家族の負担を軽減する相談・行政サービスの活用法

家族の負担を軽減する相談・行政サービスの活用法
障害のあるご家族を支えるということは、喜びや発見に満ちている一方で、終わりが見えない介助や手続き、経済的な不安など、計り知れない負担が伴うものです。「自分の時間がない」「この先どうなるのだろう」といった悩みを抱えながら、懸命に頑張っているご家族は決して少なくありません。
しかし、ご家族が倒れてしまっては、誰も幸せにはなれません。実は、国や自治体が提供する障害福祉サービスや相談窓口は、ご家族の負担を軽減し、ご家族自身の生活と健康を守るためにこそ存在しています。この事実は、意外と知られていないかもしれません。ご家族が抱え込みがちな問題に対して、行政サービスは具体的な解決策を提供してくれます。
この記事では、ご家族の「休息」と「将来の安心」を確保するための行政サービスの具体的な活用法と、専門的な相談窓口を体系的に解説します。必要な支援を適切に活用し、ご家族も笑顔でいられる未来を目指しましょう。
家族の「休息」を確保するための行政サービス
障害のある方の介護や介助は、24時間365日休みがないことが多く、ご家族の心身に大きな疲労を蓄積させます。ご家族が一時的にでも介護から離れ、心身を休ませるための「レスパイト(休息)ケア」を目的としたサービスは、行政サービスの基本中の基本です。
ここでは、最も活用すべきレスパイト系のサービスを紹介します。
短期入所(ショートステイ)の積極的利用
短期入所、一般的に「ショートステイ」と呼ばれるサービスは、障害のある方が短期間、施設に入所して、必要な介護や支援を受けられるサービスです。これは、ご家族が旅行や冠婚葬祭などの用事がある時はもちろん、ご家族が疲れて休息を取りたいときにも遠慮なく利用できるサービスです。
- 利用目的:ご家族の病気・出産、冠婚葬祭、精神的・肉体的疲労の軽減(レスパイト)。
- 利用日数:原則として、年間日数の上限が設けられていますが、市町村の判断により、ご家族の状況に応じて柔軟に対応してもらえる場合があります。
- 利用対象:障害支援区分が認定されている方。特に区分が高くなるほど、必要性が認められやすい傾向にあります。
短期入所は、施設探しや事前の面談などが必要ですが、一度利用先を決めておけば、急な利用が必要になった際にも安心です。
居宅介護(ホームヘルプ)の活用
居宅介護(ホームヘルプ)は、ホームヘルパーがご自宅に訪問し、入浴、排せつ、食事などの身体介護や、調理、洗濯、掃除などの生活援助を行うサービスです。このサービスは、ご家族が外出している間の介助だけでなく、ご家族が家にいる間の負担を軽減するためにも活用できます。
💡 ポイント
「自分も家にいるから」と遠慮せず、ぜひホームヘルパーを活用しましょう。特に夜間や早朝の支援を利用することで、ご家族がまとまった睡眠時間を確保しやすくなります。ヘルパーさんに任せることで、ご家族は心置きなく自分のことに集中できます。
利用時間や頻度は、相談支援専門員が作成するサービス等利用計画に基づいて決定されます。ご自身の負担を明確に伝え、計画に盛り込んでもらうことが重要です。
日中活動系サービスによる日中の確保
日中活動系のサービス(生活介護、就労継続支援など)は、障害のある方が日中に活動できる場を提供することで、ご家族が日中の自由な時間や、就労のための時間を確保できるようにする役割も担っています。
例えば、重度の障害を持つ方の日中活動の場である生活介護を利用することで、ご家族は平日の昼間に仕事や趣味、休息などに充てることができます。これらのサービス利用時間も、ご家族の負担軽減という観点から、最大限に活用すべきです。
専門家による「継続的な相談体制」の構築
