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感覚過敏とは?音・光・匂いがつらい人への理解と支援

📖 約102✍️ 高橋 健一
感覚過敏とは?音・光・匂いがつらい人への理解と支援
感覚過敏は、発達障害(ASD)などを持つ方に多く見られる特性で、音、光、匂いなどの刺激を脳が過剰に処理し、強い苦痛やパニックを引き起こす状態です。これは「わがまま」ではなく、神経学的な処理の違いに起因します。支援には、刺激を減らす遮断・軽減と、ツールで補う代償・代替えが基本となります。具体的な対策として、ノイズキャンセリングヘッドホン、遮光サングラスの使用、無香料環境の確保、衣類のタグ除去などがあります。学校や職場では、刺激の少ない座席配置や別室休憩などの合理的配慮を求めることが重要です。根本的な調整は、作業療法士による感覚統合療法や専門機関の相談を通じて行います。

🧠 感覚過敏とは?音・光・匂いがつらい人への深い理解と日常生活での具体的な支援策

「普通の蛍光灯の光が目に突き刺さるように痛い」「特定の音や匂いを嗅ぐと、頭痛や吐き気がして動けなくなる」「服のタグが当たると、皮膚が焼けるような不快感がある」

私たちの五感は、外界の情報を脳に伝え、**「世界」**を認識するために不可欠です。しかし、一部の障害のある方やそうでない方の中には、**感覚が「過剰に敏感」であるために、日常生活のあらゆる場面で「生きづらさ」「苦痛」を感じている人々がいます。この状態を感覚過敏(感覚の過敏性)**と呼びます。

感覚過敏は、発達障害(特に自閉スペクトラム症、ASD)や精神障害を持つ方によく見られますが、身体障害や慢性疲労など、様々な状態と関連していることがあります。問題は、この苦痛が**「わがまま」や「慣れの問題」として片付けられがちであることです。しかし、当事者にとって、それは物理的な痛みやパニック**を引き起こす、避けることのできない切実な問題なのです。

この記事では、感覚過敏が起こるメカニズム、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚の具体的な症状、そして家庭、学校、職場、社会生活において**「刺激を和らげ、安心できる環境を作る」**ための具体的な理解と支援方法を、全6000字以上の大ボリュームで徹底的に解説します。「見えない苦痛」を理解し、適切な合理的配慮を行うための知識を深めましょう。


🧠 1. 感覚過敏のメカニズム:なぜ感覚が過剰になるのか

感覚過敏は、感覚器自体の問題ではなく、脳内での感覚情報の処理(感覚統合)の過程で生じる神経学的な違いであると考えられています。

感覚統合の「ミスマッチ」

私たちは通常、五感から入ってくる大量の情報を脳でフィルタリングし、必要なものだけを選択し、統合することで、環境に適応します。しかし、感覚過敏を持つ人の脳では、この処理過程に特徴が見られます。

  • フィルタリング機能の不全:通常なら無視されるべき微細な刺激(例:エアコンの動作音、蛍光灯のちらつき)までが、脳に全て入ってきてしまい、処理能力を超えてしまいます。
  • 感覚の増幅:入ってきた刺激が脳内で過剰に増幅され、実際の刺激レベルよりも強く、痛みを伴う情報として認識されてしまいます。
  • **処理の遅延・混乱:**複数の感覚(音と光など)が同時に情報として入ってきたときに、脳がそれらを適切に整理・統合できず、混乱やパニックを引き起こします。

関連する主な障害特性

感覚過敏は、独立した疾患名ではなく、様々な障害の**「症状・特性」**の一つとして現れます。

  • 自閉スペクトラム症(ASD):最も多く見られる特性であり、特に聴覚(特定の周波数の音)や触覚(衣類の素材)に強い過敏性を示すことが多いです。
  • ADHD:****集中力の維持が困難な背景に、周囲の音や光の刺激への過剰な反応が関わっている場合があります。
  • **統合失調症や不安障害:**精神的な症状の悪化に伴い、音や光、人の気配に対して過敏になることがあります。
  • **感覚統合不全:**発達障害の診断がなくとも、感覚統合の偏りとして感覚過敏が強く現れることがあります。


👂 2. 五感に現れる感覚過敏の具体的な症状と苦痛

感覚過敏は、五感の全てに及びます。それぞれの感覚が日常生活でどのような苦痛をもたらすかを見ていきましょう。

① 聴覚過敏(特定の音・周波数への過剰反応)

