読み書きが苦手な子のためのICT支援とは

「読み書きの壁」を乗り越える!学習障害の子のためのICT支援ツールと学校での活用戦略
お子さんが学校の授業や宿題で、「文字を追うのがつらい」「何度練習しても漢字が覚えられない」「書くことに時間がかかりすぎて、他の勉強が進まない」といった困難に直面し、つらそうにしているのを見て、どうにかしてあげたいと悩んでいませんか?これらの困難は、多くの場合、努力や練習不足ではなく、学習障害(LD)やディスレクシア、ディスグラフィアといった特性によるものです。
読み書きに困難を抱える子どもたちにとって、ICT(情報通信技術)は、その困難を「努力なしに」乗り越え、本来持っている思考力や知識を最大限に発揮するための「最強の杖」となり得ます。ICTを活用することで、読み書きの遅れに焦ることなく、内容の理解に集中できるようになります。
この記事では、読み書きの困難を補うICTツールの具体的な機能から、学校でのタブレットやデジタル教科書の活用方法、そして「合理的配慮」としてICT機器の利用を学校に認めてもらうための戦略までを、詳細かつ具体的な実例を交えて解説します。
この記事を最後までお読みいただくことで、お子さんに最適なICTツールを見つけ、学校と連携してデジタル機器の活用を推進するための確かな知識と具体的な行動ステップが得られます。共に、お子さんの学びの壁を打ち破り、自信を取り戻すための道筋を切り開いていきましょう。
読み書きの困難とICT支援の役割
読み書きの困難は、単に「文字が苦手」ということではなく、脳の機能の一部が、文字情報を処理することに特異的な困難を抱えている状態です。まず、その困難のメカニズムと、ICTが果たす「代償手段」としての役割を理解しましょう。
1. 読み書きの困難(LD)のメカニズム
特定の学習能力に著しい困難があるLDの中でも、読み書きに関する特性は主に二つに分類されます。
- ディスレクシア(読み困難):文字の認識や音韻処理(文字を音に変換する)に時間がかかり、単語や文章をスムーズに読むことが難しい。これにより、文章全体の内容理解が遅れる。
- ディスグラフィア(書字困難):文字を正確に書く、または素早く書くことに困難がある。思考した内容を文字としてアウトプットすることに時間がかかりすぎ、思考の連鎖が途切れてしまう。
これらの困難は、知的な能力とは無関係です。そのため、適切な支援がないと、本来の高い思考力や理解力が、読み書きの困難という「入力・出力の壁」によって妨げられてしまいます。
2. ICT支援の核心:困難を迂回(バイパス)する
ICT支援の最大の目的は、読み書きという「苦手な作業」を「得意な作業」に迂回(バイパス)させることです。これは、「読む」ためには「耳」を、「書く」ためには「キーボードや口」を使うという、感覚の切り替えを意味します。
- 読みの支援(文字を音声に):紙媒体をデジタル化し、音声読み上げ機能を使うことで、文字を「聞く情報」として取得する。
- 書きの支援(手書きをデジタル入力に):キーボード入力や音声入力を使うことで、手書きの労力と時間を大幅に削減する。
これらのツールは、読み書きが苦手な子どもにとっての「メガネ」や「車椅子」のようなものであり、本来の能力を周囲に示すための合理的配慮として位置づけられます。
3. ICTの活用は「早期開始」が重要
ICTツールは、小学校中学年以降、読み書きの困難が顕著になった段階で、できるだけ早く導入することが推奨されます。その理由として、以下の点が挙げられます。
- 学習の遅れの拡大防止:中学、高校と進むにつれて情報量が増えるため、ICTなしでは学習の遅れが雪だるま式に増大してしまう。
- 慣れと習熟:キーボード入力や音声入力は、慣れるまでに時間がかかります。早期に習熟することで、中学・高校での受験や進学準備に備えることができます。
💡 ポイント
「読めるように、書けるように」という訓練(トレーニング)と、「内容を理解するために、ツールで代償する」という支援は、両輪で進めることが理想です。訓練の時間を減らしすぎると、将来的な自立に影響が出る場合があるため、専門家と相談しながらバランスを取りましょう。
「読み」の困難を解消する具体的なICTツール
文章を読むことに困難を抱える子どもたちにとって、「音声読み上げ」は、学習環境を一変させる最も強力なツールです。ここでは、その具体的なツールと活用方法を紹介します。
