特別支援学校の役割と入学の基準をわかりやすく解説

お子さんの就学を考える際、「通常学級での学習は難しいかもしれない」「わが子にとって最も合った学びの環境はどこだろうか」という悩みは尽きません。 特に、障害の程度が比較的重度である場合や、医療的なケアが必要な場合など、専門的な教育と手厚い生活支援を必要とするお子さんにとって、「特別支援学校」は重要な選択肢となります。
特別支援学校は、一人ひとりの障害特性や発達段階に応じたきめ細やかな指導を行い、将来の自立と社会参加を目標とする教育機関です。 しかし、その役割や、入学の具体的な基準、他の教育の場との違いについて、正確に理解することは容易ではありません。 この記事では、特別支援学校の定義、対象となる障害種別、入学基準、そして進路に向けた役割を、保護者や支援者の方にわかりやすく解説します。
特別支援学校とは?その役割と教育目標
特別支援学校は、学校教育法に基づき設置されている教育機関であり、幼稚園、小学校、中学校、高等学校に準ずる教育を行うとともに、障害による学習上または生活上の困難を克服するための特別の指導を提供します。
特別支援学校の基本的な役割
特別支援学校は、単に学習指導を行うだけでなく、児童生徒の生涯にわたる生活を見据えた支援を行うことが大きな役割です。
- 個別の教育計画(IEP):
児童生徒一人ひとりの障害の状態、発達段階、ニーズに基づき、「個別の教育支援計画」や「個別の指導計画」を作成し、きめ細やかな指導を行います。
- 生活自立の支援:
食事、排せつ、入浴などの日常生活動作(ADL)
の指導や、健康管理、余暇活動、コミュニケーションスキルなど、社会生活に必要な力の育成に重点を置きます。 - 専門家による指導:
通常の教員に加え、看護師、栄養士、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)などの専門家が配置され、連携して支援を行います。
特別支援学校の三つの区分
特別支援学校は、主として対象とする障害の種類によって、以下の3つの区分に分けられます。
- 視覚障害:
視覚に障害がある児童生徒を対象とし、点字指導や拡大文字による指導、歩行訓練などを行います。
- 聴覚障害:
聴覚に障害がある児童生徒を対象とし、手話や人工内耳を活用したコミュニケーション指導、発音指導などを行います。
- 知的障害、肢体不自由、病弱:
知的障害、肢体不自由(重症心身障害を含む)、病弱(身体虚弱を含む)の児童生徒を対象とし、最も数が多い形態です。 近年では、発達障害を主とする児童生徒が、知的障害と併せて在籍するケースも増えています。
複数の障害を併せ持つ「重複障害」のある児童生徒も、主たる障害に応じていずれかの区分に在籍し、専門的な支援を受けます。
💡 ポイント
特別支援学校の教員は、「特別支援学校教諭免許状」を持ち、障害に関する専門的な知識や技能を持っています。 これは、通常学級や通級指導教室の教員とは異なる、高度な専門性が求められる職種です。
特別支援学校に入学するための具体的な基準
特別支援学校への入学は、学校教育法施行令に定められた「就学基準」に基づいて行われます。 この基準は、主に「障害の程度」によって規定されています。
障害種別ごとの就学基準(抜粋)
文部科学省が示す就学基準のうち、代表的なものを以下に示します。
- 知的障害:
知的発達の遅れがあり、社会生活への適応が困難で、特別な教育的支援を必要とする程度であること。 具体的には、知能指数(IQ)が概ね50以下が目安とされますが、IQのみで判断されるわけではありません。
- 肢体不自由:
肢体不自由の状態が、補装具や車椅子を使用しても、通常の教育課程での学習が困難であるか、常時の医療的・介護的支援を必要とする程度であること。
- 病弱・身体虚弱:
病弱または身体虚弱の状態が、相当期間にわたり療養を必要とするか、特別な配慮が必要なため、通常の学校では十分な教育効果を上げることが困難であること。
「就学指導委員会」による決定
特別支援学校への就学は、保護者の意向だけでなく、教育委員会が設置する「就学指導委員会」(またはこれに準ずる機関)の専門的な判断によって最終的に決定されます。
- 相談・申請:
保護者は、市町村の教育委員会に就学相談を申し込みます。
- 実態調査:
医師の診断書、心理検査の結果(知能検査など)、生活状況の聞き取りなど、専門家が多角的に児童生徒の状態を把握します。
- 委員会での審議:
医師、心理士、教育関係者、福祉関係者などで構成される就学指導委員会が、最も適切な学びの場(通常学級、特別支援学級、特別支援学校)について審議します。
- 就学先の決定:
委員会の意見を尊重し、保護者の意向も踏まえて、最終的な就学先が決定されます。
保護者は、委員会の決定に異議を申し立てる(不服申し立て)ことができますが、決定はあくまで「教育的見地」からの専門的な判断となります。
⚠️ 注意
かつては、「義務就学」として特別支援学校への就学が強く求められるケースがありましたが、現在は「合理的配慮」の提供や「インクルーシブ教育」の推進により、保護者の意向がより重視される傾向にあります。 ただし、常時の医療的ケアが必要な場合など、安全確保の観点から特別支援学校が強く推奨される場合もあります。
特別支援学校の課程と進路に向けた指導
特別支援学校には、幼稚部、小学部、中学部、高等部があり、それぞれの段階で、将来の社会参加を見据えた一貫した指導が行われます。
各課程での教育内容の特色
各課程では、一般的な学習内容に加えて、障害の特性に応じた特別な教育課程が編成されます。
- 小学部・中学部:
基礎的な知識・技能の習得とともに、日常生活に必要な習慣や態度の形成に重点を置きます。 特に、コミュニケーション能力や、身体の動かし方などを学ぶ「自立活動」の時間が多く設けられます。
- 高等部:
卒業後の「就職」や「福祉サービス利用」を見据えた、職業教育・進路指導が中心となります。 作業学習(農作業、軽作業、製品づくりなど)を通じて、勤労意欲や職業的スキルを養います。
卒業後の進路に向けたサポート
特別支援学校の高等部を卒業後の進路は多岐にわたり、学校は就職と福祉サービス利用の支援に力を入れています。
- 就職支援:
一般企業への就職を目指す生徒には、履歴書作成、面接練習、職場実習(インターンシップ)の機会を提供します。 ハローワークや地域の就労支援機関(就労移行支援など)と連携した支援が行われます。
- 福祉サービスへの移行:
就職が難しい生徒や、福祉的な環境での生活を希望する生徒に対しては、就労継続支援(A型・B型)、生活介護、グループホームなど、卒業後の障害福祉サービスへの円滑な移行を支援します。 学校の教員が、保護者とともに相談支援専門員や福祉事業所と面談を行います。
✅ 成功のコツ
高等部の早い段階から、「卒業後の生活」を具体的にイメージし、必要なスキルや福祉サービスについて、学校の先生や進路担当と相談を重ねることが重要です。 地域にある福祉事業所の見学にも積極的に参加しましょう。
特別支援学校の多様な支援:医療的ケアと訪問教育
特別支援学校は、重度の障害や病弱を持つ児童生徒に対し、医療や居宅での教育といった、より高度で多様な支援を提供できる体制を整えています。
医療的ケアの提供体制
重症心身障害児など、日常的に痰の吸引や経管栄養などの医療的ケアが必要な児童生徒も、特別支援学校に通学できます。
- 看護師の配置:
医療的ケアを必要とする児童生徒が在籍する学校には、看護師が配置され、医療的ケアを安全に実施するための体制が整えられています。
- 教員によるケア:
一部の医療的ケアについては、研修を受けた教員が、医師の指示書に基づいて実施できる場合があります。 これにより、授業中のサポートがより円滑になります。
在宅での「訪問教育」
病弱や肢体不自由などの障害により、自宅や病院から学校に通学することが非常に困難な児童生徒に対しては、特別支援学校の教員が自宅や病院を訪問して教育を行う「訪問教育」が提供されます。
- 教育内容:
学校に通学する場合と同様に、個別の指導計画に基づき、学習指導や自立活動が行われます。
- 社会性の維持:
訪問教育であっても、学校との連絡や、学校行事への参加の機会などを工夫し、学校とのつながりや社会性を維持できるよう配慮されます。
訪問教育は、長期間の入院や在宅療養を必要とする児童生徒の「学ぶ権利」を保障するための重要な仕組みです。
よくある質問と就学相談の進め方
特別支援学校への就学を検討する際によくある疑問と、就学相談を円滑に進めるためのヒントをまとめます。
Q&A:就学に関する疑問解消
Q1. 特別支援学校の生徒は、通常学級の生徒と交流する機会はありますか?