日常生活で最も苦痛を引き起こしやすい感覚の一つです。

  • 症状:
    • **特定の音の強調:多くの人が無視できる機械音(冷蔵庫のモーター、換気扇、エアコンの動作音)**が耳元で鳴っているように聞こえ、会話や集中が困難になる。
    • **不快な周波数:**子どもの甲高い声、食器の擦れる音(キュッという音)、黒板を引っ掻く音など、特定の周波数の音が強い不快感や痛みを伴う。
    • 音の洪水:賑やかな場所(スーパー、駅、学校の廊下)では、全ての音が等しく大きく聞こえ、情報の洪水となり、パニックやフリーズ(動きが止まる)を引き起こす。
  • **苦痛の結果:**頭痛、耳の痛み、吐き気、周囲の状況を把握できなくなる、その場から逃げ出したい衝動。

② 視覚過敏(光・色・動きへの過剰反応)

光の刺激だけでなく、視覚的な情報量の多さも苦痛の原因となります。

  • 症状:
    • 光の痛み:一般的な蛍光灯やLEDの光が眩しすぎて目に突き刺さるような痛みを感じる。太陽光は耐え難い。
    • **ちらつき・フリッカー:蛍光灯の微細なちらつき(フリッカー)**が、激しい不快感や疲労、頭痛を引き起こす。
    • 情報量の多さ:壁の模様、商品の陳列棚、人の動きの多さなどが視覚的なノイズとなり、目がチカチカしたり、気分が悪くなったりする。
  • **苦痛の結果:**偏頭痛、眼精疲労、集中力の低下、めまい、吐き気。

③ 嗅覚過敏(匂いへの過剰反応)

生活空間における匂いを完全に遮断することが難しいため、社会生活に大きな影響を及ぼします。

  • 症状:
    • 化学物質の匂い:洗剤、柔軟剤、香水、消臭剤、たばこの煙、新しい建材の匂いなどが強烈な毒ガスのように感じられ、激しい吐き気や呼吸困難を引き起こす。
    • **食品の匂い:**調理中の特定の食品の匂いや、他人の呼気に含まれる微細な匂いで気分が悪くなる。
  • **苦痛の結果:**吐き気、嘔吐、頭痛、その場にいることへの激しい拒否感、食事の困難。

④ 触覚過敏(素材・温度・圧への過剰反応)

衣服や他者との接触など、身体に関わる感覚です。

  • 症状:
    • **衣類の不快感:服の縫い目、タグ、特定の素材(ウール、化学繊維)**が皮膚に触れると、強い痒みや痛みを感じ、着替えられない。
    • **接触の拒否:**他人に軽く触れられることや、髪の毛が顔にかかること、特定の圧力が強い不快感や痛みを引き起こす。
    • **温度・湿度:**わずかな温度変化や湿度の高さを不快に感じ、体温調整が困難になる。
  • **苦痛の結果:**皮膚のヒリヒリ感、着衣の拒否、強い不安感、人との接触を避ける。

⑤ 味覚過敏(特定の味・食感への過剰反応)

食生活に直接影響し、栄養摂取の困難に繋がる場合があります。

  • 症状:
    • **味の強調:**わずかな苦味、酸味、辛味などが極端に強く感じられ、特定の食品を摂取できない。
    • 食感の拒否:ざらざら、ネバネバ、ドロドロといった特定の食感が耐えられず、食べられるものが極端に限定される。
  • **苦痛の結果:**偏食、栄養不足、食事場面での強いストレス、給食や外食の困難。


