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介助者が知っておくべき医療的サポートの基礎知識

📖 約61✍️ 高橋 健一
介助者が知っておくべき医療的サポートの基礎知識
介助者にとって、医療的サポートの知識は利用者さんの安全とQOL向上に不可欠です。この記事では、法制度に基づき研修修了者が実施できる「特定行為」(喀痰吸引、経管栄養)の範囲を解説し、非医療行為との境界線を明確にします。服薬介助では、正確な5Rの確認と、精神科薬などの副作用(錐体外路症状など)の注意深い観察が求められます。体調変化の早期発見のためには、平常時のバイタルサインを把握し、言葉で訴えられない方の行動や表情の「いつもと違う」サインを見逃さない観察力が重要です。緊急時には迅速な応援要請と正確な情報伝達が不可欠であり、専門家との連携や研修受講を通じてスキルアップを図りましょう。

💉 介助者のための医療的サポート基礎知識:安全と安心を支えるために

「痰の吸引は医療行為だと聞くけれど、どこまで介助者が関われるのだろう?」「胃ろうの管理や急な体調変化に、自信を持って対応できるだろうか?」

障害のある方の在宅生活や施設生活を支える上で、介助者(ホームヘルパー、施設職員、ご家族など)の役割は、単なる生活援助や身体介護に留まりません。特に医療的ケアが必要な方に対しては、日常の体調管理から緊急時の対応に至るまで、医療的な知識と連携が不可欠です。しかし、医療行為と非医療行為の境界線や、必要な知識の範囲が広いため、不安を感じる介助者の方も少なくありません。

この記事では、介助者が知っておくべき医療的サポートの基礎知識として、「特定行為」に関する法制度の理解から、安全な服薬管理、体調変化の早期発見、そして救急対応の準備までを徹底的に解説します。これらの知識を身につけ、利用者さんの安全と安心を守るための具体的なスキルと連携体制を確立しましょう。


🩺 1. 医療行為と介護行為の境界線:特定行為の理解

介助者が医療的ケアに携わる上で、最も重要なのが「医療行為」と「介護行為」の区別、そして法改正によって定められた「特定行為」の範囲を理解することです。

「特定行為」とは何か?法制度の基本

原則として、医療行為は医師または看護師にしか許されていません。しかし、2012年の「社会福祉士及び介護福祉士法」の改正により、一定の研修を受けた介護職員が、特定の条件下で医療的ケアを実施できるようになりました。これが「特定行為」です。

  • 対象となる特定行為:
    1. 喀痰吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)
    2. 経管栄養(胃ろう、腸ろう、経鼻)
  • 実施の条件:介護職員が特定行為を実施するには、以下の全てを満たす必要があります。
    • 都道府県が指定した「喀痰吸引等研修」を修了していること。
    • 医師または看護師による指導・評価のもとで行うこと。
    • 利用者ごとに作成された「医療的ケアに係る計画書」に基づいていること。

介助者が特定行為を行う場合は、事業所全体で医療機関との連携体制(医療連携体制加算)が構築され、安全管理が徹底されていることが前提です。

特定行為に該当しない「日常的な医療的サポート」

特定行為研修を受けていない介助者でも、医療行為に該当しない日常的なケアは行うことができます。

非医療行為(介助者実施可能) 医療行為(医師・看護師または特定行為研修修了者のみ)
水銀体温計や電子体温計による体温測定 直腸・鼓膜・皮膚温以外の部位での体温測定(体調変化の判断が伴う場合)
自己導尿の介助(用具の準備、片付け) 導尿カテーテルの挿入・交換
湿布の貼付、市販の点眼薬の使用 褥瘡(床ずれ)の処置(悪化している場合)、処方薬の点眼
爪切り(爪の周囲に炎症がない場合) 糖尿病など疾患に伴う爪の処置