家族の負担は、介助疲れだけではありません。制度の複雑さや、将来への見通しが立たないことによる精神的なストレスも非常に大きいものです。これらの不安を軽減するためには、専門家による継続的な相談体制を構築することが欠かせません。
行政サービスの中核となる相談窓口を紹介します。
相談支援専門員とのパートナーシップ
障害福祉サービスを利用する上で、最も重要な専門家が「相談支援専門員」です。相談支援専門員は、行政サービスとご家族・ご本人を繋ぐ役割を担っており、ご家族の抱える悩みを言語化し、サービス利用計画に落とし込む専門家です。
相談支援専門員に依頼すべきこと:
- ご家族の体調や精神的な負担を正直に伝え、レスパイトの必要性を計画に組み込んでもらう。
- 利用できるサービスの種類や、利用時間、頻度について、最適な組み合わせを提案してもらう。
- サービス提供事業者との連絡調整や、行政との手続きを代行してもらう。
相談支援専門員は、ご家族の長期的な伴走者となる存在です。信頼できる専門員を見つけ、遠慮なく悩みを打ち明けられる関係を築くことが、負担軽減の第一歩です。
基幹相談支援センターの役割
市区町村が運営または委託している「基幹相談支援センター」は、地域の相談支援の中核を担う機関です。ここでは、複雑な事例や、複数の機関にまたがる相談にも対応してくれます。
「私は親の介護と子どもの支援の板挟みになり、どこに相談すればいいかわからなくなっていました。基幹相談支援センターに相談したところ、介護保険と障害福祉の両方の制度を横断的に見て、利用できるサービスを整理してくれました。専門的な知識を持つ職員がいる安心感は大きいです。」
— 50代・両親と子の介護・支援を担う家族
特に、どの相談支援事業所を選べば良いか分からない場合や、地域の福祉サービス全体の情報が必要な場合は、まず基幹相談支援センターに相談してみることをお勧めします。
ペアレントメンター・ピアサポートの活用
行政サービスではありませんが、自治体や支援団体が推進しているのが、「ペアレントメンター」や「ピアサポート」です。これは、同じ障害を持つお子さんやご家族の支援経験を持つ先輩家族が、後輩家族の相談に乗る活動です。
✅ 成功のコツ
専門家には相談しにくい感情的な辛さや、具体的な生活の知恵、地域でのサービス利用のリアルな情報などは、ピアサポートから得られることが多いです。孤独を解消し、前向きな気持ちを保つためにも、地域の交流会や支援活動に参加してみましょう。
多くの自治体や精神保健福祉センターなどで、ピアサポートグループが活動しています。ご家族が安心して気持ちを吐き出せる場を見つけることは、長期的な負担軽減に繋がります。
将来の不安を解消する経済・法務的なサービス
ご家族の負担には、「もし自分に何かあったらどうなるか」という、ご本人の将来に関する尽きることのない不安が含まれます。この不安を解消するためにも、行政や公的な支援制度を活用した、経済的・法務的な対策を講じることが重要です。
将来の安心を確保するための対策を紹介します。
成年後見制度と「法人後見」の検討
成年後見制度は、判断能力が不十分な方を、財産管理や生活上の契約締結などによって法的に保護する制度です。特にご両親が高齢になり、将来的にご本人の支援者がいなくなることを懸念される場合に検討すべき制度です。
近年では、親族ではなく、弁護士や司法書士、あるいは社会福祉協議会などの「法人」が後見人となるケースが増えています。法人後見は、個人の後見人よりも継続性や専門性が高く、ご家族の負担を大きく軽減します。
⚠️ 注意
成年後見制度の利用開始には、家庭裁判所への申し立てが必要です。また、一度開始すると原則として途中でやめることはできません。メリット・デメリットを十分に理解し、司法書士や行政書士、社会福祉協議会に相談してから進めることが大切です。
