介護手当・看護手当の違いと申請ポイント

介護手当・看護手当の違いと申請ポイント
ご家族に障害や病気があり、日常的に介護や看護が必要な場合、その負担は計り知れません。時間的、精神的な負担に加え、医療費や介護用品などの経済的な負担も重くのしかかります。「介護手当」や「看護手当」といった言葉を耳にしても、それが具体的に何を指し、自分の家族がどの制度の対象になるのか、混乱してしまう方も多いのではないでしょうか。実は、これらの名称は公的な制度として統一されているわけではなく、複数の制度や自治体独自の支援を総称しているケースが多くあります。
この記事では、障害のある方や重い病気の方を支えるご家族が利用できる、主要な公的支援制度を「介護手当」「看護手当」という視点から整理し、それぞれの制度の違い、対象者、そして申請の重要なポイントを詳しく解説します。この記事を読むことで、ご自身のご家庭が受けられる支援を明確にし、経済的な安心を得るための具体的な第一歩を踏み出すことができるでしょう。
混乱しやすい「介護手当」「看護手当」の正体
公的制度としての名称は存在しない?
実は、日本の国の制度において、単に「介護手当」や「看護手当」という名称で、すべての国民が利用できる統一された手当は存在しません。これらの言葉は、一般的に、家族が障害者や難病患者を在宅で介護・看護していることに対して支給される様々な公的・私的な支援の総称として使われていることが多いです。
公的な支援としては、主に以下の制度が「介護手当」や「看護手当」と誤認されやすい、あるいはその役割を果たしていると言えます。これらの制度は、それぞれ対象者や目的が全く異なるため、混同しないように注意が必要です。
- 特別児童扶養手当・障害児福祉手当(障害児の親への支援)
- 特別障害者手当(重度障害者本人への支援)
- 地方自治体独自の福祉手当(各自治体が定める名称の介護・福祉手当)
障害者本人に支給される「特別障害者手当」の役割
「介護手当」と呼ばれる支援の中で、常時特別な介護が必要な重度障害者本人に対して国から支給されるのが「特別障害者手当」です。この手当は、20歳以上の在宅の重度障害者を対象とし、日常生活における特別な介護費用を補填する目的で支給されます。
この手当は、直接介護者(家族)に支給されるわけではありませんが、手当を受給することで、介護用品の購入やホームヘルパーの利用、バリアフリー改修費など、介護に必要な費用に充てることができ、結果的にご家族の介護負担軽減に繋がります。支給には、著しい重度障害の認定と、本人および扶養義務者の所得制限があります。
地方自治体独自の「介護者手当」の可能性
「介護手当」や「看護手当」という名称が最も多く使われているのは、地方自治体(都道府県・市区町村)が独自に設けている福祉手当です。多くの自治体では、重度の障害者や難病患者を在宅で介護している家族に対し、その労をねぎらう目的で、独自の「介護者手当」を支給しています。
この自治体独自の制度は、名称も基準も支給額も地域によって大きく異なります。例えば、「在宅重度心身障害者介護手当」「家族介護慰労金」といった名称が用いられています。国の手当とは異なり、介護者に直接支給される点が特徴です。お住まいの自治体のホームページや福祉担当課に問い合わせることで、この独自の支援制度の有無を確認できます。
障害児の保護者が利用できる主要な支援
特別児童扶養手当:中度以上の障害児を養育する親へ
障害のあるお子さん(20歳未満)を養育しているご家族にとって、最も重要な支援の一つが「特別児童扶養手当」です。この手当は、中度(2級)または重度(1級)の障害を持つお子さんを在宅で介護・養育する保護者に対して支給されるもので、「障害児を介護するための手当」という役割を果たしています。
特別児童扶養手当は、障害児の健全な育成を支援し、保護者の経済的負担を軽減することを目的としています。支給を受けるには、お子さんの障害が国の定める基準を満たす必要があり、さらに保護者と扶養義務者全員に所得制限があります。支給額は障害の級によって異なりますが、比較的まとまった額が支給されます。
障害児福祉手当:最重度の障害児を養育する親へ
