病気療養中の子どもの進学サポート|院内学級・訪問教育

病気療養中の子どもの進学・復学を支える!院内学級と訪問教育の仕組みと連携戦略
お子さんが病気のために長期の入院や自宅療養を余儀なくされたとき、「治療に専念させたいけれど、勉強の遅れや進学が心配」「元の学校や社会に戻れるだろうか」といった不安は尽きないかと思います。特に、学齢期の子どもたちにとって、学びを継続することは、単に知識を得るだけでなく、社会との繋がりや自己肯定感を保つ上で非常に重要です。
しかし、ご安心ください。日本の教育制度には、病気療養中の子どもの学びを継続的に支える「院内学級(病弱特別支援学校)」や「訪問教育」といった公的なサポート体制が整備されています。これらの制度は、お子さんの病状と体力に合わせた柔軟な教育を提供し、原籍校(もともと通っていた学校)への復学や進学をスムーズにするための橋渡し役を果たします。
この記事では、院内学級と訪問教育の具体的な仕組みや利用手続き、そして進学・受験期に活用できる特別措置について詳細に解説します。さらに、医療機関、原籍校、ご家庭が三位一体となって、病気と闘うお子さんの学習意欲と未来をどう守るかという、連携戦略についても深く掘り下げます。
この記事を最後までお読みいただくことで、お子さんの病状が落ち着いた段階で、迷うことなく最適な教育サポートを選択し、学びのブランクを最小限に抑えながら希望の進路を実現するための具体的な行動ステップが得られます。共に、お子さんの豊かな未来を築いていきましょう。
病気療養中の教育を支える二大制度の基礎知識
長期療養中の子どもたちの学習権を保障する制度として、「院内学級」と「訪問教育」の二つが主要な役割を担っています。まずは、それぞれの制度の概要と適用範囲を理解しましょう。
1. 院内学級(病弱特別支援学校)の役割と特徴
院内学級とは、病院内に設置された特別支援学校またはその分教室のことです。入院中の子どもたちが、病棟から移動できる範囲で、集団または個別指導を受けることができます。
- 教育の継続:原籍校のカリキュラムに沿った学習指導が行われ、出席日数として認められます。
- 心のケア:病気療養による不安や孤立感を和らげるため、友人との交流や季節の行事といった集団活動も行われます。
- 対象疾患:長期入院が必要な病気(例:がん、重度の腎臓病、心臓病、精神疾患など)を持つ、幼稚園から高校生までの子どもたち。
院内学級の教員は、病気への理解や医療スタッフとの連携に必要な専門知識を持っており、病状に合わせた柔軟な学習計画を立てることが可能です。
2. 訪問教育:自宅や施設での個別指導
訪問教育は、病状が重く、あるいは感染リスクなどの理由で院内学級や学校への通学が困難な子どもに対して、教員が自宅や病院のベッドサイドまで赴き、個別に学習指導を行う制度です。
- 柔軟な時間設定:体調の波に合わせて、指導時間や回数を柔軟に調整できます。週に数回、1回あたり1~2時間程度が一般的です。
- 教育の認定:訪問教育での学習も、在籍する学校(原籍校)の出席として認められます。
- 適用範囲:長期入院後、自宅療養に移行したケースや、重度の慢性疾患で通学が難しいケースなどが対象となります。
訪問教育は、個別指導であるため、苦手科目の克服や進学に向けた特定の科目に集中して取り組むことができるというメリットもあります。
3. 利用開始までの流れと原籍校との連携
院内学級や訪問教育を利用するためには、まず医師の診断と意見書が必要です。手続きは、在籍校(原籍校)または教育委員会を通じて行います。
- 医師への相談:入院中または療養開始時に、主治医に教育の継続希望を伝え、意見書を作成してもらう。
- 原籍校への連絡:原籍校の担任や特別支援教育コーディネーターに、療養の状況と院内学級・訪問教育の利用希望を伝える。
- 教育委員会の決定:教育委員会が病弱特別支援学校への「転学または学籍の異動」を決定し、指導形態(院内または訪問)を定める。
ここで重要なのは、原籍校の先生方と連携し、学習進度や使用教材の情報を共有してもらうことです。これにより、復学時のスムーズな移行が可能になります。
