転職を考えたほうが良いケースと見極め方

無理を続ける前に知っておきたい転職のサイン
今の職場で働き始めてから、朝起きるのが辛くなったり、仕事中に涙が止まらなくなったりすることはありませんか。「せっかく採用されたのだから」「石の上にも三年というし」と、自分の気持ちを押し殺して頑張り続けている方は少なくありません。しかし、障害特性と環境のミスマッチは、努力だけでは解決できないことが多々あります。
転職は決して「逃げ」でも「挫折」でもありません。自分らしく、持続可能な働き方を見つけるための「前向きな環境調整」です。本記事では、支援現場の経験から見えてきた、転職を考えたほうが良い具体的なケースと、後悔しないための見極め方について詳しくお伝えします。ご自身、あるいは大切なご家族の現状と照らし合わせながら、読み進めてみてください。
この記事を読むことで、今の悩みが「解決可能なもの」なのか「場所を変えるべきもの」なのかが整理され、次の一歩をどう踏み出すべきかが明確になるはずです。
心身の健康が損なわれているケース
日常生活に支障が出ているサイン
最も優先すべきは、あなたの心と体の健康です。仕事が終わって帰宅した後、食事を摂る気力がなかったり、休日に一日中寝込んでいても疲れが取れなかったりする場合は、黄色信号です。特に、障害特性に関連した症状が悪化しているときは、現在の業務負荷がキャパシティを超えている可能性が高いです。
例えば、精神障害のある方が、職場での緊張感から睡眠障害を再発させたり、発達障害のある方が過覚醒(神経が張り詰めた状態)になり、私生活でもパニックを起こしやすくなったりするケースです。健康を損なってまで続けるべき仕事は、この世に一つもありません。体調の悪化は、環境があなたに合っていないことを知らせる最も正直なサインです。
まずは主治医に現状を相談し、「休職」で回復する見込みがあるのか、それとも「環境そのもの」を変える必要があるのかを客観的に判断してもらいましょう。診断書が出るレベルの不調であれば、無理をして出勤を続けるよりも、一度立ち止まって転職を視野に入れることが、長期的な就労への近道となります。
「頑張りすぎ」が招く二次障害のリスク
障害のある方が周囲に迷惑をかけまいと無理を重ねた結果、うつ病や適応障害などの二次障害を併発してしまうことがあります。これは、もともとの障害以上に回復に時間がかかる場合があり、非常に注意が必要です。「まだ頑張れる」と思っているときこそ、実は限界に近いことが多いのです。
実例として、ある事務職の女性は、聴覚過敏がある中で賑やかなオフィスでの勤務を続けていました。耳栓をしても防げない音のストレスに耐え続けた結果、重度の聴覚過敏と対人恐怖を併発し、退職後1年以上も家から出られなくなってしまいました。もし彼女がもう少し早く「この環境は自分には合わない」と判断し、静かな職場への転職を考えていれば、これほどのダメージは避けられたかもしれません。
自分の限界を認めることは、恥ずかしいことではありません。むしろ、自分の特性を正しく理解している「プロフェッショナルな判断」と言えます。取り返しのつかない状態になる前に、今の場所が自分の心身を守れる場所かどうかを見極める必要があります。
⚠️ 注意
「死にたい」「消えてしまいたい」といった希死念慮や、急激な体重の増減がある場合は、転職活動よりも先に休息と治療が必要です。まずは命と健康を最優先に考えてください。
家族が気づくべき変化の兆候
ご本人は必死なあまり、自分の不調に気づかないことがあります。ご家族は、本人の「小さな変化」を見逃さないようにしてください。顔色が悪い、口数が減った、身だしなみに無頓着になった、といったサインはありませんか。また、朝の出勤前にトイレにこもる時間が長くなったり、帰宅後に暗い部屋でじっとしていたりするのも、強いストレスの兆候です。
ご家族にできるのは、問い詰めることではなく「最近、少し疲れているように見えるけれど大丈夫?」と、気づきを伝えることです。本人が「大丈夫」と言っても、客観的な変化を伝えてあげることで、本人が自分の状態を省みるきっかけになります。転職を勧めるのではなく、「今の場所がすべてではないよ」という安心感を提供することが大切です。
合理的配慮が機能していないケース
相談しても改善が見られないとき
障害者雇用促進法において、企業には「合理的配慮」を提供する義務があります。しかし、現場では「配慮を申し出たけれど、忙しさを理由に断られた」「形式的な配慮だけで、実態が伴っていない」ということが起こり得ます。例えば、マニュアル化をお願いしたのに口頭指示ばかりが続く、といったケースです。