1. デジタル教科書と音声読み上げ機能
近年、GIGAスクール構想により、多くの学校でタブレットが導入され、デジタル教科書の利用環境が整いつつあります。デジタル教科書には、音声読み上げ機能が標準で搭載されているものが多く、これがディスレクシアの子どもの学習を支える基盤となります。
- 活用法:教科書を読む際、文字と音声が同期して進むため、どこを読んでいるかを見失うことが減り、内容の理解に集中できる。
- 配慮:公的なデジタル教科書は、読み書きの困難がある子どもに対して、無償または安価で提供される支援制度があります。
読み上げ速度や音声を調整することで、その子の最も聞き取りやすい環境を整えることが可能です。
2. OCR(文字認識)と読み上げアプリの活用
学校で配布されるプリントや小テスト、市販の参考書など、デジタル化されていない紙媒体の文字を「読む」ためには、OCR機能(光学文字認識)と読み上げアプリを組み合わせます。
- OCRの役割:スマホやタブレットのカメラで紙面を撮影し、画像に含まれる文字をテキストデータに変換する。
- 読み上げアプリ:変換されたテキストデータを、自然な音声で読み上げるアプリを使用する。
- 実例:iPhoneやiPadに搭載されている「読み上げ機能」や、「よむサポ」など、多くの無料・安価なアプリが利用可能です。
この技術を活用することで、読み書きの困難がある生徒が、健常の生徒と同じ教材を使って学習することが可能になります。
3. 拡大・ハイライト機能による視覚的サポート
文字を読むことに困難がある場合、行や単語がごちゃ混ぜに見える、または文字がぼやけて見えるといった、視覚的な知覚の問題を抱えていることがあります。ICTは、この視覚的なバリアを取り除きます。
- 拡大表示:タブレット上で文字や図を自由に拡大できるため、紙媒体よりも見やすいサイズで読むことができる。
- ハイライト機能:重要なキーワードや、指示の文章に色をつけたり、マーカーを引いたりすることで、文章構造の把握を助ける。
- フォントの変更:文字間や行間を広く取り、文字の形を認識しやすいフォント(ユニバーサルデザインフォントなど)に変更できる。
これらの機能は、ディスレクシアの子どもの視覚的な負担を軽減し、内容理解の効率を向上させます。
「書き」の困難を解消する具体的なICTツール
書字困難(ディスグラフィア)を持つ子どもにとって、手書きは思考の速度に追いつかない、疲労の大きな原因となります。ここでは、手書き以外の方法でアウトプットを可能にするICTツールを紹介します。
1. キーボード入力と予測変換機能
キーボード入力は、手書きに比べて労力が少なく、圧倒的に速く文章を作成できる代償手段です。特に予測変換機能は、書字困難の子どもにとって非常に強力なサポートとなります。
- 予測変換:数文字入力しただけで、文脈に合った単語や候補が表示されるため、漢字の形を正確に覚えていなくても、スムーズに文章作成ができる。
- フリック入力:タブレットやスマートフォンに慣れている子どもにとっては、フリック入力の方がキーボードよりも速い場合もあります。
- 学習環境:学校のローマ字学習と並行して、タイピング練習を個別に進めることが推奨されます。
キーボードの練習は、学習だけでなく将来の就労においても、必須スキルとなるため、早期の習得を目指しましょう。
2. 音声入力(ボイスインプット)の活用
文字を書く速度が極端に遅い子どもにとって、「話すこと」は最も自然なアウトプット手段です。音声入力機能を使えば、思考した内容を直接テキスト化できます。
- 活用場面:作文、レポート、意見文、試験での記述問題など、長文作成が必要な場面。
- ツールの精度:GoogleドキュメントやiOS・Androidの標準機能、「話すだけで文字になる」といった専門アプリは、非常に高い認識精度を持っています。
- 配慮:授業中や試験中に音声入力を使う際は、周囲の受験生への配慮として別室受験が必要となることが多いため、学校に合理的配慮として申請が必要です。
音声入力は、思考と文字化の間に生じるギャップを埋める、革命的な支援技術です。
3. 表現力を支える図・画像作成ツールの活用
文章を書くこと以外にも、思考の整理やアイデアの表現にICTツールは役立ちます。特に、全体像の把握や非言語情報の処理を得意とする特性の子どもに有効です。
