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医療的ケアが必要な障害者の在宅支援制度

📖 約70✍️ 谷口 理恵
医療的ケアが必要な障害者の在宅支援制度
医療的ケアが必要な障害のある方への在宅支援は、家族の負担軽減に不可欠です。本記事では、支援の核となる「訪問看護(医療保険)」と「重度訪問介護(障害福祉)」の役割と、医療連携体制加算によるヘルパーの医療的ケア実施について解説します。特に医療的ケア児支援法に基づき、学校でのケア体制やレスパイト支援が強化されています。支援を円滑にするため、退院前から病院のMSWと地域の相談支援専門員が連携し、最適なサービス等利用計画を作成することが重要です。医療費助成や月額上限制度を最大限に活用し、多職種連携で質の高い在宅生活を目指すための具体的なアクションプランを提示します。

🏠 医療的ケア児・者のための在宅支援ガイド:制度とサービス活用術

「自宅で胃ろうの管理や痰の吸引が必要だけど、家族だけでは負担が大きすぎる」「退院後も安心できる生活を送るために、どんなサポートが利用できるのだろう?」

人工呼吸器の装着、経管栄養(胃ろう・鼻腔)、痰の吸引など、日常生活で医療的な処置が必要な方(医療的ケア児・者)の在宅生活を支えることは、ご家族にとって身体的・精神的に大きな負担を伴います。しかし、国や自治体は、自宅で安心して暮らすための多様な支援制度やサービスを用意しています。

この記事では、医療的ケアが必要な障害のある方が自宅で質の高い生活を送るために利用できる、主要な「在宅支援制度」の全体像と、具体的なサービス(訪問看護、重度訪問介護など)の活用方法について、全6000字以上の大ボリュームで徹底的に解説します。この記事を読んで、利用できる支援を整理し、家族の負担を軽減し、ご本人の生活の質を向上させるための具体的な一歩を踏み出しましょう。


🩺 医療的ケアを支える二つの柱:医療保険と障害福祉

医療的ケアの在宅支援は、主に「医療保険サービス」と「障害福祉サービス」の二つの制度によって提供されます。それぞれの役割と、提供できるケアの範囲を理解することが、支援計画を立てる上での基本となります。

医療保険サービス:訪問看護の役割と活用

医療的ケアの核となるのが、医師の指示に基づき看護師が自宅を訪問して行う「訪問看護」サービスです。

訪問看護で提供されるケアの範囲

訪問看護は、医療的処置全般に対応する専門性の高いサービスです。

  • 具体的なケア:痰の吸引、経管栄養(胃ろう・経鼻)、中心静脈栄養(IVH)の管理、人工呼吸器の管理、インスリン注射、導尿・排便管理、褥瘡(床ずれ)の処置、カテーテル交換、服薬管理など。
  • 対象者:医療保険が適用されるのは、医師が訪問看護の必要性を認め、「訪問看護指示書」を発行した方です。難病や重度の身体障害を持つ方が主な対象となります。
  • 特徴:訪問看護ステーションの看護師や理学療法士、作業療法士などが訪問し、病状の観察と悪化予防、そして家族への具体的なケア指導も行います。

訪問回数や時間は、病状や必要度に応じて決まりますが、医療保険の訪問看護は原則週3日までとされています。厚生労働大臣が定める特別な状態(重症度が高い、難病であるなど)に該当する場合は、例外的に回数制限が緩和され、毎日訪問することも可能です。

💡 ポイント

訪問看護の利用には、必ず主治医の「訪問看護指示書」が必要です。まずは、かかりつけ医や退院を調整している病院の医師に相談しましょう。

障害福祉サービス:重度訪問介護の拡大

医療的ケアが必要な方の生活を長時間にわたって支えるために、障害福祉サービスの一つである「重度訪問介護」の役割が拡大しています。

重度訪問介護と「医療連携体制加算」

重度訪問介護は、重度の肢体不自由または知的障害・精神障害があり、常に介護が必要な方に、長時間にわたる身体介護や家事援助を提供するサービスです。

  • 支援内容:食事介助、排泄介助、入浴介助、外出時の移動介助、見守りなど、日常生活全般のサポート
  • 医療的ケア:2012年の制度改正以降、特定の研修を受けた介護職員(ヘルパー)も、痰の吸引や経管栄養などの医療的ケア(特定行為)を実施できるようになりました。