一度や二度の伝え漏れであれば、再度相談の場を設けるべきです。しかし、何度も具体案を提示し、支援員を介して改善を求めたにもかかわらず、数ヶ月経っても状況が変わらないのであれば、その企業には「障害特性を理解し、共に働く文化」が欠けている可能性があります。個人の努力で企業の体質を変えるのは非常に困難です。
このような環境で働き続けると、本人の自己肯定感は削られていくばかりです。「自分が仕事ができないから配慮してもらえないのだ」と自分を責める必要はありません。配慮の提供は企業の義務であり、それがなされない場所は、働く場所として適切ではないと判断して良いケースです。
周囲の理解不足と孤立感
職場で「障害があるからといって甘えている」といった心ない言葉をかけられたり、必要な情報の共有から外されたりするなど、心理的な安全性が保たれていない場合も、転職を検討すべきサインです。特に、直属の上司が障害への理解を拒んでいる状況は、本人にとって非常に過酷です。
人間関係の悩みは、どのような職場でもありますが、障害特性を否定されるような言動はハラスメントに該当します。会社に人事部やコンプライアンス窓口がある場合は相談すべきですが、それらが機能していない小規模な職場で孤立を深めているのなら、新しい環境を探したほうが建設的です。
「理解してくれる人が一人もいない」と感じる職場での就労は、精神的な摩耗が激しく、長く続けることは不可能です。あなたの特性を尊重し、チームの一員として迎えてくれる企業は他に必ず存在します。今の場所で戦い続けるエネルギーを、新しい場所を見つけるエネルギーに転換してみましょう。
💡 ポイント
合理的配慮は「わがまま」ではありません。業務を円滑に遂行するための「土台作り」です。この土台を一緒に作ろうとしない職場は、長期雇用を前提としていない可能性があります。
業務内容と特性の致命的なミスマッチ
入社前に聞いていた業務内容と実際の内容が大きく異なり、それが自分の障害特性にとって最も苦手な分野である場合も、転職の正当な理由になります。例えば、「PC入力中心」と聞いていたのに、実際は「頻繁な電話応対と来客対応」がメインだったというようなケースです。
苦手を克服する努力も大切ですが、障害特性による苦手は、努力だけでは埋められない溝があります。マルチタスクが困難な特性がある方に、矢継ぎ早に電話が入る環境を強いるのは、泳げない人を海に放り込むようなものです。「自分の強みが活かせる環境」を選ぶことは、障害者雇用において最も重要な戦略です。
キャリアアップや成長を目指すケース
今の業務にやりがいを感じられなくなった
「障害者雇用だから、ずっと同じ単純作業でいいだろう」と企業側が決めつけてしまい、本人が成長を望んでいるのに新しい仕事を任せてもらえないケースがあります。数年勤めて仕事に慣れ、もっと責任のある仕事や、専門性を高める仕事に挑戦したいという意欲が出てくるのは、非常に喜ばしいことです。
まずは社内で「キャリアアップの希望」を伝え、職域を広げてもらう交渉をしましょう。しかし、企業の制度上、障害者雇用の枠では昇進や昇給が全く望めない、あるいは業務の幅が限定されていることが明確な場合は、転職が有力な選択肢となります。「安定」の次に「成長」を求めるのは、自然なステップです。
最近では、障害者雇用であっても総合職に近い待遇や、リーダー職への登用を積極的に行う企業も増えています。今の職場で「これ以上の学びがない」と感じ、毎日がルーチンワークの繰り返しで虚しさを感じているのなら、自分の市場価値を信じて外の世界に目を向けてみる時期かもしれません。
待遇や労働条件への不満
「お給料が低すぎて自立した生活が送れない」「正社員登用の話があったはずなのに、何年も契約社員のまま」といった待遇面の悩みも、転職を考える正当な動機です。特に、実家を出て一人暮らしをしたい、将来のために貯金をしたいといったライフプランがある場合、今の収入でそれが実現可能かを冷静に計算する必要があります。
障害者雇用枠の平均賃金は、一般就労と比較して低い傾向にありますが、企業によって差が大きいのも事実です。スキルを身につけた今なら、入社当時よりも高い年収を提示してくれる企業に出会える可能性は十分にあります。我慢して働き続けることで、将来への不安を膨らませるよりも、より良い条件を求めて動くことは賢明な判断です。
| チェック項目 | 今の職場 | 転職で期待すること |
|---|---|---|
| 年収・時給 | 生活に余裕があるか? | 希望する生活水準 |
| 雇用形態 | 正社員登用はあるか? | 長期的な安定性 |
| キャリアパス | 昇進の可能性があるか? | 目指したい職位・役割 |
スキルのミスマッチと市場価値
あなたが持っている高度なITスキルや語学力が、今の職場で全く活かされず、シュレッダー業務ばかりを任されている……。これは「スキルの埋没」であり、社会にとっても損失です。障害があるからといって、能力を低く見積もられる環境に甘んじる必要はありません。