特別児童扶養手当の対象よりも、さらに重度の障害があり、常に特別の介護が必要な20歳未満のお子さんの保護者には、「障害児福祉手当」が支給されます。これもまた、実質的に「介護手当」としての性格を持つ手当です。
障害児福祉手当は、特別児童扶養手当と併給が可能ですが、障害基礎年金などの公的年金を受給している場合は支給停止となります。この手当の支給基準は非常に厳格であり、日常生活のほぼ全ての動作において介護を要する状態であることが求められます。申請の際は、専門の医師による診断書に基づき、常時の介護状況を詳細に証明することが重要です。
難病患者への支援と地方自治体の見舞金制度
障害者手帳の交付を受けていない難病の患者さんの場合、難病指定を受けることで、医療費助成(特定医療費助成制度)などの支援を受けられます。これに加え、一部の地方自治体では、難病患者やその家族に対しても、「難病患者見舞金」や「在宅療養支援手当」といった形で独自の経済支援を行っている場合があります。
これらの制度も、実質的な「看護手当」の役割を果たしており、長期間にわたる療養や在宅での看護によるご家族の負担を軽減する目的があります。難病の患者さんを抱えるご家族は、お住まいの自治体の福祉担当課や、難病相談支援センターに、利用可能な手当や見舞金制度について確認することをお勧めします。
申請前に知っておくべき所得制限と併給のルール
所得制限の適用対象と基準の違い
多くの公的な介護・看護関連手当(特別児童扶養手当、特別障害者手当、障害児福祉手当など)には、所得制限が設けられています。制度によって、所得制限の適用対象や基準額が大きく異なります。
| 制度名 | 所得制限の適用対象 | 制限の特徴 |
|---|---|---|
| 特別児童扶養手当 | 受給者(保護者)と扶養義務者(同居の親族など) | どちらか一方が超過すると支給停止 |
| 特別障害者手当 | 受給者(障害者本人)と扶養義務者 | どちらか一方が超過すると支給停止 |
| 障害児福祉手当 | 受給者(保護者)と扶養義務者 | 基準額は他の手当よりやや高めに設定 |
特に重要なのは、ご本人や保護者だけでなく、同居している配偶者や親族(扶養義務者)の所得も審査対象になるという点です。たとえ介護者が専業主婦(主夫)で所得がなくても、同居している配偶者や親の所得が高い場合、手当が支給停止になる可能性があります。
併給の可否:特別児童扶養手当と障害基礎年金
介護・看護に関する手当と、他の公的年金制度の関係は複雑です。例えば、特別児童扶養手当は、お子さんが障害基礎年金など公的年金を受け取れる場合は、原則として支給されません。お子さんが20歳になり障害基礎年金の受給権を得ると、特別児童扶養手当は終了します。
一方で、障害児福祉手当は、障害基礎年金を受給し始めると支給停止となります。このように、手当と年金はどちらか一方が優先される(併給調整が行われる)ケースが多いです。ご家庭の収入を長期的に考える上で、これらの併給ルールを正しく理解することが不可欠です。
⚠️ 注意
公的年金と手当のどちらが有利かは、ご家庭の状況によって異なります。20歳が近づいた段階で、年金事務所や市区町村の窓口で試算を行い、長期的な収入計画を立てましょう。
非課税のメリットと確定申告時の注意点
国の主な障害関連手当(特別障害者手当、特別児童扶養手当、障害児福祉手当など)は、いずれも非課税所得です。つまり、手当として受け取った金額に対して税金がかかることはありません。これは、ご家族の経済的な負担を軽減する上で大きなメリットです。
ただし、確定申告や年末調整を行う際、これらの手当を所得として申告する必要はありませんが、障害者本人や介護者が障害者控除の対象になるかどうかは別途確認が必要です。手当を受け取っている事実は、税制優遇とは別の話です。手帳の等級に応じて税金の控除を受けられるため、忘れずに手続きを行いましょう。
申請を成功させるための具体的なアクション
最初の一歩:どこに相談すべきか
介護・看護手当の申請は、まずお住まいの市区町村の福祉担当課(障害福祉課など)に相談することから始めます。これらの窓口は、国や自治体独自のすべての手当について、最も正確で最新の情報を持っている総合窓口です。
