと感じる「一つの感覚刺激」を特定し、担任の先生に「ノイズキャンセリングヘッドホンの使用」など、その刺激を「遮断できる具体的な方法」を一つだけ相談してみましょう。小さな一歩が、大きな変化につながります。

金子 匠
(かねこ たくみ)55歳📜 保有資格:
社会福祉士、精神保健福祉士
障害者支援施設で30年間勤務し、施設長を経験。現在はすぐサポ編集長として、障害のある方とご家族が必要な情報にアクセスできる環境づくりに取り組んでいます。「制度は複雑だけど、使えば生活が楽になる」という信念のもと、分かりやすい情報発信を心がけています。
大学卒業後、障害者支援施設に就職し、30年間にわたり現場で支援に携わってきました。生活支援員として10年、サービス管理責任者として15年、そして施設長として5年の経験があります。特に印象に残っているのは、重度の知的障害があり、施設入所が当然と思われていた方が、適切な支援と環境調整により地域での一人暮らしを実現したケースです。「できない」と決めつけず、その人に合った支援を考えることの大切さを学びました。現在は現場を離れ、すぐサポの編集長として、これまでの経験を記事という形で多くの方に届けることをミッションとしています。制度や法律の解説記事では、「専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で」を心がけています。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学で社会福祉を学び、実習で出会った利用者の方々の笑顔に感動したことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
重度の知的障害のある方が、適切な支援により地域での一人暮らしを実現したこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で伝えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
読書、散歩
🔍 最近気になっているテーマ
障害者総合支援法の改正動向、ICTを活用した新しい支援の形





