知的障害のある人が抱えやすい困りごとと支援方法

🤝 知的障害のある人が抱えやすい困りごとと支援方法:日常生活、コミュニケーション、社会参加のバリアをなくす
「何度説明しても、複雑な手順を理解してもらえない…」「ちょっとした予定の変更でパニックになってしまう」「金銭トラブルに巻き込まれやすいが、どのように金銭管理をサポートすれば良いのか?」
知的障害(知的発達症)は、知的な機能と適応行動(日常生活能力)の両方に制限がある状態です。これにより、知的障害のある方々は、コミュニケーション、学習、社会的なルールの理解、安全管理といった、日常生活のあらゆる場面で**特有の「困りごと」**に直面します。
これらの困りごとは、単なる**「できないこと」ではなく、「脳の情報処理特性と、社会の仕組みとの間に生じるバリア」**であると理解することが重要です。困りごとを放置すると、自尊心の低下、孤立、行動障害、二次的な精神疾患といった、さらに深刻な問題を引き起こす可能性があります。
この記事では、知的障害のある方が抱えやすい具体的な困りごとを、「認知・理解」「生活スキル」「社会性・感情」の三つの領域に分け、それぞれの困難の背景にある特性と、今日から実践できる具体的な支援方法を、全6000字以上の大ボリュームで徹底的に解説します。特性に応じた支援策を講じることで、ご本人にとって**「生きやすい」**社会環境を共に築いていきましょう。
🧠 1. 認知・理解に関する困りごとと支援策
情報を理解し、記憶し、応用するという認知機能の特性から生じる困難と、その対応策です。
困りごと①:抽象的な指示や概念の理解が難しい
時間、感情、ルールといった目に見えない抽象的な概念や、比喩表現、皮肉などの言葉の裏にある意味を理解することが困難です。
- 具体的な困難:「時間を守ってね」「空気を読んで」といった指示が理解できない。将来の計画や、契約書に書かれた複雑な内容が理解できない。
- 背景にある特性:物事を具体的に捉えることに長けている反面、推論や概念化が難しい。
🛠️ 支援策:視覚化と具体性の徹底
支援の基本は、**「目に見える形」**にすることです。
- 視覚支援の活用:言葉だけでなく、絵、写真、図、チェックリストを用いて、情報や手順を伝えます。例えば、「トイレ掃除」という抽象的なタスクを、「①ブラシで便器を磨く→②水を流す→③床を拭く」という3枚の絵カードで示します。
- 「見える化」された時間:「10分後に終わり」ではなく、砂時計やタイマー、デジタル時計などを使って、**「時間の流れ」を視覚的に示します。
- 具体的な言葉遣い:「早く準備して」ではなく、「あと5分で、カバンに本を入れよう」**のように、行動と時間を具体的に伝えます。
困りごと②:記憶の困難と手順の定着の難しさ
一度に多くの情報を記憶したり、複雑な手順を覚えたりすることが難しいです。
- 具体的な困難:新しい職務や家事を教わっても、手順の順番を忘れてしまう。電話番号や人の名前を覚えられない。
- 背景にある特性:****ワーキングメモリ(作業記憶)の容量が少ない、または長期記憶への転送に時間がかかる。
🛠️ 支援策:スモールステップと反復学習
- タスクの分解(スモールステップ):複雑なタスクを、「失敗しない最小限のステップ」に分解し、一つずつ確実にできるように支援します。次のステップに進むのは、前のステップが定着してからです。
- マニュアルの作成:手順を写真付きで記録した個別マニュアルを作成し、いつでも参照できるようにします。これは職場での業務定着に非常に有効です。
- オーバーラーニング(反復):「できた」で終わりにせず、繰り返し練習を行うことで、スキルを無意識レベルで実行できるように定着させます。
🍎 2. 日常生活スキルに関する困りごとと支援策
自立した生活を送るために不可欠な、身辺自立、金銭管理、健康管理に関する困難と、その対応策です。
困りごと③:金銭管理と契約・権利の理解の困難
お金の価値や、契約書などの法的・金銭的なリスクを理解することが困難です。
- **具体的な困難:**お小遣いを計画的に使えずすぐに使い切る。高額なものを衝動買いする。悪質な訪問販売や詐欺に騙されやすい。
- **背景にある特性:****抽象的な価値(金額、借金、利息)**の理解が難しく、長期的な結果を予測する能力が低い。
🛠️ 支援策:財産管理のサポートと視覚的な金銭教育
- **金銭管理の「見える化」:現金でのやり取りを減らし、プリペイドカードや電子マネーを活用して、「残高」**を視覚的に把握できるようにします。
- 予算の分類:お金を「生活費」「趣味」「貯金」などの用途別に袋分けし、予算オーバーを防ぎます。
- **成年後見制度の検討:**複雑な金銭管理や、不動産・契約など法的行為において、ご本人の権利を守るために、成年後見制度の利用を検討します(家庭裁判所に申し立て)。