相談時には、以下の情報を整理して伝えましょう。
- 介護・看護が必要な方の年齢と障害の種類、程度(手帳の等級など)
- ご家族の構成と、同居している扶養義務者の有無
- 現在、日常的にどのような介護・看護が必要か(具体的な動作や頻度)
これにより、窓口の職員が、特別児童扶養手当、特別障害者手当、そして自治体独自の介護者手当など、利用可能なすべての制度を洗い出してくれます。
認定診断書の書き方と重要性
公的な介護・看護関連手当の認定は、多くの場合、医師による診断書に基づいて行われます。この診断書は、単なる病名だけでなく、日常生活における介護の必要性を正確に反映していることが極めて重要です。
申請の成功のコツは、介護者が作成した具体的な介護記録やメモを医師に提出することです。例えば、「夜間は2時間おきに体位交換が必要」「食事に1時間かかり、常に誤嚥に注意が必要」「情緒不安定で外出時には常時付き添いが必要」といった、具体的な介護負荷を伝えることで、診断書に「常時特別な介護が必要な状態」であることが明確に記載されやすくなります。
診断書は、手当ごとに専用の様式があるため、窓口で正しい様式を受け取ってから医師に依頼しましょう。
申請期限と遡及請求の可能性
手当の支給は、原則として申請書を提出した月の翌月分から開始されます。そのため、申請が遅れるとその分だけ受け取れるはずだった手当を逃してしまうことになります。
ただし、障害の状態が既に一定期間続いていた場合、一部の制度では遡及請求(さかのぼって請求すること)が認められるケースもありますが、原則は「申請主義」です。障害が確定したら、早めに診断書を作成し、速やかに申請手続きを行うことが鉄則です。
✅ 成功のコツ
診断書の作成に時間がかかっても、まずは「認定請求書」だけを先に提出し、申請日を確保しておきましょう。その後に診断書を提出する「補正」という手続きが認められている場合があります。
在宅介護を支えるその他の間接的な支援
居宅介護・重度訪問介護などサービスの活用
直接的な手当ではありませんが、在宅介護の負担を軽減する上で最も重要なのが、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの活用です。「介護手当」として現金を受け取る代わりに、専門家による介護サービスを格安で利用することができます。
- 居宅介護(ホームヘルプ):自宅での入浴、排泄、食事などの介護や、調理、洗濯などの生活援助を受けられます。
- 重度訪問介護:重度の肢体不自由や精神障害などで常に介護が必要な方に、長時間にわたる見守りや介護を提供します。
これらのサービスは、費用の大部分が公費で賄われ、利用者負担額には世帯所得に応じた月額上限が設定されています。手当の申請と並行して、相談支援事業所に相談し、サービス利用計画を作成してもらいましょう。
医療費助成と税制優遇措置の活用
介護や看護が長期にわたる場合、医療費や税制面からの支援も大きな助けになります。
- 重度心身障害者医療費助成制度:多くの自治体で実施されており、重度の障害を持つ方の医療費自己負担分を公費で助成する制度です。
- 障害者控除:納税者本人、配偶者、扶養親族に障害者がいる場合に所得から一定額が控除され、税金が安くなります。
- おむつ代の医療費控除:寝たきりでおむつを使用している場合、医師の証明があればおむつ代が医療費控除の対象となる場合があります。
これらの間接的な支援も、手当と同様に、ご家庭の経済的な安心を確保するために極めて重要です。手続きを忘れずに行いましょう。
家族介護者へのレスパイト(休息)支援
「看護手当」の精神的な側面を満たす重要な支援が、レスパイト(休息)支援です。ショートステイの利用やお住まいの自治体独自の事業を通じて、介護者が一時的に休息を取るためのサポートが提供されます。
手当によって得られた資金を、介護者がリフレッシュするための費用や、訪問介護サービスを増やすための費用に充てることも可能です。介護者が心身ともに健康でいることが、結果的にお子さんやご家族の安定した生活に繋がります。
よくある質問と相談窓口
手当受給中に施設入所したらどうなる?
