高齢障害者向けの住まい・生活支援ガイド

高齢障害者が安心して暮らすための住まいと生活支援ガイド
年齢を重ねるごとに、日々の生活の中で「これまでは一人でできていたことが難しくなってきた」と感じる場面が増えるのは自然なことです。特に障害をお持ちの方にとって、加齢に伴う身体機能や認知機能の変化は、住環境やサポート体制を見直す大きな転換点となります。
「このまま今の家で暮らせるだろうか」「介護保険と障害福祉サービスはどう使い分ければいいのか」といった不安を抱えるご本人やご家族は少なくありません。この記事では、高齢障害者が安心して自分らしい生活を続けるために活用できる住まいの選択肢や、公的な支援制度、そして生活を豊かにするための知恵を詳しく解説します。これからの「安心な住まい」を描くための道しるべとして、ぜひお役立てください。
加齢に伴う生活環境の変化と課題
身体機能の変化への対応
高齢期に入ると、筋力の低下やバランス感覚の変化により、家の中での移動に支障が出やすくなります。特に障害がある場合、二次的な身体への負担が蓄積していることも多く、これまでは気にならなかったわずかな段差が転倒のリスクになることも少なくありません。
こうした変化に対応するためには、早めに住環境のバリアフリー化を検討することが大切です。手すりの設置や段差の解消、滑りにくい床材への変更など、物理的な環境を整えることで、本人の自立性を保ちながら事故を未然に防ぐことができます。家の中の「危ない」を放置せず、客観的な視点で住まいを点検する時期が来ていると言えるでしょう。
認知機能低下とサポート体制
加齢は身体面だけでなく、認知機能にも影響を及ぼします。物忘れが増えたり、複雑な事務手続きが難しくなったりすることは、一人暮らしや高齢者のみの世帯にとって大きな不安要素です。障害特性と認知症の症状が重なり合うことで、周囲がどのように接すれば良いか迷うケースも増えています。
予防策としては、早い段階で地域とのつながりを強化し、見守り体制を作っておくことが挙げられます。相談支援専門員や地域包括支援センターのスタッフと定期的に面談し、変化をいち早くキャッチできる関係性を築いておきましょう。また、スマートフォンの見守りアプリやGPS機能などのテクノロジーを活用し、さりげなく安全を確保する工夫も有効です。
社会的な孤立を防ぐために
仕事や日中活動の場から離れることで、社会的なつながりが希薄になりやすいのが高齢期です。特に障害がある場合、外出のハードルが高まることで自宅に閉じこもりがちになり、それが精神的な落ち込みや身体機能の低下を加速させるという悪循環を招くことがあります。
これを防ぐには、高齢者向けのサロンや障害者デイサービスなど、無理なく通える「居場所」を複数持っておくことが重要です。人との会話や交流は、脳への刺激になるだけでなく、心の健康を維持する上でも欠かせない要素となります。「外の空気」に触れる機会を意識的に作ることで、生活にハリと安心感が生まれます。
💡 ポイント
高齢障害者の支援は、障害福祉と高齢者福祉(介護保険)の「制度の狭間」になりやすい傾向があります。双方の専門家に相談できる体制を整えましょう。
介護保険と障害福祉の併用ルール
65歳からの「介護保険優先」原則
日本の福祉制度には、65歳(特定の疾患がある場合は40歳)になると、障害福祉サービスよりも介護保険サービスを優先して利用するという「介護保険優先原則」があります。これにより、これまで受けていたヘルパー派遣などのサービスが、介護保険のケアマネジャーによる管理下に移ることになります。
ただし、すべてが介護保険に切り替わるわけではありません。介護保険に相当するサービスがない場合(例えば、視覚障害者の同行援護や重度訪問介護など)は、引き続き障害福祉サービスを利用することが可能です。この切り替え時期は手続きが煩雑になりやすいため、誕生日の数ヶ月前から準備を始めるのが成功のコツです。
共生型サービスの活用
近年、高齢者と障害者が同じ場所でサービスを受けられる「共生型サービス」が増えています。これは、障害福祉サービス事業所が介護保険の指定を受けやすくする仕組みで、慣れ親しんだ事業所やスタッフから継続して支援を受けられるメリットがあります。