🛡️ 3. 日常生活で使える具体的な支援策と合理的配慮

感覚過敏への支援は、**「刺激を減らす遮断」「刺激を調整する代償」**の二つのアプローチが基本となります。

アプローチ①:遮断・軽減のための環境調整

過剰な刺激そのものを物理的に減らすための対策です。

感覚 支援・配慮の具体例
聴覚 ノイズキャンセリングヘッドホン耳栓の使用(特に人混み、電車内、工事現場)。

特定の不快音の原因(エアコン、時計の秒針など)を特定し、遠ざける。

視覚 遮光カーテンつばの広い帽子UVカット付きのサングラス(屋内でも許可する)。

蛍光灯を電球色や暖色系のLEDに交換する、間接照明を活用する。

嗅覚 無香料の洗剤・柔軟剤への切り替えを周囲に依頼する(香害対策)。

学校や職場で匂いの強い場所(トイレ、給湯室、喫煙所など)から席を遠ざける。

触覚 綿や絹など肌触りの良い特定の素材に限定した衣類の着用を許可する。

服のタグ、縫い目、ゴム部分を全て切除または内側を処理する。

アプローチ②:代償・代替えのためのツールの活用

刺激を完全に遮断できない場合に、その刺激を和らげたり、他の感覚で代替したりするためのツールを活用します。

  • 聴覚:
    • イヤーマフ: 遮音性が高く、特に騒音下で有効。
    • 音楽/ホワイトノイズ: 不快な音を遮断するため、慣れた音楽やホワイトノイズを聞くことを許可する。
  • 視覚:
    • 遮光グッズ: パソコンの画面にブルーライトカットフィルター反射防止フィルムを貼る。
    • 特定の色フィルター: 文字のちらつきや動きを軽減するため、教科書や書類の上に**色のついた下敷き(リーディングトラッカー)**を置く。
  • 触覚:
    • 加圧衣料/重みのあるもの:不安や混乱時に、重みのあるブランケット(ウェイトブランケット)や加圧Tシャツを使用し、深部感覚に穏やかな刺激を与える。
    • 感覚ボール/フィジェットトイ:手で握ったり操作したりすることで、触覚の過剰なエネルギーを分散させる。


🏢 4. 環境別:学校・職場・社会での配慮の具体例

感覚過敏への支援は、その人が活動する環境に合わせて具体的かつ柔軟に行われる必要があります。

学校・学習環境での配慮

子どもや学生は、集団生活の中で最も多くの刺激にさらされます。

  • 座席の配慮:
    • 窓際ドア付近など、光や人の動きが多い場所を避け、壁際の席など、刺激が少ない場所に配置する。
    • 換気扇、エアコン、給水機など、機械音の原因から遠ざける。
  • **試験時の配慮:**教室の騒音を避けるため、別室での受験や、イヤーマフの使用を許可する。
  • **給食・食事:**特定の味覚過敏がある場合、給食の代替品(アレルギー対応とは別)や、持参した食事を許可する。

職場・就労環境での配慮

合理的配慮を求め、生産性を高めるための環境調整を行います。

  • 照明の調整:デスク上の照明を個別調整できるスタンドにし、職場の天井照明から遠い場所に席を配置してもらう。
  • 座席配置:****電話応対の多い人や、頻繁に人が行き交う場所から離れた、静かでプライバシーが保たれやすい席を確保する。
  • **匂いへの配慮:**周囲の同僚に、香水や匂いの強い柔軟剤の使用を控えるよう依頼する(人事部門や産業医を通じて)。
  • 休憩・クールダウン:刺激が強くなったときのために、静かで暗い休憩室やクールダウンできる場所(「感覚調整室」など)を確保してもらう。

社会生活・公共の場での支援

社会全体での啓発と理解が不可欠です。

  • ヘルプマークの活用:聴覚過敏やパニックを起こしやすいことを示すために、ヘルプマークや独自のバッジを着用し、周囲に理解を求める。
  • **静かな時間帯の活用:スーパーやデパートで実施されている「カームアワー(Quiet Hour)」**など、照明やBGMを落とす時間帯を狙って買い物をする。
  • **医療機関での配慮:**病院の待合室の照明を落とす、個室で待機する、聴診器が皮膚に当たる温度に配慮するなど、医療従事者へ具体的な配慮を事前に依頼する。


📚 5. 感覚統合療法と専門家による支援

感覚過敏を根本から軽減するためには、専門家によるアプローチが有効です。

感覚統合療法(Sensory Integration Therapy)

感覚統合療法は、**作業療法士(OT)**などの専門家が行うリハビリテーションの一種です。

  • 目的:感覚刺激を遊びや活動を通じて意図的に与えることで、脳が感覚情報を効率よく処理できるように訓練し、感覚の偏りを調整することを目指します。
  • **内容:**過敏な感覚をあえて避けず、適度な量と質で刺激を体験させたり、**深部感覚(重力、関節)**に働きかける活動(ブランコ、ジャンプ、重いものを運ぶなど)を行ったりします。
  • 効果:すぐに効果が出るわけではありませんが、長期的に見ると、自己調整能力が高まり、過敏な刺激に対する耐性がつくことが期待されます。

相談窓口と専門家の活用

感覚過敏に関する相談は、以下の専門機関・専門家を通じて行います。

  • **発達障害者支援センター:**感覚過敏を持つASD/ADHDの方の特性理解、生活支援、合理的配慮に関する相談。
  • 作業療法士(OT):病院やリハビリテーションセンター、児童発達支援・放課後等デイサービスなどに配置されており、感覚統合療法の専門家として具体的な評価と訓練を行います。
  • 公認心理師・臨床心理士:感覚過敏からくる強い不安やパニックに対する心理的なサポートや認知行動療法を行います。
  • **相談支援専門員:**福祉サービス(自立訓練、居宅介護など)の利用計画作成の際に、感覚過敏への配慮事項を盛り込み、支援事業所との連携を調整します。