特別障害者手当や障害児福祉手当など、多くの介護・看護関連手当は、在宅での介護・看護を支援することを目的としているため、施設入所中は支給停止となります。
「施設」とは、障害者総合支援法に基づく入所施設や、老人福祉法に基づく特別養護老人ホームなどを指します。入院についても、3ヶ月を超える継続入院は支給停止の対象となる場合があります。入所や長期入院が決まった際は、必ず速やかに窓口に届け出てください。
介護者自身の健康が心配な場合は?
介護者自身が、介護による疲労やストレスで体調を崩すことは少なくありません。介護者の健康は、ご家族全体の生活の質に直結します。もし介護者ご自身の健康に不安を感じた場合は、以下の窓口に相談してください。
- 地域包括支援センター(高齢者介護の場合)
- 相談支援事業所(障害児・者介護の場合)
- 保健所の精神保健福祉相談
- 自治体の介護者支援窓口
ご自身が支援を受けることは、決してわがままではありません。ご自身を守ることも、大切な介護の一つです。
次のアクションへの具体的な提案と相談窓口
介護手当や看護手当といった支援を確実に受けるために、今日からできるアクションを提案します。
- 自治体独自の制度の確認:まず、お住まいの市区町村の福祉担当課に電話し、「在宅で介護・看護が必要な家族がいますが、独自の介護者手当や見舞金制度はありますか?」と尋ねてみてください。
- 特別障害者手当の要件確認:障害者手帳の等級と、常時の介護状況を整理し、特別障害者手当の要件に該当するかどうかを窓口で確認しましょう。
- 介護記録の作成:日々の介護・看護の具体的な内容を記録する習慣をつけましょう。これは申請時の診断書作成や、サービス利用計画作成の際に非常に役立ちます。
手続きは手間がかかりますが、一歩ずつ進めることで、ご家族の生活に大きな安心をもたらします。不安なときは、専門の相談窓口を頼ってください。
まとめ
「介護手当」「看護手当」という名称の国の統一制度はありませんが、重度の障害者や難病患者を支えるご家族のための様々な公的支援があります。
- 「介護手当」の実体は、特別障害者手当(障害者本人へ)、特別児童扶養手当・障害児福祉手当(障害児の保護者へ)、そして地方自治体独自の介護者手当などに分けられます。
- 多くの手当には、受給者本人と扶養義務者双方に所得制限が適用されます。
- 申請を成功させる鍵は、常時の介護・看護の必要性を具体的に記した医師の診断書と、お住まいの市区町村の福祉担当課との連携です。
これらの手当や、居宅介護サービスなどの間接的な支援を積極的に活用し、ご家族の介護負担を軽減しながら、安心した生活を送るための基盤を築きましょう。

高橋 健一
(たかはし けんいち)50歳📜 保有資格:
社会福祉士
市役所の障害福祉課で20年間勤務し、制度の運用や窓口対応を担当してきました。「制度は難しい」と言われますが、知れば使える便利なツールです。行政の内側から見た制度のポイントを、分かりやすくお伝えします。
大学卒業後、地方自治体に入庁し、障害福祉課に配属されて20年。障害者手帳の交付、障害福祉サービスの支給決定、各種手当の申請受付など、幅広い業務を経験しました。行政職員として心がけていたのは、「制度を正確に伝えつつ、温かく対応する」こと。窓口に来られる方は不安を抱えています。制度の説明だけでなく、その方の状況に合わせた情報提供を大切にしてきました。退職後、民間の相談支援事業所に転職し、今度は「申請する側」の視点も理解できました。行政と民間、両方の経験を活かして、制度の仕組みだけでなく、「実際にどう使うか」まで伝えられるのが強みです。記事では、障害者総合支援法、障害者雇用促進法、各種手当など、制度の正確な情報を「難しい言葉を使わず」解説します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
公務員として地域に貢献したいと思い、障害福祉課に配属されたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
窓口対応で、制度を活用して生活が楽になったと感謝されたこと。行政と民間両方の視点を得られたこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
制度の正確な情報を「難しい言葉を使わず」伝えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
将棋、歴史小説
🔍 最近気になっているテーマ
マイナンバーと福祉制度の連携、自治体DXの進展





