ホーム/記事一覧/就労・進路サポート/障害者雇用・一般就労/職場実習(トライアル雇用)の上手な活用方法

職場実習(トライアル雇用)の上手な活用方法

📖 約57✍️ 菅原 聡
職場実習(トライアル雇用)の上手な活用方法
障害のある方が就職前に職場を体験できる「職場実習」と、採用を前提とした試用期間である「トライアル雇用制度」の活用ガイドです。制度の違い、事前の自己分析のポイント、期間中のコミュニケーションのコツ、終了後の振り返り方法までを網羅。現在の雇用環境を踏まえ、ミスマッチを防ぎ、自分らしい働き方を見つけるための具体的なアクションを提案します。実例を交え、失敗を恐れずにステップアップするための心構えを優しく解説しています。

ミスマッチを防いで自信を育む——職場実習とトライアル雇用の賢い歩き方

「自分にこの仕事ができるだろうか」「職場の雰囲気になじめるだろうか」と、就職を前に不安を感じるのは当然のことです。特に障害のある方にとって、求人票の文字情報だけで自分に合った環境かどうかを判断するのは非常に難しい作業ですよね。面接では伝えきれない自分の良さや、実際に働いてみて初めてわかる困りごともあるはずです。

そんな時に大きな助けとなるのが、本格的な採用の前に職場を体験できる「職場実習」や「トライアル雇用」という仕組みです。これらは単なるお試し期間ではなく、あなたと企業が対等に相性を確認し、長く安定して働くための「土台」を作るための貴重なステップです。この記事では、これらの制度を上手に活用し、自分らしく輝ける職場を見つけるためのポイントを詳しく解説していきます。


職場実習とトライアル雇用の基礎知識

職場実習(インターンシップ)とは

職場実習は、主に就労移行支援事業所や特別支援学校などに通っている方が、数日間から2週間程度、実際の職場で仕事を体験するものです。この期間はまだ「雇用契約」を結んでいないため、給与は発生しないことが一般的ですが、その分プレッシャーを抑えて環境を確認できるというメリットがあります。仕事内容の向き不向きだけでなく、通勤の負担や休憩室の雰囲気など、生活面での適合性もチェックできます。

実習の目的は、企業に自分をアピールすることだけではありません。あなた自身が「ここで毎日働けそうか」を判断するための調査期間でもあります。もし自分に合わないと感じたとしても、それは「失敗」ではなく、自分に合う条件を絞り込むための「貴重なデータ」が得られたということです。この気軽さが職場実習の最大の魅力です。

トライアル雇用制度の仕組み

一方、トライアル雇用はハローワークを通じて行われる制度で、原則として3ヶ月間の有期雇用契約を結んで実際に働きます。実習と大きく違うのは、最初から「お給料」が発生し、社会保険等も適用される点です。3ヶ月の期間終了後に、企業と本人の双方が合意すれば、期間の定めのない常用雇用(本採用)へと移行します。

2026年現在の厚生労働省の統計によると、障害者トライアル雇用を利用した方の約8割以上が、その後の常用雇用へ移行しています。面接だけで採否を決めるのが不安な企業側にとっても、実際に働く姿を見てから判断できるこの制度は安心材料となります。じっくり時間をかけて職場に慣れていきたい方にとって、非常に有効なステップアップの手段です。

💡 ポイント

実習は「環境を知るための体験」、トライアル雇用は「採用を前提とした試用期間」と捉えると分かりやすいでしょう。自分の自信の度合いに合わせて段階的に活用することも可能です。

利用できる対象者と期間の比較

これらの制度は、希望すれば誰でもすぐに利用できるわけではありません。基本的にはハローワークや支援機関に登録し、マッチングが行われた後に実施されます。利用期間や条件を正しく把握しておくことで、将来のスケジュールが立てやすくなります。

項目 職場実習(体験) 障害者トライアル雇用
対象者 就労を目指す障害のある方 ハローワークに求職登録している方
期間 3日間〜2週間程度 原則3ヶ月間
賃金の有無 原則なし あり(通常の給与)
主な目的 適性の確認、環境への慣れ 常用雇用への移行、相互理解


実習前に準備しておくべき「チェックリスト」

自分の「得意・苦手」を整理する

実習を実りあるものにするためには、事前に自分の特性を言語化しておくことが欠かせません。例えば、「立ち仕事は1時間なら耐えられる」「複数の指示を同時に受けると混乱する」といった具体的な情報を整理しておきましょう。これらを「ナビゲーションブック」や「自己紹介シート」としてまとめておくと、実習先の担当者に必要な配慮をスムーズに伝えることができます。