ヘルパーが医療的ケアを行うには、「医療連携体制加算」を算定できる事業所であること、そして訪問看護師との連携体制が構築されていることが前提となります。これにより、医療と介護の切れ目ないサポートが可能となりました。


👪 医療的ケア児・者のための特別制度と対象範囲

医療的ケアが必要な方は、通常の障害福祉サービスに加え、特に手厚い支援を受けられる特別制度が設けられています。

障害児の特別支援:医療的ケア児支援法

2021年に施行された「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(医療的ケア児支援法)は、医療的ケア児の健やかな成長を社会全体で支援することを明確にしました。

  1. 支援の総合調整:都道府県や市町村に、医療的ケア児への支援を総合的に調整する「コーディネーター」の配置が求められています。
  2. 保育・教育の場での支援:保育所、幼稚園、学校などでの医療的ケアの実施体制が整備されます。特に学校では、看護師の配置や教職員による研修を通じて、登校中の医療的ケアを支援する体制が強化されています。
  3. 短期入所の確保:家族のレスパイト(休息)のための短期入所施設(ショートステイ)の確保が、自治体の責務として明記されました。

この法律に基づき、各自治体は医療的ケア児支援体制を強化しており、具体的な支援内容については、お住まいの地域の福祉窓口や保健センターに問い合わせる必要があります。

重度障害者のための居宅介護(強度行動障害支援など)

医療的ケアに加えて、強度行動障害などがあり、通常の介護サービスでは対応が困難な重度の障害者に対しては、より専門的で長時間の支援が提供されます。

制度名 対象者 特徴
重度訪問介護 重度の肢体不自由など、常時介護を要する方 原則として時間制限がなく、24時間体制の支援も可能。
行動援護 知的障害・精神障害により行動上の著しい困難がある方 外出時の危険を回避するための支援や、行動障害を軽減するための支援。
短期入所(医療型) 医療的ケアや重度の障害に対応可能な施設での短期入所 家族のレスパイト(休息)を目的とし、宿泊を伴うサービス。

これらのサービスを利用することで、ご家族は一時的に介護負担から解放され、自身の休息や社会生活を維持することができます。特に、医療的ケアが必要な方の介護は精神的負担が大きいため、レスパイトサービスの積極的な利用が推奨されます。

「以前は痰の吸引が必要で外出もできませんでしたが、重度訪問介護のヘルパーさんが吸引研修を受けてくれたおかげで、長時間安心して外出できるようになりました。家族の生活が一変しました。」

— 医療的ケア児の保護者の声


🏥 在宅医療を円滑に進めるための連携体制

医療的ケアの在宅支援を成功させるには、複数の機関や専門職が連携し、切れ目のないサポートを提供することが不可欠です。

多職種連携の重要性とキーパーソン

在宅での医療的ケアを支える主な専門職は、以下の通りです。

  • 主治医:ケアの指示、病状の管理、訪問看護指示書の発行。
  • 訪問看護師:専門的な医療処置の実施、病状の観察、家族への指導。
  • ヘルパー(介護職員):日常生活の介護、特定の医療的ケアの実施。
  • 相談支援専門員:障害福祉サービスの計画作成、多職種間の連絡調整、福祉サービスに関する相談。
  • 薬剤師:服薬指導、薬の管理。

この中で、特に重要となるのが「相談支援専門員」です。この専門員が、訪問看護、重度訪問介護、短期入所などの複数のサービスを組み合わせ、利用者に最適な「サービス等利用計画」を作成し、全体の連携を管理します。

退院前から始める「多職種連携会議」

入院中の医療的ケア児・者が自宅に戻る際、病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)主導で、退院前に「多職種連携会議」(退院前カンファレンス)が開かれます。

この会議には、病院スタッフに加え、自宅で関わることになる訪問看護ステーション、相談支援事業所、地域の保健師などが参加します。これにより、退院後のケア内容や支援体制が具体的に確認され、スムーズな在宅移行が可能となります。

✅ 成功のコツ

退院調整を始める際は、病院のMSWに「訪問看護と重度訪問介護を併用したい」という希望を明確に伝え、早めに地域の相談支援専門員を紹介してもらうことが、切れ目のない支援を受けるための最大のポイントです。