💡 ポイント
院内学級や訪問教育を利用する子どもは、学籍上は病弱特別支援学校に転学しますが、元の学校(原籍校)との関係は維持されます。これは、子どもが元の集団に戻る意欲を保ち、復学がスムーズになるよう配慮されているためです。
進学・受験期の特別な配慮とサポート戦略
病気療養が中学校や高校の卒業・進学時期に重なってしまった場合、一般的な受験スケジュールに乗ることが難しくなります。しかし、病気療養中の生徒を対象とした特別な配慮制度が用意されています。
1. 高校受験における「特例措置」の活用
病気療養中の生徒は、公立高校入試において、欠席日数や内申点の評価について特別な配慮を受けることができます。
- 欠席日数の配慮:病気療養による欠席は、「やむを得ない欠席」として、通常の欠席とは別に扱うことが可能です。
- 内申点の評価:院内学級や訪問教育での学習成績、および中学担任の所見などを基に、在宅学習中の努力や意欲を多角的に評価してもらうことができます。
- 「長期療養生徒特別選抜」:自治体によっては、療養期間が長期に及んだ生徒を対象とした、一般とは別の特別選抜枠を設けている場合があります。
これらの特例措置を利用するためには、中学校の進路指導担当と、病弱特別支援学校の教員が密に連携し、医師の診断書などの必要書類を整えることが不可欠です。
2. 大学受験(共通テスト等)の「合理的配慮」
大学入学共通テストや各大学の個別試験においても、病気や障害(病気療養中の体力低下、副作用など)を理由とした「合理的配慮」を申請できます。
- 試験時間の延長:疲労や体力の消耗が激しい場合、試験時間を1.3倍などに延長してもらう。
- 別室受験と休憩:感染リスクの回避や体調管理のため、静かな別室での受験や、適宜休憩を取ることを許可してもらう。
- 服薬・飲食の許可:試験中の服薬や、体調維持のための軽食・水分補給を許可してもらう。
これらの配慮は、高校3年生の夏頃までに試験実施機関(大学入試センターなど)へ申請し、医師の診断書や高校の意見書を提出する必要があります。
3. 進路選択の柔軟性:通信制高校・単位制大学の活用
病気療養を経験した子どもたちにとって、全日制の規則的な生活に戻ることは、再発や体調悪化のリスクを伴う場合があります。進路の柔軟性を高める選択肢を検討しましょう。
- 通信制高校:自宅学習が中心で、体調に合わせて自分のペースで単位を取得できます。特に病弱や入院経験のある生徒を積極的に受け入れている学校もあります。
- 単位制・夜間定時制高校:午前・午後・夜間と授業時間が選べるため、治療や通院のスケジュールに合わせやすい。
- 大学進学後の支援:大学の「障害学生支援室」を活用することで、欠席時の配慮や、定期試験での特別な措置(別室、時間延長など)を受けることができます。
✅ 成功のコツ
長期療養の経験は、「挫折」ではなく「乗り越えた経験」として進学の場でアピールできます。面接では、「病気を通じて自己管理能力や時間の大切さを学んだ」という前向きな成長を伝える準備をしましょう。
三位一体の連携体制:医療・教育・家庭の役割
病気療養中の子どもを支えるためには、医療機関、教育機関(原籍校・病弱支援学校)、そして家庭が、それぞれの専門性を活かして情報を共有し、切れ目のない支援を提供することが重要です。これを「三位一体の連携」と呼びます。
1. 医療機関(主治医・医療ソーシャルワーカー)の役割
医療機関は、病状の正確な把握と、教育継続の可否を判断する役割を担います。
- 教育への意見:主治医は、教育委員会や学校に対して、体力の限界、指導時間の目安、感染対策の必要性などについて具体的な意見書を提供する。
- MSW(医療ソーシャルワーカー):教育制度や福祉制度に精通しており、院内学級への学籍移動の手続きや、経済的な支援に関する相談窓口を紹介する。
- 心理的ケア:病気療養による精神的な負担やストレスについて、専門のカウンセラーや精神科医と連携し、復学への不安を取り除くサポートを行う。
保護者は、教育への希望や不安を、遠慮なく医療機関のスタッフに伝えることが大切です。
2. 教育機関(病弱支援学校・原籍校)の役割
