障害者住宅改修の事例と工夫ポイント

自宅での生活において、「たった数センチの段差」や「狭い廊下」が、障害を持つ方にとって大きな壁となり、日常生活の自立を妨げているケースは少なくありません。ご家族や支援者の方も、「自宅での介助が大変で、なんとか負担を減らしたい」と日々悩まれていることでしょう。
障害者向けの住宅改修は、単に建物を直すことではなく、「生活の質(QOL)」と「安全」を劇的に向上させるための重要な投資です。しかし、「どこから手をつけていいか分からない」「高額な費用がかかるのでは」といった不安から、改修をためらってしまう方もいます。
この記事では、身体障害、知的障害、精神障害など、さまざまな特性を持つ方が、自宅での生活をより豊かにするために行った具体的な住宅改修の事例をご紹介します。また、改修を成功させるための制度活用や工夫のポイントを、専門家の視点から詳しく解説します。これらの実例を参考に、あなたの理想の住まいづくりへの一歩を踏み出しましょう。
身体障害:車椅子ユーザーの移動を支える改修事例
事例①:玄関・アプローチの段差解消とスロープ設置
車椅子ユーザーにとって、自宅への出入り口である玄関の段差は、最も大きなバリアの一つです。この改修は、外出の自立度に直結します。
ある車椅子ユーザーの事例では、玄関から道路までの段差が大きく、外出の度に家族の介助が必要でした。そこで、介護保険の住宅改修と自治体の補助制度を組み合わせて、以下のような改修を行いました。
- 屋外スロープの設置:勾配(傾斜)を緩やかにするため、1/15程度の緩やかなスロープを設置。途中には踊り場を設け、車椅子の方向転換や休憩を可能にしました。
- 手すりの連続設置:スロープの両脇に、立ち上がりとバランス保持のための手すりを連続して設置。
- 式台の活用:玄関内の上がり框には、高さを2段階に分けた式台(踏み台)を設置し、車椅子から玄関内で乗り移る際の負担を軽減しました。
この改修により、ご本人は介助なしで外出できるようになり、「社会とのつながり」を取り戻すことができました。
事例②:生活動線を広げる間取り変更と扉の交換
築年数の古い住宅では、廊下幅が狭い、居室の出入り口が開き戸であるなど、車椅子での移動が困難な場所が多くあります。この事例は、大規模な改修により、生活動線全体を改善したものです。
- 廊下幅の拡張:既存の壁を一部撤去し、廊下幅を90cm以上に拡張。車椅子での回転や移動をスムーズにしました。
- 開き戸から引き戸へ:主要な居室やトイレ、浴室の扉を、車椅子に乗ったまま軽い力で開閉できる引き戸に交換。扉の前後での待機スペースが不要となり、安全性が向上しました。
- 床面のフラット化:家の中のすべての敷居を撤去し、床面を完全にフラットにしました。床材には、車椅子のキャスターが引っかかりにくい硬質の素材を選定しました。
特に、トイレや浴室の扉の変更は、緊急時の介助者の出入りを容易にするという、安全面での大きなメリットがあります。
工夫ポイント:介助者の動線も考慮する
住宅改修を計画する際、当事者の方の利便性だけでなく、介助を行うご家族やヘルパーの動線も同時に考慮することが非常に重要です。例えば、浴室内で介助者が動きやすいように十分なスペースを確保したり、介助用具の収納場所を近くに設けるなどの工夫が必要です。
💡 ポイント
車椅子での改修では、最低通路幅80cm(推奨90cm)、車椅子の回転に必要なスペース150cm×150cmという建築基準を意識して設計してもらいましょう。わずかな寸法の違いが、日々の使いやすさに大きく影響します。
水回り:最も危険な場所を安全に変える改修
事例③:ヒートショック対策と安全な入浴環境
浴室は、家の中で最も事故(転倒、ヒートショック)が起こりやすい場所です。この事例では、入浴の自立と安全性の両立を目指しました。
- ユニットバスへの交換と断熱強化:在来工法のタイル張りの浴室から、断熱性の高いユニットバスに交換。合わせて浴室暖房乾燥機を設置し、冬場のヒートショック(急激な温度変化による体調不良)リスクを大幅に軽減しました。
- L型手すりの設置:浴槽への出入り時の立ち座りと、浴槽内での姿勢安定のために、洗い場と浴槽の縁にL字型の手すりを設置。手すりの太さや高さは、ご本人の握力と身長に合わせて細かく調整しました。
- バスボード・シャワーチェアの活用:改修と合わせて、浴槽の縁をまたがずに移乗できるバスボードと、安定した姿勢で洗身できるシャワーチェアを導入しました(福祉用具貸与)。
この事例では、介護保険の住宅改修のほか、ユニットバスの交換については自治体の高齢者向け助成も活用しました。
事例④:車椅子対応のトイレと自動洗浄機能
トイレの改修は、排泄の自立という、尊厳に関わる部分を支える上で極めて重要です。
- スペースの拡張:狭かったトイレの壁を移動させ、車椅子が回転できるだけのスペースを確保。便器の両脇からの介助も可能になりました。
- 便器の交換:洋式便器に交換するとともに、自動でフタが開閉・洗浄される機能付きのものを導入。手の機能が不安定な方でも、操作盤に触れることなく、清潔を保てるようになりました。
- 可動式手すり:便器の片側に跳ね上げ式(可動式)の手すりを設置。普段は手すりとして使用し、介助者が入る際や車椅子からの移乗時には、手すりを跳ね上げてスペースを確保できるように工夫しました。
トイレの改修は、介護者の身体的な負担(抱え上げや拭き取り介助)を大きく軽減する効果も期待できます。
工夫ポイント:色とコントラストの活用
視覚障害や認知機能に特性がある方の改修では、「色の力」を活用することが非常に有効です。例えば、白を基調としたトイレ空間で、手すりの色だけを濃い青や赤にするなど、コントラスト(対比)をつけることで、どこに掴まれば安全かが一目でわかるようになります。
