通級指導教室とは?対象・支援内容・利用の流れ

「うちの子は集団生活や学習で少しつまづきがあるけれど、通常学級で生活することはできており、特別支援学級に行くほどではない」—。 このように感じている保護者の方や学校関係者の方は少なくありません。 特に、コミュニケーション、学習、行動面などで部分的な困難を抱えている場合、通常学級に在籍しながら、必要な専門的支援を受けられる場所があることをご存知でしょうか。
それが、「通級指導教室(つうきゅうしどうきょうしつ)」です。 通級指導教室は、学校教育法に基づく教育支援の一つであり、通常学級での学習や生活をよりスムーズにするための個別指導を提供しています。 この記事では、通級指導教室の対象となる障害の種類、具体的な支援内容、そして利用開始までの流れを、専門的な視点からわかりやすく解説します。 お子さんに最も適した学びの環境を見つけるための参考にしてください。
通級指導教室とは?特別支援教育の位置づけ
通級指導教室は、小・中学校の児童生徒を対象に、通常学級に在籍しながら、教育課程の一部または全部を「特別の指導」として受けることができる教室です。
通級指導教室の基本的な仕組み
通級指導教室の大きな特徴は、通常の学校生活をベースにしつつ、部分的に専門的な支援を受けるという点にあります。
- 在籍は通常学級:
児童生徒は、基本的に自宅から通学する学校の通常学級に在籍し、授業の大部分を受けます。
- 部分的に通級:
週に数時間、特定の指導を受けるために、別の教室(通級指導教室が設置されている学校)へ移動します。 指導時間は、児童生徒の状態やニーズに応じて柔軟に設定されます。
- 指導内容の連携:
通級指導教室の担当教員は、在籍学級の担任や保護者と密に連携し、通級での指導内容が通常学級での生活に活かされるよう調整します。
通級指導教室の設置形態
通級指導教室は、以下の二つの形態で設置されています。
- 自校設置型:
児童生徒が在籍している学校内に通級指導教室が設置されている形態です。 移動の手間がなく、通常学級の授業時間との調整がしやすいのが利点です。
- 巡回型・他校通級型:
通級指導教室が設置されていない学校に在籍している場合、設置されている別の学校(拠点校)へ通うことになります。 移動時間や安全確保の面で配慮が必要となりますが、専門性の高い指導を受けられるメリットがあります。
💡 ポイント
通級指導教室は、「教科の遅れを取り戻すための補習教室」ではありません。 主な目的は、自立活動と呼ばれる「個別の課題克服」であり、集団生活への適応や、コミュニケーション能力の向上など、社会生活に必要なスキルの獲得を支援します。
通級指導教室の対象となる障害の種類
通級指導教室の対象となるのは、文部科学省が定める障害種別に該当し、通常の学級での学習や生活におおむね参加できるものの、一部において特別な指導を必要とする児童生徒です。
主な対象となる障害種別
近年、対象となる障害の範囲が広がり、より多くの児童生徒が支援を受けられるようになりました。
- 言語障害:
発音の誤り(構音障害)、どもり(吃音)、言葉の遅れなど、言葉によるコミュニケーションに困難がある場合。
- 自閉症スペクトラム障害(ASD):
対人関係の困難、こだわりの強さ、コミュニケーションの特性などがあり、集団生活で不適応を起こしやすい場合。
- 情緒障害:
学校生活における不安やパニック、極端な緊張、衝動性の高さなど、感情のコントロールや対人関係に困難がある場合。
- 学習障害(LD):
聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するなどの特定の能力のうち、どれか一つまたは複数が著しく困難な場合。
- 注意欠陥多動性障害(ADHD):
不注意、多動性、衝動性などがあり、授業への集中維持や、席に座り続けることが難しい場合。
- 肢体不自由、弱視、難聴など:
身体的な障害等があり、学習環境や活動において特別な配慮や指導が必要な場合。
診断の有無と利用の可否
通級指導教室の利用において、医療機関による確定診断(例:ADHDやLDの診断)は必須ではありません。
- 教育的ニーズが重要:
最も重要視されるのは、学校生活を送る上で「特別な教育的支援が必要である」という教育的な判断です。 学校の担任や専門の教員が、子どもの様子を観察し、判断します。
- 連携の重要性:
ただし、医師の意見書や心理検査の結果は、どのような支援が有効かを判断する上で重要な参考資料となります。 診断を受けている場合は、積極的に学校側に情報を提供しましょう。
✅ 成功のコツ
通級指導教室の支援を最大限に活かすためには、保護者が日頃の生活で困っていること、お子さんの得意なこと・苦手なことを、具体的に学校や教育委員会に伝えることが非常に大切です。 より的確な指導計画を作成する助けになります。
通級指導教室で提供される具体的な支援内容
通級指導教室では、個々の児童生徒の課題克服と自立を促すため、専門性の高い指導が提供されます。 指導は主に「自立活動」を中心に行われます。
