通常級から支援級へ——転籍を決めたときの葛藤

通常級から支援級への転籍——親としての葛藤と子供の笑顔を取り戻すまでの道のり
お子さんの小学校入学。誰もが期待と不安を胸に、キラキラしたランドセルを背負った姿を見送ります。しかし、いざ学校生活が始まると「周りの子と同じようにできない」「授業についていけない」といった壁に直面し、通常級から特別支援学級(支援級)への転籍を検討し始める親御さんは少なくありません。
私自身、知的障害を伴う難病の息子を持つ親として、転籍を決断するまでには筆舌に尽くしがたい葛藤がありました。「普通」という言葉に縛られ、子供の本当の幸せを見失いそうになった日々。この記事では、私の実体験を交えながら、転籍という決断がもたらした変化と、家族が前を向くためのヒントをお伝えします。
通常級で感じた限界と親の苦悩
「普通」でありたいという願い
息子が地元の小学校の通常級に入学したとき、私はどこかで「みんなと一緒にいれば、少しずつ追いつけるのではないか」という淡い期待を抱いていました。知的障害の診断は受けていたものの、日常生活では大きな問題がなかったため、集団の中での刺激が成長を促すと信じていたのです。
しかし、現実は甘くありませんでした。1年生の後半になると、国語や算数の授業スピードは目に見えて速くなり、息子は板書を書き写すことさえ困難になっていきました。授業中に何をしていいか分からず、ただ静かに座っているだけの息子。その背中を想像するだけで、私の胸は締め付けられるような思いでした。
家庭学習の限界と親子の疲弊
遅れを取り戻そうと、放課後は毎日マンツーマンでの学習指導。しかし、理解できない内容を無理に詰め込まれる息子は、次第に勉強そのものを嫌い、「学校に行きたくない」と口にするようになりました。大好きだった笑顔が消え、朝になるとお腹が痛いと訴える日が増えていったのです。
親である私もまた、精神的に追い詰められていました。周囲の子ができることが、なぜうちの子にはできないのか。そんな焦りと、子供を追い込んでいる罪悪感。この時期、私は常に「普通」の基準に息子を当てはめ、彼自身の良さを見ることさえ忘れてしまっていました。
⚠️ 注意
親が頑張りすぎてしまうと、子供は「自分はダメな子なんだ」と自己肯定感を下げてしまう恐れがあります。学習の遅れよりも、心の健康を最優先に考える視点が重要です。
転籍を決断するまでの葛藤のプロセス
支援級への偏見と自己否定
担任の先生から支援級への転籍を打診されたとき、最初に出た言葉は拒絶でした。「支援級に行ったら、もう普通の子には戻れないのではないか」「将来の選択肢が狭まってしまうのではないか」といった偏見が、私の中に根強く残っていたのです。今思えば、それは子供のためではなく、自分のプライドのためだったのかもしれません。
また、転籍を認めることは、自分が子供の障害を完全に認めることのように感じられ、激しい自己否定に陥りました。「もっと私が頑張れば」「もっと早く療育を始めていれば」という後悔ばかりが頭を巡り、夜も眠れない日が続きました。家族とも何度も話し合いましたが、意見が食い違うこともあり、家庭内の空気は冷え切っていました。
見学で見えた「子供の居場所」
ある日、重い腰を上げて支援級の見学に行きました。そこで目にしたのは、個々のペースに合わせて丁寧に指導を受ける子供たちの姿でした。通常級ではあんなに難しそうにしていた課題も、支援級の先生の工夫ひとつで、子供たちが「できた!」と目を輝かせている。その光景に、私は衝撃を受けました。
「この子は、ここでなら笑っていられるかもしれない」と感じた瞬間、私の中にあった「普通」への執着が、少しずつ剥がれ落ちていきました。居心地の悪い場所で必死に耐えるより、自分を認めてもらえる場所で伸び伸びと過ごすこと。それが、この子にとっての本当の権利なのだと気づかされたのです。
「子供にとっての最善は何か。それを考えるとき、世間の目ではなく、目の前の子供の表情を見てください。」
— 療育センター 相談員
専門家や先輩保護者の言葉に救われて
決断を後押ししてくれたのは、同じ境遇の先輩ママたちの言葉でした。「うちは転籍して本当に良かった。子供が自分の力を発揮できるようになったよ」というリアルな体験談は、どの専門書よりも心強く響きました。1人で悩むのではなく、コミュニティに身を置くことの大切さを痛感しました。
また、医師からも「今の辛い環境を続けることが、二次障害(不登校やうつなど)を引き起こすリスクがある」と明確なアドバイスをもらいました。この言葉が、私の迷いを断ち切る最後のひと押しとなりました。子供の心を守るために、私が変わらなければならない。そう決意したのです。
支援級に転籍して変わったこと
学習意欲の向上と自己肯定感
転籍して最も驚いたのは、息子の学習に対する姿勢の変化でした。支援級では1人ひとりの理解度に合わせた個別学習計画が作成されます。息子にとって適切なスモールステップで進むため、「分からない」というストレスが激減しました。これまで投げ出していたプリントを、最後までやり遂げられるようになったのです。
「僕にもできるんだ!」という自信は、生活全般に好影響を与えました。身の回りの準備を自分でするようになり、新しいことにも挑戦しようとする意欲が見られるようになりました。通常級では埋もれていた彼の個性が、少人数の温かい環境の中で、ゆっくりと開花し始めたのです。
✅ 成功のコツ
転籍後は、先生とのコミュニケーションを密にしましょう。家庭と学校で一貫した支援を行うことで、子供はより安心して過ごすことができます。
