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食事がとれない・偏食で困ったときの対応法

📖 約31✍️ 金子 匠
食事がとれない・偏食で困ったときの対応法
食事がとれない・偏食に悩む方と家族に向けた対応法を解説。偏食の背景には、感覚過敏による食感や匂いへの強い刺激、自律神経の乱れ、食物への不安(ARFID)があります。対策の基本は、感覚刺激を最小限に抑えた「安全な食品(セーフフード)」を軸に栄養を確保すること。調理においては、食感・匂い・色を調整し、食事環境からノイズを排除します。新しい食材への挑戦は、「ブリッジング」や「スモールステップ」など段階的に行い、無理のない範囲で多様性を広げることを推奨します。専門機関への相談の重要性も強調します。

食事がとれない・偏食で困ったときの対応法

「食べるものが極端に偏っている」「特定の食材の匂いや食感がどうしても受け付けない」「新しい場所や環境では食事が喉を通らない」—食にまつわるこのような悩みは、日常生活を送る上で非常に大きな困難をもたらします。

偏食や食欲不振は、単なる「好き嫌い」や「わがまま」ではなく、感覚過敏、自律神経の乱れ、あるいは発達障害の特性が深く関わっていることが多いのです。

この記事では、食事がとれない・偏食が起こる背景にあるメカニズムを理解し、無理なく栄養を確保するための具体的な工夫や、食事の時間を少しでも安心できるものにするための環境調整のテクニックをご紹介します。

食べることは生きる基本です。自分を責めず、あなたや大切な人にとって心地よく、継続可能な食事のあり方を一緒に探していきましょう。


偏食・食欲不振の背景にあるメカニズム

食事に関する困りごとは、身体的な要因だけでなく、心理的・感覚的な要因が複雑に絡み合って生じています。

感覚過敏と食の「マルチモーダル処理」

食べ物は、味覚だけでなく、視覚(見た目)、嗅覚(匂い)、触覚(食感や温度)など、複数の感覚(マルチモーダル)によって処理されます。

発達障害を持つ方、特にASD(自閉スペクトラム症)の方の中には、これらの感覚情報が過敏に処理されてしまう特性があります。

  • 例:ドロドロとした食感(触覚)が耐えられない、独特な強い匂い(嗅覚)が嘔吐反射を引き起こす、見た目(視覚)が変わると食べ物と認識できない、など。

偏食は、これらの感覚刺激を避けるための、脳の自然な防御反応であると理解することが大切です。

自律神経の乱れと「脳腸相関」

食欲は、自律神経によってコントロールされています。緊張やストレスで交感神経が優位になると、胃腸の働きが抑制され、食欲不振や胃もたれを引き起こします。

また、脳と腸は密接に連携しており(脳腸相関)、強いストレスや不安は、直接的に腹痛や吐き気などの身体症状として現れ、食事がとれなくなることがあります。

環境の変化や人間関係のストレスが大きい時期は、食欲不振が深刻化しやすくなります。

不安と強迫性による「回避行動」

偏食の中には、特定の食べ物に対する強い不安や恐怖(例:吐き気が怖い、食中毒が怖いなど)が背景にある場合があります。

これは、「食物回避・制限性食物摂取障害(ARFID)」と呼ばれる摂食障害の一種である可能性もあり、重度の栄養失調を引き起こすこともあります。

単なる「わがまま」ではなく、食に対する強い不安や、過去のつらい経験から生じた回避行動であると理解し、専門的なアプローチを検討する必要があります。


偏食を和らげる「感覚に合わせた調理」

偏食は無理に克服しようとせず、まずは本人が食べられるものを中心に栄養を確保しつつ、苦手な感覚刺激を和らげるための調理の工夫を取り入れましょう。

「食感」の調整が最重要ポイント

多くの偏食で、最も苦手とされるのが「食感」です。苦手な食感を徹底的に回避することで、食事のハードルを下げることができます。

  • ドロドロが苦手な場合:スムージーやヨーグルト、ポタージュなど、液状・半固形食は避ける。代わりに、カリカリ、サクサクとした固い食感のものを試す(例:揚げ物、クッキー、乾燥食品)。
  • 固形が苦手な場合:ミキサーにかけてペースト状にする、小さく刻んであんかけにするなど、元の形や食感を隠す調理法を用いる。

