精神障害で障害年金を申請するポイントと注意点

精神障害で障害年金を申請するポイントと注意点
精神障害の障害年金申請、準備と対策が鍵
うつ病、統合失調症、発達障害などの精神の病気や障害によって、日常生活や仕事に大きな支障が出ているにもかかわらず、「自分の病気で年金がもらえるのだろうか」と不安に感じていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。
精神障害による障害年金の申請は、身体の障害に比べて「目に見えない症状」をどう証明するかが難しく、適切な準備と対策が審査の結果を大きく左右します。
このページでは、精神障害を持つ方が障害年金をスムーズに受給するために知っておくべき、重要なポイントと申請上の注意点を、具体的なステップに分けて詳しく解説します。経済的な基盤を固め、安心して療養や生活を送るための一歩を踏み出しましょう。
精神障害における障害年金の基本要件
「初診日」の特定と年金の種類
障害年金は、病気や怪我で初めて医師の診察を受けた日、すなわち「初診日」が非常に重要になります。精神障害の場合、症状の再発や転院が多く、この初診日の特定が難しくなるケースが頻繁に見られます。
初診日が特定できたら、その時点で加入していた年金制度によって、請求できる年金の種類が決まります。
- 初診日が国民年金加入期間中、または20歳前の場合は障害基礎年金
- 初診日が厚生年金加入期間中の場合は障害厚生年金
特に、精神疾患の場合、最初に「風邪」や「不眠」などで内科や別の病院にかかっている場合があり、その日が初診日となる可能性があるため、過去の受診履歴を徹底的に調べる必要があります。
保険料納付要件の確認
障害年金を受給するためには、原則として「保険料納付要件」を満たしている必要があります。これは、初診日の前日において、一定期間の年金保険料を納めている必要があるという要件です。
具体的には、初診日の前々月までの公的年金の加入期間のうち、3分の2以上の期間について保険料を納付または免除されていることが必要です。ただし、特例として、初診日において65歳未満であり、初診日の前々月までの1年間に保険料の未納がない場合も要件を満たします。
この要件は年金事務所で確認できます。初診日の特定ができたら、すぐに年金事務所に問い合わせて納付要件を満たしているか確認しましょう。
💡 ポイント
20歳前の病気や障害が原因で初めて病院にかかった場合(20歳前傷病)は、保険料納付要件は問われません。ただし、所得制限があります。
「障害認定日」の定義
障害認定日とは、障害の程度の審査を行う基準となる日で、初診日から1年6ヶ月を経過した日、またはその期間内に症状が固定した日を指します。この障害認定日の状態で、障害等級(1級・2級・3級)に該当するかどうかを審査されます。
障害認定日を過ぎてから申請することを「事後重症による請求」と呼びます。精神障害は病状が変化しやすいため、障害認定日時点の状態と、請求日時点の状態を両方審査されることも多く、それぞれの時期の診断書が必要になる場合があります。
審査の鍵!診断書と申立書のポイント
医師に依頼する「診断書」の重要性
精神障害の障害年金審査において、最も重要な書類は医師が作成する「障害年金用診断書」です。審査官は、診断書に記載されている「日常生活能力の判定」と「日常生活能力の程度」の項目を特に重視します。
精神障害の診断書は、精神科医が作成しますが、医師によっては障害年金の審査基準を熟知していないことがあります。医学的な診断名と、年金制度上の障害等級の判定基準は必ずしも一致しないことに注意が必要です。
日常生活能力の判定・程度の記載内容
診断書には、「適切な食事」「身辺の清潔保持」「金銭管理と買い物」「通院と服薬」など、7つの項目について、どの程度介助が必要か(自発的にできるか)が記載されます。
申請者本人は「頑張ればできる」と思いがちですが、「援助があればできる」「援助が必要なことが多い」といった、現在の実態を正確に反映してもらうことが重要です。診断書を作成してもらう前に、ご自身やご家族が感じる日常生活の困難さを、具体的に医師に伝えておくことが極めて重要です。
「診断書には、ただ『うつ病』と書かれるだけでなく、例えば『入浴は週に1回、家族の声かけが必要』『金銭管理は配偶者が行っている』など、具体的な生活上の困難さが書かれている必要があります。抽象的な表現では審査に通りにくい傾向があります。」
— 障害年金専門の社会保険労務士
申請者が作成する「病歴・就労状況等申立書」
病歴・就労状況等申立書(以下、申立書)は、申請者自身が作成する、病状の発症から現在に至るまでの経緯、日常生活の状況、就労の状況などを時系列で説明する最も重要な補足資料です。
