視覚障害とは?見え方の違いと日常生活での配慮ポイント

視覚障害とは?見え方の多様性と日常生活での配慮ポイント
「視覚障害」と聞くと、「全く見えない」全盲の状態をイメージされる方が多いかもしれません。しかし、実際には視覚障害者の約9割は、光を感じたり、わずかな視力が残っていたりする「ロービジョン(弱視)」の状態です。見え方は、人それぞれ、非常に多様です。
日常生活において、視覚からの情報が制限されることは、移動の困難、情報へのアクセスの困難、そして心理的な不安につながります。ご本人やご家族、そして支援者の皆様が、この多様な「見え方の違い」を理解し、適切な配慮を行うことが、視覚障害を持つ方が安心して社会参加するための第一歩です。
この記事では、視覚障害の定義や原因、そして視力や視野による見え方の違いを詳しく解説します。さらに、街中や職場、家庭でできる具体的な配慮のポイントや、利用できる福祉サービスについても詳しくご紹介します。この情報が、視覚からの情報に頼らない、豊かな生活を築くためのヒントとなることを願っています。
視覚障害の基礎知識と分類
視覚障害の定義:視力と視野の制限
視覚障害とは、眼球、視神経、視中枢など、視覚に関わる機能に永続的な障害があるため、日常生活や社会生活に相当な制限を受けている状態を指します。日本の身体障害者福祉法における視覚障害の認定は、主に「視力」と「視野」の2つの要素に基づいて行われます。
- 視力障害:視力表で測る「中心視力」が著しく低い状態です。矯正視力(眼鏡やコンタクトレンズで矯正した視力)で判断されます。
- 視野障害:見える範囲(視野)が狭い、または一部が欠けている状態です。
視覚障害者手帳の等級は、両眼の視力や視野の程度によって1級(最も重度)から6級まで定められています。特に視力0.3未満、あるいは視野が極端に狭い場合が対象となります。両眼が全く見えない状態は1級に該当します。
💡 ポイント
視覚障害は、矯正しても視力が回復しない状態を指します。メガネやコンタクトで矯正可能な近視や遠視は、視覚障害には該当しません。
全盲とロービジョン(弱視)の違い
視覚障害は、大きく「全盲」と「ロービジョン」に分けられますが、圧倒的に多いのはロービジョンの人々です。
1. 全盲
光さえ感じられない状態、または光は感じられるものの、物体の形や動きを認識できない状態を指します。全盲の方々は、主に点字や音声情報、触覚情報を頼りに生活します。移動時には白杖(はくじょう)や盲導犬が不可欠です。
2. ロービジョン(弱視)
視力や視野の一部に障害があり、視覚的な情報に頼ることはできるものの、通常の視覚では困難を伴う状態を指します。ロービジョンの方々は、残された視覚を最大限に活用するために、拡大鏡、遮光眼鏡、拡大読書器などの補助具を必要とします。
ロービジョンの中には、視力は比較的良くても視野が極端に狭い(トンネル視野)ために移動が困難な方もいれば、視力は低いが視野は広いため、大きな文字なら読めるという方もいます。そのため、「見えにくい」という一言では括れない多様性があります。
視覚障害の主な原因と傾向
視覚障害の原因は、年齢や生活習慣によって多岐にわたりますが、日本における主な原因疾患は以下の通りです。
- 緑内障:視神経が障害され、視野が徐々に狭くなる病気です。初期には自覚症状が少ないため、早期発見・早期治療が重要です。
- 糖尿病網膜症:糖尿病の三大合併症の一つで、網膜の血管が損傷し、失明に至る可能性のある病気です。
- 網膜色素変性症:網膜の機能が徐々に失われ、夜盲(暗いところで見えにくい)や視野狭窄(トンネル視野)が進行する遺伝性の病気です。
- 黄斑変性症:網膜の中心部(黄斑)が障害され、中心視力や読書能力が低下します。
これらの疾患は、特に中高年以降に発症・進行することが多いため、視覚障害者の約7割は65歳以上であり、加齢とともに視覚障害者数は増加傾向にあります。
多様な「見え方」の違いと日常生活への影響
視力低下による見え方(中心暗点とぼやけ)
視力低下型の視覚障害は、細かいものが見えづらくなる、文字を読むのが困難になる、といった影響が中心となります。しかし、視力が単に低下するだけでなく、以下のような特殊な見え方になる場合があります。
1. 中心暗点(ちゅうしんあんてん)
黄斑変性症などで中心視力が損なわれた場合、見ようとする中心部分が黒い点や歪みで見えなくなる状態です。周辺視力は残っているため、移動は可能ですが、人の顔や文字を読むことが極めて困難になります。視力計では測れない生活上の困難が大きいのが特徴です。
