ホーム/記事一覧/当事者・家族の声/家族・支援者の声/兄弟姉妹へのケアを心がけるようになった理由

兄弟姉妹へのケアを心がけるようになった理由

📖 約50✍️ 鈴木 美咲
兄弟姉妹へのケアを心がけるようになった理由
障害児育児の中で見落とされがちな「きょうだい児(兄弟姉妹)」のケアに焦点を当てた記事です。自身の経験から、娘が抱えていた孤独感や「ヤングケアラー」としての負担に気づき、どのように関わり方を変えていったかを詳しく綴っています。1日15分の二人きりの時間(スペシャルタイム)の確保や、将来の情報の透明化、感情の全肯定といった具体的なアプローチを紹介。家族一人が犠牲にならない「持続可能な家族の形」を目指すための指針を、温かい視点で提示しています。

見落としていた「もう一人の宝物」——きょうだい児の心に光を当てるまで

障害のあるお子さんの育児に追われる毎日の中で、ふと気づくと、その兄弟姉妹(きょうだい児)に「我慢」ばかりさせてしまっていませんか。「お兄ちゃんだから」「お姉ちゃんだから」という言葉で、彼らの本当の気持ちを後回しにしていないでしょうか。私もかつては、目の前のケアに必死で、隣にいる娘の寂しさに気づけなかった親の一人でした。

この記事では、障害児の親として私が直面した「きょうだい児ケア」の重要性と、具体的な関わり方の変化について詳しくお伝えします。2026年現在の福祉社会においても、きょうだい児が抱える孤独感は根深い問題です。実例を交えながら、家族全員が笑顔で過ごすためのヒントを探っていきましょう。読み終える頃には、お子さん一人ひとりと向き合う新しい視点が見つかるはずです。


当たり前になっていた「きょうだい」の沈黙

「聞き分けの良い子」という仮面

我が家には、重度の自閉症を抱える息子と、その2歳年下の娘がいます。息子がパニックを起こすたびに家の中は戦場になり、私は息子の安全を守ることで精一杯でした。そんな時、娘はいつも静かに自分の部屋へ行き、一人で本を読んだり絵を描いたりして過ごしていました。私はその姿を見て、「この子は手がかからなくて助かる」とさえ思っていたのです。

しかし、それは娘が納得していたわけではなく、親を困らせないための「精一杯の配慮」でした。幼いながらに、親が息子の対応で疲れ果てていることを察し、自分の要求を飲み込んでいたのです。彼女にとっての沈黙は、親への信頼ではなく、これ以上親に負担をかけたくないという「諦め」に近いものでした。

「あとでね」が奪っていたもの

娘が学校での出来事を話そうとしても、息子の奇声にかき消されたり、ケアの最中だったりすることが多々ありました。私は無意識に「ちょっと待って」「あとでね」を繰り返していました。その「あと」が訪れることは少なく、娘の話はいつも未完のまま、夜の静寂の中に消えていきました。娘の表情から少しずつ生気が失われていることに、私は長い間気づけませんでした。

子供にとって、親に話を聞いてもらうことは「自分の存在を認められること」と同義です。「あとで」と言われ続けることは、娘にとって「自分の存在は二の次である」というメッセージとして届いていました。彼女の心の中に、少しずつ孤独という名の澱(おり)が溜まっていたのです。これは、障害児家庭で非常によく見られる「見えない我慢」の典型でした。

⚠️ 注意

「きょうだい児」は、親の愛情を奪い合う相手として障害のある兄弟を捉えてしまうことがあります。この葛藤が放置されると、将来的な自己肯定感の低下や、家族との疎遠に繋がる可能性があります。

突然溢れ出した娘の涙

そんなある日、些細なきっかけで娘が激しく泣き出しました。夕食のおかずが自分の嫌いなものだった、ただそれだけのことです。普段なら黙って食べるはずの彼女が、「どうしてお兄ちゃんの好きなものばかりなの!」と絶叫し、泣き崩れました。私はその時初めて、彼女の心がいかに限界に達していたかを思い知らされました。

