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一般就労を目指す家族が陥りやすい誤解と正しいサポート

📖 約52✍️ 菅原 聡
一般就労を目指す家族が陥りやすい誤解と正しいサポート
一般就労を目指す障害のある方のご家族に向けて、陥りやすい誤解と正しいサポートの在り方を詳しく解説します。「本人の意欲」と「企業の求める能力」のギャップを埋める方法や、就労移行支援事業所の活用、家族自身のメンタルケアの重要性について、具体的な事例を交えながら紹介。焦りや不安を解消し、長期的に安定して働き続けるための「伴走」のコツが学べる内容です。

一般就労を目指す家族が知っておきたい成功への道筋

お子様やご家族が「働きたい」という意欲を持ったとき、周囲の家族は大きな喜びと同時に、言いようのない不安を感じることも多いのではないでしょうか。「本当に一般企業でやっていけるのだろうか」「すぐに辞めてしまわないか」という懸念は、支援に熱心なご家族ほど強く抱くものです。

本記事では、一般就労を目指す過程でご家族が陥りやすい「良かれと思っての誤解」を紐解き、ご本人が自分らしく、かつ安定して働き続けるための正しいサポートの形を提案します。就労はゴールではなく、新しい生活のスタートです。その第一歩を、家族としてどう支えればよいのか、具体的な視点をお伝えしていきます。

この記事を読むことで、現在の就職活動のトレンドや、活用すべき社会資源、そして家族が担うべき役割が明確になります。焦らず、着実に一歩を進めるためのガイドとしてご活用ください。


就労の現場で起きている「期待」と「現実」のギャップ

「本人のやる気」だけでは足りない理由

就職活動において、ご本人の「働きたい」という気持ちは最も強力な原動力になります。しかし、実際の障害者雇用の現場では、「意欲」と同じくらい「自己理解」と「安定した生活リズム」が重視されます。企業が懸念するのは、スキルの不足よりも、体調不良による欠勤や、コミュニケーションの行き違いによるトラブルです。

ご家族の中には「本人がこれほどやる気なのだから、早く仕事に就かせてあげたい」と急ぐ方もいらっしゃいますが、土台が整わないままの就職は、早期離職のリスクを高めてしまいます。まずは、今の体調や生活習慣が、企業の求める「週5日、1日7〜8時間勤務」に耐えうるものかを客観的に見極める必要があります。

また、「自分の障害特性を自分で説明できるか」という点も重要です。企業側はどのような配慮が必要かを教えてほしいと考えています。本人が自分の得意・不得意を言語化できるまで、じっくりと時間をかけることが、結果として就職への近道となります。

企業側が本当に求めている能力とは

多くのご家族が「事務スキルやパソコンの資格が必要だ」と考えがちですが、厚生労働省の調査や企業の採用担当者の声を聞くと、意外な事実が見えてきます。多くの企業が最優先事項として挙げるのは、「挨拶・マナー」「指示の理解」「報告・連絡・相談(ホウレンソウ)」といった基本的なビジネススキルです。

高い専門スキルを持っていても、周囲に助けを求められなかったり、勝手な判断で仕事を進めてしまったりすると、現場での継続的な就労は難しくなります。逆に、スキルが多少低くても、自分の限界を理解し、適切に相談できる方は、企業にとって非常に雇用しやすい人材となります。

💡 ポイント

資格取得を急ぐよりも、まずは規則正しい生活と、家庭内での「報告・連絡・相談」の練習から始めてみましょう。日常生活の中にある「働くための土台」を整えることが大切です。

適材適所を見極めることの大切さ

「大手企業なら安心」「事務職なら楽だろう」といった思い込みも、注意が必要です。障害特性によっては、変化の少ない製造現場や、ルールが明確な清掃業務の方が、ストレスなく力を発揮できるケースも多々あります。一般就労とは、必ずしもスーツを着てオフィスで働くことだけを指すのではありません。

本人の特性と業務内容がマッチしているかどうかを判断するには、実習(ジョブトライアル)が非常に有効です。実際に働いてみることで、想像していた仕事の内容と実際の作業のギャップを埋めることができます。家族の理想を押し付けるのではなく、本人が「ここなら無理なく続けられそうだ」と感じられる場所を一緒に探していく姿勢が求められます。


ご家族が陥りやすい3つの誤解とリスク

誤解1:早く就職することが最善の支援である

学校を卒業した後や、離職した後に「空白期間を作ってはいけない」と焦る気持ちはよく分かります。しかし、準備不足のまま就職し、数ヶ月で体調を崩して離職してしまうと、ご本人は大きな挫折感を味わい、「自分は働くことができない人間だ」という強い自己否定に陥ってしまうことがあります。