特に環境の変化に敏感な方にとって、65歳を境に施設やスタッフがガラリと変わってしまうのは大きなストレスです。共生型サービスを実施している事業所を選ぶことで、生活の継続性を保ちながら、加齢に伴う専門的なケアを同時に受けることができます。お住まいの地域にこうした事業所があるか、あらかじめリサーチしておきましょう。
利用者負担の軽減措置
制度が切り替わることで気になるのが費用面です。障害福祉サービスは所得に応じて自己負担が無料になるケースが多いですが、介護保険は原則として1割から3割の自己負担が発生します。この負担増を和らげるために、高額障害福祉サービス等給付費という仕組みがあります。
これは、65歳になるまで長期間障害福祉サービスを利用していた方が介護保険に移行した場合、特定の条件を満たせば介護保険の自己負担分が払い戻される制度です。経済的な理由で必要なサービスを諦めることがないよう、こうした減免制度の存在を知り、役所の窓口で「対象になるか」を確認することが大切です。
| 項目 | 障害福祉サービス | 介護保険サービス |
|---|---|---|
| 優先順位 | 介護保険にないもののみ | 原則としてこちらが優先 |
| 窓口 | 市区町村の障害福祉課 | 地域包括支援センター等 |
| 利用者負担 | 所得に応じた上限あり | 原則1割〜3割負担 |
高齢期に適した住まいの選択肢
バリアフリー住宅とリフォーム
住み慣れた自宅で暮らし続けたい場合、最も重要なのは住宅の物理的な改修です。障害者手帳をお持ちの方であれば、自治体の住宅改修費給付を利用して、手すりの取り付けや段差解消などの工事費用の助成を受けることができます。これに介護保険の住宅改修費を組み合わせることも可能です。
また、最近では「スマートホーム」の導入も進んでいます。音声で家電を操作したり、玄関の施錠を自動化したりすることで、身体的な負担を軽減しつつ、安全性を高めることができます。リフォームを行う際は、単に「バリアを取り除く」だけでなく、将来的な車椅子利用なども想定した余裕のある設計を心がけると安心です。
高齢者向けグループホームの利用
障害者向けのグループホームの中には、高齢の入居者が増えていることに対応し、バリアフリー化や介護スタッフの配置を強化している「高齢対応型」のホームもあります。ここでは、少人数の家庭的な雰囲気の中で、専門的な障害支援と高齢者ケアを同時に受けることができます。
「施設ほど大規模なところは苦手だが、一人暮らしは不安」という方にとって、グループホームはバランスの良い選択肢です。夜間もスタッフが常駐しているホームであれば、急な体調不良時にも迅速な対応が期待できます。入居を検討する際は、看取り(最後までその場所で過ごすこと)に対応しているかどうかも、一つの判断材料となります。
有料老人ホームとサ高住
民間が運営する有料老人ホームや「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」も、選択肢に含まれます。これらは一般的に設備が充実しており、バリアフリーはもちろんのこと、食事の提供や生活相談サービスがセットになっています。
障害があることで入居を断られるのではないかと心配される方もいますが、最近では障害への理解があるホームも増えています。特にサ高住は賃貸住宅に近い形態のため、外部の障害福祉サービス(居宅介護など)を継続して利用しやすいという特徴があります。自分のライフスタイルに合わせて、どの程度のサポートが必要かを見極めながら見学に行ってみましょう。
✅ 成功のコツ
住まいを探す際は、一つの窓口だけでなく、相談支援事業所と地域包括支援センターの両方に相談を持ちかけることで、より幅広い情報を得られます。
日常生活を支える多様なサービス
配食サービスと家事援助
高齢障害者の生活で課題になりやすいのが「食」の問題です。調理が負担になったり、栄養バランスが偏ったりすることを防ぐため、自治体や民間が提供する配食サービスの活用を検討しましょう。最近では、噛む力が弱くなった方向けの「ソフト食」や、持病に合わせた「制限食」なども充実しています。