A. はい、あります。 特別支援学校では、「交流及び共同学習」として、地域の小・中学校や高校との交流を積極的に行っています。 合同の運動会、文化祭、授業への参加、クラブ活動など、多様な形で交流の機会が設けられています。
Q2. 特別支援学校の学費はかかりますか?
A. 公立の特別支援学校の授業料は無料です。 ただし、給食費、教材費、修学旅行などの積立金、通学のための費用などは実費負担となります。 これらの費用についても、所得に応じて補助を受けられる「就学奨励費」の制度がありますので、教育委員会に確認しましょう。
Q3. 特別支援学校から通常学級への転籍は可能ですか?
A. はい、可能です。 児童生徒の発達段階が進み、特別支援学校の専門的な支援が必要でなくなったと判断された場合は、再度就学指導委員会で審議し、特別支援学級や通常学級への転籍(移動)が認められることがあります。
就学相談を始めるためのアクション
お子さんの最適な学びの場を探すため、まずは行動を起こしましょう。
- 早期の相談:
お子さんの就学に不安を感じ始めたら、就学の1~2年前から、市町村の教育委員会または教育相談所に相談を始めましょう。 早期の相談が、選択肢を広げます。
- 学校見学:
地域の特別支援学校や特別支援学級を実際に訪問し、見学・体験をさせてもらいましょう。 パンフレットだけでは分からない、学校の雰囲気や支援体制を確認することが重要です。
特別支援学校は、お子さんの可能性を最大限に引き出すための、専門性と愛情に満ちた教育環境です。 ご家族だけで悩まず、専門家に相談しながら、最善の選択をしてください。
まとめ
- 特別支援学校は、障害の程度が比較的重い児童生徒に対し、生涯にわたる自立と社会参加を目指す専門的な教育機関です。
- 入学基準は、学校教育法施行令に基づく障害の程度で定められ、就学指導委員会の専門的な判断によって最終決定されます。
- 高等部では、就職活動や福祉サービスへの移行を見据えた、職業教育・進路指導に重点が置かれます。
- 医療的ケアや訪問教育など、多様なニーズに応える体制が整備されており、授業料は無料(実費・補助制度あり)です。

高橋 健一
(たかはし けんいち)50歳📜 保有資格:
社会福祉士
市役所の障害福祉課で20年間勤務し、制度の運用や窓口対応を担当してきました。「制度は難しい」と言われますが、知れば使える便利なツールです。行政の内側から見た制度のポイントを、分かりやすくお伝えします。
大学卒業後、地方自治体に入庁し、障害福祉課に配属されて20年。障害者手帳の交付、障害福祉サービスの支給決定、各種手当の申請受付など、幅広い業務を経験しました。行政職員として心がけていたのは、「制度を正確に伝えつつ、温かく対応する」こと。窓口に来られる方は不安を抱えています。制度の説明だけでなく、その方の状況に合わせた情報提供を大切にしてきました。退職後、民間の相談支援事業所に転職し、今度は「申請する側」の視点も理解できました。行政と民間、両方の経験を活かして、制度の仕組みだけでなく、「実際にどう使うか」まで伝えられるのが強みです。記事では、障害者総合支援法、障害者雇用促進法、各種手当など、制度の正確な情報を「難しい言葉を使わず」解説します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
公務員として地域に貢献したいと思い、障害福祉課に配属されたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
窓口対応で、制度を活用して生活が楽になったと感謝されたこと。行政と民間両方の視点を得られたこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
制度の正確な情報を「難しい言葉を使わず」伝えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
将棋、歴史小説
🔍 最近気になっているテーマ
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