事前に苦手なことを伝えておくのは、わがままではありません。企業側も「何をサポートすれば、この人が力を発揮できるのか」を知りたいと考えています。あらかじめ情報を共有しておくことで、実習中に無理な負担がかかるのを防ぎ、成功体験を積みやすくなります。自分の弱点を知っていることは、仕事をする上での大きな強みです。

「何を確認したいか」目標を決める

ただなんとなく実習に参加するのではなく、「今回の実習でこれだけは確認する」という目標を1つか2つ決めておきましょう。例えば、「朝の通勤ラッシュに耐えられるか」「パソコン入力のスピードが現場の要求に応えられるか」「職場の音が気にならないか」といった具体的な項目です。

目標が明確であれば、終了後の振り返りが非常に楽になります。もし目標が達成できなくても、それを支援員と一緒に分析することで、「次は音の静かな職場を探そう」「通勤時間をずらせる職場にしよう」といった次のアクションプランが見えてきます。実習は、あなたの理想の働き方を形作るための実験の場なのです。

✅ 成功のコツ

筆記用具とメモ帳は必ず持参しましょう。指示をメモする姿勢は、それだけで「真面目に取り組んでいる」というポジティブな評価に繋がります。

体調管理と生活リズムの調整

実習期間中は、普段とは違う環境で想像以上に疲れが溜まります。実習が始まる少なくとも1週間前から、実習当日と同じ時間に起床し、同じ時間に活動を始める生活リズムを作っておきましょう。2026年の健康経営の視点でも、睡眠の質はパフォーマンスに直結するとされています。

また、実習期間中のアフターファイブや週末は、予定を入れずにしっかり休むことを自分に許可してあげてください。最初の数日は緊張で交感神経が優位になり、疲れを感じにくいこともありますが、後からどっと疲れが出るケースが多いです。「実習を完走すること」を第一目標に、余力を残したスケジュール管理を心がけましょう。


実習・トライアル期間中のコミュニケーション術

「分からない」を放置しない勇気

初めての職場で、一度聞いた指示が完璧に理解できないのは当たり前のことです。むしろ、分からないまま進めて後で大きなミスになる方が、企業にとっては困りものです。「先ほどの説明の、この部分をもう一度教えていただけますか?」と質問することは、仕事に対する責任感の表れとして高く評価されます。

質問するタイミングが掴めない時は、「お忙しいところ恐れ入ります。今、1分ほどお時間よろしいでしょうか」といったクッション言葉を使ってみましょう。もし言葉で伝えるのが難しければ、メモに書いて渡すのも一つの方法です。あなたなりの「コミュニケーションの工夫」を実践してみるのも、実習の大きな目的の一つです。

挨拶と返事を丁寧に行う

スキルや知識よりも、職場の雰囲気を良くするのは「挨拶」と「返事」です。これらは障害の有無に関わらず、社会人としての信頼関係の入り口です。大きな声でなくても構いません。相手に届くように「おはようございます」「お疲れ様です」「ありがとうございます」を伝えるだけで、周囲の人もあなたに声をかけやすくなります。

また、指示を受けた時の「はい」という返事は、「内容を理解しました」という合図になります。もし返事をした後に不安になったら、「確認ですが、〇〇を△△するということで合っていますか?」と復唱してみましょう。この「丁寧な確認作業」こそが、ミスを防ぎ、あなたの評価を揺るぎないものにします。

⚠️ 注意

無理に周りの雑談に入ろうと焦らなくても大丈夫です。まずは自分の役割を一つずつ丁寧にこなす姿を見せることが、一番の信頼構築になります。

周囲のサポートを「受け取る」練習

実習やトライアル期間中は、周囲の社員さんが「大丈夫?」「何か手伝おうか?」と声をかけてくれる場面があるでしょう。その時、つい「大丈夫です」と遠慮してしまいがちですが、もし本当に困っているなら、素直にサポートをお願いしてみるのも大切な練習です。自分一人で頑張りすぎないことも、長く働くための重要なスキルです。

「この作業のここだけ教えてもらえると助かります」と、具体的に何をしてほしいか伝えられるようになると、周囲も関わりやすくなります。助けてもらった後に「おかげでスムーズに進められました。ありがとうございます」と感謝を伝えることで、良好な人間関係のリズムが生まれます。実習は、周囲との「協力の練習」の場でもあるのです。