🫂 6. 理解を深めるためのメッセージとアクションプラン

感覚過敏への支援は、まず**「当事者の感じている苦痛は本物である」**という深い理解から始まります。

アクションプラン:理解と支援のための3つのステップ

  1. 当事者の感覚を「見える化」する:
    • どの刺激が、どの程度つらいのかを具体的にヒアリングし、「感覚チェックリスト」や「感覚プロフィール」として書き出す。
    • 特に、パニックや自傷行為といった行動が、感覚過敏に起因していないかを検証する。
  2. 「予防」の環境調整を徹底する:
    • 刺激を避けるためのツール(耳栓、サングラス)の使用を、場所を問わず積極的に許可・推奨する。
    • クールダウンできる安全な場所(静かで暗い場所)を、家庭内、学校内、職場のそれぞれで確保する。
  3. 専門家の継続的な支援を受ける:
    • 感覚統合療法の専門家(OT)に評価を依頼し、感覚の偏りを和らげるための訓練や、家庭でできる支援方法の指導を受ける。
    • 相談支援専門員と連携し、福祉サービスや学校・職場での合理的配慮を具体的に実現する。

💡 苦痛を言葉にできない方への支援

知的障害や重度の自閉スペクトラム症など、感覚過敏の苦痛を言葉で伝えられない方の場合、行動観察が非常に重要です。手を耳で覆う、光を避けるように目を細める、特定の場所から逃げようとする、パニックになるといった行動は、感覚過敏による苦痛のサインである可能性が高いです。

感覚過敏への理解は、**「多様な感覚を持つ人々が共に生きる社会」**への第一歩です。適切な配慮と支援を通じて、感覚のつらさを持つ方が、より快適に、自分らしく生活できる環境を共に作り上げていきましょう。


まとめ

  • 感覚過敏は、脳内での感覚情報の処理(感覚統合)の偏りによって、音、光、匂いなどの刺激を過剰に強く、痛みを伴うものとして認識してしまう状態である。
  • 特に発達障害(ASD)を持つ方に多く見られ、聴覚過敏、視覚過敏、嗅覚過敏、触覚過敏が日常生活におけるパニックや強い苦痛の原因となる。
  • 支援の基本は、「遮断・軽減」と「代償・代替え」であり、ノイズキャンセリングヘッドホン、遮光サングラス、無香料環境などの環境調整を積極的に行う。
  • 学校や職場では、刺激の少ない座席配置、別室での休憩・試験、匂いの配慮など、具体的な合理的配慮を求めることが重要である。
  • 根本的な感覚の調整には、作業療法士(OT)による感覚統合療法や、発達障害者支援センターなどの専門機関の支援が有効である。

高橋 健一

高橋 健一

たかはし けんいち50
担当📚 実務経験 25
🎯 制度・法律🎯 医療・福祉制度

📜 保有資格:
社会福祉士

市役所の障害福祉課で20年間勤務し、制度の運用や窓口対応を担当してきました。「制度は難しい」と言われますが、知れば使える便利なツールです。行政の内側から見た制度のポイントを、分かりやすくお伝えします。

大学卒業後、地方自治体に入庁し、障害福祉課に配属されて20年。障害者手帳の交付、障害福祉サービスの支給決定、各種手当の申請受付など、幅広い業務を経験しました。行政職員として心がけていたのは、「制度を正確に伝えつつ、温かく対応する」こと。窓口に来られる方は不安を抱えています。制度の説明だけでなく、その方の状況に合わせた情報提供を大切にしてきました。退職後、民間の相談支援事業所に転職し、今度は「申請する側」の視点も理解できました。行政と民間、両方の経験を活かして、制度の仕組みだけでなく、「実際にどう使うか」まで伝えられるのが強みです。記事では、障害者総合支援法、障害者雇用促進法、各種手当など、制度の正確な情報を「難しい言葉を使わず」解説します。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

公務員として地域に貢献したいと思い、障害福祉課に配属されたことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

窓口対応で、制度を活用して生活が楽になったと感謝されたこと。行政と民間両方の視点を得られたこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

制度の正確な情報を「難しい言葉を使わず」伝えることを大切にしています。

🎨 趣味・特技

将棋、歴史小説

🔍 最近気になっているテーマ

マイナンバーと福祉制度の連携、自治体DXの進展

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