この申立書は、診断書の内容を補完し、審査官に申請者の実態を立体的に理解させるための唯一の書類です。診断書と申立書の内容に食い違いがあると、審査官に不信感を与え、審査が不利になる可能性があります。
申立書作成で意識すべきポイント
- 時系列の明確化: 発病、初診、転院、入院、就職・離職など、重要な出来事を日付とともに記載し、病状の悪化・寛解の波を具体的に記述します。
- 日常生活の具体例: 診断書の7項目に対応させ、「朝起きられない」「食事の準備ができない」「部屋の掃除ができない」といった、具体的なエピソードを盛り込みます。
- 第三者の視点: 同居家族や支援者から見た申請者の状況(例えば、家族の介助が必要な点)も加えると、説得力が増します。
- 就労の困難さ: 短期間の就労や、就労継続のために特別な配慮を受けている場合は、その状況を具体的に説明します。
✅ 成功のコツ
申立書を作成する際は、診断書のコピーを取り寄せ、その内容と矛盾がないかを入念にチェックしながら記述を進めましょう。診断書の内容を裏付け、深掘りする内容にすることが成功の鍵です。
精神障害特有の注意点と対策
「就労」と「障害の程度」の判断基準
精神障害による障害年金審査で最も誤解されやすいのが、「働いていると年金はもらえない」という認識です。確かに、フルタイムで一般雇用で働いている場合は受給が難しいことが多いですが、精神障害の特性上、就労していても年金が認められるケースは存在します。
年金審査では、単に就労の有無だけでなく、就労のために「どれだけ特別な配慮を受けているか」、あるいは「どれだけ短い時間しか働けないか」が重視されます。
就労している場合の具体的な対応策
就労している場合は、以下の点を申立書や診断書に反映させることが重要です。
- 勤務時間が短縮されている、または短時間のアルバイトである。
- 仕事内容が制限され、単純作業やルーティンワークしか行えない。
- 上司や同僚、障害者職業生活相談員などから、頻繁な声かけやサポートを受けている。
- 出勤自体に大きな苦痛を伴い、欠勤や遅刻が多い。
これらの状況を雇用主の証明書や、具体的なエピソードで補強することで、「形式的には働いているが、障害の程度は重い」ということを審査官に伝えることができます。
発達障害・知的障害の申請における留意点
発達障害(ADHD、ASDなど)や知的障害(精神遅滞)による障害年金の申請では、初診日や納付要件の扱いが、他の精神疾患と異なる点があります。
知的障害の場合、障害認定日は20歳の誕生日の前日となります。これは、知的障害は生まれつき、または幼少期から存在すると考えられるためです。発達障害も、成人後に初めて診断されたとしても、その「初診日」は幼少期の相談や通院に遡る可能性があるため、母子手帳や学校の記録などを徹底的に確認する必要があります。
⚠️ 注意
発達障害の申請で、初診日を特定できず、成人後の病院を初診日としてしまうと、納付要件を満たせず不支給となるリスクがあります。初診日の特定には特に慎重になりましょう。
症状の軽重と病名の記載
精神障害は症状の波が激しく、「調子の良い日」と「悪い日」の差が大きいことが特徴です。申立書では、調子の悪い時の状態を正直に、詳しく記述することが大切です。審査官は、平均的な状態ではなく、最も支障が出ている状態を見て判断する必要があるからです。
また、診断名(うつ病、双極性障害など)自体が審査結果を左右するわけではありませんが、病名と症状が一致しているかどうかの確認は重要です。複数の病名がある場合は、主たる病名を軸に申立書を作成し、他の症状が日常生活に与える影響も具体的に記述しましょう。
申請手続きで戸惑うケースと解決策
初診日証明が取れないときの対応
精神障害の特性上、病院を転々としたり、古い病院が廃院になってしまったりして、最初の病院(初診の病院)の証明書が取れないというケースは非常に多く発生します。
初診日の証明が難しい場合でも、諦める必要はありません。年金制度では、以下のような「参考資料」で初診日を推定できる場合があります。
- 当時の診療録(カルテ)以外の診断書や証明書
- お薬手帳や領収書
- 健康保険の給付記録(レセプトの記録など)
- 第三者の証明(当時の知人、家族、民生委員などの証言書)
これらの参考資料は、単体では証明力に乏しいこともありますが、複数組み合わせることで、初診日として認められる可能性が高まります。この作業は非常に手間がかかるため、専門家である社会保険労務士(社労士)に依頼することをお勧めします。
診断書を書いてくれない医師への対応
中には、「症状が落ち着いている」「年金をもらう状態ではない」などの理由で、障害年金用の診断書作成を拒否する医師もいます。医師は診断書作成の義務を負いますが、医学的判断に基づき拒否することも可能です。