費用の負担軽減と公費負担制度

医療的ケアは高額になりがちですが、様々な公費負担制度が用意されています。

  • 重度心身障害者医療費助成制度:多くの自治体で実施されており、医療保険の自己負担分を助成し、実質的な窓口負担を軽減します。
  • 自立支援医療制度(更生医療):人工呼吸器や人工透析など、身体機能の維持・回復を目的とした特定の医療に適用され、自己負担が原則1割となります。
  • 小児慢性特定疾病医療支援:指定された慢性疾患を持つ18歳未満(継続で20歳未満)の医療費負担を軽減します。

福祉サービス(重度訪問介護など)についても、世帯の所得に応じた月額上限額が設定されており、低所得層は実質無料で利用できます。これらの制度を最大限に活用することが、経済的負担の軽減につながります。


📚 在宅生活を豊かにするその他の支援とサービス

医療的ケアは、生命維持だけでなく、その人らしい生活を送るための土台です。リハビリや社会参加を支援する制度も積極的に活用しましょう。

医療的ケア児のためのデイサービス

「重症心身障害児/者通所支援(多機能型含む)」は、医療的ケアや重度の障害に対応できる施設で行われるデイサービスです。

  • 提供されるサービス:日中の活動の場や、医療的ケアを含む日常的なケア、リハビリテーション、レクリエーションを提供します。
  • 利用目的:子どもや本人の社会参加、そして家族の日中の介護負担軽減(レスパイト)が主な目的です。

医療的ケアが必要な方を受け入れるデイサービスは限られているため、地域の事業所情報を福祉窓口で確認し、早めの見学と利用相談が必要です。

訪問看護ステーションによるリハビリテーション

訪問看護ステーションには、看護師だけでなく、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)が在籍している場合があります。

これらの専門職が自宅を訪問し、在宅でのリハビリテーション(訪問リハビリ)を提供します。これにより、通院の負担なく、生活の場に即した機能訓練を受けることができます。

専門職 在宅リハビリでの主な役割
PT(理学療法士) 寝返り、起き上がり、座位、歩行などの基本動作訓練
OT(作業療法士) 食事、着替えなどの応用動作訓練、生活環境の調整
ST(言語聴覚士) 言語訓練、摂食嚥下(飲み込み)機能の訓練

特に嚥下機能の訓練は、誤嚥性肺炎の予防にもつながり、医療的ケアが必要な方にとって非常に重要です。

レスパイト(短期入所)サービスの活用術

ご家族が心身の疲労を回復するための短期入所サービス(ショートステイ)は、医療的ケア児・者にとって不可欠な支援です。

医療的ケアに対応できる短期入所施設は数が限られているため、複数の施設を登録し、計画的に利用することが重要です。また、連続利用日数が制限されている場合が多いため、相談支援専門員と年間計画を立てて利用しましょう。


❓ よくある質問(FAQ):在宅支援のギモン解消

医療的ケアの在宅支援に関して、保護者や支援者からよく寄せられる質問にお答えします。

Q1. 訪問看護と重度訪問介護は、どのように使い分ければいいですか?

A. 提供するケアの「専門性」と「時間」で使い分けます。

  • 訪問看護:医師の指示に基づく専門的な医療処置(病状観察、薬の管理、カテーテル交換など)と、体調急変時の対応が主な役割です。週数回、短時間の訪問が一般的です。
  • 重度訪問介護:長時間の日常生活介護(排泄、移動、食事介助、見守り)が主な役割です。研修を受けたヘルパーは、痰の吸引や経管栄養などの「特定行為」も行いますが、それはあくまで生活サポートの一環です。

理想は、看護師による医療管理と、ヘルパーによる生活介護を併用することです。

Q2. 医療的ケアが必要な子どもの学校への付き添いは支援されますか?

A. 医療的ケア児支援法に基づき、学校は医療的ケアを実施するための体制を整備する責務があります。

具体的には、学校に配置された看護師がケアを行うか、または研修を受けた教職員がケアを行うことが原則です。保護者による付き添いは、学校の体制が整うまでの経過措置とされることが多いです。学校や教育委員会と、どのようなケア体制がとられるか、よく話し合うことが大切です。

Q3. 家族も介護者として給料をもらうことはできますか?