2. 全体的なぼやけ・かすみ
白内障や角膜疾患などにより、光が網膜にきれいに結像しない場合、全体的に物がぼやけて見えます。特にコントラストが低い場所(雪道や霧の中など)や、暗い場所での見えづらさが増し、日常生活の多くの場面で困難が生じます。
このような見え方の違いがあるため、一律に「見えない」として扱うのではなく、「何がどのように見えにくいのか」を把握し、個々の見え方に合わせた情報提供や環境整備が求められます。
視野狭窄による見え方(トンネル視野)
視野障害は、視力は比較的保たれていても、見える範囲が極端に狭くなることで、日常生活に大きな影響を及ぼします。特に代表的なのが「視野狭窄」です。
視野狭窄(網膜色素変性症や緑内障の進行期など)では、まるで筒を通して見ているように、中心部分しか見えません。これを「トンネル視野」と呼びます。移動時に以下のような困難が生じます。
- 周囲の状況(人や車、障害物)を察知しづらい。
- 横からの人や車の接近に気づかず、衝突しやすい。
- 階段や段差の端が見えづらく、転倒しやすい。
- 一度に広範囲の情報を把握できないため、人ごみが苦手になる。
トンネル視野の方は、視力だけでは障害の程度が測れないほど、移動における危険性が高くなります。支援者は、移動時に横や足元の情報も口頭で補足することが非常に重要です。
その他の見え方の特殊性(光・色・まぶしさ)
視覚障害には、視力や視野だけでなく、光や色の感覚に異常をきたす特殊な見え方もあります。
- 羞明(しゅうめい)/まぶしさ:網膜や角膜の病気により、わずかな光でも異常にまぶしく感じ、目を開けていることすら困難になることがあります。外出時には、濃い色の遮光眼鏡が必須となります。
- 色覚異常:色の識別が困難になる状態です。信号機の色や、標識の色の違いを判別できないため、交通や情報取得に困難が生じます。
- 夜盲症(やもうしょう):暗い場所や夜間に極端に見えにくくなる状態です。網膜色素変性症などの初期症状として現れることが多く、夜間の外出を著しく制限します。
このように、視覚障害は単に「見えない」のではなく、「見え方に問題がある」状態であり、この多様性を理解することが、適切な配慮の基盤となります。
視覚障害者への具体的な支援と配慮ポイント
移動時の声かけと誘導(同伴援護)
視覚障害を持つ方が安全に移動するために、周囲の人の協力(同伴援護)は不可欠です。適切な声かけと誘導は、ご本人の安心感を高め、危険を避けるための最も重要な配慮です。
1. 声かけの基本ルール
視覚障害者に声をかける際は、まず自分の名前や立場を名乗り、相手の正面から声をかけることが基本です。突然体に触れたり、後ろから声をかけたりすると、驚かせて不安にさせてしまう可能性があります。
- 「こんにちは。〇〇(自分の名前)です。何かお手伝いしましょうか?」
- 「エレベーターはすぐそこですが、手を貸しましょうか?」
2. 誘導の具体的な方法
誘導する際は、誘導される側が、誘導者の肘や肩に軽く触れる形が推奨されます(コンタクトテクニック)。誘導者が半歩前を歩き、段差や障害物、曲がり角などをその都度口頭で伝えます。
- 「これから右に曲がります。右側に段差がありますので、お気をつけください。」
- 「今、階段を降ります。手すりは左手にあります。」
- 椅子に座る際は、ご本人の手に椅子の背もたれや座面を触らせてから着席を促します。
✅ 成功のコツ
誘導の際、急な方向転換や、立ち止まる際は必ず事前に声に出して伝えることが成功のコツです。視覚情報がないため、誘導者の動きを予測できず、転倒や衝突のリスクが高まります。
情報アクセス支援とコミュニケーション
視覚障害を持つ方にとって、文字や図形といった視覚情報を得るためのサポート(情報保障)は、学習や就労、日常生活の質を大きく左右します。
1. 読み上げと拡大
全盲の方には、文書を音声で読み上げる支援が必要です。ロービジョンの方には、拡大表示(ルーペ、拡大読書器、パソコンの拡大機能)が有効です。支援者は、相手がどの程度の拡大率やコントラストが必要かを確認し、対応することが大切です。
2. コミュニケーションの配慮
会話の中で、「あれ」「これ」といった指示語や、「あそこ」といった曖昧な表現を避けることが重要です。具体的な名称や位置を明確に伝えるように心がけてください。例えば、「この資料をあそこに置いてください」ではなく、「今、あなたの左手にある資料を、テーブルの右奥に置いてください」と伝えます。