特別障害者扶養共済制度(ふくし共済)
特別障害者扶養共済制度(通称:ふくし共済)は、障害のある方を扶養している保護者が毎月掛金を納めることで、保護者に万が一のことがあった場合、残された障害のある方に終身にわたって年金が支給される制度です。
- 加入対象:障害のある方を扶養している65歳未満の保護者。
- 年金支給:保護者の死亡・重度障害時に、毎月2万円または4万円(加入口数による)が支給される。
これは、ご家族が亡くなった後の経済的な不安を公的にカバーする、非常に優れた制度です。社会福祉協議会や自治体の福祉課が窓口となっています。
福祉サービスの利用計画の見直し
将来を見据えた負担軽減策として、ご本人の自立度を高めるためのサービス利用計画の見直しも重要です。例えば、親御さんが元気なうちに、自立訓練や就労移行支援、あるいはグループホームでの生活体験を計画的に組み込むことです。
これにより、ご本人が親御さんに頼らずに生活できるスキルを身につけることができ、将来的な親御さんの負担や不安が軽減されます。相談支援専門員と密に連携し、5年後、10年後の生活設計を具体的に立てましょう。
サービスの利用を妨げる「心理的な壁」の乗り越え方
行政サービスは豊富にありますが、「他人に頼るのは申し訳ない」「家族のことは家族で見るべきだ」といった心理的な壁が、ご家族がサービスを活用するのを妨げているケースが多く見られます。この壁を乗り越えることが、負担軽減の最終的な課題です。
「自立」とは「依存先を増やすこと」
「自立」というと、全てを自分でできるようになることだと誤解されがちです。しかし、福祉の観点から見た真の自立とは、「必要なときに、必要な人に、必要な支援を求められること」、つまり「依存先を増やすこと」です。
ご家族が全てを抱え込む状態は、ご本人にとっても、ご家族にとっても、特定の依存先(家族)に全てを集中させている危険な状態と言えます。サービスを利用し、行政や専門家、事業者に頼ることは、ご本人とご家族の生活を安定させ、より質の高い自立を築くための健全なステップです。
「ご家族がサービス利用をためらう気持ちはよくわかります。しかし、私たちが提供する支援は、ご家族の代わりではなく、ご家族の力を最大限に発揮してもらうためのサポートです。罪悪感を持つ必要は全くありません。サービスは権利です。」
— 相談支援専門員
「罪悪感」を「権利」として捉え直す
サービス利用に対する罪悪感は、多くのご家族が抱える共通の感情です。しかし、障害福祉サービスは、税金や社会保険料によって賄われている、ご本人とご家族の「権利」です。利用することは、誰かに迷惑をかけることではなく、納税者として当然の権利を行使しているに過ぎません。
特に、短期入所や居宅介護は、ご家族が倒れないための「予防的なサービス」と位置づけられています。ご家族が元気でい続けること、ご家族の健康を守ることこそが、ご本人への最良の支援となるのです。この視点を持つことで、利用へのためらいは大きく軽減されるはずです。
記録と相談を「習慣化」する
負担軽減のためのサービス活用を成功させるには、「困ったら相談する」ことを習慣化する必要があります。多くのご家族は、限界を超えてから初めて相談に訪れますが、その段階では対応が遅れがちになります。
相談支援専門員との定期的な面談(モニタリング)の機会を大切にし、少しでも「疲れた」「困っている」と感じたら、すぐに相談するようにしましょう。日々の負担やストレスを記録する「心の健康日誌」のようなものを作成するのも有効です。
よくある質問(FAQ)と次のアクション
ご家族の負担軽減に関する行政サービスの利用について、具体的な疑問にお答えし、次のステップを明確にします。
Q1:レスパイト利用は「遠慮すべき」という雰囲気があるか?