心の安定と家族の笑顔
学校から帰ってきたときの息子の表情が、明らかに明るくなりました。かつてのような「死んだような目」ではなく、学校で起きた出来事を一生懸命に話してくれる。その姿を見て、家族全員の肩の荷が下りたようでした。あんなに厳しかった家庭学習の時間も、今では笑い声が混じる穏やかな時間へと変わりました。
また、支援級の先生方は障害の特性を深く理解しており、親の不安にも寄り添ってくれます。定期的な面談で課題を共有し、一緒に解決策を考えてくれるパートナーがいるという安心感は、親のメンタルヘルスを保つ上でも非常に大きな助けとなりました。私たちはもう、1人で戦っているわけではないのだと感じることができました。
通常級との交流(交流学級)の活用
支援級に転籍しても、完全に通常級との縁が切れるわけではありません。「交流及び共同学習」という仕組みがあり、音楽や図工、給食や休み時間などを通常級の友達と一緒に過ごすことができます。息子も、自分の得意な体育や図工の時間は通常級に行き、同年代の友達と刺激し合っています。
支援級で自信をつけ、その自信を持って通常級の友達と関わる。このバランスが、息子にとっては非常に心地よいようです。通常級の子供たちも、支援級の存在を自然に受け入れ、多様性を学ぶ機会になっています。「分ける」ことが「排除」ではなく、「適切な支援のための環境選択」なのだと実感しました。以下に、支援級と通常級の主な違いをまとめます。
| 項目 | 通常学級 | 特別支援学級(支援級) |
|---|---|---|
| クラス人数 | 原則35人〜40人 | 最大8人(少人数) |
| 教育課程 | 文部科学省の標準カリキュラム | 個別の教育支援計画に基づく指導 |
| 指導体制 | 担任1名が主導 | 担任に加え、支援員が配置されることも |
| 学習ペース | 一律のスピードで進行 | 個人の理解度に合わせた進度 |
よくある質問(FAQ)
Q. 一度支援級に行くと、ずっとそのままですか?
いいえ、そんなことはありません。年度末の判定や保護者の希望により、通常級への再転籍を検討することも可能です。実際に、低学年で支援級にて基礎を固め、高学年から通常級に戻るお子さんもいます。子供の成長に合わせて柔軟に選択できる制度です。
Q. 中学校や高校への進学はどうなりますか?
小学校で支援級に在籍していても、中学校で支援級か通常級かを選ぶことができます。高校進学については、特別支援学校の高等部のほか、支援級のある公立高校、単位制・通信制高校など、近年では選択肢が非常に広がっています。早めに情報収集を行うことで、不安を解消できます。
Q. 周囲の目が気になって踏み切れません。
親戚や近所の目が気になるのは、親として当然の感情です。しかし、周囲の評価よりも大切なのは、お子さんが今、この瞬間に幸せであるかどうかです。時間が経てば、お子さんの笑顔こそが「正しい選択だった」という何よりの証拠になり、周囲の理解も得られるようになります。
💡 ポイント
自治体によって就学相談の時期や流れが異なります。まずは早めに学校や教育センターへ相談予約を入れることが、スムーズな検討への第一歩です。
転籍を検討している方へ伝えたいこと
決断を急がなくてもいい
転籍は人生の大きな転換点です。迷いや葛藤があるのは、それだけお子さんのことを真剣に考えている証拠です。無理に答えを出そうとせず、まずは見学に行ったり、スクールカウンセラーと話をしたりして、少しずつ「知る」ことから始めてみてください。納得いくまで時間をかけることは、決して無駄ではありません。
「今すぐ決めなければならない」という強迫観念を捨て、子供の状態を客観的に見る期間を作ってみてください。学校の様子だけでなく、放課後の疲れ具合や睡眠の質、食事の様子など、日常生活の中に転籍を判断するためのヒントが隠されていることがあります。子供のサインを丁寧に見守ることから始めましょう。
親自身のケアを大切に
子供のために奔走する毎日で、あなた自身がボロボロになっていませんか?親が笑顔でいられない環境は、子供にとっても辛いものです。転籍という決断は、親であるあなたが「楽になる」ために選んでもいいのです。あなたが穏やかでいることが、子供にとって最大の心の安全基地となります。
趣味の時間を持ったり、同じ悩みを持つ仲間と吐き出したりする時間を意識的に作りましょう。障害児育児は長期戦です。1人で抱え込まず、利用できる福祉サービスや支援の手を積極的に借りてください。あなたが元気であれば、どのような教育環境を選んだとしても、必ず良い方向へ進んでいけます。
まとめ
通常級から支援級への転籍。それは、決して「普通」からの脱落ではなく、子供が自分らしく輝くためのポジティブな環境選択です。葛藤の末に私が手に入れたのは、息子の穏やかな笑顔と、無理をさせない子育てという心の余裕でした。
- 子供の表情を最優先に:成績や周囲の目ではなく、子供が学校を楽しいと感じているかを基準にしましょう。
- 情報を多角的に集める:見学、体験、先輩保護者の声、専門家のアドバイスなど、判断材料を増やして不安を解消します。
- 「今」に集中する:将来の不安に怯えるよりも、今の子供にとって最適な支援環境を整えることが、結果的に明るい未来へと繋がります。
この記事が、今まさに葛藤の中にいるあなたの背中を、優しく押す一助となれば幸いです。お子さんとあなたにとって、最も心地よい「居場所」が、きっと見つかるはずです。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