- マインドマップ:アイデアを視覚的に整理するためのアプリ(MindMeisterなど)を使い、レポートの構成や骨子を作成する。
- 図やイラストの活用:文章で説明するのが難しい概念を、タブレットの描画機能やクリップアートを使って補足することで、より豊かで正確なアウトプットを可能にする。
これにより、読み書きの苦手さが、創造性や表現力を妨げるという事態を防ぐことができます。
✅ 成功のコツ
ICT支援の導入は、まず家庭で慣れることが成功の第一歩です。学校に持ち込む前に、読み上げ速度、フォント、キーボード操作など、お子さんにとって最も使いやすい設定を一緒に見つけ、練習期間を設けておきましょう。
学校でのICT活用の実現戦略:「合理的配慮」の申請
ICTツールを学校の授業中や試験で活用するためには、学校の理解と「合理的配慮」としての正式な承認が不可欠です。学校に協力を求めるための具体的な戦略を立てましょう。
1. 「個別の教育支援計画」への明記
学校でICT機器の利用を定着させるためには、「個別の教育支援計画」(IIP)に、「何の機器を、いつ、どこで、どのように利用するか」を明確に記載することが最も重要です。
- 具体的な使用場面:「国語、社会、理科の板書をノートに写す時間に、タブレットによる写真撮影を許可する」「定期試験の記述問題において、キーボード入力を許可する」といった具体的な記述。
- 根拠の提示:医師の診断書やWISCなどの検査結果に基づき、「手書きでは、思考の速度に対しアウトプットが著しく遅れるため」といった医学的・教育的な根拠を併記する。
計画に明記することで、学年が変わっても、先生が変わっても、支援が継続される基盤ができます。
2. 教員への「実演」と理解促進
多くの教員は、ICT支援の具体的な効果や使い方を知りません。特別支援教育コーディネーターを通じて、担任の先生や関係教員にICTのデモンストレーション(実演)を行い、理解を促しましょう。
- 実演の内容:「手書きでは10分かかる作文が、音声入力なら2分で完了する」「読み上げ機能を使うと、文字が流暢に読めるようになる」といった、効率性の向上を具体的に示す。
- 啓発:ICT支援は「甘やかし」ではなく、「障害による困難を解消する合理的配慮」であることを、法的な根拠(障害者差別解消法)に基づき丁寧に説明する。
教員の理解が進むことで、授業中に自然にICT機器を使用できる雰囲気作りが進みます。
3. 定期試験や大学受験への対応
ICT機器の利用が最も重要となるのが、成績評価に直結する定期試験や、大学入試です。早期からの準備と試験実施者への申請が必要です。
- 定期試験:学校に対し、別室受験、試験時間の延長(1.3倍)、音声読み上げ機能の使用、キーボード入力などの配慮を求める。
- 大学入学共通テスト:日本学生支援機構(JASSO)などを通じて、試験会場でのICT機器の使用に関する合理的配慮の申請を行う。
これらの試験での配慮は、子どもの将来の進路を左右するため、高校に入学したらすぐに、学校の進路指導担当と相談を始めましょう。
⚠️ 注意
ICT機器の利用は、著作権の問題が絡む場合があります。デジタル教科書や公的支援ツール以外の教材をスキャンして利用する場合は、著作権法第37条第3項の例外規定に基づき、学校を通じて手続きを行う必要があります。
よくある質問(FAQ)とICT支援の継続的な発展
読み書き困難へのICT支援に関して、保護者からよく寄せられる疑問と、支援をより発展させるための方法をまとめました。
Q1. どのタブレットやソフトを選べばいいですか?
A. 最も重要なのは、学校で導入されている機種(多くはiPadまたはChromebook)を選ぶことです。これにより、学校の先生や他の生徒との連携が容易になります。
- OS:iOS(iPad)は、音声読み上げやアクセシビリティ機能が優れており、操作も直感的です。
- アプリ:多くの読み書き支援アプリは、標準OSの機能でカバーできます。最初から高価な専門ソフトに手を出さず、無料・安価なアプリから試すことをお勧めします。
発達障害者支援センターやICT支援の専門家(テクノロジー・スペシャリストなど)に相談し、お子さんの特性と予算に合わせた最適なツールを選びましょう。
Q2. ICT機器に頼りすぎると、手書きの能力が落ちませんか?