A:残念ながら、一部の地域や事業所では、「本当に必要な人がいる」という雰囲気から、遠慮を促すような言動が見られることがあるかもしれません。しかし、これは制度本来の趣旨に反します。
制度の目的は、ご家族の休息(レスパイト)による共倒れの防止です。もし、そのような雰囲気を感じたら、相談支援専門員や基幹相談支援センターを通じて、ご家族の休息の必要性を明確に伝え、毅然とした態度でサービス利用を主張しましょう。自治体の福祉担当課に直接相談することも有効です。
Q2:サービスの利用計画は「家族の希望」を優先できるか?
A:はい、サービス等利用計画は、ご本人とご家族の意向を最大限に尊重することが法律で定められています。相談支援専門員は、ご家族の「この時間帯は休みたい」「こういう支援が必要」という具体的な希望を計画に反映させる義務があります。
ただし、利用できるサービス量には、ご本人の障害支援区分や、自治体の予算などの制約が伴います。希望を全て叶えるのが難しい場合は、専門員と優先順位をつけながら調整することが必要です。
Q3:相談窓口が多すぎて「どこから始めればいい」か?
A:相談窓口が多岐にわたるため、迷うのは当然です。まずは、「地域の障害福祉サービスの中核」である市区町村の福祉担当窓口、または基幹相談支援センターに電話してみるのが最も確実です。
そこで、「家族の負担が重いので、レスパイト系のサービスや、相談支援事業所を紹介してほしい」と伝えれば、適切な窓口につないでくれます。迷ったら、最も地理的に近い、公的な相談窓口から始めましょう。
次のアクション:相談支援専門員との面談を申し込む
ご家族の負担軽減を目指すための次のアクションは、相談支援専門員との初回面談を申し込むことです。まだ相談支援事業所を利用していない方は、まずお住まいの市区町村の福祉担当窓口で、事業所リストをもらいましょう。
面談では、ご本人のニーズ以上に、ご家族の現在の疲労度や休息の必要性を具体的に伝えることに重点を置いてください。この一歩が、サービス利用計画の作成と、ご家族が安心して休息できる未来を築くための出発点となります。
まとめ
- ご家族の負担軽減の核となるのは、短期入所や居宅介護といったレスパイト(休息)ケアを目的としたサービスであり、ご家族の健康維持のためにも積極的に利用すべき「権利」です。
- 制度の複雑さや将来の不安を解消するためには、相談支援専門員とパートナーシップを組み、特別障害者扶養共済制度などの法務的・経済的なサービスを組み合わせることが重要です。
- サービス利用に対する「罪悪感」は、「自立とは依存先を増やすこと」と捉え直し、行政サービスの利用を習慣化することで乗り越えられます。まずは市区町村の窓口や相談支援専門員に相談しましょう。

阿部 菜摘
(あべ なつみ)36歳📜 保有資格:
社会保険労務士、精神保健福祉士
社会保険労務士として障害年金の申請支援を専門に12年。「難しい」と言われる障害年金を、分かりやすく解説します。医療費助成、各種手当など、お金に関する制度情報をお届けします。
大学卒業後、社会保険労務士事務所に就職し、障害年金の申請支援を専門に担当してきました。これまで500件以上の申請をサポートし、多くの方の生活を支えるお手伝いをしてきました。障害年金は「難しい」「通らない」と諦めている方が多いですが、適切な書類準備と申請を行えば、受給できる可能性は十分あります。実際、初診日の証明が難しいケースでも工夫して認定を受けた例もあります。特に心に残っているのは、精神障害で長年苦しんでいた方が障害年金を受給できたことで、「経済的な不安が減り、治療に専念できるようになった」と感謝されたこと。制度を知ることの大切さを実感しました。記事では、障害年金の申請方法、特別障害者手当、医療費助成など、「知らないと損する」お金の制度を、専門家として正確かつ分かりやすく解説します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
社会保険労務士として、障害年金の申請支援を通じて多くの方の生活を支えたいと思ったことがきっかけです。
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精神障害のある方が障害年金を受給でき、「経済的な不安が減り、治療に専念できるようになった」と感謝されたこと。
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