病弱特別支援学校の教員は、病状を考慮した教育のプロフェッショナルです。原籍校は、復学に向けた準備を担います。
- 個別指導計画の作成:病弱支援学校の教員は、医療情報に基づき、体調の波に合わせた柔軟な学習計画(IIP)を作成し、原籍校の進度に沿った指導を行う。
- 復学支援の計画:原籍校の担任やコーディネーターは、院内学級の先生と定期的に連絡を取り、休学中の授業内容や人間関係の情報を共有し、復学時の移行期間を設けるなどの配慮を行う。
教育機関同士の連携により、療養中も学校生活から孤立しないように、写真や手紙などで原籍校の様子を伝える工夫も行われます。
3. 家庭(保護者)の役割と自己負担の軽減
保護者は、子どもの最も近くにいる支援者として、医療と教育の架け橋となる重要な役割を担います。
- 情報共有:子どもの体調の変化、治療の状況、学習の進捗、学校への不安など、すべての情報を三者間で正確に共有する。
- 環境整備:訪問教育を受ける場合は、自宅での学習環境(静かな部屋、教材の準備など)を整える。
- 経済的支援:長期療養による医療費や生活費の負担を軽減するため、高額療養費制度、小児慢性特定疾病医療費助成制度など、利用できる公的支援を積極的に活用する。
⚠️ 注意
訪問教育は、原則として週に数時間の指導時間しか確保できないことが多く、学習の遅れを完全に解消することは難しい場合があります。重要な科目に絞るなど、優先順位を決めて取り組みましょう。
復学に向けた準備と長期的なキャリア形成
病気が回復し、学校への復帰が見えてきたら、復学に向けた段階的な準備が必要です。また、療養経験を活かした長期的なキャリアについても見据えていきましょう。
1. 段階的な復学プログラムの実施
長期療養後の復学は、急激な変化を避け、段階的に行うことが、再休学を防ぐために非常に重要です。このプログラムは、原籍校、病弱支援学校、主治医が協力して計画します。
- 短時間登校:最初は保健室や別室での滞在、あるいは特定の好きな授業や給食の時間のみなど、短時間の登校から始める。
- 授業参加の調整:体力の消耗が予想される体育や理科の実験などは、しばらく見学を許可してもらう。
- 学習面の配慮:復学後も、学習の進度についていけない場合は、居残り補習や、試験範囲の軽減などの合理的配慮を一定期間継続してもらう。
復学後も、病弱支援学校の教員による巡回指導や主治医との定期的な連携を続けることで、再発予防に努めます。
2. 療養経験を活かしたキャリア形成
病気療養の経験は、決してマイナスなことだけではありません。この経験を通じて得た自己理解、忍耐力、命の大切さといった価値観は、将来の進路や仕事に活かせる強力な資質となります。
- キャリア教育:病弱特別支援学校や院内学級では、長期療養者の特性を踏まえたキャリア教育が行われています。
- 専門家との相談:高校卒業後や大学進学後、就職活動を見据える際には、障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)などの専門機関で相談を行い、病状と仕事の両立に向けた計画を立てましょう。
多くの企業や大学は、病気を乗り越え、学びを継続しようとする意欲を高く評価しています。自信を持って、その経験を語れるように準備しましょう。
3. ICTを活用したハイブリッド学習の導入
療養期間中に慣れたオンライン学習やタブレットは、復学後も継続することで、体調不良時の学習継続や、通院時の学習に役立ちます。
- オンライン授業の許可:体調が悪い日は、自宅から原籍校の授業をオンラインで視聴することを許可してもらう(ハイブリッド型授業)。
- 情報保障:ノートを取るのが難しい場合は、音声入力や板書撮影といった合理的配慮を継続的に利用する。
ICTは、病弱の子どもの学びを支える強力なツールであり、復学後も手放さず活用できる環境を整えていきましょう。
よくある質問(FAQ)と相談窓口
病気療養中の教育サポートに関して、保護者が抱きがちな疑問と、次の行動に繋げるためのアドバイスをまとめました。
Q1. 院内学級に入ると、元の学校の友達と会えなくなりますか?