彼女が泣いていたのは、おかずのことではありませんでした。今まで積み重なってきた、誰にも言えなかった「寂しさ」や「不公平感」が、一気に決壊したのです。私は娘を抱きしめることしかできませんでしたが、その小さな背中が震えるのを感じながら、私は自分の過ちを痛感しました。「ケアを必要としているのは、息子だけではない」。その事実に、ようやく真正面から向き合うことになったのです。


きょうだい児の心理的背景を知る

ヤングケアラーという現代の課題

最近では「ヤングケアラー」という言葉を耳にする機会が増えました。これは、本来大人が担うべき家族のケアを、日常的に子供が行っている状態を指します。きょうだい児の場合、直接的な介助だけでなく、「兄弟のパニックをなだめる」「親の愚痴を聞く」といった精神的なケアの役割を担わされるケースが多く見られます。2026年現在、厚労省の調査でも小中高生の一定数がこうした状況にあることが報告されています。

娘もまた、無意識のうちにヤングケアラーの役割を背負っていました。親が落ち込んでいると「私がしっかりしなきゃ」と、自分の子供らしさを封印してしまっていたのです。こうした過度な責任感は、成長過程において「自分自身の人生を選択すること」を難しくさせます。ケアは家族の役割ですが、それを子供の肩に乗せてはならないという境界線を、親が意識的に引く必要があります。

孤独感を生む「情報の格差」

きょうだい児が不安を感じる要因の一つに、「家庭内で何が起きているのか正確に知らされていない」という点があります。障害の特性や将来の見通しについて、親が「子供には難しいから」と伏せてしまうと、きょうだい児は想像で不安を膨らませてしまいます。「お兄ちゃんはいつ治るの?」「将来、私がずっと面倒を見なきゃいけないの?」といった疑問を抱えたまま、誰にも聞けずにいるのです。

こうした情報の欠如は、家庭内での疎外感を強めます。適切な年齢に応じた言葉で、現在の状況を説明することは、きょうだい児を一人の「家族のメンバー」として尊重することに繋がります。「秘密」がない状態を作ることで、彼らは初めて家族というチームの一員として、安心して自分の役割を見つけることができるようになります。

💡 ポイント

きょうだい児に説明する際は、「あなたのせいではないこと」「本人の特性であること」「親がしっかりとサポートの計画を立てていること」を明確に伝え、彼らの不安を解消してあげましょう。

周囲の視線と闘う小さなプライド

外出した際、障害のある兄弟が目立つ行動をとると、きょうだい児は周囲の視線に晒されます。からかわれたり、特別視されたりすることで、兄弟を「恥ずかしい」と感じてしまう自分に罪悪感を抱くこともあります。この葛藤は非常に残酷です。彼らにとって兄弟は愛すべき存在であると同時に、自分の平穏な日常を脅かす存在にもなり得るからです。

親は、「恥ずかしいと思ってもいいんだよ」と、彼らのネガティブな感情を肯定してあげることが大切です。その感情を否定してしまうと、彼らは自分の本心を押し殺し、家庭内での居場所をさらに失ってしまいます。「どんな気持ちを抱いても、あなたはあなたのままで素晴らしい」。そのメッセージを送り続けることが、彼らのプライドを守る唯一の道です。


具体的な「きょうだい児ケア」の実践

1日15分の「スペシャルタイム」

私が最初に取り入れたのは、1日わずか15分間だけ、娘と二人きりになる時間を作ることでした。息子をヘルパーさんに預けている時間や、寝かしつけた後の時間など、どんなに短くても「娘のためだけの時間」を最優先にしました。この時間は、勉強の指摘や説教は一切禁止です。ただ、彼女がやりたいことを一緒にやり、彼女の話を聞くだけの贅沢な時間です。

たった15分。しかし、この積み重ねが驚くほどの効果を発揮しました。娘は少しずつ、学校での不満や友達との悩み、そして「本当はお母さんと〇〇に行きたかった」という本音を漏らすようになりました。「予約された愛情の時間」があることで、彼女は日中の忙しい時間帯も、安心して待つことができるようになったのです。量よりも質、そして継続が重要であることを実感しました。

