合理的配慮を追加でお願いしたいときの伝え方

「言ってもいいのかな?」を「伝えてよかった」に変える——合理的配慮の追加相談ガイド
就職が決まったとき、あるいは入社当初に「合理的配慮」について会社と話し合った方は多いはずです。しかし、実際に業務を進めていくうちに「想像以上にこの作業が負担だ」「新しいシステムになってから、以前の配慮だけでは足りなくなった」といった、新たな困りごとに直面することはありませんか。自分だけで抱え込んでしまい、気づけば体調を崩しそうになっている……そんな状況は、決して珍しいことではありません。
合理的配慮は、一度決めたら二度と変えられない「契約」ではありません。あなたの体調や業務内容の変化に合わせて、常にアップデートしていくべき対話です。この記事では、2026年現在の最新の考え方に基づき、会社に対して追加の配慮をお願いするときの「角が立たない伝え方」や「納得してもらえる構成案」を詳しく解説します。あなたの「働きやすさ」を再構築するためのステップを、一緒に踏み出してみましょう。
合理的配慮の「追加」が必要になる背景
環境の変化と特性の再発見
入社前には「これで大丈夫」と思っていた配慮も、現場で実際に働いてみると、微妙なズレを感じることがあります。例えば、オフィスの座席位置が入り口に近くて人の出入りが気になるとか、新しいソフトが導入されて操作手順が視覚的に分かりにくくなったといったケースです。これらは「事前の想定」と「実務」の間に生じる、誰にでもあるギャップです。
また、障害の特性によっては、緊張が解けてくる数ヶ月後になって初めて、特定の作業に対する強い疲労感に気づくこともあります。2026年の多様な働き方においては、「働いてみてから調整する」というスタンスが、企業側にも浸透し始めています。追加をお願いすることは、あなたの能力不足ではなく、より質の高い仕事をするための「環境調整」であると捉えてください。
「わがまま」と「配慮」の境界線
追加のお願いをためらう方の多くが、「これはわがままではないか」と不安に感じています。しかし、合理的配慮とは「障害者が障害のない方と平等に働くための障壁を取り除くこと」です。わがままは「楽をしたい」という個人的な欲求ですが、配慮は「成果を出すために障壁を取り除きたい」という業務上の必要性に基づいています。
もしあなたが、「今のままではミスが増えそう」「体調を崩して欠勤してしまう恐れがある」と感じているなら、それは立派な合理的配慮の対象です。企業側にとっても、あなたが倒れてしまうより、早期に配慮を追加して安定して働いてもらう方がコストやリスクが低いのです。自分自身を「戦力」として維持するためのメンテナンスだと考え、前向きに相談を検討しましょう。
💡 ポイント
合理的配慮は、2024年4月の法改正により、民間企業でも「義務」となっています。追加の相談をすることは、法律で認められた正当な権利です。
変化する業務内容への対応
昇進や異動、あるいはチーム内の担当変更など、仕事のステージが変われば必要な配慮も変わります。以前は単純な入力作業だけだったのが、後輩の指導や顧客とのやり取りが含まれるようになった場合、コミュニケーションの取り方について新しいルールが必要になるかもしれません。変化に適応しようと無理をする前に、会社と「新しい地図」を書き直す必要があります。
特に最近は、ハイブリッドワークやフルリモートなど、働き方の選択肢が増えています。自宅での作業環境や、Web会議ツールでの情報の受け取り方など、デジタル化に伴う新しい障壁に対しても、柔軟に配慮を求めていくことが推奨されています。あなたの「現在の状況」をアップデートすることは、会社全体の生産性向上にも繋がる大切なプロセスです。
追加のお願いをスムーズにする「3つの準備」
「困りごと」を客観的に可視化する
「なんとなく辛い」という伝え方では、会社側もどう対応していいか迷ってしまいます。まずは、具体的に「いつ」「どのような場面で」「どんな支障が出ているか」をメモに書き出しましょう。例えば、「午後の14時頃になると周囲の話し声で集中力が切れ、入力ミスが午前中の2倍に増えてしまう」といった具合に、数字や事実を交えるのがコツです。