A. 院内学級に在籍しても、元の学校(原籍校)との関係は途切れるわけではありません。原籍校は、復学が前提として扱われます。
- 交流活動:原籍校の友達が手紙やメッセージを送ったり、学校の様子を伝える動画を送ったりといった交流活動は、積極的に推奨されています。
- 行事への参加:主治医の許可があれば、運動会や文化祭など、原籍校の特定の行事に短時間だけ参加できる場合もあります。
保護者から原籍校に対し、積極的な交流の機会を提案してみましょう。
Q2. 訪問教育は、受験に必要な全ての科目を教えてもらえますか?
A. 訪問教育の指導時間は限られているため、すべての科目を網羅するのは難しいのが実情です。そのため、受験に必要な主要科目や、苦手科目に絞るなど、優先順位を設けることが一般的です。
- 補助学習:オンライン家庭教師や通信教育など、訪問教育以外のリソースを併用することで、学習量の不足を補うことが重要です。
- 進学相談:病弱支援学校の教員は、受験に必要な科目を把握しており、限られた時間で最大の効果が得られるよう、アドバイスをしてくれます。
Q3. 退院後、すぐに復学するのが不安です。どうすればいいですか?
A. 退院後すぐに全日制の生活に戻る必要はありません。退院直後は、自宅療養と訪問教育を継続し、体調の回復と学校生活への慣らし運転を行う期間を設けることをお勧めします。
- 通院ペース:治療や通院のスケジュールに合わせて、復学時期を柔軟に調整してもらいましょう。
- 移行支援:原籍校に「段階的復学プログラム」の実施を依頼し、無理のないペースで集団生活に慣れていくサポートを受けましょう。
相談窓口・参考リンク
病気療養中の教育サポートに関する具体的な相談は、以下の窓口を活用してください。
- 主治医・医療ソーシャルワーカー(MSW):教育への意見書の作成、公的支援制度に関する情報提供の窓口です。
- 在籍校(原籍校)の担任・特別支援教育コーディネーター:学籍の移動、学習進度や教材の共有、復学支援の中心となります。
- お住まいの地域の教育委員会(就学相談窓口):院内学級や訪問教育の決定、病弱特別支援学校に関する情報を提供しています。
- 小児慢性特定疾病情報センター:医療費助成制度など、療養生活を支えるための情報が得られます。
まとめ
病気療養中の子どもの学びと進学を支えるために、院内学級と訪問教育という二つの公的制度が存在します。これらの制度を利用することで、病状に合わせた教育を受け、学習の遅れを最小限に抑えながら、原籍校への復学や希望の進路を目指すことが可能です。
成功の鍵は、医療機関(主治医)、教育機関(原籍校・病弱支援学校)、そして家庭が、子どもの体調と学習状況の情報を密に共有する三位一体の連携です。病気療養の経験を、自己成長の糧として前向きに捉え、適切なサポート体制のもと、お子さんの学びの継続を力強く応援していきましょう。
まとめ
- 病気療養中の学びは院内学級(病弱特別支援学校)や訪問教育で継続され、出席扱いとなる。
- 高校・大学受験では、欠席日数の配慮や試験時間の延長といった特別措置や合理的配慮が活用できる。
- 主治医・学校・家庭が密に連携し、病状と体力を考慮した個別指導計画と、段階的な復学プログラムを作成することが重要である。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
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