「色・匂い・温度」をコントロール

食感以外にも、視覚や嗅覚、温度が食事の妨げになる場合があります。

💡 ポイント

  • 色:カラフルで視覚刺激が強いものは避け、白や茶色など色の少ない単調な食品(例:白米、パン、フライドポテト)を許容する。
  • 匂い:調理中の強い匂い(魚、肉、煮物)を避けるため、換気を徹底する。食卓では、冷たい食事(匂いが立ちにくい)を選ぶ。
  • 温度:熱すぎず、冷たすぎず、本人が最も快適と感じる温度(例:常温)に調整する。

「安全な食品(セーフフード)」の固定

偏食の方には、必ず「これは食べられる」という安全な食品(セーフフード)が存在します。

セーフフードは、本人が心理的に安心できる栄養源として、最優先で確保し、その食品の「形、メーカー、調理法」を一切変えないことが大切です。

栄養バランスを心配するあまり、無理に新しい食品を試させようとするのは逆効果です。まずはセーフフードでカロリーと水分の確保に努めましょう。


食欲不振を和らげる「環境と時間」の調整

食事がとれない背景にストレスや不安がある場合は、食事の場所、時間、そして人との関わり方を調整することで、食事の際の緊張を和らげます。

「食事環境」のノイズリダクション

食事中の五感への刺激を減らし、脳が食べ物に集中できる環境を作りましょう。

要素 調整方法
視覚 食器の色や柄をシンプルにする。目線の先にテレビや強い光を置かない。
聴覚 咀嚼音や食器の音が苦手な場合は、静かなクラシック音楽などを小さく流してマスキングする。
人数 大人数での食事を避け、まずは一人または最も安心できる人と少人数で食べる。

食事を「義務」から「休憩」へ

食事の時間が「食べなければならない」という義務感やプレッシャーに変わると、自律神経が緊張し、食欲はさらに低下します。

食事の時間は、「活動を休止し、栄養補給とリラックスを行う時間」と捉え直し、プレッシャーをかけない環境づくりが重要です。

無理に完食させようとせず、「一口でも食べられたらOK」という柔軟な姿勢を持ちましょう。

「お腹が空く時間」を逆算する

食欲不振が続く場合でも、規則正しい食事時間を設定することが、自律神経を整える上で非常に重要です。

生活リズムが乱れている場合は、まず「起床時間」を固定し、朝食を食べることで体内時計をリセットします。

その上で、次の食事までの時間を一定に保ち、空腹感が湧く時間を逆算して食事の時間を設定しましょう。


栄養を補給し、新しい食品に挑戦するヒント

偏食が続く場合でも、最低限の栄養を確保するための代替手段と、無理のない範囲で食品の多様性を広げるための段階的なアプローチを学びましょう。

「液体栄養食」とサプリメントの活用

食事からの栄養摂取が困難な場合は、専門家の指導のもとで、手軽に栄養を補給できる代替手段を導入しましょう。

  • 完全栄養食:市販のプロテインや、医療用の濃厚流動食など、必要な栄養素がバランスよく含まれている液体栄養補助食品を活用する。
  • サプリメント:偏食によって不足しがちな鉄分、ビタミンD、カルシウム、亜鉛などを、サプリメントで補給する。

特に液体栄養食は、食感や匂いの刺激が少なく、効率的にエネルギーを確保できるメリットがあります。

「ブリッジング」で多様性を広げる

新しい食品に挑戦する際は、決して無理強いせず、ブリッジング(橋渡し)という段階的なアプローチで、本人の「安全な食品」の範囲を少しずつ広げていきます。

✅ 成功のコツ

新しい食材は、本人が許容できるセーフフードに「混ぜる」または「形を変えて添える」ことから始めましょう。

例:食べられるクッキーの生地に、ごく少量の苦手な野菜パウダーを混ぜてみる。匂いが大丈夫であれば、苦手な食材を器の隅に置いてみる。

成功体験を積み重ねることで、「新しいものを食べても大丈夫」という安心感を育てます。

「スモールステップ」で触れる機会を増やす

食べることに強い抵抗がある場合、いきなり口に入れる必要はありません。食品に対する警戒心を解くために、段階的に「触れる」機会を増やしましょう。

  1. 視る:食卓に新しい食材を置いて、眺めるだけにする。
  2. 触る:新しい食材を指先で触ってみる、匂いを嗅いでみる。
  3. 舐める:食材の切れ端を唇に触れる、舌の先にちょんとつけてみる。