1. 自立活動を通じた個別指導
自立活動とは、児童生徒が抱える障害による困難を克服または軽減し、自立を図るために必要な能力を養うことを目的とした指導です。
- コミュニケーション指導:
言葉の指導(発音訓練、吃音指導)のほか、非言語的なコミュニケーション(表情、ジェスチャー、場に応じた話し方)の指導、相手の意図を理解するソーシャルスキルトレーニング(SST)
- 行動の調整と自己理解:
ASDやADHDのある児童生徒に対し、感情のコントロール方法、衝動性を抑えるための具体的な技術、集中力を高める環境整備などを学びます。 自分の障害特性を理解し、自己肯定感を高めることも重要な目標です。
- 学習上の困難への指導:
LDのある児童生徒に対し、読み書きや計算の困難さの背景を分析し、個別化された教材や指導法(例:文字の視覚化、タブレット活用)を用いて、特定の学習スキルを習得させます。
2. 指導の形態と時間
指導は、児童生徒の状態や指導内容に応じて、様々な形態で提供されます。
- 個別指導:
指導教員と児童生徒が1対1で行う指導です。 言語指導や、特性に応じた細かな対応が必要な場合に多く用いられます。
- グループ指導:
同様の課題やニーズを持つ数名(2~8名程度)の児童生徒を対象に行う指導です。 SSTなど、対人関係や集団での振る舞いを学ぶのに効果的です。
- 指導時間:
一般的には週に1~8単位時間(45分〜50分)程度の指導が行われます。 時間帯や頻度は、在籍学級の学習状況や、通級指導教室の指導計画に応じて決定されます。
通級指導教室の利用開始までの流れ
通級指導教室を利用するためには、学校、教育委員会、保護者が連携した手続きが必要です。
ステップ1:相談と実態把握
- 保護者からの相談、または担任からの提案:
保護者が、学校の担任やスクールカウンセラーに、子どもが抱える困りごとについて相談します。 または、学校側から「通級指導教室の利用」を提案される場合があります。
- 校内委員会での検討:
学校内で、校長、担任、特別支援教育コーディネーター、通級担当教員などが集まり、子どもの実態把握(アセスメント)を行い、通級の必要性について検討します。
- 教育相談の実施:
市町村の教育支援センターや教育相談所で、心理士による発達検査や面談が行われることもあります。
ステップ2:入級判定と利用計画
- 教育委員会への申請:
学校からの意見書や検査結果に基づき、保護者が教育委員会に「通級指導教室の利用」を申請します。
- 教育委員会による入級判定:
教育委員会が設置する「特別支援教育就学奨励委員会」などで、通級指導教室の入級の可否と指導の内容が判定されます。
- 個別指導計画の作成:
入級が決定したら、通級指導教室の担当教員が「個別の指導計画」を作成します。 この計画には、指導目標、指導内容、指導時間、保護者や担任との連携方法などが明記されます。
ステップ3:指導開始と連携
- 通級指導の開始:
計画に基づき、通級指導教室(自校または他校)での指導が開始されます。
- 評価と連携:
定期的に指導の効果を評価し、在籍学級の担任、保護者、通級指導教員が情報共有を行い、指導内容や在籍学級での配慮事項を調整します。
⚠️ 注意
通級指導教室の利用は、学校や教育委員会から一方的に決められるものではありません。 必ず保護者と学校が十分に話し合い、同意の上で決定されることが原則です。
通級指導教室と特別支援学級・通常学級の比較
通級指導教室は、特別支援教育における多様な学びの場の一つです。 他の学びの場と比較し、その特徴を明確に理解しましょう。
学びの場の違いと位置づけ
児童生徒の障害の程度や教育的ニーズに応じて、学校教育法では以下の3つの学びの場が用意されています。
| 学びの場 | 在籍場所 | 指導内容の割合 | 主な対象 |
|---|---|---|---|
| 通常学級 | 通常学級 | 通常の教育課程 | 障害がない、または軽微な配慮で対応可能 |
| 通級指導教室 | 通常学級 | 通常教育+特別な指導(一部) | 部分的な困難があり、個別支援が必要な児童生徒 |
| 特別支援学級 | 特別支援学級 | 特別な指導(主)+交流教育(一部) | 障害の程度が比較的重く、集団指導が困難な児童生徒 |
通級のメリット・デメリット
通級指導教室を選ぶ際の、メリットと懸念点を理解しておくことが大切です。
- メリット:
通常学級での仲間との交流や学びの機会を維持しつつ、専門的な個別支援を受けられるため、社会的適応能力を高めやすい。
- デメリット:
拠点校に通う場合、移動時間が発生し、その分の学習時間が削られること。 また、通常学級の授業中に席を離れることによる、心理的な負担や、指導内容が抜けてしまう可能性への配慮が必要。
よくある質問と円滑な利用のためのポイント
通級指導教室の利用に関して、保護者や学校から寄せられる質問と、より良い支援を受けるためのヒントをご紹介します。
Q&A:通級に関する疑問解消
Q1. 通級指導教室の指導費用はかかりますか?