困りごと④:健康管理と安全の認識の困難
自身の体調の変化を正確に把握したり、危険な状況を予測したりすることが難しいです。
- **具体的な困難:体調が悪くても「どこが、どう痛いか」**を適切に伝えられないため、受診が遅れる。薬の飲み忘れや、逆に飲みすぎることがある。火の元や交通ルールへの注意が散漫になる。
- **背景にある特性:****体内の感覚(内受容感覚)**を正確に捉えることが難しかったり、緊急性の判断が困難であったりする。
🛠️ 支援策:習慣化と第三者によるモニタリング
- **服薬の管理:薬を「朝食後」「夕食前」**のように具体的に示し、ピルケースや服薬カレンダーを活用して、視覚的に管理します。
- 健康チェックの習慣化:デイサービスやグループホームの職員、または訪問看護師による毎日のバイタルサインチェックを習慣化し、第三者が体調の変化をモニタリングします。
- **安全のルール指導:****抽象的な警告(例:危ない)ではなく、「赤信号では必ず止まる」「包丁は使ったらすぐに洗う」**など、具体的な行動ルールを繰り返し指導します。
💬 3. 社会性・感情に関する困りごとと支援策
他者との関わりや、自身の感情のコントロール、社会的なルールの理解に関する困難と、その対応策です。
困りごと⑤:対人コミュニケーションと感情の理解の困難
他者の気持ちや意図を読み取ることや、自分の感情を適切な方法で表現することが難しいです。
- 具体的な困難:冗談や皮肉を真に受けてしまう。相手が怒っているのに気づかない。自分の怒りや不満を大声や行動で表現してしまう。
- 背景にある特性:****心の理論(他者の心を推測する能力)が未発達である、または自分の感情を言語化するスキルが不足している。
🛠️ 支援策:ソーシャルスキルトレーニング(SST)と感情の「見える化」
- SSTの実施:ロールプレイングを通じて、適切な挨拶、依頼の仕方、断り方、意見の伝え方などの対人スキルを繰り返し練習します。
- 感情のメーター(フリーズゾーン):****怒りや不安の感情をメーターや色で示し、**「今は青(落ち着いている)」「今は赤(パニック寸前)」**というように、自分の感情を客観的に把握できるように支援します。
- クールダウンエリアの確保:感情が高ぶった際に、静かで安全な場所(クールダウンエリア)で過ごすことを許可し、感情が爆発する前に自己調整できるように促します。
困りごと⑥:行動障害や強度行動障害
言葉でSOSを伝えられないことや、環境への不適応が原因となり、自傷行為、他害行為といった問題行動(行動障害)として現れます。
- **具体的な困難:**頭を叩く、噛みつく、壁を叩く、特定の場所から逃げ出す、など。
- 背景にある特性:****感覚過敏、コミュニケーションの失敗、スケジュールや環境の急な変化など、不快感や不安を言語化できず、行動で示してしまう。
🛠️ 支援策:行動の機能分析と環境の微調整
- 行動の機能分析(FBA):****行動の前(先行事象)、行動、行動の後(結果)を詳細に記録し、「なぜその行動が起きるのか」という行動の機能(目的)を特定します(例:逃避、注目要求、感覚刺激)。
- 先行事象への介入:原因が特定できたら、行動が起きる前に環境を微調整します(例:パニックの原因が騒音ならイヤーマフを渡す、手順の混乱なら視覚的なマニュアルを置く)。
- 行動援護の活用:****強度行動障害支援者養成研修を修了した専門性の高い支援者による行動援護サービスを活用し、行動の原因解明と環境調整を集中的に行います。
📚 4. ライフステージ別:効果的な支援の組み合わせ
知的障害の支援は、乳幼児期から成人期にかけて、切れ目なく継続されることが重要です。
乳幼児期・児童期:早期療育とスキル獲得
児童発達支援や放課後等デイサービスを通じて、基本的なコミュニケーション、運動、生活スキルの獲得を目指します。
- **個別療育(児童発達支援):**OT(作業療法士)やST(言語聴覚士)などの専門家による個別指導で、認知特性や運動機能の発達を促します。
- 保護者への支援:親御さん自身が、特性を理解し、家庭で実践できる関わり方を学ぶためのペアレントトレーニングは非常に有効です。
学齢期:教育的配慮と社会性の獲得
学校では、個別教育支援計画に基づき、学習面と生活面の支援を両輪で進めます。
- 個別教育支援計画:****視覚教材の活用、試験時間の配慮、座席配置など、困りごとに合わせた具体的な配慮を文書化し、実行します。
- キャリア教育:単なる学習だけでなく、職業体験や地域活動などを通じて、将来の就労や社会参加を見据えたスキルを育成します。
成人期:地域生活と経済的な自立
障害福祉サービスをフル活用し、生活基盤の安定を目指します。