感情的な訴えだけでなく、「業務への影響」をセットで提示することで、会社側は「これは業務課題だ」と認識しやすくなります。2025年の実態調査では、具体的な根拠を持って配慮を求めた場合、そうでない場合に比べて承認率が約40%高いという結果も出ています。まずは自分の状態を冷静に「実況中継」する準備から始めましょう。
「代替案」を自分から提案する
「これを改善してください」と丸投げするのではなく、「こうすれば解決できそうです」というアイデアを自分からいくつか提案してみましょう。会社側は配慮の必要性は理解していても、具体的に何をすればいいかまでは分からないことが多いからです。あなたが自分の特性に合った解決策を提示することで、会社は「導入するかどうか」を検討するだけで済むようになります。
例えば、周囲の音が気になるなら、「耳栓の使用を許可してほしい」「1日30分だけ静かな会議室で作業させてほしい」「ノイズキャンセリングヘッドホンを自費で持ち込みたい」など、複数の選択肢を用意します。会社が選びやすい選択肢を提示することで、相談のハードルがぐっと下がります。自分の「トリセツ」を更新して、相手に渡すイメージです。
✅ 成功のコツ
「会社に負担をかけすぎない案」と「理想の案」の2段階で準備しておくと、交渉の余地が生まれ、合意点を見つけやすくなります。
相談する「タイミング」と「相手」を見極める
追加のお願いは、立ち話ではなく、きちんと時間を取ってもらえる場所で行いましょう。上司に「現在の業務について少しご相談したいことがあるので、今週どこかで15分ほどお時間をいただけないでしょうか」とあらかじめ打診します。忙しい時間帯や、大きなプロジェクトの締め切り前などを避ける配慮も、円滑な対話のためには有効です。
相談相手は、まずは直属の上司が基本ですが、場合によっては人事担当者や産業医、あるいは障害者雇用担当者に同席してもらうのも良いでしょう。第三者が入ることで、より客観的で公平な話し合いができるようになります。誰に話すのが一番安心できるか、あるいは一番決定権があるかを考えて、最適なルートを選択しましょう。
会社が納得する「伝え方」の公式
ポジティブな理由から切り出す
相談の冒頭では、まず「仕事を続けたいという意欲」を伝えることが非常に重要です。「今のままだと無理です」という否定的な入り方ではなく、「今後もより正確に仕事をこなしたいので」「もっとチームに貢献するために、環境を整えたいのです」という前向きな姿勢を示しましょう。これにより、会社側はあなたを「建設的な相談をしてくれる仲間」だと認識します。
企業が最も恐れているのは、前触れもなく急に退職されることです。あなたが追加の配慮を求めることは、「長く働き続けるための努力」として映ります。自分のためだけでなく、会社との良好な関係を長続きさせるための相談であることを明確にしましょう。言葉一つで、交渉は「お願い」から「共同作業」へと変化します。
「現状・原因・提案・メリット」の順で話す
話を論理的に組み立てるために、以下の4ステップ(PREP法に近い構成)で話してみましょう。この流れで伝えると、面接官や上司は納得感を持ちやすくなります。
- 現状:最近、特定の作業でミスが増えたり、強い疲労を感じたりしている事実。
- 原因:その背景にある障害特性と、環境の変化の関係(例:光の刺激、指示の曖昧さ)。
- 提案:具体的な配慮の追加案(例:フィルターの設置、指示のテキスト化)。
- メリット:その配慮によって、ミスが減り、安定して稼働できるという会社側の利点。
特に「メリット」の部分を強調してください。「私が楽になるから」ではなく、「これによって業務の質が上がります」と伝えることで、会社側は配慮を「未来への投資」として受け止めることができます。win-winの関係を強調することが、合意への近道です。
⚠️ 注意
「法律で決まっているからやってください」という態度は、逆効果になることがあります。権利を主張する前に、まずは「対話」を大切にしましょう。
テーブル形式で伝える(情報の整理)
口頭だけで伝わりにくい場合は、以下のような簡単な比較表を紙に書いて渡すと、視覚的に分かりやすくなります。対話の「資料」として活用してみてください。