A. 通級指導教室の指導費(授業料)は、公立学校の場合は無料です。 ただし、通級のために他校へ移動する際の交通費については、「特別支援教育就学奨励費」という制度により、一部または全部が補助される場合があります。 これは所得に応じて補助額が変わるため、教育委員会に確認が必要です。
Q2. 高校生は通級指導教室を利用できますか?
A. 現在、通級指導教室は主に小・中学校に設置されており、高校での通級指導は一般的ではありません。 ただし、高校生に対しては「特別の教育課程」を編成し、個別の指導や相談を行うなど、同様の支援を提供する高校が増えています。 高校の特別支援教育コーディネーターに相談してみてください。
Q3. 途中で通常学級に戻ることはできますか?
A. はい、可能です。 通級指導教室は、課題が改善し、通常学級での生活や学習に支障がなくなったと判断された場合、「解除(通級の終了)」となります。 通級の目的の一つは、通常学級での自立であるため、目標達成後には解除されることが期待されています。
保護者と学校との連携の重要性
通級指導教室の効果を最大化するには、保護者と学校、そして通級担当教員との情報共有と信頼関係が不可欠です。
- 家庭での実践:
通級指導教室で学んだコミュニケーションスキルや感情コントロールの方法を、家庭でも継続して実践することで、効果が定着しやすくなります。
- 定期的な面談:
年に数回行われる個別指導計画の見直しや面談には、積極的に参加し、お子さんの変化や家庭での様子を具体的に伝えるようにしましょう。
通級指導教室は、お子さんが学校生活でつまずくことなく、自分らしく成長するための重要なサポートシステムです。 不安を抱え込まず、まずは学校の特別支援教育コーディネーターに相談することから始めましょう。
まとめ
- 通級指導教室は、通常学級に在籍する小・中学生に対し、教育課程の一部で専門的な個別指導を行う場です。
- 対象は、言語障害、ASD、ADHD、LD、情緒障害などがあり、特定の課題克服が必要な児童生徒です。
- 指導内容は、自立活動(コミュニケーション、行動調整、学習上の困難の克服)が中心であり、「補習」ではないことに注意が必要です。
- 利用には、保護者からの相談、学校の校内検討、教育委員会の判定を経て、「個別の指導計画」が作成されます。

金子 匠
(かねこ たくみ)55歳📜 保有資格:
社会福祉士、精神保健福祉士
障害者支援施設で30年間勤務し、施設長を経験。現在はすぐサポ編集長として、障害のある方とご家族が必要な情報にアクセスできる環境づくりに取り組んでいます。「制度は複雑だけど、使えば生活が楽になる」という信念のもと、分かりやすい情報発信を心がけています。
大学卒業後、障害者支援施設に就職し、30年間にわたり現場で支援に携わってきました。生活支援員として10年、サービス管理責任者として15年、そして施設長として5年の経験があります。特に印象に残っているのは、重度の知的障害があり、施設入所が当然と思われていた方が、適切な支援と環境調整により地域での一人暮らしを実現したケースです。「できない」と決めつけず、その人に合った支援を考えることの大切さを学びました。現在は現場を離れ、すぐサポの編集長として、これまでの経験を記事という形で多くの方に届けることをミッションとしています。制度や法律の解説記事では、「専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で」を心がけています。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学で社会福祉を学び、実習で出会った利用者の方々の笑顔に感動したことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
重度の知的障害のある方が、適切な支援により地域での一人暮らしを実現したこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で伝えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
読書、散歩
🔍 最近気になっているテーマ
障害者総合支援法の改正動向、ICTを活用した新しい支援の形





