障害者手帳は必要?採用時の扱いと自己開示のポイント

「障害者手帳を取得した方が、就職に有利になるのだろうか?」「手帳を持たずに、障害を隠して一般就労(クローズ)で働いても問題ないのだろうか?」といった疑問は、就職活動を始める多くの障害者の方やご家族が抱える最も大きな悩みの一つです。
障害者手帳の有無は、あなたの働き方(障害者雇用か一般就労か)を決定づける重要な要素であり、採用の仕組みや入社後の待遇にまで影響します。
この記事では、障害者手帳の就職活動における役割と、手帳の有無による2つの働き方(オープンとクローズ)のメリット・デメリットを徹底的に比較します。また、企業が採用時に手帳情報をどのように扱うか、そして自己開示を行う際の3つの重要なポイントを具体的に解説します。
この記事を読むことで、手帳取得の是非や、あなたに合った最適な働き方を判断するための明確な基準が得られるでしょう。
障害者手帳の役割:なぜ就職で重要になるのか?
(1)障害者雇用枠で働くための必須条件
企業が設けている「障害者雇用枠」で求人に応募し、採用されるためには、原則として障害者手帳(身体障害者手帳、療育手帳、または精神障害者保健福祉手帳)を所持していることが必須条件となります。
その理由は、企業が障害者雇用枠で社員を採用した場合、その人数を「法定雇用率」の算定に含めることができるからです。手帳を所持していない方を採用しても、企業は法定雇用率を達成したと認められません。そのため、障害者雇用枠のメリット(合理的配慮、支援サービスの活用など)を享受したい方は、手帳の取得が不可欠となります。
💡 法的根拠
企業が障害者雇用促進法に基づいて合理的配慮を提供する義務を負うのは、手帳を所持していることを企業に伝えた方(オープン就労)に対してです。
(2)企業が得る2つのメリット(助成金・納付金)
障害者手帳を持つ方を採用することで、企業は経済的なメリットも得ます。これも、企業が手帳所持を条件とする大きな理由です。
- 納付金制度の回避・調整金の受給:法定雇用率を達成できない企業は納付金を支払い、達成した企業は調整金を受給できます。手帳保持者の採用は、この金銭的なインセンティブに直結します。
- 各種助成金の活用:障害者を雇い入れる際の職場の設備整備や、ジョブコーチによる支援導入などに対して、国からの各種助成金(特定求職者雇用開発助成金など)を受け取ることができます。
企業にとって、手帳を持つ方の採用は法的な義務を果たすだけでなく、経営上のメリットも伴うため、採用活動において手帳の有無は非常に大きな意味を持ちます。
(3)手帳の申請は就職活動の「前」に行うべき
障害者雇用枠での就職活動をスムーズに進めるためには、手帳の申請手続きを完了させておくことが重要です。手帳の申請・交付には時間がかかるため、求人応募や面接の段階で「申請中」では、企業の採用判断を遅らせる原因となり得ます。
手帳を取得することで、ハローワークの専門援助部門や就労移行支援事業所など、専門的な支援サービスをすぐに利用できるようになるというメリットもあります。
2つの働き方を比較:オープン vs クローズ
働き方1:障害を「オープン」にして働く(障害者雇用枠)
障害を企業に開示し、障害者雇用枠で働くことを「オープン就労」と呼びます。これは、安定性と継続性を最優先に考える方にとって、最適な働き方です。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 合理的配慮の提供が義務付けられる | 一般就労と比較して、給与水準が低い傾向がある |
| 職場の理解が得られやすく、心理的負担が少ない | 職種や業務内容の選択肢が限定的になりやすい |
| 就労支援サービス(ジョブコーチなど)をフル活用できる | キャリアアップのスピードが緩やかになりやすい |
| 法定雇用率により、求人自体が安定して存在する | 手帳情報を企業に開示する必要がある |
オープン就労は、体調の波があり、定期的な通院や休憩が必要な方、または、対人関係や環境の変化に大きなストレスを感じる特性を持つ方に強く推奨されます。
働き方2:障害を「クローズ」にして働く(一般就労)
障害や手帳の所持を企業に伝えず、一般の採用選考を通じて働くことを「クローズ就労」と呼びます。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 給与・待遇が一般社員と同等(高い報酬の可能性) | 合理的配慮の提供が受けられない |
| 職種やキャリアパスの選択肢が非常に広い | 体調が悪化した場合の精神的・経済的リスクが大きい |
| 職場の同僚に知られる心配がない(プライバシーの保護) | 体調の自己管理能力が非常に高く求められる |
| 手帳がなくても応募可能(ただし、自己責任) | ブランクや離職理由の説明が難しい |
クローズ就労は、体調が完全に安定しており、特別な配慮なしで業務をフル遂行できる方、そしてキャリアやスキルアップを最優先したい方に向いています。ただし、常に体調悪化のリスクと隣り合わせであることを認識しておく必要があります。
採用時の企業側の手帳情報の取り扱い
(1)手帳情報の「知る権利」と「守る義務」
障害者雇用枠で応募する場合、企業は適切な合理的配慮を提供し、法定雇用率を算定するために、応募者の手帳の種類や等級、必要な配慮事項を知る権利があります。この情報提供は、応募者側の義務となります。
一方で、企業には、提供された個人情報(障害情報)を適切に管理し、漏洩を防ぐ「守る義務」があります。この情報は、職務上必要な人(人事、直属の上司など)以外に、本人の同意なく開示されることはありません。
もし、企業が不必要に第三者(関係のない同僚など)に情報を漏洩した場合は、プライバシーの侵害にあたる可能性があり、相談窓口に訴えることができます。