「自分にはこの仕事しかない」と思い込んでいませんか。支援機関(就労移行支援事業所など)に登録し、自分のスキルを棚卸ししてみると、意外な職種で需要があることが分かるかもしれません。自分の価値を正当に評価してくれる場所を探すことは、自尊心を保つ上でも非常に重要です。
転職を決断する前の「見極め」チェックリスト
一時的な「疲れ」ではないか確認する
「辞めたい」と思ったとき、それが一時的な体調不良や、特定の出来事(一つのミスなど)による一時的な感情でないか、一晩置いて考えてみましょう。季節の変わり目や、低気圧の影響、あるいはプライベートでの出来事が重なって、「すべてをリセットしたい」という衝動に駆られているだけかもしれません。
見極めのポイントは、「楽しかった時期や、やりがいを感じた時期が過去に一度でもあったか」です。もし、過去には安定して働けていたのであれば、転職の前に「休暇」を取ることで解決する可能性があります。有給休暇を数日消化し、仕事から完全に離れた状態で、改めて自分の心に聞いてみてください。それでも「やはり戻りたくない」と強く思うのであれば、それは本物のサインです。
また、職場の環境そのものではなく、自分自身の「体調管理」を見直すことで解決できる問題かどうかも重要です。睡眠不足や栄養の偏り、服薬の乱れなどが原因で、仕事が辛く感じている場合は、場所を変えても同じ問題が起こる可能性があります。足元を固めてから決断しましょう。
改善の余地をすべて使い切ったか
転職はエネルギーを使います。今の職場で、まだ試していない「改善策」はありませんか。例えば、以下のステップを踏んだかどうかを確認してください。
- 上司に具体的な「困りごと」と「希望する配慮」を伝えたか
- 社内の人事担当者や産業医、産業看護師に相談したか
- 就労定着支援員やジョブコーチなど、外部の支援者を職場に呼んで調整してもらったか
- 業務内容の変更や、部署異動の可能性を打診したか
これらの手段を講じても状況が変わらないのであれば、あなたは十分努力しました。「やれるだけのことはやった」という納得感があれば、転職活動において「なぜ前職を辞めたのか」という質問に対しても、自信を持って「環境改善に努めましたが難しかったためです」と答えることができます。
✅ 成功のコツ
感情的に辞めるのではなく、客観的な「事実(改善されなかった点)」を書き出しておきましょう。これが次の職種選びの「失敗しないための条件」になります。
次の職場に求める条件は明確か
「今の職場が嫌だから」というネガティブな理由だけで辞めてしまうと、次の職場でも同じ不満を抱えることになりかねません。転職を考えるなら同時に、「次の職場で絶対に譲れない条件は何か」を整理しましょう。
「給与は下がってもいいから、残業がないこと」「通院のために週1回の中休みが取れること」「電話応対が一切ないこと」など、優先順位をつけます。この条件が明確であればあるほど、転職活動の精度は上がり、ミスマッチを防ぐことができます。見極めとは、今の職場を採点するだけでなく、自分の「理想の働き方」を再定義する作業でもあります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 勤続年数が短いと、次の就職に不利になりますか?
A. 一般的には「短期間での離職」は懸念材料になりますが、障害者雇用の場合は事情が異なります。「障害特性と環境のミスマッチ」という正当な理由があり、それを次への学びとして説明できれば、理解を示してくれる企業は多いです。むしろ、不調を隠して無理を続け、空白期間(療養期間)が長引くことの方が、その後の再就職のハードルを上げることがあります。
Q2. 転職活動は、仕事を辞めてから行うべきですか?
A. 精神的なゆとりがあるなら、在職しながらの転職活動をお勧めします。収入が途絶える不安がありませんし、今の仕事と比較しながら冷静に応募先を選べるからです。ただし、体調が著しく悪い場合は、まずは退職(または休職)して心身を回復させることを優先してください。焦ってボロボロの状態で面接を受けても、良い結果は得られにくいからです。
Q3. 家族が転職に反対しています。どう説得すればいいでしょうか?
A. ご家族は、あなたの将来を心配するあまり「今辞めたら次がないのではないか」と不安に思っています。感情的に訴えるのではなく、具体的な数値や事実(現在の体調、主治医の意見、改善されなかった合理的配慮の内容など)を伝えてみてください。また、「次は就労移行支援事業所を使って、しっかり準備する」といった具体的なプランを示すことで、家族の不安を軽減できるかもしれません。
Q4. 転職エージェントとハローワーク、どちらが良いですか?