A. 原則として、家族への報酬は発生しません。しかし、重度訪問介護のサービスを利用する際、やむを得ない場合に限り、例外的な措置が取られることがあります。

特に、介護人材が極度に不足している地域や、特定の重度な医療的ケア(超重症児など)に対応できる外部ヘルパーが見つからない場合に、家族がヘルパーとして研修を受け、例外的に重度訪問介護のサービス提供者となることが認められるケースがあります。これは非常に稀なケースであり、事前に自治体との綿密な相談が必要です。


🤝 相談窓口と今後のアクションプラン

医療的ケアの在宅支援は、複雑な制度と複数の専門職が関わるため、「誰に相談するか」が成功を大きく左右します。

在宅支援に関する主な相談窓口

必要なサービスを適切に受けるために、以下の窓口に相談しましょう。

窓口 相談内容
相談支援専門員(地域の相談支援事業所) 福祉サービスの利用計画作成、多職種連携の調整、福祉制度全般。
市区町村役場 障害福祉担当課 福祉サービスの申請、重度医療費助成制度、独自の支援策。
保健センター(保健師) 医療的ケア児支援法に基づくコーディネート、地域の医療資源情報、育児相談。
入院中の病院の医療ソーシャルワーカー(MSW) 退院調整、訪問看護指示書に関する相談、地域の訪問看護ステーションの紹介。

特に医療的ケア児の場合、地域の保健師は医療と福祉、教育の橋渡しをしてくれる重要な存在です。

在宅支援を確実にするためのアクションプラン

退院後の生活の質を高めるために、以下のステップをすぐに実行に移しましょう。

  1. 相談支援専門員の選定:お住まいの地域で、医療的ケアに実績のある相談支援事業所を選び、早急に契約を結びましょう。
  2. ニーズの洗い出し:家族が最も負担に感じているケア(夜間の吸引、入浴介助など)を明確にし、重度訪問介護の利用時間を具体的に計算しましょう。
  3. レスパイトの年間計画:短期入所(ショートステイ)の利用頻度や時期を計画し、早めに施設への予約・登録を済ませ、家族が休息をとる時間を確保しましょう。
  4. 多職種連携の主導:訪問看護師やヘルパーに対し、ご本人の「普段の様子」や「心地よいと感じるケア」を積極的に伝え、ご本人主体のケアを共同で作り上げましょう。

医療的ケアが必要な方の在宅生活は、専門職のサポートとご家族の愛によって成り立っています。一人で抱え込まず、利用できる制度を最大限に活用し、笑顔あふれる毎日を送ってください。


まとめ

  • 医療的ケアの在宅支援は、「訪問看護(医療保険)」「重度訪問介護(障害福祉)」の二つの制度を併用することが基本です。
  • 訪問看護は専門的な医療処置を、重度訪問介護は長時間の生活介護と特定の医療的ケアを提供します。
  • 2021年施行の医療的ケア児支援法に基づき、保育・教育現場での支援や、レスパイトのための短期入所確保が強化されています。
  • 在宅支援を円滑に進めるためには、退院前から病院のMSWと地域の相談支援専門員が連携し、切れ目のない支援計画を作成することが極めて重要です。
  • 費用負担は、重度心身障害者医療費助成や、福祉サービスの月額負担上限額制度によって大きく軽減されます。

谷口 理恵

谷口 理恵

たにぐち りえ45
副編集長📚 実務経験 20
🎯 生活サポート🎯 地域情報

📜 保有資格:
介護福祉士、ケアマネージャー、サービス管理責任者

介護福祉士として15年間現場で働き、現在はグループホームの管理者。「地域で自分らしく暮らす」を支えるために、住まい・生活・地域資源に関する情報発信を担当しています。実際の支援現場で感じた「これ知りたかった!」という情報をお届けします。

介護福祉士として障害者施設で10年、その後ケアマネージャーの資格を取得し、相談支援専門員として5年勤務。現在はグループホーム(定員10名)の管理者として、利用者の方々の日々の生活を支えています。この仕事を選んだきっかけは、大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会ったこと。「普通」の定義は人それぞれで、大切なのは本人が望む生活を実現することだと気づかされました。特に力を入れているのは、地域との繋がりづくり。近所のスーパーや美容院、カフェなど、日常的に利用できる場所を増やすことで、「施設の中だけ」ではない豊かな生活を支援しています。記事では、グループホームでの実際の生活の様子や、地域の障害福祉サービス事業所の選び方など、現場の生の声をお伝えしていきます。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会い、「普通」の定義は人それぞれだと気づいたことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

近所のスーパーや美容院など、日常的に利用できる場所を増やすことで、利用者の生活が豊かになったこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

現場の生の声を大切に、「これ知りたかった!」という情報を届けることを心がけています。

🎨 趣味・特技

料理、ガーデニング

🔍 最近気になっているテーマ

一人暮らし支援の新しい形、地域住民との共生

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