このような場合、まずはご自身の日常生活の困難さを、申立書に記載するのと同じ具体性を持って医師に伝えましょう。ご家族やソーシャルワーカーに同席してもらい、第三者の視点から症状を説明してもらうことも有効です。
それでも難しい場合は、転院を検討するか、診断書作成サポートに特化した社労士に相談し、医師への依頼文の作成や説明の同行を依頼することを検討しましょう。
⚠️ 注意
障害年金のために無理に症状を誇張したり、医師に事実と異なる内容を記載するよう求めることは絶対にやめましょう。虚偽の申請は不正受給につながります。
申請の負担を軽減する外部サービス
精神障害を持つ方にとって、役所や年金事務所への頻繁な訪問や、複雑な書類作成は大きな精神的負担となります。この負担を軽減するために、外部の支援サービスを積極的に活用しましょう。
- 社会保険労務士(社労士):手続きの全てを代行してくれます。特に初診日特定や申立書作成の専門性は高く、審査通過の可能性を最大限に高めてくれます。
- 医療ソーシャルワーカー(MSW):病院に所属するMSWは、診断書作成に関する医師との橋渡しや、年金申請の基本的な情報提供を行ってくれます。
- 障害者就労・生活支援センター:地域の支援センターは、年金申請における日常の困りごとの整理や、申立書作成の補助を行ってくれる場合があります。
専門家のサポートを得ることは、決して弱さではありません。むしろ、ご自身の療養を優先し、生活を立て直すための賢明な戦略です。
よくある質問と精神障害の等級基準
Q1. どのような病名が障害年金の対象になりますか?
A. 精神障害の対象となる主な病名は以下の通りです。
- 統合失調症
- 気分(感情)障害(うつ病、双極性障害など)
- てんかん
- 知的障害(精神遅滞)
- 発達障害(ASD、ADHDなど)
- 高次脳機能障害
- 器質性精神障害(認知症など)
重要なのは病名ではなく、その病気によって日常生活や社会生活にどれだけの支障が出ているかという障害の程度です。例えば、「適応障害」などでも、症状が重く長期間継続し、日常生活に大きな支障が出ている場合は対象となる可能性があります。
Q2. 精神障害の等級判定基準は?
A. 精神障害の障害等級は、障害の状態を総合的に判断し、主に以下の基準で判定されます。
| 障害等級 | 日常生活能力の程度 | 認定の目安 |
|---|---|---|
| 1級 | 日常生活が一人でできない(他人の援助がなければほとんど不可能な程度) | 精神病の症状や能力の欠如により、常時援助が必要。 |
| 2級 | 日常生活に著しい制限を受ける(他人の援助がなければ日常生活が困難) | 日常生活が著しい制限を受ける。就労は困難。 |
| 3級(厚生年金のみ) | 労働が著しい制限を受ける(労働に著しい制限または相当の制限を受ける) | 仕事に制限がある。簡単な仕事ならできるが、継続的なサポートが必要。 |
特に、「日常生活能力の程度」の欄で「援助が必要」の度合いが高く評価されることが、等級認定の重要なポイントとなります。
Q3. 障害者手帳を持っていると有利ですか?
A. 精神障害者保健福祉手帳(または療育手帳)を所持していることは、障害の存在を示す一つの証拠にはなりますが、障害年金の審査では直接的な影響はありません。
なぜなら、手帳と年金では認定基準が異なるからです。手帳の審査は都道府県が行い、年金の審査は国が行います。手帳を持っているからといって必ずしも年金がもらえるわけではないため、年金申請では手帳の有無にかかわらず、診断書と申立書の充実が求められます。
まとめ
精神障害による障害年金の申請は、初診日の特定、保険料納付要件の確認、そして最も重要な診断書と申立書の作成という、多くのステップを踏む必要があります。特に、「日常生活の困難さ」を具体的に、かつ説得力をもって審査官に伝えることが、審査通過の鍵となります。
もし、手続きに大きな不安を感じたり、初診日証明などで複雑な問題に直面したりした場合は、一人で抱え込まず、障害年金専門の社会保険労務士や、地域の支援センターといった専門家のサポートを積極的に活用しましょう。あなたの正当な権利である障害年金を取得し、経済的な安心を得て、治療と生活に専念できる環境を整えましょう。
まとめ
- 初診日の特定と保険料納付要件の確認が最初の最重要ステップである。
- 診断書では「日常生活能力の程度」、申立書では「日常生活の具体的な困難さ」を整合性をもって記述する。
- 就労していても、受けている特別な配慮や制限を具体的に説明すれば年金受給の可能性はある。
- 初診日証明や医師との連携が難しい場合は、専門家(社労士など)のサポートを強く推奨する。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