「私は視力がありますが、字が小さすぎて見えません。支援者の方が、ただ読み上げるだけでなく、拡大鏡を使いながら『この部分を一緒に見ていきましょう』と言ってくれると、自分で理解している実感が持てます。」
— ロービジョン当事者の声
家庭・職場での環境整備(合理的配慮)
視覚障害を持つ方が、家庭や職場で安全かつ効率的に活動できるように、環境を整える(合理的配慮)は、自立した生活を支えます。
- 整理整頓の徹底:物の定位置を決め、勝手に移動させないことが最も重要です。移動の妨げになるような物を床や通路に置かないようにしましょう。
- コントラストの利用:ロービジョンのために、階段の端やドアの枠、スイッチ周りなどに濃い色のテープを貼るなどして、コントラストをつけて見えやすくします。
- 音声と触覚の活用:家電製品のスイッチに点字シールを貼る、時刻を音声で知らせる時計を導入するなど、視覚以外の感覚で情報が得られるように工夫します。
視覚障害者のための支援制度とツール
身体障害者手帳と支援サービスの利用
視覚障害者手帳(1級〜6級)を取得することで、様々な障害福祉サービスや経済的な支援を受けることができます。
1. 移動支援サービス
視覚障害を持つ方の外出を支援するサービスとして、同行援護(どうこうえんご)があります。これは、単に移動の介助をするだけでなく、移動に必要な情報(視覚情報の代行)、代筆・代読など、外出先での必要な援助を行います。これは、広場恐怖や単なる移動困難ではなく、視覚からの情報不足を補うための重要なサービスです。
2. 日常生活用具の給付
日常生活の困難を軽減するための用具について、費用の一部または全額が助成されます。視覚障害者向けの主要な用具は以下の通りです。
- 情報機器:点字ディスプレイ、点字タイプライター、音声読み上げソフト。
- 読書・拡大機器:拡大読書器、ルーペ、音声図書再生機(デイジープレーヤー)。
- 歩行補助:白杖、盲導犬の給付(費用の一部)。
⚠️ 注意
日常生活用具の給付は、自治体によって対象品目や助成額が異なります。必ず事前に市区町村の障害福祉窓口に問い合わせて確認し、申請手続きを行ってください。
情報アクセスを支えるツールと技術
IT技術の進化は、視覚障害者の情報アクセスを劇的に向上させています。
- スクリーンリーダー:パソコンやスマートフォンの画面に表示されている文字情報を読み上げるソフトウェアです。全盲の方や重度のロービジョンの方にとって、インターネットや文書作成に不可欠なツールです。
- 音声図書(デイジー図書):音声と文字が連動したデジタル図書で、再生速度の調整や、しおり機能などが充実しており、視覚障害者の読書環境を支えています。
- AIを活用した画像認識アプリ:スマートフォンのカメラで撮影した画像に写っているもの(製品、金額、風景など)をAIが認識し、音声で伝えてくれるアプリも実用化されており、買い物や外出時のサポートに役立っています。
これらのツールの選び方や使い方については、視覚障害者情報提供施設や地域の相談支援事業所で相談できます。
視覚障害に関するよくある質問と相談窓口
Q1. 盲導犬に声をかけたり、触れたりしても良いですか?
A. いいえ、盲導犬は仕事中です。盲導犬に声をかけたり、触ったり、食べ物を与えたりする行為は、犬の集中力を乱し、ユーザー(使用者)を危険にさらす可能性があります。すれ違う際は、静かに見守りましょう。ただし、ユーザーが困っている様子であれば、「何かお手伝いしましょうか?」と声をかけることは問題ありません。
Q2. 視覚障害者はどのように文字を読んでいますか?
A. 読書方法は障害の程度や種類によって様々です。全盲の方の多くは、点字(触読)または音声図書(デイジー図書)を利用します。ロービジョンの方は、拡大鏡や拡大読書器を使って大きな文字を読んだり、パソコンやスマートフォンで文字を拡大・読み上げさせたりして情報を得ています。
Q3. 子どもが視覚障害の場合、どのような教育支援がありますか?
A. 視覚障害を持つ子どもには、盲学校(視覚支援学校)や、地域の小中学校の特別支援学級・通級指導教室での支援が受けられます。盲学校では、点字、歩行訓練、拡大読書器の使い方など、視覚障害に特化した専門的な教育が提供されます。教育支援に関する具体的な相談は、地域の教育委員会や、盲学校の教育相談窓口で行うことができます。
Q4. 白杖を持っている人に、迷わず声をかけるためのコツはありますか?