この「二次障害」とも言える自信喪失は、その後の再就職を著しく困難にします。就労は短距離走ではなくマラソンです。最初の数ヶ月や1年を「準備期間」と割り切り、就労移行支援事業所などで訓練を積むことは、決して遠回りではありません。むしろ、将来的に3年、5年、10年と働き続けるための強固な基盤を作る期間になります。

過去のデータでも、就労移行支援を経て就職した人の定着率は、何も利用せずに就職した人に比べて有意に高いことが示されています。焦りは禁物です。今は「力を溜める時期」なのか、それとも「勝負する時期」なのかを、支援者と相談しながら見極めましょう。

誤解2:家族がすべてを代行してあげるべき

履歴書の作成、応募先の選定、面接の練習……。ご家族が一生懸命になりすぎて、すべてのプロセスを代行してしまうケースが見受けられます。しかし、これは危険な兆候です。仕事が始まれば、家族は職場に同行することはできません。現場で起きるトラブルや課題には、本人が対処しなければならないのです。

過保護なサポートは、本人の自立心や「自分で決めた」という責任感を奪ってしまいます。面接で家族が話した内容と、実際に働き始めた本人の様子にギャップがあれば、企業側も困惑します。「失敗させないためのサポート」から「失敗しても立ち直れるように見守るサポート」への転換が必要です。

具体的には、履歴書を代筆するのではなく、書き方を教える。面接の送迎をするのではなく、一人で行けるように交通手段を一緒に確認する。こうした「自走」を促す関わりこそが、真の就労支援と言えるでしょう。

誤解3:一般就労は福祉との決別である

「一般就労をしたら、もう福祉のお世話にならなくていい」「普通の人として自立してほしい」と願うご家族もいます。しかし、障害者雇用枠で働く場合、むしろ福祉的支援を継続して受けることこそが長く働くための秘訣です。一般就労は、福祉から卒業することではなく、「職場の外に支え手を持ちながら社会に参画すること」だと捉えてください。

例えば「就業・生活支援センター」や「ジョブコーチ」の存在を忘れてはいけません。職場で困ったことがあったとき、家族や職場の上司には言えない悩みも、第三者の支援者であれば相談しやすいものです。福祉的なつながりを断ってしまうことは、本人の「逃げ場」を失わせることにも繋がりかねません。

⚠️ 注意

「もう働いているんだから、自分で解決しなさい」と突き放すのは控えましょう。一般就労後も、支援機関とのつながりを維持し続けることが、長期雇用の最大の鍵となります。


安定した就労を実現するための「3つの柱」

柱1:徹底的な自己理解のサポート

就労において最も重要なのは、本人が自分の「取扱説明書」を持っていることです。どのような状況でパニックになりやすいのか、疲れが溜まったときにどのようなサインが出るのか、どのような指示の出し方をされると理解しやすいのか。これらを客観的に理解することは、本人一人では非常に困難です。

ご家族にできることは、日々の生活の中での気づきを言語化してあげることです。「昨日は雨だったから少し元気がなかったね」「急に予定が変わると焦るみたいだね」といった具体的なエピソードを蓄積し、それを支援者に伝えることで、精度の高いプロフィールシートが作成できます。

この自己理解が深まると、面接で「私は〇〇が苦手ですが、△△という工夫をすれば対応できます」と前向きな提案ができるようになります。これは企業にとって非常に心強い情報となり、採用の可能性を大きく引き上げます。

柱2:家庭内での生活基盤の確立

仕事で受けるストレスを解消し、明日への活力を蓄える場所は「家庭」です。職場での緊張を家庭でリラックスして解き放てる環境があることは、何よりの支援になります。しかし、リラックスしすぎて生活リズムが崩れてしまっては本末転倒です。

特に「睡眠」と「食事」の管理は、家族の協力が不可欠な領域です。決まった時間に就寝し、朝食をしっかり摂って家を出る。この当たり前のルーティンが、就労継続の8割を決定すると言っても過言ではありません。就職活動が本格化する前から、職場を想定した生活スケジュールを確立しておきましょう。

チェック項目 理想の状態 家族の関わり方
起床時間 出勤2時間前に起床 無理に起こさず、本人が起きる仕組みを考案
健康管理 服薬や通院の自立 カレンダー等で見える化し、確認を促す
余暇の過ごし方 趣味でストレス発散 オンとオフの切り替えを尊重する