介助者が日常的なサポートを行う場合も、利用者さんの体の状態を常に観察し、異常があればすぐに看護師や管理者に報告する責任があります。


💊 2. 安全な服薬管理と副作用の観察

多くの利用者さんは、複数の薬を服用しています。介助者には、薬の正確な管理と、副作用の兆候を見逃さない観察眼が求められます。

服薬介助の基本ルール

介助者が行う服薬介助の役割は、利用者が医師の指示通りに薬を服用できるよう支援することです。

  1. 五つの確認(5R):
    • Right Patient(正しい利用者): 服用者が間違っていないか。
    • Right Drug(正しい薬): 処方された薬の種類が間違っていないか。
    • Right Dose(正しい量): 処方量(錠数、ml数)が間違っていないか。
    • Right Time(正しい時間): 食前、食後、就寝前など、服用時間が間違っていないか。
    • Right Route(正しい経路): 経口、経管、塗布など、投与方法が間違っていないか。
  2. 一包化の徹底:薬の飲み間違いを防ぐため、薬局で一回分ずつ一包化してもらうことが基本です。
  3. 内服の記録:いつ、何を、何錠服用したかを、必ず記録に残します。

🚨 注意点

介助者は、自己判断で薬を中止したり、量を増減したり、他の人に譲ったりしてはいけません。飲み忘れや拒否があった場合は、必ず管理責任者や看護師に報告し、その指示に従います。

特に注意すべき薬の副作用と観察ポイント

精神科の薬や抗てんかん薬など、特定の薬には重篤な副作用や特有の症状が現れることがあります。

  • 精神科薬(抗精神病薬など):
    • 錐体外路症状(EPS):ふるえ、動きの鈍さ(アカシジア)、口周りの異常な動き(ジスキネジア)。
    • 鎮静・傾眠:日中の過度な眠気やふらつき。転倒リスクを高めます。
  • 抗てんかん薬:
    • 皮膚の発疹、肝機能の異常(黄疸)、ふらつき、酩酊感
  • 利尿薬・降圧薬:
    • 脱水症状(口腔内の乾燥、尿量の減少)、急激な血圧低下によるめまいや立ちくらみ。

これらの異常に気づいたら、服用を続けるかどうかを含め、速やかに看護師や主治医に報告し、指示を仰ぐ必要があります。


⚠️ 3. 体調変化の早期発見と報告の徹底

障害のある方、特に言語での訴えが難しい方の体調変化は、些細なサインを見逃さない介助者の日々の観察によってのみ発見できます。

バイタルサインの測定と平常値の把握

バイタルサイン(生命徴候)の測定は、体調変化を客観的に把握する基本です。

  • 体温:微熱が続く、あるいは平熱より低いなど、普段の体温からの変化に注目。
  • 脈拍:速い、遅い、不規則(不整)ではないか。
  • 呼吸:速い、浅い、努力性呼吸(肩で息をする)、変な音がする(ゼーゼー、ヒューヒュー)ではないか。
  • 血圧:服薬している方は、高すぎるだけでなく、低すぎる(収縮期100mmHg以下など)場合も注意が必要です。

介助者は、利用者さんの「平常時のバイタルサイン」を把握しておくことが、異常を判断する上で最も重要です。

訴えの難しい方の異常サイン

知的障害や自閉スペクトラム症など、体調不良を言葉で伝えにくい方の場合、行動や表情の変化が重要なサインとなります。

  • 行動の変化:急に食欲がなくなる、睡眠時間が極端に増える・減る、落ち着きがなくなる、自傷行為が増える、特定の部分を触る・たたく(痛みの訴えの代替)。
  • 表情の変化:顔色が悪い、口唇の色が紫(チアノーゼ)、発汗が多い、苦痛に歪む。
  • 排泄の変化:尿量が少ない(脱水)、便の色や回数が変わる(下痢、便秘)。
  • その他:普段はない発熱、咳、嘔吐など。