「個別のアイデンティティ」を認める

「〇〇くんの妹」ではなく、彼女自身の名前で一人の人間として向き合うことを意識しました。例えば、娘が何かを達成したときは、障害のある息子との比較ではなく、彼女自身の成長を最大限に賞賛しました。また、彼女の趣味や習い事など、障害のある息子とは一切関係のない「彼女だけの領域」を家族で大切にしました。

家庭内に「障害児中心ではない時間と空間」を作ることは、きょうだい児にとって息継ぎができる場所を作るようなものです。彼女が自分の人生を歩んでいることを、親が全力で応援している姿勢を示す。これにより、彼女は「自分の価値は、兄弟の世話をすることにあるのではない」という健全な自己認識を持てるようになりました。

これまでの関わり 新しい関わり(心がけていること)
「お姉ちゃんだから我慢して」と言う 「我慢させてごめんね、ありがとう」と伝える
障害のある子を優先して行事を選ぶ きょうだい児が主役の行事を100%楽しむ
きょうだい児を「小さな支援者」にする きょうだい児を「ただの子供」に戻してあげる
障害の話を避ける 年齢に応じた正しい知識を共有する

学校や支援機関との連携を強化する

家庭内だけで解決しようとせず、学校の先生や放課後等デイサービスのスタッフにも、娘の状況を相談しました。「家では息子にかかりきりになってしまうので、学校での娘の様子をよく見てほしい」とお願いしたのです。すると、学校側も娘の小さな変化に気づいてくれるようになり、彼女にとって家庭以外に「自分を認めてくれる場所」が増えました。

また、地域の「きょうだい会(きょうだい児同士が交流する場)」にも参加するようにしました。同じ境遇の仲間と出会い、「自分だけじゃないんだ」と思えたことは、彼女にとって大きな救いになったようです。2024年の調査でも、当事者同士の交流は心理的負担を30%以上軽減させるというデータがあります。外部の資源を頼ることは、きょうだい児ケアにおいても不可欠な要素です。

✅ 成功のコツ

きょうだい児に関わる時間を確保するために、あえて障害のあるお子さんのための「ショートステイ」や「レスパイト(休息)サービス」を積極的に活用しましょう。親の余裕こそが、きょうだい児ケアの最大の資源です。


実録:娘と私の「再出発」エピソード

二人の秘密のパンケーキ屋

きょうだい児ケアを意識し始めて半年が経った頃、私は娘と二人だけでパンケーキを食べに行きました。息子をショートステイに預けた、土曜日の午後のことです。最初はどこかぎこちなかった二人ですが、パンケーキが届く頃には、娘の顔に見たこともないような明るい笑顔が戻っていました。彼女は夢中で、クラスで流行っているダンスの話をしてくれました。

その帰り道、娘が私の手を握って言いました。「お母さん、今日はお兄ちゃんのパニックを気にしなくていいから、すごく楽しかった。でも、お兄ちゃんがいないと、ちょっとだけ静かすぎて変な感じだね」。その言葉を聞いて、私は涙が溢れました。彼女は息子を疎んでいたのではなく、「安心して過ごせる場所」を求めていただけだったのです。この日、私たちは本当の意味で「親子の再出発」をしました。

「お手伝い」を強要しなくなった日

以前の私は、買い物の荷物持ちや、息子の見守りを当たり前のように娘に頼んでいました。しかし、ある時を境に「今日は娘の宿題が優先」と決め、彼女を家の仕事から解放しました。すると驚いたことに、私が何も言わなくても、彼女の方から「お母さん、何か手伝おうか?」と言ってくれるようになったのです。

「やらされる役割」から「自ら選ぶ協力」へ。娘の自発的な優しさは、彼女自身の心のコップが満たされたからこそ溢れ出したものでした。親が彼女を大切にする姿を見せることで、彼女もまた自分を大切にし、そして家族を自然に思いやれるようになったのです。無理な役割分担を解消したことが、結果的に家族のチームワークを強めることになりました。