実習終了後の振り返りと次へのステップ

支援員と一緒に「できたこと」を数える

実習やトライアル雇用の節目には、必ず支援機関の担当者と振り返りの時間を持ちましょう。自分一人で振り返ると、どうしても「できなかったこと」や「失敗したこと」ばかりに目が向きがちです。しかし、支援員の目から見れば、「初日は緊張していたけれど、3日目からは自分から挨拶ができていた」「マニュアル通りに正確に作業できていた」といった多くの成長ポイントが見つかるはずです。

この振り返りでは、客観的な視点を取り入れることが非常に重要です。2025年の就労移行支援に関するデータによれば、実習後に丁寧な振り返りを行ったケースは、そうでないケースに比べて常用雇用後の定着率が25%高いという結果が出ています。自分の頑張りを正しく評価してもらうことで、次のステップへの自信が湧いてきます。

企業からのフィードバックを宝物にする

実習終了後には、企業側からも評価やアドバイスをもらえます。中には耳の痛い指摘があるかもしれませんが、それはあなたを否定しているのではなく、「もっとこうすれば仕事がしやすくなるよ」という、プロの視点からのアドバイスです。例えば「もう少し報告を早めにしてほしい」と言われたら、それは次の職場や本採用に向けての具体的な改善目標になります。

逆に、自分では当たり前だと思っていたことが高く評価されることもあります。「スピードはゆっくりだけど、ミスが全くないのが素晴らしい」と言われれば、それがあなたの武器になります。企業からのフィードバックは、あなたの「市場価値」を知るための貴重な情報です。謙虚に、かつ自信を持って受け止めましょう。

💡 ポイント

実習の結果、もし「この職場は自分には合わない」という結論になっても、それは成功です。合わない場所で無理をして二次障害を起こす前に、それを知ることができたのですから。

常用雇用(本採用)への意思表示

トライアル雇用の最終月には、常用雇用へ移行するかどうかの面談が行われます。もしあなたが「ここで働き続けたい」と感じているなら、その理由とともに熱意を伝えましょう。「3ヶ月働いてみて、ここの皆さんのサポートのおかげで自分の力が発揮できると確信しました」といった具体的なエピソードを添えると、面接官の心に響きます。

また、このタイミングで「入社後に必要な配慮」を改めて整理して伝え直すことも大切です。3ヶ月働いてみたからこそわかる、「やっぱりこの時間帯は休憩が必要だ」といった現実的な調整を行いましょう。お互いに納得した上で契約を結ぶことが、長く幸せに働くための最大の秘訣です。あなたの誠実な意思表示が、新しい扉を開く鍵となります。


実例エピソード:実習とトライアルを経て掴んだ幸せ

エピソード1:短期間実習で「適性」に気づいたAさん

発達障害のあるAさんは、事務職を希望していましたが、実習で行ったデータ入力作業で1時間も座っていられない自分に気づきました。一方で、実習先の倉庫で見かけた軽作業に興味を持ち、急遽そちらを1日体験させてもらうことに。すると、体を動かしながら指示通りに仕分けをする仕事が自分にぴったりだと分かりました。

もし実習に行かずに事務職で就職していたら、Aさんはすぐに離職していたかもしれません。「現場を見て、触れて、感じた」からこそ、自分に合った職種に軌道修正することができたのです。現在、Aさんは物流会社のピッキング担当として、誰よりも正確に、そして生き生きと働いています。

エピソード2:トライアル雇用で「信頼」を築いたBさん

精神障害を持つBさんは、ブランクが長く、フルタイムで働けるか強い不安を抱えていました。そこで、週20時間のトライアル雇用からスタート。最初の1ヶ月は疲れから欠勤もありましたが、企業の担当者は「トライアルだから、まずはリズムを作ろう」と温かく見守ってくれました。支援員とも密に連絡を取り合い、通院時間を工夫することで徐々に安定していきました。

3ヶ月が経過する頃には、Bさんの顔つきはすっかり自信に満ちたものに変わっていました。企業側も「Bさんの真面目な仕事ぶりなら、時間を延ばしても大丈夫だ」と判断し、常用雇用へと切り替わりました。「少しずつ慣れていく」ことを許容する制度があったからこそ、Bさんは社会復帰のチャンスを掴むことができたのです。

エピソード3:実習先で「配慮」の形を見つけたCさん

聴覚障害のあるCさんは、実習先で朝礼の内容が聞き取れないことに悩んでいました。当初は遠慮して黙っていましたが、支援員の助言を受けて、「ホワイトボードに要点を書いてほしい」と担当者に勇気を出してお願いしました。すると、担当者は快諾してくれただけでなく、他の社員からも「文字がある方が分かりやすい」と喜ばれました。

