自宅での移動をスムーズにする家具・動線の工夫

安全で快適!自宅での移動をスムーズにする家具・動線の工夫
ご本人、ご家族、そして支援者の皆様、住み慣れた自宅での移動は、毎日何度も繰り返される大切な動作です。しかし、少しの段差やつまずきやすいコード、通りにくい通路幅などが原因で、移動に大きな労力を使ったり、転倒事故の危険に常にさらされたりしている方も少なくありません。
自宅での移動をスムーズにすることは、ご本人の自立度を高め、介助者の負担を軽減し、何よりも安全な生活を送るための基本です。大規模なリフォームをしなくても、家具の配置やちょっとした動線の工夫だけで、劇的に生活環境を改善することが可能です。
この記事では、障害の特性に応じた「安全な動線の確保方法」「使いやすい家具の選び方と配置のコツ」「転倒リスクを減らす具体的な工夫」について、専門家の視点を取り入れながら詳しく解説します。ぜひ、ご自宅の間取り図を見ながら、すぐに実践できるアイデアを見つけてください。
📏 安全な動線設計の基本原則と通路幅
自宅内の移動をスムーズにするための第一歩は、ご本人がストレスなく、安全に移動できる「動線」を確保することです。動線の確保には、適切な通路幅の理解が不可欠です。
車椅子・歩行器利用者に必要な通路幅
車椅子や歩行器を利用される方にとって、通路幅の確保は生命線です。厚生労働省のデータやバリアフリー基準に基づき、最低限必要な寸法を確保しましょう。
- 歩行者・杖歩行: 廊下の有効幅は、最低でも80cm以上が推奨されます。これにより、介助者が横に並んで歩いたり、杖を振りながら歩いたりする余裕が生まれます。
- 車椅子での直線移動: 車椅子が問題なく直進できる通路幅は、最低でも78cm(JIS規格の標準型車椅子幅63cm+ゆとり)が必要です。
- 車椅子での旋回(方向転換): 部屋の隅やトイレの前など、車椅子が方向を変える場所では、直径150cm以上の旋回スペース(円形)を確保することが理想です。
特に、リビングからキッチンへ、寝室からトイレへ、といった主要な移動経路は、家具を置かず、常に上記の幅を確保することが重要です。
💡 ポイント
介助者が後ろから車椅子を押す場合、介助者の腕の幅も考慮する必要があります。できれば90cm以上の通路幅を確保できると、すれ違いも容易になり、生活の快適性が大幅に向上します。
主要な動線の「連続性」を確保する
動線を確保する上で大切なのは、一時的な通路幅だけでなく、「連続性」です。移動の始まりから終わりまで、途中で途切れることのない一貫した経路を作りましょう。
例えば、リビングからトイレまでの動線において、
- 扉の開閉時に車椅子のタイヤが引っかからないか
- カーペットや敷居が原因でつまずかないか
- 移動の途中に床に置いた荷物やコードがないか
をチェックします。特に、敷居(しきい)は小さな段差ですが、車椅子にとっては大きな抵抗となり、転倒の原因にもなります。改修が難しい場合は、緩やかな勾配の段差解消スロープを設置しましょう。
🛋️ 転倒リスクを減らす家具の選び方と配置
家具は、単なる収納や休息の道具ではなく、移動を補助し、生活動作を安定させるための重要な環境要素です。選び方と配置を工夫することで、転倒リスクを大幅に減らすことができます。
移動・立ち上がりを助ける家具の工夫
家具を、手すりのように活用することで、移動のサポートを得られます。
- 安定性の高いテーブル: 立ち上がりの際にテーブルに手をつく習慣がある方は、軽くて動くテーブルでは危険です。重く、四隅の脚がしっかりと安定したダイニングテーブルを選びましょう。可能であれば、天板の裏に掴みやすい手すり加工がされているものが理想です。
- 立ち上がりやすい椅子: 椅子は、座面が硬く、肘掛け(アームレスト)付きのものが、立ち上がりの際に力を入れやすく、安定します。座面高は、ご本人の身長に合わせて、膝が90度に曲がる高さを選びましょう。
- ベッドの高さ調整: ベッドから立ち上がる際、足裏が床にしっかりつく高さ(膝関節が90度に曲がる程度)に調整しましょう。低すぎると立ち上がりに力が要り、高すぎると足が床につかず転倒の原因になります。