「相談してくれてありがとう」と言われた夜

娘が小学校高学年になった時、私は初めて息子の将来設計(グループホームの利用計画など)について、彼女にじっくりと話をしました。「お兄ちゃんの将来については、お父さんとお母さん、そして専門家の人たちが責任を持って考える。だから、あなたは自分の行きたい道を選んでいいんだよ」と伝えました。彼女は少し驚いた顔をしていましたが、最後には「相談してくれてありがとう。安心した」と微笑みました。

それまで彼女は、漠然と「自分が一生お兄ちゃんを支えなければならない」という重圧を感じていたのかもしれません。親がしっかりと将来のビジョンを示すことで、きょうだい児は自分の人生を自分のものとして描けるようになります。情報の共有は、彼女に「自由」をプレゼントする行為でもありました。今、彼女は自分の夢に向かって、明るく勉強に励んでいます。


きょうだい児ケアに関するよくある質問(FAQ)

Q. 障害のある子が常に騒いでいて、どうしても二人きりの時間が取れません。

まとまった時間を取ろうと気負わなくて大丈夫です。例えば、一緒にゴミを捨てに行く数分間、お風呂上がりの5分間のドライヤータイム、あるいは車での送迎中。そんな「スキマ時間」を意識的に活用してください。大切なのは時間の長さではなく、「今、あなたの話だけを聞いているよ」という姿勢を伝えることです。また、一時的なサービス(日中一時支援など)を利用して、物理的に場所を分けることも検討してみましょう。

Q. 兄弟を「恥ずかしい」「嫌い」と言うのですが、叱った方が良いでしょうか?

絶対に叱らないでください。それは、きょうだい児が抱える正直な、そして苦しい本音です。否定されると、彼らは自分の感情に蓋をしてしまい、より深い孤独に陥ります。「そう思う時もあるよね」「お母さんも、たまに辛くなることがあるよ」と、感情を共有・肯定してあげましょう。親に受け止めてもらえることで、彼らの「嫌い」という棘は少しずつ和らいでいきます。感情を外に出せることは、健全な発達の証拠です。

Q. 私(親)が疲弊していて、きょうだい児を気遣う余裕が全くありません。

まずは、あなた自身のケアを最優先してください。あなたが倒れてしまっては、ケアもクソもありません。福祉サービスの利用を増やしたり、家事を簡略化したりして、まずはあなたの「心の余白」を作りましょう。親の顔色を伺うのがきょうだい児の特性ですから、親が笑顔でいることが、彼らにとって最大の安心材料になります。「今日は疲れているから、これだけしかできない」と正直に伝え、不完全な自分を許してあげてください。


まとめ

きょうだい児ケアを心がけるようになったのは、家族の誰か一人が犠牲になる幸せは、本当の幸せではないと気づいたからです。障害のある子も、きょうだい児も、そして親であるあなたも。それぞれが一人の人間として大切にされる権利があります。

  • 1日短時間でも「二人きりの時間」を予約する:愛情の総量ではなく、個別の時間を確保することが安心に繋がります。
  • ネガティブな感情をありのままに受け止める:葛藤を言葉にできる環境が、健やかな自己肯定感を育みます。
  • 親が将来の責任を明確に示す:きょうだい児に背負わせないという宣言が、彼らの自由な人生を支えます。

まずは今日、きょうだい児のお子さんに「大好きだよ。いつも助かっているけれど、無理しなくていいんだよ」と伝えてみませんか。その一言が、硬くなっていた彼らの心を解きほぐす魔法になるかもしれません。家族というチームが、お互いに「個」を尊重し合いながら歩んでいけるよう、今日からできる一歩を一緒に踏み出していきましょう。

鈴木 美咲

鈴木 美咲

すずき みさき42
担当📚 実務経験 15
🎯 相談支援🎯 当事者・家族支援

📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員

相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。

社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。

🎨 趣味・特技

ヨガ、カフェ巡り

🔍 最近気になっているテーマ

ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア

📢 この記事をシェア

関連記事