(2)クローズ就労で手帳がバレるリスク
クローズ就労の場合、企業は原則としてあなたの障害を知りませんが、以下のような状況で手帳の所持が「バレる」(知られる)リスクがあります。
- 通院や服薬:頻繁な通院のための遅刻・早退、または職場での服薬を見た同僚や上司が不審に思う。
- 体調不良:体調の波によるパフォーマンスの低下や欠勤が続き、疾病が疑われる。
- 健康診断:企業が義務付ける健康診断の結果から、既往歴や健康状態が明らかになる(ただし、企業が把握できるのは「業務遂行可能か」という点のみ)。
クローズ就労で手帳の所持が知られたとしても、それだけで解雇されることは原則ありませんが、「信頼関係の崩壊」や「業務遂行能力への懸念」から、その後の立場が不安定になるリスクは十分に考えられます。
自己開示(オープン)を成功させる3つのポイント
ポイント1:「配慮」と「貢献」をセットで伝える
企業は、合理的配慮を求められる一方で、採用するからには「貢献」を期待しています。自己開示の際は、「配慮の要求」だけでなく、「配慮を受けることで、どのような貢献ができるか」をセットで伝えることが、採用を勝ち取るための最重要ポイントです。
- NG例:「精神疾患があり、残業はできません。」
- OK例:「体調管理のため残業は原則できませんが、その分、勤務時間内は高い集中力を発揮し、データ入力や文書作成といった得意業務で、一般社員の2倍のスピードで貢献できます。」
自分の障害特性を、「企業にとっての価値」に変換して伝えることで、単なる負担ではなく、戦力として前向きに評価されるようになります。
ポイント2:「障害版トリセツ」で情報を具体化する
抽象的な説明は、企業の不安を煽ります。面接や応募時に、「障害版トリセツ(自分自身の取扱説明書)」を作成し、具体的な情報を文書で伝えましょう。
トリセツには、必要な配慮事項を具体的な行動レベルまで落とし込んで記載します。「集中力が途切れたら10分間の休憩を求める」「業務指示は口頭でなくメールで、箇条書きで行ってほしい」など、曖昧さを排除することが大切です。
このトリセツは、企業にとって「採用後のリスクと配慮コスト」を具体的に見積もるための設計図となり、採用判断をスムーズにします。
ポイント3:支援機関のサポートを最大限に活用する
障害者雇用の自己開示は、非常にデリケートなプロセスであり、一人で進めるのは困難が伴います。就労移行支援事業所やハローワークの専門員など、外部の専門支援機関のサポートを最大限に活用しましょう。
支援機関の担当者は、企業の人事担当者との間に立ち、応募前に必要な配慮事項の実現可能性を事前に調整したり、あなたに代わって障害特性を客観的に伝えたりすることができます。これにより、ご本人の精神的負担を軽減し、ミスマッチのない採用を実現できます。
まとめ
就職活動において、障害者手帳は「障害者雇用枠で働くための通行手形」であり、合理的配慮や支援サービスを受けるための必須条件となります。手帳を取得するか否かは、「安定性(オープン)か、キャリア・報酬(クローズ)か」という、ご自身の働く上での価値観を明確にすることから始まります。
特に障害者雇用枠を選ぶ場合は、手帳情報をオープンにし、「配慮と貢献のセットでのアピール」や「障害版トリセツによる情報の具体化」といった戦略的な自己開示が不可欠です。ぜひ、専門機関と連携し、あなたにとって最適な働き方と就職戦略を見つけ出してください。
- 障害者雇用枠を目指すなら、手帳の所持は必須条件であり、合理的配慮を受ける根拠となる。
- オープン就労は安定性、クローズ就労はキャリア・報酬を優先する。
- 自己開示では、配慮と引き換えに企業にできる「貢献」を具体的にアピールする。
- 手帳情報の取り扱いは、企業の守秘義務で守られているが、クローズでのリスクも認識すべきである。

菅原 聡
(すがわら さとし)38歳📜 保有資格:
職業指導員、キャリアコンサルタント、精神保健福祉士
就労移行支援事業所で10年以上、障害のある方の「働く」を支援してきました。一般就労への移行支援から就労継続支援まで、幅広い経験をもとに、「自分に合った働き方」を見つけるための情報をお届けします。
大学で社会福祉を学び、卒業後すぐに就労移行支援事業所に就職。当初は「障害があっても一般企業で働けるんだ」という驚きと感動の連続でした。これまで150名以上の方の就労支援に携わり、その8割が一般企業への就職を実現。ただし、「就職がゴール」ではなく、「長く働き続けられること」が本当のゴールだと考えています。印象的だったのは、精神障害のある方が、障害をオープンにして自分のペースで働ける職場を見つけ、「初めて仕事が楽しいと思えた」と言ってくださったこと。その笑顔が忘れられません。記事では、就労移行支援と就労継続支援の違い、企業選びのポイント、障害者雇用の現実など、実際の支援経験に基づいた実践的な情報をお伝えします。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学で社会福祉を学び、「障害があっても一般企業で働ける」という可能性に感動したことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
精神障害のある方が、自分のペースで働ける職場を見つけ、「初めて仕事が楽しいと思えた」と言ってくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
「就職がゴール」ではなく、「長く働き続けられること」を大切に、実践的な情報を発信します。
🎨 趣味・特技
ランニング、ビジネス書を読むこと
🔍 最近気になっているテーマ
リモートワークと障害者雇用、週20時間未満の短時間雇用