⚠️ 注意
水回りの改修は、給排水管の位置変更を伴うことが多く、費用が高額になりがちです。必ず複数の工事業者から見積もりを取り、福祉住環境コーディネーターに、本当に必要な工事かどうかを判断してもらいましょう。
知的・精神障害に配慮した安心環境づくり
事例⑤:パニック防止のための「安心空間」設置
知的障害や発達障害、精神障害を持つ方の中には、環境の変化や刺激の多さからパニックや行動障害を起こしやすい場合があります。この事例では、「安心できる空間」を自宅内に創出しました。
- サンクチュアリ(隔離)スペース:リビングの一角に小さな防音性の高い個室や囲われたスペースを設置。外部の音や光を遮断し、落ち着きを取り戻すための一時避難場所として活用できるようにしました。
- 刺激の最小化:壁紙は無地で穏やかな色(アースカラーなど)を選び、過度な装飾は避けることで、視覚的な刺激を最小限に抑えました。
- 鍵や安全対策:勝手な外出(徘徊)を防ぐために、玄関の鍵を二重化したり、開錠が難しいタイプのロックに変更したりする措置を取りました。
この種の改修は、日常生活用具給付事業(一部の安全対策機器)や自治体独自の補助の対象となる場合があります。
事例⑥:火気・危険物からの「防御改修」
認知機能や判断能力に特性がある場合、火気や危険物への不適切な接触による事故リスクが高まります。この事例では、物理的な防御を徹底しました。
- IHクッキングヒーターへの交換:ガスコンロからIHクッキングヒーターに交換し、火災リスクをゼロに近づけました。これは、温度センサーや自動オフ機能が働くため、消し忘れによる事故を防ぎます。
- 危険物の手の届かない収納:刃物や洗剤、薬などの危険物を収納する棚には、手が届かない高い位置に設置したり、鍵付きの引き出しに変更したりする改修を行いました。
- 窓の安全化:高層階の場合、窓に補助錠を設置したり、開口部が狭くなるような格子を設置したりして、転落リスクを予防しました。
これらの安全対策は、当事者の方を事故から守ると同時に、介護者の精神的な負担を大きく軽減してくれます。
工夫ポイント:可変性のある設計を意識する
障害や加齢によって、必要な支援や体の状態は変化していきます。住宅改修の際は、「将来的な可変性」を意識することが大切です。例えば、手すりの下地補強材を廊下の広範囲に入れておくことで、将来、手すりの位置や形状が変わっても、再度の壁工事なしに対応できるようになります。長期的な視点を持つことが、賢い改修のコツです。
✅ 成功のコツ
改修の設計段階で、当事者の方に模型や写真で具体的なイメージを説明し、意見を聞く機会を設けましょう。当事者参加型の改修は、満足度が高く、改修後の生活へのスムーズな移行を助けます。
まとめ
障害者住宅改修の事例を見ると、単なるバリアフリー化を超えて、個々の障害特性や生活習慣に合わせた、きめ細やかな工夫がなされていることがわかります。車椅子ユーザーの事例では玄関・動線のスムーズ化、水回りではヒートショック対策と移乗の安全確保、知的・精神障害の事例では安心空間と防御改修が核となります。
改修を成功させるには、介護保険や自治体の補助制度を賢く活用し、福祉住環境コーディネーターやOT/PTといった専門家のチームの知恵を借りることが不可欠です。ぜひこれらの事例と工夫ポイントを参考に、自立と安全を両立させる理想の住まいを実現してください。
まとめ
- 改修は、介護保険の住宅改修費や自治体の補助制度を最大限に活用し、費用の負担を軽減しましょう。
- 車椅子ユーザーの改修では、廊下幅の確保と開き戸から引き戸への変更が自立度を大きく向上させます。
- 知的・精神障害の改修では、安心できる空間の確保と火気・危険物からの物理的な防御が安全性の鍵となります。

原田 彩
(はらだ あや)35歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として10年、地域の福祉資源の発掘と繋ぎに力を入れています。「この街で暮らす」を支えるために、施設情報だけでなく、バリアフリースポットや割引施設など、生活を豊かにする地域情報をお届けします。
大学で福祉を学び、卒業後は地域の相談支援事業所に就職。当初は「障害福祉サービス」だけが支援だと思っていましたが、地域の中には使える資源がたくさんあることに気づきました。例えば、障害者割引が使える映画館、バリアフリー対応のカフェ、当事者の方が集まれるコミュニティスペースなど。こういった情報を知っているかどうかで、生活の質が大きく変わります。特に印象的だったのは、引きこもりがちだった方が、近所のバリアフリー図書館を知り、そこで読書会に参加するようになったこと。「外に出るのが楽しくなった」と言ってくださいました。記事では、すぐサポの26万件の施設データベースを活用しながら、地域ごとの福祉サービスの特徴や、知って得する地域情報をお伝えします。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学で福祉を学び、地域の中に使える資源がたくさんあることに気づいたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
引きこもりがちだった方が、バリアフリー図書館を知り、読書会に参加するようになったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
すぐサポの施設データベースを活用し、地域ごとの特徴や知って得する情報を発信します。
🎨 趣味・特技
街歩き、写真撮影
🔍 最近気になっているテーマ
インクルーシブな街づくり、ユニバーサルデザイン