A. 迷う必要はありません。声をかける一番のコツは「具体的に」話すことです。「どちらまで行かれますか?」「信号を渡るお手伝いをしましょうか?」など、具体的な質問を投げかけてみましょう。断られた場合は、「何かあったら、またお声がけください」と伝えて立ち去れば大丈夫です。
Q5. 視覚障害者向けの就労支援はどのようなものがありますか?
A. 視覚障害を持つ方の多くは、マッサージや鍼灸師などの専門職に就くことが多いですが、近年はIT技術の進化により、一般事務職やプログラマーとして働く方も増えています。就労支援機関(障害者就業・生活支援センターなど)では、スクリーンリーダーを活用したパソコン訓練や、職場での合理的配慮の調整サポートを受けることができます。
相談窓口・参考リンク(具体的なアクションの提案)
視覚障害を持つ方が直面する困難を克服するためには、早期に専門的な支援と情報にアクセスすることが重要です。不安や疑問を感じたら、以下の窓口にご相談ください。
専門の相談窓口
- お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口:身体障害者手帳の申請や、同行援護、日常生活用具の給付など、福祉サービス全般の窓口です。
- 視覚障害者情報提供施設(点字図書館など):点字図書や録音図書の提供、情報機器の利用相談、生活訓練など、視覚障害者に特化したサービスを提供しています。
- 基幹相談支援センター:福祉サービス利用計画の作成や、複雑な相談への対応、地域の医療・福祉機関との連携を担います。
- 盲学校(視覚支援学校)の教育相談窓口:子どもの教育や発達に関する相談を受け付けています。
役立つ情報源
視覚障害に関する情報や、支援団体の活動については、以下のサイトも参考にしてください。
- https://www.nichimou.org/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">社会福祉法人 日本盲人会連合
- https://www.niph.go.jp/soshiki/shougai/sight/index.html" target="_blank" rel="noopener noreferrer">国立障害者リハビリテーションセンター 視覚障害情報
✅ 次のアクション
視覚障害を持つ方に遭遇し、何か手助けしたいと感じた際は、遠慮せず「何かお手伝いしましょうか?」と声をかけてみましょう。特に、立ち止まっている時や困っている様子の時は、具体的な声かけが大きな助けとなります。
まとめ
視覚障害は、全盲だけでなく、視力低下や視野狭窄などのロービジョン(弱視)がほとんどであり、その見え方は非常に多様です。支援する側は、単純に「見えない」と判断するのではなく、「何がどのように見えにくいのか」を理解することが大切です。
日常生活での配慮ポイントは、移動時の具体的な声かけと誘導(コンタクトテクニック)、そして情報保障(読み上げ、拡大、音声ツール)です。同行援護や日常生活用具の給付などの福祉サービスを積極的に活用し、ご本人とご家族、支援者が連携して、視覚情報に頼らない安全で自立した社会参加を支えていきましょう。
- 視覚障害者の多くはロービジョンであり、視力だけでなく視野の制限など多様な見え方があることを理解する。
- 移動時の誘導は、誘導者が半歩前を歩き、段差や方向転換を口頭で伝えるコンタクトテクニックが基本である。
- 情報アクセスは、点字、音声ツール(スクリーンリーダー)、拡大機器などの情報保障サービスを積極的に活用する。

高橋 健一
(たかはし けんいち)50歳📜 保有資格:
社会福祉士
市役所の障害福祉課で20年間勤務し、制度の運用や窓口対応を担当してきました。「制度は難しい」と言われますが、知れば使える便利なツールです。行政の内側から見た制度のポイントを、分かりやすくお伝えします。
大学卒業後、地方自治体に入庁し、障害福祉課に配属されて20年。障害者手帳の交付、障害福祉サービスの支給決定、各種手当の申請受付など、幅広い業務を経験しました。行政職員として心がけていたのは、「制度を正確に伝えつつ、温かく対応する」こと。窓口に来られる方は不安を抱えています。制度の説明だけでなく、その方の状況に合わせた情報提供を大切にしてきました。退職後、民間の相談支援事業所に転職し、今度は「申請する側」の視点も理解できました。行政と民間、両方の経験を活かして、制度の仕組みだけでなく、「実際にどう使うか」まで伝えられるのが強みです。記事では、障害者総合支援法、障害者雇用促進法、各種手当など、制度の正確な情報を「難しい言葉を使わず」解説します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
公務員として地域に貢献したいと思い、障害福祉課に配属されたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
窓口対応で、制度を活用して生活が楽になったと感謝されたこと。行政と民間両方の視点を得られたこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
制度の正確な情報を「難しい言葉を使わず」伝えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
将棋、歴史小説
🔍 最近気になっているテーマ
マイナンバーと福祉制度の連携、自治体DXの進展