また、重い荷物の買い物や、高い場所の掃除などは、介護保険の生活援助や障害福祉の家事援助でカバーできます。これらを組み合わせることで、「できないこと」にストレスを感じる時間を減らし、「できること」を楽しむゆとりが生まれます。サービスを頼ることは、自分らしい暮らしを長く続けるための前向きな戦略です。
見守りシステムと緊急通報
一人暮らしの場合、万が一の事態に誰が気づくかという問題は切実です。多くの自治体では、障害者や高齢者を対象とした緊急通報システムの貸与を行っています。ペンダント型のボタンを押すだけでコールセンターにつながり、状況に応じて救急車や近隣の協力者が駆けつけてくれる仕組みです。
最新の技術では、電気の使用量や冷蔵庫の開閉を感知して、異常があれば離れた家族に通知が飛ぶ見守りサービスもあります。プライバシーを守りつつ、24時間365日の安心を確保できるため、ご本人もご家族も精神的な負担を大きく軽減できます。自分の安心感に合ったツールを選び、生活に取り入れてみましょう。
福祉用具のレンタルと購入
歩行を助けるシルバーカーや、立ち上がりを補助する電動ベッドなど、適切な福祉用具を使うことで、生活の質は劇的に向上します。これらは介護保険の枠組みで安価にレンタルできるほか、障害福祉の制度で「日常生活用具」として給付を受けられるものもあります。
重要なのは、自分の身体状況に「今」合っているものを使うことです。無理をして古い用具を使い続けると、かえって姿勢を崩したり、二次障害を引き起こしたりする原因になります。福祉用具専門相談員や理学療法士などのアドバイスを受けながら、定期的に道具の見直しを行いましょう。道具は、あなたの自由を広げるための大切なパートナーです。
⚠️ 注意
福祉用具の給付やレンタルは、事前の申請やケアプランへの組み込みが必要です。購入した後に申請しても認められない場合があるため、必ず事前に相談しましょう。
将来への備えと意思決定のサポート
成年後見制度の検討
将来、自分だけで金銭管理や契約を行うことが難しくなった場合に備えて、成年後見制度を知っておくことは重要です。これは、認知症などで判断能力が不十分になった際に、家庭裁判所が選んだ後見人が本人に代わって財産管理や介護サービスの契約などを行う仕組みです。
「まだ元気だから大丈夫」と思っているうちに、自分の信頼できる人を後見人に指定しておく「任意後見制度」を利用するのも一つの手です。将来の不安を先回りで解消しておくことで、今この瞬間の生活に集中できるようになります。法テラスや専門の相談窓口で、まずは情報収集から始めてみるのが良いでしょう。
エンディングノートの作成
高齢障害者にとって、自分の希望を周囲に伝えておくことは非常に大切です。どのような医療を受けたいか、最後はどこで過ごしたいか、大切にしている生活習慣は何かなどをエンディングノートに記しておきましょう。これは単なる終活の道具ではなく、周囲が「本人らしい支援」を行うための貴重なガイドブックになります。
特に障害特性による「こだわり」や「苦手なこと」は、新しい支援者が加わった際に共有されるべき重要な情報です。言葉で伝えるのが難しい場合でも、ノートにまとめておくことで、自分の意思が尊重される安心感につながります。家族や親しい支援者と一緒に、楽しみながら少しずつ書き進めてみてください。
地域包括ケアシステムの活用
国が進めている「地域包括ケアシステム」は、医療、介護、予防、住まい、生活支援が一体的に提供される仕組みです。高齢障害者は、このシステムの中心に位置する存在です。地域のケア会議などを通じて、多職種が連携して一人の生活を支える体制が整えられています。
孤立せず、このシステムの中に自分の場所を確保しておくことが最大の防衛策になります。地域の民生委員やボランティア、近隣住民とのゆるやかなつながりを大切にし、「何かあったら誰かが声をかけてくれる」という安心のネットワークを育てていきましょう。地域のイベントへの参加や、デイサービスでの交流が、その第一歩となります。
「65歳を過ぎて、最初は介護保険への切り替えに戸惑いました。でも、ケアマネジャーさんと相談員さんが協力してくれたおかげで、今の自分にぴったりのサポート体制ができました。年を取ることも、悪くないと思えるようになりました。」
— 地域で暮らす高齢障害者のEさん
よくある質問と具体的な対処法
Q1. 65歳になったら、障害福祉サービスはすべて使えなくなるのですか?