介助者は、これらの「いつもと違う」サインを看過せず、すぐに担当看護師や管理責任者に報告し、受診の必要性を判断してもらいます。


🚑 4. 緊急時の対応と医療連携

利用者さんの体調が急変した場合、介助者が迅速かつ冷静に対応できるかどうかが、命を左右します。

急変時の初期対応と観察

利用者さんの意識レベルが低下した、激しい嘔吐や呼吸困難が見られるなど、体調が急変した場合の初期対応は以下の通りです。

  1. 安全の確保:まず利用者さんの安全を確保し、周囲の危険物を取り除く。
  2. 状況の把握:意識、呼吸、脈拍を確認し、急変の状況(いつから、何をしていたか、どのような症状か)を冷静に観察・記録する。
  3. 応援の要請:すぐに看護師や管理責任者に連絡し、指示を仰ぐ。
  4. 救急車手配の判断:看護師や管理責任者の指示に従い、救急車(119番)を手配する。

🚨 救急車手配時の注意点

救急隊員には、利用者さんの氏名、年齢、障害名、常用薬、急変の具体的な状況を簡潔かつ正確に伝えます。また、かかりつけの医療機関名や主治医の情報もすぐに伝えられるように準備しておきましょう。

医療連携体制の構築

安全な介助を行うためには、普段からの医療機関との連携が不可欠です。

  • 情報共有:利用者さんの病状や常用薬、生活上の配慮事項などを記載した「利用者情報シート」を、訪問看護師や主治医と共有する。
  • 主治医との連携:年に一度の健康診断の結果や、体調の変化、服薬の悩みなどを、主治医に報告する機会を設ける(付き添い時や定期的な情報提供)。
  • 研修:事業所や施設内で、緊急時の対応訓練や、特定のケア(例:てんかん発作への対応)の研修を定期的に受ける。

介助者は、医療的な判断を自ら行うことはできませんが、正確な観察と迅速な報告・連携によって、質の高い医療的サポートを間接的に提供することができます。


🪥 5. 日常生活に潜む医療的サポート:口腔ケアと排泄管理

日常的なケアの中にも、健康維持に直結する重要な医療的サポートの要素が潜んでいます。

誤嚥性肺炎を予防する口腔ケア

誤嚥性肺炎は、重度の障害のある方の死亡原因の上位を占めます。日常の口腔ケアは、この肺炎を予防するための重要な医療的サポートです。

  • 歯磨き・義歯ケア:食後の丁寧な歯磨きと、義歯(入れ歯)の洗浄を徹底し、口腔内の細菌を減らす。
  • 舌苔の除去:舌の汚れ(舌苔)を専用ブラシなどで除去する。
  • 嚥下訓練:食事中や食後の姿勢調整、口腔内のマッサージなど、言語聴覚士(ST)の指導に基づいた嚥下訓練を取り入れる。
  • 口腔内の観察:口内の乾燥(ドライマウス)、歯肉の腫れ、口臭など、口腔内の異常を日常的に観察し、歯科医や看護師に報告する。

特に、経管栄養の方や寝たきりの方でも、口腔内の保湿と清潔保持は欠かせません。

排泄管理と異常の察知

排泄物は、体内の状態を映す鏡です。介助者は、排泄管理を通じて健康状態を把握します。

  • 便秘の予防:排便日、量、性状(硬さ)を記録し、3日以上排便がない場合や腹部膨満がある場合は、すぐに報告し、下剤の投与や浣腸の必要性を相談する。
  • 尿量の観察:尿量が著しく少ない場合は、脱水や腎機能低下のサインとなるため注意が必要です。
  • ストーマ(人工肛門)のケア:ストーマ周囲の皮膚の炎症、ストーマからの出血がないかを観察し、清潔に保つ。

介助者ができるのは、あくまで清潔の保持と記録・報告までです。医療的な処置(浣腸、摘便など)が必要な場合は、必ず看護師や医師の指示と処置が必要です。


🤝 6. 介助者が孤立しないための相談窓口

医療的サポートの知識や技術は広範であり、介助者一人で全てを抱え込む必要はありません。専門家の力を借り、安全なケアを実現しましょう。

医療的な疑問に関する主な相談窓口

介助者が医療的な疑問や不安を感じた際の相談先は以下の通りです。

窓口 主な相談内容
訪問看護ステーションの看護師 特定行為の指導、急変時の対応手順、服薬の疑問、褥瘡や口腔内のケア方法。
かかりつけ医・主治医 体調変化の判断、受診の必要性、服薬の副作用。
事業所・施設の管理者・サービス提供責任者 医療連携体制の確認、特定行為に関する事業所内のルール。
地域の保健センター(保健師) 地域医療資源の情報提供、在宅ケアに関する一般的な相談。