A. それぞれ特徴があります。ハローワークは地元の中小企業の求人に強く、誰でも利用しやすいのがメリットです。一方、障害者枠に特化した転職エージェントは、大手企業の求人を多く扱っており、キャリアアップや高待遇を目指す場合に適しています。また、エージェントは企業との交渉(配慮の調整など)を代行してくれることが多いです。まずは両方併用し、自分に合う担当者を見つけるのが良いでしょう。
再就職を成功させるためのステップ
支援機関との「つながり」を復活させる
一度就職すると、支援機関との連絡が途絶えがちですが、転職を考えたときこそ、プロの力を借りる絶好のタイミングです。かつて利用していた就労移行支援事業所や、地域の障害者就業・生活支援センター(ナカポツ)に連絡してみましょう。
「一人で求人票を見ていたときは不安しかなかったけれど、支援員さんに今の悩みを話したら、『それは転職して正解なケースですよ』と言われて心が軽くなりました。履歴書の書き直しも手伝ってもらえて、自信が持てました。」
— 20代・ADHD当事者の転職体験談
第三者に相談することで、自分の置かれている状況を客観視できます。また、支援機関は「離職率の高い企業」などの裏事情を把握していることもあり、ブラック企業を避けるための強力な味方になります。
円満退職に向けた準備
転職を決意したら、最後は綺麗に去ることも大切です。退職理由は「今の職場への不満」を直接ぶつけるのではなく、「自分の特性をより活かせる環境で挑戦したい」「体調管理を優先し、自分に合ったペースで働きたい」といった、自分を主語にした前向きな表現に変換しましょう。
引継ぎをしっかり行い、感謝を伝えて辞めることは、あなたの「信頼」として残ります。障害者雇用のコミュニティは意外と狭く、どこで以前の同僚や上司と再会するか分かりません。何より、円満に退職できたという成功体験が、次の職場へ向かうあなたの背中を押してくれます。
まとめ
今の職場で「転職」の二文字が頭をよぎるのは、あなたが自分の人生を真剣に生きようとしている証拠です。障害者雇用において、一度目の職場で完璧なマッチングが成立するケースばかりではありません。多くの人が、数回の試行錯誤を経て、自分にぴったりの「居場所」を見つけています。
- 心身の不調や二次障害のサインが出ているなら、健康を最優先に決断する。
- 合理的配慮の相談を尽くしても改善されないなら、場所を変える時期だと心得る。
- キャリアアップや待遇改善を求めるのは、素晴らしい成長の証である。
まずは、今の悩みをノートに書き出したり、信頼できる支援員や家族に話したりすることから始めてみませんか。今の職場に留まるにせよ、去るにせよ、「自分で納得して選んだ」という感覚が、あなたの明日を明るく照らしてくれます。あなたは、もっと大切にされ、もっと輝ける場所で働く価値がある人間だということを、忘れないでください。

伊藤 真由美
(いとう まゆみ)33歳📜 保有資格:
特別支援学校教諭免許、社会福祉士
特別支援学校で5年教員を務めた後、就労継続支援B型事業所で5年勤務。「学校から社会へ」の移行支援と、「自分のペースで働く」を応援します。進路選択や作業所選びの情報をお届けします。
大学で特別支援教育を学び、卒業後は特別支援学校の教員として5年間勤務。知的障害や発達障害のある生徒たちの進路指導を担当する中で、「卒業後の支援」の重要性を痛感しました。そこで教員を辞め、就労継続支援B型事業所に転職。現在は生活支援員として、様々な障害のある方が自分のペースで働く姿を日々見守っています。特に大切にしているのは、「働くことがすべてではない」という視点。一般就労が難しくても、作業所での仕事や日中活動を通じて、生きがいや居場所を見つけることは十分可能です。記事では、特別支援学校卒業後の進路選択、就労継続支援A型・B型の違い、作業所での実際の仕事内容など、「自分らしい働き方・過ごし方」を見つけるための情報を発信します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
特別支援教育を学び、「卒業後の支援」の重要性を感じたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
作業所での仕事や日中活動を通じて、生きがいや居場所を見つけた方々を見守ってきたこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
「働くことがすべてではない」という視点を大切に、自分らしい過ごし方を見つける情報を発信します。
🎨 趣味・特技
ハンドメイド、音楽鑑賞
🔍 最近気になっているテーマ
発達障害のある方の就労支援、工賃向上の取り組み