- グループホーム:生活スキルの困難を補うための世話人による継続的な支援を受けながら、地域で暮らします。
- 就労継続支援:特性に合った安定した働く場を確保することで、経済的な安定と社会参加を実現します(A型:雇用契約あり、B型:雇用契約なし)。
- 相談支援専門員:複数のサービスを適切に組み合わせ、生活全体をサポートするサービス等利用計画の作成が不可欠です。
⚖️ 5. 法的・制度的な困りごとと権利擁護
知的障害のある方は、権利や制度を理解することが困難なため、権利擁護の視点からの支援が欠かせません。
困りごと⑦:制度の複雑性と情報アクセスの困難
障害年金、医療費助成、障害福祉サービスなど、重要な公的制度の情報が複雑で難解なため、必要な支援に自力でアクセスできません。
🛠️ 支援策:専門家によるナビゲート
- 相談支援専門員:****福祉サービスに関する情報提供と申請代行、計画作成を一手に担います。まずこの専門家と繋がることが、支援の第一歩です。
- 行政の工夫:行政機関は、やさしい日本語や絵文字を多用した、知的障害のある方向けの広報物を作成するなどの工夫が求められます。
困りごと⑧:人権侵害や差別への対応困難
自己主張や権利擁護が苦手なため、不当な扱い、いじめ、経済的な搾取などに遭いやすいリスクがあります。
🛠️ 支援策:権利擁護とセルフアドボカシーの促進
- **権利擁護センター:**虐待や人権侵害があった場合に、成年後見制度の利用を含め、権利擁護のための法的・専門的な支援を依頼します。
- **セルフアドボカシー(自己権利擁護):ご本人が、「自分の意見を表明する」「嫌なことは嫌だと伝える」**スキルを身につけ、自分自身を守れるように支援します。当事者会への参加も有効です。
まとめ
- 知的障害のある方の困りごとは、認知・理解、生活スキル、社会性・感情の三領域にまたがり、その原因は知的な機能の制限と環境との不一致にある。
- 認知・理解の困難に対しては、絵、写真、チェックリストなどを用いた視覚化と具体化を徹底し、スモールステップでの反復学習でスキル定着を図る。
- 生活スキルの困難(金銭管理、安全管理)に対しては、成年後見制度の検討や、服薬カレンダー、健康チェックなど、第三者による継続的なモニタリングで安全を確保する。
- 社会性・感情の困難(対人関係、衝動性)に対しては、**SST(ソーシャルスキルトレーニング)**や、感情メーターを活用した自己調整を促すとともに、行動の機能分析(FBA)に基づき、行動障害の原因となる環境へ介入する。
- 相談支援専門員を通じて、ライフステージに応じた個別支援計画を作成し、教育(特別支援教育)から福祉(グループホーム、就労継続支援)までの切れ目のない支援を継続することが、ご本人の生活の質(QOL)向上に不可欠である。

金子 匠
(かねこ たくみ)55歳📜 保有資格:
社会福祉士、精神保健福祉士
障害者支援施設で30年間勤務し、施設長を経験。現在はすぐサポ編集長として、障害のある方とご家族が必要な情報にアクセスできる環境づくりに取り組んでいます。「制度は複雑だけど、使えば生活が楽になる」という信念のもと、分かりやすい情報発信を心がけています。
大学卒業後、障害者支援施設に就職し、30年間にわたり現場で支援に携わってきました。生活支援員として10年、サービス管理責任者として15年、そして施設長として5年の経験があります。特に印象に残っているのは、重度の知的障害があり、施設入所が当然と思われていた方が、適切な支援と環境調整により地域での一人暮らしを実現したケースです。「できない」と決めつけず、その人に合った支援を考えることの大切さを学びました。現在は現場を離れ、すぐサポの編集長として、これまでの経験を記事という形で多くの方に届けることをミッションとしています。制度や法律の解説記事では、「専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で」を心がけています。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学で社会福祉を学び、実習で出会った利用者の方々の笑顔に感動したことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
重度の知的障害のある方が、適切な支援により地域での一人暮らしを実現したこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で伝えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
読書、散歩
🔍 最近気になっているテーマ
障害者総合支援法の改正動向、ICTを活用した新しい支援の形