最も身近な相談相手は、訪問看護師です。日々のケアで感じた小さな疑問でも、躊躇なく相談し、知識と技術を更新していきましょう。

医療的サポートのスキルアップのためのアクションプラン

介助者としてのスキルを高め、安心感を持って支援にあたるために、以下のステップを実行しましょう。

  1. 研修の受講:喀痰吸引や経管栄養など、特定行為研修の受講を検討し、専門的なスキルを身につける。
  2. 個人別情報の整理:利用者さんごとに、平常時のバイタルサイン、常用薬リスト、緊急連絡先、かかりつけ医をまとめた緊急時情報シートを作成し、いつでも参照できるようにする。
  3. 報告・記録の徹底:服薬、排泄、バイタルサイン、行動の変化を正確に記録し、担当の看護師や管理者に日常的に報告する習慣をつける。
  4. 医療連携会議への参加:医師、看護師、支援専門員などが集まる多職種連携会議に積極的に参加し、医療的な視点から利用者さんの状態を理解する機会を持つ。

介助者が医療的サポートの知識を持つことは、利用者さんの安全とQOLを直接高めることにつながります。知識と技術を磨き、質の高いケアを提供していきましょう。


まとめ

  • 一定の研修を受けた介助者は、医師や看護師の指導のもと、「特定行為」(喀痰吸引、経管栄養)を実施可能だが、非医療行為との境界線を理解することが重要。
  • 服薬介助では、「5R」(正しい利用者、薬、量、時間、経路)を確認し、特に精神科薬など副作用の兆候(錐体外路症状など)を注意深く観察し、報告する。
  • 体調変化の早期発見には、「平常時のバイタルサイン」と、言語での訴えが難しい場合の行動・表情の変化を見逃さない観察力が求められる。
  • 急変時には、安全確保、状況把握、応援要請(看護師・管理者)、そして正確な情報伝達(常用薬、障害名)を迅速に行う。
  • 日常生活では、誤嚥性肺炎予防のための口腔ケアと、便秘・脱水などのサインを見つける排泄管理が、重要な医療的サポートとなる。

高橋 健一

高橋 健一

たかはし けんいち50
担当📚 実務経験 25
🎯 制度・法律🎯 医療・福祉制度

📜 保有資格:
社会福祉士

市役所の障害福祉課で20年間勤務し、制度の運用や窓口対応を担当してきました。「制度は難しい」と言われますが、知れば使える便利なツールです。行政の内側から見た制度のポイントを、分かりやすくお伝えします。

大学卒業後、地方自治体に入庁し、障害福祉課に配属されて20年。障害者手帳の交付、障害福祉サービスの支給決定、各種手当の申請受付など、幅広い業務を経験しました。行政職員として心がけていたのは、「制度を正確に伝えつつ、温かく対応する」こと。窓口に来られる方は不安を抱えています。制度の説明だけでなく、その方の状況に合わせた情報提供を大切にしてきました。退職後、民間の相談支援事業所に転職し、今度は「申請する側」の視点も理解できました。行政と民間、両方の経験を活かして、制度の仕組みだけでなく、「実際にどう使うか」まで伝えられるのが強みです。記事では、障害者総合支援法、障害者雇用促進法、各種手当など、制度の正確な情報を「難しい言葉を使わず」解説します。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

公務員として地域に貢献したいと思い、障害福祉課に配属されたことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

窓口対応で、制度を活用して生活が楽になったと感謝されたこと。行政と民間両方の視点を得られたこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

制度の正確な情報を「難しい言葉を使わず」伝えることを大切にしています。

🎨 趣味・特技

将棋、歴史小説

🔍 最近気になっているテーマ

マイナンバーと福祉制度の連携、自治体DXの進展

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