これを遊びや好奇心を満たす体験として捉え、一歩進めたら大いに褒めることが大切です。


よくある質問(FAQ)と専門的な相談先

食の困りごとに関する、当事者の方やご家族からの疑問にお答えします。

Q. いつまで偏食は続きますか?

A. 偏食の背景にある感覚特性は、生涯を通じて残る可能性がありますが、大人になるにつれて経験値や環境適応能力が高まり、偏食の程度が緩和されるケースは多くあります。

重要なのは、「治す」ことではなく、健康を維持し、QOL(生活の質)を高めるために、無理のない範囲で柔軟な対応を学ぶことです。

Q. 食事中にパニックになるのはなぜですか?

A. 食事中にパニックになる場合、それは食べ物自体や、食事環境、あるいは同席者のプレッシャーに対する強い不安や恐怖、または感覚的なオーバーロード(過負荷)が原因と考えられます。

直ちに食事を中止し、落ち着ける静かな場所へ移動させましょう。そして、「何がきっかけだったか」を後で冷静に確認し、そのトリガーを環境から除去することが必要です。

Q. 偏食の相談はどこにすれば良いですか?

A. 食に関する困りごとは多角的なアプローチが必要です。

相談先 役割
小児科、心療内科、精神科 食物回避・制限性食物摂取障害(ARFID)などの診断と、心理・薬物療法。
管理栄養士 偏食の状況に基づいた栄養バランスの具体的なアドバイスと代替食品の提案。
言語聴覚士(ST) 口腔内の感覚統合や、食べ方・飲み込み方に関する訓練指導。


まとめ

  • 偏食・食欲不振の背景には、感覚過敏、自律神経の乱れ、食物への不安(ARFID)が複雑に関わっています。
  • 対策の基本は、食感・匂い・色を調整した「安全な食品(セーフフード)」を中心に栄養を確保することです。
  • 食事環境のノイズを減らし、食事を「義務」ではなく「休憩」と捉えることで、緊張を和らげることができます。

食の困りごとは、当事者にとっても家族・支援者にとっても、毎日続く大きな負担です。完璧を目指さず、「これなら大丈夫」というラインを一緒に見つけていきましょう。

まずは、今日から「食べられるものを否定しない、無理に新しいものを勧めない」というルールを徹底し、食事の時間を安心できる時間に変える一歩を踏み出してみてください。

主な相談窓口・参考情報

  1. 摂食障害専門医療機関: ARFIDなどの専門的な診断と治療。
  2. 保健所の栄養相談窓口: 地域の管理栄養士による無料相談。
  3. 発達障害者支援センター: 特性に基づいた食の困りごとの対処法の情報提供。

金子 匠

金子 匠

かねこ たくみ55
編集長📚 実務経験 30
🎯 生活サポート🎯 制度・法律

📜 保有資格:
社会福祉士、精神保健福祉士

障害者支援施設で30年間勤務し、施設長を経験。現在はすぐサポ編集長として、障害のある方とご家族が必要な情報にアクセスできる環境づくりに取り組んでいます。「制度は複雑だけど、使えば生活が楽になる」という信念のもと、分かりやすい情報発信を心がけています。

大学卒業後、障害者支援施設に就職し、30年間にわたり現場で支援に携わってきました。生活支援員として10年、サービス管理責任者として15年、そして施設長として5年の経験があります。特に印象に残っているのは、重度の知的障害があり、施設入所が当然と思われていた方が、適切な支援と環境調整により地域での一人暮らしを実現したケースです。「できない」と決めつけず、その人に合った支援を考えることの大切さを学びました。現在は現場を離れ、すぐサポの編集長として、これまでの経験を記事という形で多くの方に届けることをミッションとしています。制度や法律の解説記事では、「専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で」を心がけています。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

大学で社会福祉を学び、実習で出会った利用者の方々の笑顔に感動したことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

重度の知的障害のある方が、適切な支援により地域での一人暮らしを実現したこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で伝えることを大切にしています。

🎨 趣味・特技

読書、散歩

🔍 最近気になっているテーマ

障害者総合支援法の改正動向、ICTを活用した新しい支援の形

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