柱3:外部の専門機関との連携

家族だけで抱え込まないことが、最も重要な柱です。現在、障害者就労を支える公的な仕組みは非常に充実しています。ハローワーク、地域障害者職業センター、就労移行支援事業所、就業・生活支援センターなど、役割の異なる機関が連携して一人を支える体制(チーム支援)が推奨されています。

ご家族の役割は、これらの専門家を信頼し、「チームの一員」として情報を共有することです。家での様子はご家族にしか分かりませんし、訓練中の様子は支援者にしか分かりません。それぞれの視点を持ち寄ることで、ご本人に最適なキャリアパスを描くことができます。

✅ 成功のコツ

相談先は一つに絞らず、複数の視点を持つ専門家とつながりましょう。特に就職後のアフターフォロー(定着支援)が手厚い機関を選ぶのが、長く働くための秘訣です。


就労移行支援事業所を賢く選ぶポイント

事業所の得意分野を見極める

就労移行支援事業所には、それぞれ特色があります。事務職のスキルアップに強いところ、精神障害の方のメンタルケアに長けているところ、ADHDなど発達障害の方のコミュニケーション支援が得意なところなど、千差万別です。まずは複数の事業所を見学し、ご本人の特性に合っているかを確認してください。

見学の際には、「就職実績」だけでなく「定着率(半年以上働き続けている人の割合)」を必ず質問しましょう。高い就職率を誇っていても、すぐに辞めてしまっている人が多い場合は注意が必要です。また、スタッフとご本人の相性、通いやすい場所にあるかどうかも、継続して通所する上で欠かせない要素です。

プログラムの内容も確認しましょう。単なるスキルトレーニングだけでなく、模擬面接や職場実習、さらにはグループワークを通じた対人関係のトレーニングが充実しているかどうかが、実践的な力をつける上で重要になります。

実習プログラムの有無と内容

机の上での勉強も大切ですが、実際の企業へ行って体験する「職場実習」は、就労への意識を劇的に変えるきっかけになります。事業所がどのような企業と提携しており、どのような実習を提供しているかを確認してください。実習を通じて、本人が「働ける」という自信を持つこともあれば、逆に「この職種は合わない」という気づきを得ることもあります。

どちらの気づきも非常に価値のあるものです。失敗を恐れず、様々な経験をさせてくれる事業所を選びましょう。また、実習後の振り返りをどのように行っているかも重要です。課題が見つかったときに、それを次の訓練にどう活かすかという具体的なプランを提示してくれる事業所は信頼できます。

定着支援の質を確認する

就職が決まった後のサポート、いわゆる「就労定着支援」がどれだけ充実しているかも、事業所選びの決定的なポイントです。就職後1ヶ月、3ヶ月、半年と、どの程度の頻度で面談が行われるのか、職場でのトラブルが発生した際にスタッフが企業の間に入ってくれるのかを確認しましょう。

離職の多くは、就職後1年以内に起こります。この期間に伴走してくれる支援者がいることは、本人にとっても企業にとっても、そしてご家族にとっても大きな安心材料になります。「就職したら終わり」ではなく、「就職してからが始まり」という姿勢を持つ事業所を選んでください。


よくある質問(FAQ)

Q1. 本人が「今のまますぐに働きたい」と言って、支援を受けるのを嫌がります。

A. 本人の意欲が高いのは素晴らしいことですが、焦りは禁物です。「今の実力を試すために、まずはハローワークのトライアル雇用や、就労移行支援の体験実習を受けてみない?」と、ステップを細かく区切って提案してみるのが良いでしょう。第三者の評価を直接聞くことで、本人も自分の現在地を納得しやすくなります。

Q2. 障害者雇用だと、お給料が低いイメージがあって不安です。

A. 確かに、短時間勤務からスタートする場合は収入が少なくなります。しかし、障害年金と組み合わせることで生活を安定させている方は多くいらっしゃいます。また、現在は最低賃金の遵守が徹底されており、能力に応じて昇給していく企業も増えています。目先の金額だけでなく、長く安定して働けることによるトータルの収入や、社会保険への加入といった福利厚生のメリットも考慮しましょう。

Q3. 就職活動中、家族はどうしても口出しをしてしまい、喧嘩になります。

A. ご家族の愛情ゆえの行動ですが、あえて「支援者に任せる」勇気を持ってください。親子関係だと甘えや反発が出てしまいますが、他人の専門家であれば素直に聞けることもあります。ご家族は「就労のコーチ」ではなく、「家で温かいご飯を用意して待っている応援団」に徹するのが、最もスムーズにいく秘訣です。

Q4. 障害者枠ではなく、一般枠でのクローズ(障害を隠して)就労はどうですか?