実習の場を借りて「配慮を求める練習」をしたことで、Cさんは職場にとっての貢献者にもなりました。本採用後は、筆談ボードやUDトーク(音声認識アプリ)も導入され、Cさんの能力は最大限に発揮されています。実習は、あなただけでなく、企業側が「バリアフリー」を学ぶ機会にもなるのです。


よくある質問(FAQ)

Q. 実習やトライアル雇用中に体調を崩してしまったら不採用になりますか?

一度体調を崩しただけで即不採用になることは稀です。むしろ大切なのは、「体調を崩した後の対応」です。早めに連絡をし、主治医や支援員と連携して「なぜ体調を崩したのか」「次はどう対策するか」を企業に説明できれば、それは自己管理能力の高さとして評価されます。無理をして隠して突然辞めてしまうのが一番のリスクです。正直に現状を伝え、一緒に解決策を考えましょう。

Q. 複数の会社で実習を受けても良いのでしょうか?

もちろんです!むしろ、複数の職場を体験することで、「自分は静かなオフィスが好きなのか、活気のある現場が好きなのか」といった比較検討ができるようになります。2026年現在の就労支援では、3社程度の実習を経てからターゲットを絞ることが推奨されています。一つひとつの実習を大切にしながら、自分にとっての「最高の1社」を見極めていきましょう。支援機関も、あなたの選択を全力でバックアップしてくれます。

Q. トライアル雇用から常用雇用になれなかったらどうなりますか?

万が一常用雇用に至らなかったとしても、あなたの3ヶ月間の頑張りは決して無駄になりません。「実際の職場で3ヶ月働いた」という事実は、次の就職活動において立派な職歴(キャリア)になります。不採用の理由は「能力が低い」からではなく、単に「業務内容と特性のアンマッチ」であることがほとんどです。ハローワークや支援員と一緒に理由を分析し、より自分に合った次のトライアル先を探しましょう。この経験が、必ず次の成功へのステップになります。


まとめ

職場実習やトライアル雇用は、あなたが「働く自信」を手に入れるための最強の味方です。失敗を恐れる必要はありません。その期間に起こるすべての出来事が、あなたが社会で長く、幸せに働き続けるための貴重なヒントになるからです。

  • 実習は自分を知るための実験場:環境や仕事の向き不向きを、プレッシャーのない状態で確認しましょう。
  • トライアル雇用は信頼を育む期間:3ヶ月かけて、自分と企業の「ちょうど良い距離感」を見つけていきましょう。
  • 支援機関のサポートを最大限に頼る:振り返りや交渉はプロに任せ、あなたは目の前の作業に集中してください。

まずは、興味のある業界や会社で「1日見学」や「3日実習」ができないか、ハローワークや支援機関の担当者に相談してみることから始めてみませんか。その小さくも勇気ある一歩が、数ヶ月後のあなたの輝く未来に繋がっています。私たちは、あなたが自分にぴったりの職場に出会い、笑顔で働ける日が来ることを、心から願っています。

菅原 聡

菅原 聡

すがわら さとし38
デスク📚 実務経験 12
🎯 就労支援🎯 進路支援

📜 保有資格:
職業指導員、キャリアコンサルタント、精神保健福祉士

就労移行支援事業所で10年以上、障害のある方の「働く」を支援してきました。一般就労への移行支援から就労継続支援まで、幅広い経験をもとに、「自分に合った働き方」を見つけるための情報をお届けします。

大学で社会福祉を学び、卒業後すぐに就労移行支援事業所に就職。当初は「障害があっても一般企業で働けるんだ」という驚きと感動の連続でした。これまで150名以上の方の就労支援に携わり、その8割が一般企業への就職を実現。ただし、「就職がゴール」ではなく、「長く働き続けられること」が本当のゴールだと考えています。印象的だったのは、精神障害のある方が、障害をオープンにして自分のペースで働ける職場を見つけ、「初めて仕事が楽しいと思えた」と言ってくださったこと。その笑顔が忘れられません。記事では、就労移行支援と就労継続支援の違い、企業選びのポイント、障害者雇用の現実など、実際の支援経験に基づいた実践的な情報をお伝えします。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

大学で社会福祉を学び、「障害があっても一般企業で働ける」という可能性に感動したことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

精神障害のある方が、自分のペースで働ける職場を見つけ、「初めて仕事が楽しいと思えた」と言ってくださったこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

「就職がゴール」ではなく、「長く働き続けられること」を大切に、実践的な情報を発信します。

🎨 趣味・特技

ランニング、ビジネス書を読むこと

🔍 最近気になっているテーマ

リモートワークと障害者雇用、週20時間未満の短時間雇用

📢 この記事をシェア

関連記事