いいえ、そんなことはありません。介護保険に「相当するサービスがない」と判断されるものは、引き続き障害福祉サービスとして利用できます。例えば、視覚障害者の移動を助ける「同行援護」や、重度の障害がある方の「重度訪問介護」などは、介護保険には代わりのサービスがないため継続が可能です。どのサービスが継続できるかは、市区町村の窓口で個別に判断されますので、早めに相談することをお勧めします。
Q2. 特養(特別養護老人ホーム)への入所は可能ですか?
はい、要介護3以上の認定を受けていれば可能です。特養は障害があることで入所を拒否することは原則としてありません。ただし、特養は高齢者のケアを主目的としているため、障害特性に応じた専門的な活動(例えば、作業所のような活動など)が行いにくい面もあります。入所を検討する際は、施設側がこれまでに障害者を受け入れた実績があるか、スタッフの理解はどうかを事前見学でしっかり確認しましょう。
Q3. 一人暮らしを続けていますが、火の始末などが心配になってきました
安全性を高めるために、ガスコンロからIHクッキングヒーターへの交換を検討しましょう。火を使わない調理器具は火災のリスクを大幅に下げます。また、自動消火機能付きの器具や、ガス漏れ警報器の設置も有効です。それでも不安な場合は、調理を伴う家事援助を増やしたり、配食サービスに切り替えたりすることで、家の中での「火を使う場面」そのものを減らしていくのが現実的で安全な対策です。
Q4. 身寄りがないのですが、将来の入院や施設入所の保証人はどうすればいいですか?
身寄りがいない方のために、多くの自治体やNPO団体が「身元保証支援」を行っています。また、成年後見制度を利用していれば、後見人が契約関係をサポートしてくれます。最近では「死後事務委任契約」といって、亡くなった後の諸手続きを専門家に依頼できる仕組みもあります。一人で悩まずに、まずは社会福祉協議会や「居住支援協議会」などに相談し、信頼できる団体を紹介してもらいましょう。
まとめ
高齢障害者の住まいと生活支援は、公的な制度を賢く組み合わせ、最新の技術や地域のつながりを活かすことで、より豊かなものに変えていくことができます。65歳という節目は、生活を制限するものではなく、より手厚いケアを受けるための新たなスタートラインです。
大切なのは、変化を恐れずに「今の自分」に必要なサポートを周囲に伝えることです。一人の力で解決しようとせず、相談支援専門員やケアマネジャーといったプロの力を借りながら、一歩ずつ安心の土台を築いていきましょう。あなたが住み慣れた地域で、自分らしく輝き続けられる未来は、日々の小さな備えと対話から始まります。
まとめ
- 65歳からの「介護保険優先」ルールを理解し、早めに制度の切り替え準備を始めましょう。
- 手すりの設置や緊急通報システムの導入など、物理的な住環境と見守り体制を整えることが安全の鍵です。
- グループホームや高齢者住宅など、自分に合った住まいの選択肢を多職種と連携して検討しましょう。
- 将来の意思決定に備え、成年後見制度やエンディングノートを活用して、本人の希望を可視化しておきましょう。

原田 彩
(はらだ あや)35歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として10年、地域の福祉資源の発掘と繋ぎに力を入れています。「この街で暮らす」を支えるために、施設情報だけでなく、バリアフリースポットや割引施設など、生活を豊かにする地域情報をお届けします。
大学で福祉を学び、卒業後は地域の相談支援事業所に就職。当初は「障害福祉サービス」だけが支援だと思っていましたが、地域の中には使える資源がたくさんあることに気づきました。例えば、障害者割引が使える映画館、バリアフリー対応のカフェ、当事者の方が集まれるコミュニティスペースなど。こういった情報を知っているかどうかで、生活の質が大きく変わります。特に印象的だったのは、引きこもりがちだった方が、近所のバリアフリー図書館を知り、そこで読書会に参加するようになったこと。「外に出るのが楽しくなった」と言ってくださいました。記事では、すぐサポの26万件の施設データベースを活用しながら、地域ごとの福祉サービスの特徴や、知って得する地域情報をお伝えします。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学で福祉を学び、地域の中に使える資源がたくさんあることに気づいたことがきっかけです。
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引きこもりがちだった方が、バリアフリー図書館を知り、読書会に参加するようになったこと。
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