特に、ベッドサイドに置くサイドテーブルは、夜間の移動時のつまずきの原因になりやすいため、使用しないときはベッドの下に収納できるキャスター付きのものを選ぶなどの工夫が有効です。
✅ 成功のコツ
家具を配置する際は、「コーナー」を意識しましょう。部屋の角や、家具の鋭利な角は、ぶつかると怪我の原因になります。移動経路の角には、コーナーガードを貼ったり、丸みのある家具を選んだりすることで、安全性が高まります。
床面のバリアと家具の「固定」
カーペットやラグは、見た目は暖かですが、端がめくれ上がるとつまずきの原因になります。家具と床面のバリアを解消しましょう。
- 敷物の固定: 薄手のラグやマットは、床との間に滑り止めシートを敷くか、両面テープで端をしっかりと固定しましょう。厚手のものや毛足の長いものは、車椅子や歩行器のキャスターが引っかかりやすいため、可能な限り避けます。
- 床面の照度確保: 廊下や部屋の隅など、暗くなりがちな場所には、家具に隠れないように足元灯(フットライト)を設置し、影による段差の錯覚を防ぎましょう。
- 家具の固定: 立ち上がりの補助として活用する家具は、地震対策用の固定金具で壁や床に固定し、家具自体が倒れたり動いたりしないように安全対策を徹底します。
💡 障害特性に応じた部屋別動線・家具配置の工夫
動線や家具配置の最適解は、身体障害の有無だけでなく、知的障害や認知障害など、ご本人の特性によって大きく異なります。
認知障害・行動障害に対応した動線
認知機能に課題のある方の場合、動線は「わかりやすさ」が最優先されます。複雑な経路や選択肢は、混乱や徘徊につながるリスクがあるからです。
- シンプルで一直線の動線: トイレや寝室など、主要な目的地への動線は、家具を極力減らし、迷路のようにならないシンプルな直線を意識して確保します。
- 視覚的な誘導: 目的の部屋(トイレなど)のドアを、廊下の壁とは異なる鮮やかな色にしたり、大きなピクトグラム(絵文字)を貼ったりして、視覚的に認識しやすい誘導を行います。
- 立ち入り禁止エリアの明確化: 危険な場所(キッチン、外へ出るドアなど)へのアクセスを制限するため、動線上にベビーゲート(大人でも乗り越えにくい高さ)を設置したり、家具で間接的にブロックしたりする工夫が必要です。
動線上に、物を置く棚やテーブルを設置すると、それが注意をそらす原因となり、本来の目的から逸脱する(行動が変化する)ことがあるため、極力避けるべきです。
⚠️ 注意
認知障害のある方に対する動線設計では、「遮断」よりも「誘導」を優先しましょう。鍵をかけて完全に閉じ込めるのではなく、安全な場所へ自然に誘導し、危険な場所から遠ざける環境づくりが望ましいです。
キッチンでの安全な動線と作業スペース
車椅子ユーザーや、立位保持が難しい方がキッチンで自立して作業するためには、作業スペースと動線を一体で考える必要があります。
- 作業台の高さと膝下スペース: 車椅子のまま作業できるよう、調理台の下に膝が入るスペース(高さ65cm~70cm)を確保し、作業台の高さもご本人の座高に合わせて調整します(高さ75cm~80cm程度)。
- シンク下の撤去: 従来のシンク下の収納スペースを撤去し、給排水管を壁側に寄せることで、足元スペースを確保する工事が必要です。
- 調理家電の配置: 頻繁に使う調理家電(電子レンジなど)は、車椅子の座位から無理なく届く、手の高さ(床上80cm~120cm)の棚に配置します。
キッチン内の動線は、包丁などの危険物があるため、直線的な動線にし、極力旋回スペースを作らない方が、安全性が高まります。
🤝 動線の改善は多職種連携から始まる
自宅の動線や家具配置の改善は、ご本人やご家族だけの力で行うのではなく、専門家と連携することで、より効果的かつ安全に進めることができます。
作業療法士・理学療法士の役割
ご本人の移動能力や動作の癖を最も理解しているのは、リハビリテーション専門職である作業療法士(OT)や理学療法士(PT)です。彼らは、動線改善の初期段階で非常に重要な役割を果たします。
役割(一例):