A. 読み書き困難がある場合、手書き能力の向上を追求しすぎると、学習全体への意欲低下を招くリスクがあります。ICTは「苦手な部分を代償し、得意な部分を伸ばす」ための手段であり、手書き能力の「落ち込み」を心配するよりも、「本来の能力の発揮」を優先すべきです。
ただし、簡単なメモやサインなど、日常生活に必要な最低限の手書き能力の訓練は、専門家の指導のもとで継続することが推奨されます。
Q3. ICT支援の費用は公的にサポートされますか?
A. ICT機器の購入費用は、公的なサポートを受けられる場合があります。
- 自治体による補助:一部の自治体では、LDや発達障害の子どもに対して、タブレット端末や関連ソフトの購入費を補助する制度(例:補助具購入費の補助)を設けています。
- 学校の備品:学校が合理的配慮として認めた場合、学校備品として教具や支援機器を購入し、授業中のみ貸し出すケースもあります。
まず、お住まいの自治体の福祉窓口や教育委員会に、補助制度の有無を確認しましょう。
「音声読み上げとキーボード入力のおかげで、私は初めて『クラスの誰よりも速く、長い文章』を書くことができるようになりました。苦手な読み書きに縛られることなく、内容の議論に集中できています。」
— ディスグラフィアを持つ大学生(当事者)のコメント
相談窓口・参考リンク
ICT支援の導入や学校への申請に関する具体的な相談は、以下の窓口を活用してください。
- 学校の特別支援教育コーディネーター:個別の支援計画の作成、教員へのICT研修の窓口となります。
- 発達障害者支援センター:特性に応じたICTツールの選定、学校への導入方法に関する専門的な助言を受けられます。
- 地域の就学相談窓口(教育センター):ICT機器の貸し出しや補助具購入費の補助制度に関する情報を提供しています。
- テクノロジー・スペシャリスト(一部自治体):ICT活用に特化した専門家が、個別の指導や助言を行います。
まとめ
読み書きが苦手な子どもにとって、ICT支援は、苦手な部分を代償し、本来の学習能力を発揮させるための不可欠なツールです。読む困難には音声読み上げ機能を、書く困難にはキーボード入力や音声入力を、合理的配慮として積極的に活用しましょう。
保護者や支援者は、ICT機器の利用を「個別の教育支援計画」に明確に盛り込むこと、そして教員への実演と啓発を行うことで、学校全体での共通理解を深めることが重要です。ICTという強力なツールを活用し、すべての子どもが学びの喜びを感じられる環境を整えていきましょう。
まとめ
- ICTは、読み書きの困難(LD)を音声入力・出力によって迂回(バイパス)させるための代償手段である。
- 「読み」の支援にはデジタル教科書の音声読み上げ、「書き」の支援にはキーボード入力や音声入力が特に有効である。
- 学校での利用を確実にするため、「個別の教育支援計画」に具体的な使用場面を明記し、合理的配慮として申請する。

菅原 聡
(すがわら さとし)38歳📜 保有資格:
職業指導員、キャリアコンサルタント、精神保健福祉士
就労移行支援事業所で10年以上、障害のある方の「働く」を支援してきました。一般就労への移行支援から就労継続支援まで、幅広い経験をもとに、「自分に合った働き方」を見つけるための情報をお届けします。
大学で社会福祉を学び、卒業後すぐに就労移行支援事業所に就職。当初は「障害があっても一般企業で働けるんだ」という驚きと感動の連続でした。これまで150名以上の方の就労支援に携わり、その8割が一般企業への就職を実現。ただし、「就職がゴール」ではなく、「長く働き続けられること」が本当のゴールだと考えています。印象的だったのは、精神障害のある方が、障害をオープンにして自分のペースで働ける職場を見つけ、「初めて仕事が楽しいと思えた」と言ってくださったこと。その笑顔が忘れられません。記事では、就労移行支援と就労継続支援の違い、企業選びのポイント、障害者雇用の現実など、実際の支援経験に基づいた実践的な情報をお伝えします。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学で社会福祉を学び、「障害があっても一般企業で働ける」という可能性に感動したことがきっかけです。
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精神障害のある方が、自分のペースで働ける職場を見つけ、「初めて仕事が楽しいと思えた」と言ってくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
「就職がゴール」ではなく、「長く働き続けられること」を大切に、実践的な情報を発信します。
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ランニング、ビジネス書を読むこと
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リモートワークと障害者雇用、週20時間未満の短時間雇用