A. 不可能ではありませんが、大きなリスクを伴います。配慮が得られない環境で障害特性を隠して働き続けるのは、想像以上にエネルギーを消耗します。結果として体調を崩し、職歴に短期間の離職が重なってしまうケースが多く見られます。現在の「合理的配慮」の義務化を活かし、オープン(障害を伝えて)で働き、必要なサポートを受ける方が、長期的なキャリア形成には有利に働くことが多いです。


家族自身のメンタルケアを忘れずに

「家族だからこそ」のプレッシャーを逃がす

支援の主役はご本人ですが、その一番近くにいるご家族が倒れてしまっては、すべてが立ち行かなくなります。障害者の就労支援は、一朝一夕にはいきません。年単位の時間がかかることも珍しくありません。その間、期待と落胆を繰り返す中で、ご家族の心が疲弊してしまうのは当然のことです。

家族だけで悩みを抱え込まず、同じ境遇の家族が集まる「家族会」に参加したり、カウンセリングを受けたりすることも検討してください。ご自身の人生、趣味、仕事を大切にすることも、巡り巡ってお子様やご本人の自立を助けることになります。「あなたが元気でいてくれることが、本人の一番の安心材料である」ということを忘れないでください。

小さな成長を共に喜ぶ姿勢

就職という大きな目標ばかりを見ていると、日々の小さな成長を見落としがちです。「以前より早起きができるようになった」「自分から挨拶ができるようになった」「苦手な作業を最後までやり遂げた」といった、就職活動のプロセスで見せる一歩一歩を認めてあげてください。

家族に認められる経験が、本人の自己肯定感を育みます。自己肯定感が高い人は、仕事で壁にぶつかったときも「自分ならなんとか乗り越えられる」と踏ん張ることができます。結果を急がず、本人のペースを尊重しながら、共に歩む姿勢が、結果として最良の結果を引き寄せます。


まとめ

一般就労への道のりは、ご本人にとってもご家族にとっても、大きな挑戦です。しかし、適切な準備とサポートがあれば、決して不可能な道ではありません。大切なのは、家族がすべてを背負うのではなく、社会の仕組みを上手に使いこなしながら、本人の自立を促していくことです。

  • 「働きたい」意欲を尊重しつつ、まずは生活リズムと自己理解という土台を作る。
  • 家族だけで完結せず、就労移行支援事業所などの専門機関と連携し、チームで支える。
  • 就職はゴールではなく通過点。長く働き続けるための定着支援を重視する。

まずは、お近くのハローワークや障害者就業・生活支援センターに、ご家族だけで相談に行くことから始めてみてはいかがでしょうか。最初の一歩を踏み出すことで、新しい景色が見えてくるはずです。

菅原 聡

菅原 聡

すがわら さとし38
デスク📚 実務経験 12
🎯 就労支援🎯 進路支援

📜 保有資格:
職業指導員、キャリアコンサルタント、精神保健福祉士

就労移行支援事業所で10年以上、障害のある方の「働く」を支援してきました。一般就労への移行支援から就労継続支援まで、幅広い経験をもとに、「自分に合った働き方」を見つけるための情報をお届けします。

大学で社会福祉を学び、卒業後すぐに就労移行支援事業所に就職。当初は「障害があっても一般企業で働けるんだ」という驚きと感動の連続でした。これまで150名以上の方の就労支援に携わり、その8割が一般企業への就職を実現。ただし、「就職がゴール」ではなく、「長く働き続けられること」が本当のゴールだと考えています。印象的だったのは、精神障害のある方が、障害をオープンにして自分のペースで働ける職場を見つけ、「初めて仕事が楽しいと思えた」と言ってくださったこと。その笑顔が忘れられません。記事では、就労移行支援と就労継続支援の違い、企業選びのポイント、障害者雇用の現実など、実際の支援経験に基づいた実践的な情報をお伝えします。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

大学で社会福祉を学び、「障害があっても一般企業で働ける」という可能性に感動したことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

精神障害のある方が、自分のペースで働ける職場を見つけ、「初めて仕事が楽しいと思えた」と言ってくださったこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

「就職がゴール」ではなく、「長く働き続けられること」を大切に、実践的な情報を発信します。

🎨 趣味・特技

ランニング、ビジネス書を読むこと

🔍 最近気になっているテーマ

リモートワークと障害者雇用、週20時間未満の短時間雇用

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