- 動作分析: ご本人が立ち上がる時、座る時、歩く時、車椅子を操作する時の動作を観察し、どこに最も負担がかかっているか、どこでバランスを崩しやすいかを評価します。
- 適切な寸法提案: 評価に基づき、「この場所には、この高さの、この形状の手すりが必要」「この通路はあと5cm広げるべき」といった具体的な寸法や配置の提案を行います。
この専門的な評価に基づいた提案は、住宅改修の助成金申請における「理由書」の説得力を高める根拠ともなります。
「家具を動かして動線を確保する時、私たちはまず『本当にその動作に家具が必要か』を考えます。不要な家具を撤去するだけで、移動が劇的にスムーズになることは多いです。」
— 作業療法士からの実例
福祉住環境コーディネーターとの連携
理学療法士の提案を建築的な視点から実現するのが、福祉住環境コーディネーターです。
彼らは、リハビリ専門職の機能的な提案と、実際の住宅の間取りや構造、そして予算をすり合わせ、実現可能な改善プランを作成します。賃貸住宅やマンションなど、大規模な改修が難しい場合の「家具配置による動線改善」のプロフェッショナルでもあります。
動線の改善や家具の選定・配置の計画を立てる際は、必ず彼らを交えた多職種チームで進めましょう。
✨ まとめと次の一歩の提案
自宅での移動をスムーズにするための工夫は、「適切な通路幅の確保(車椅子旋回スペース150cm以上)」「段差・コードの徹底的な排除」、そして「移動・立ち上がりを助ける安定した家具の選択と配置」に集約されます。
特に、認知・行動障害がある方の場合、動線の「わかりやすさ」と「視覚的な誘導」が安全の鍵となります。これらの工夫は、専門家と連携し、ご本人の特性に合わせてミリ単位で調整することで、その効果を最大限に発揮します。
次の一歩の提案
まずは、「ご自宅の間取り図」を用意し、主要な移動経路の幅をメジャーで測ってみましょう。もし車椅子や歩行器の幅+20cm以上の余裕がない場合、その通路にある家具を移動させることから改善を始めてみてください。
まとめ
- 車椅子の移動には、通路幅78cm以上、旋回スペースは直径150cmを確保し、動線の連続性を重視する。
- 家具は、安定性の高いテーブルや肘掛け付きの椅子を選び、手すりのように活用できるよう適切な位置に固定配置する。
- 認知障害への対応として、動線はシンプルで直線的にし、目的に合わせた視覚的誘導(色やピクトグラム)を行う。

酒井 勝利
(さかい かつとし)38歳📜 保有資格:
作業療法士、福祉住環境コーディネーター
作業療法士として病院・施設で12年勤務。「できないこと」を「できる」に変える福祉用具や環境調整の専門家です。車椅子、杖、リフトなどの選び方から、住宅改修まで、実践的な情報をお届けします。
リハビリテーション専門学校を卒業後、総合病院で5年、障害者支援施設で7年、作業療法士として勤務してきました。特に力を入れているのは、福祉用具を活用した「できることを増やす」支援。例えば、片麻痺がある方が自助具を使って料理ができるようになったり、車椅子の選び方一つで外出の頻度が劇的に変わったりします。印象的だったのは、重度の身体障害がある方が、適切な電動車椅子と環境調整により、念願だった一人での買い物を実現したこと。「自分でできる」という自信が、その方の人生を大きく変えました。記事では、福祉用具の選び方、住宅改修のポイント、補助金の活用方法など、「生活をより便利に、より自立的に」するための情報を発信します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
リハビリの仕事を通じて、「できないこと」を「できる」に変える喜びを知ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
重度の身体障害がある方が、適切な電動車椅子で一人での買い物を実現したこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
福祉用具を活用して「生活をより便利に、より自立的に」する情報を発信します。
🎨 趣味・特技
DIY、キャンプ
🔍 最近気になっているテーマ
スマート家電と福祉の融合、IoT活用