| 現在の状況(障壁) | 追加をお願いしたい配慮 | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| 口頭での指示を忘れてしまう | チャット等でのテキスト指示 | 確認の手間が減り、ミスが防げる |
| 午後の疲労が激しくなる | 10分程度の分割休憩の導入 | 夕方まで集中力を維持できる |
| Web会議の内容が追えない | 字幕機能の使用や議事録共有 | 情報を正確に把握し、実行できる |
実例:追加の配慮で「働きやすさ」を取り戻した人たち
ケース1:在宅ワークとの組み合わせ(精神障害 Aさん)
入社当時は毎日出社していたAさん。しかし、半年が経ち業務量が増えると、通勤のストレスと職場の雑音で眠れない日々が続くようになりました。Aさんは「このままでは辞めるしかない」と追い詰められましたが、支援員の助言を受け、上司に週2日の在宅勤務を追加配慮として相談しました。当初、会社には在宅制度がありませんでしたが、Aさんの「家の方が集中できて、ミスのない成果物を出せる」という実績を根拠に、試験的に導入されました。
結果として、Aさんの体調は劇的に改善。在宅の日は集中作業を行い、出社の日は打ち合わせを行うというメリハリができ、生産性は以前の1.5倍に向上しました。会社側も「Aさんの事例があったから、他の社員にも柔軟な働き方を導入できた」と感謝しているそうです。一人の勇気ある相談が、会社全体の働き方改革に繋がった素晴らしい例です。
ケース2:指示系統の明確化(知的障害 Bさん)
製造現場で働くBさんは、複数の先輩からバラバラに指示を受けることで、パニックを起こすことが増えていました。当初の配慮は「分かりやすい言葉で話す」ことでしたが、実態は「誰の言葉に従えばいいか分からない」ことが障壁となっていました。支援員が間に入り、「指示を出す人をリーダー一人に絞ってほしい」と追加の配慮をお願いしました。
会社側は、混乱を避けるためにリーダーの役割を再定義。Bさんのデスクに「指示はこの人から」という名前を明示し、他の社員には「Bさんに指示を出すときは必ずリーダーを通すように」と周知しました。これによりBさんのパニックはゼロになり、作業のスピードが20%向上しました。現場のオペレーションが整理されたことで、周囲の社員にとっても動きやすい職場へと進化しました。
ケース3:ツール導入による情報の可視化(発達障害 Cさん)
事務職のCさんは、スケジュールの管理や優先順位の付け方に苦労していました。当初は「メモを取る」という配慮を受けていましたが、メモ自体を紛失したり、どれが最新か分からなくなったりしていました。そこで、社内で使っている共有タスク管理ツールの個人利用を許可してほしいと相談しました。「使い方が難しいかも」と懸念していた会社に対し、Cさんは「自分で使い方のマニュアルを作りました」と提示し、意欲をアピールしました。
許可が出てから、Cさんはタスクの締め切りを確実に守れるようになり、上司も進捗をリアルタイムで確認できるため、安心感が増したと言います。新しいツールの活用は、周囲の社員への刺激にもなり、部署全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進むきっかけにもなりました。配慮の追加が、個人の成長だけでなく組織の近代化を後押ししたケースです。
💡 ポイント
実例に共通しているのは、「現状の不便さ」を「改善後のメリット」に変えて伝えている点です。会社はあなたのサポーターになれる可能性を秘めています。
よくある質問(FAQ)
Q. 追加のお願いをして「できない人」だと思われませんか?
むしろ逆です。自分の状態を客観的に把握し、先回りして対策を講じようとする姿勢は、ビジネスパーソンとして非常に高い自己管理能力があると評価されます。本当に「できない人」は、問題が起きてから黙って投げ出してしまう人です。早めに声を上げることは、あなたが仕事に責任を持っている証拠ですので、胸を張って相談してください。
Q. 会社に「予算がない」と断られたらどうすればいいですか?
合理的配慮は、会社にとって「過重な負担」にならない範囲で行われるものです。高額な機器の購入などが難しい場合は、お金をかけずにできるソフト面の工夫を検討しましょう。例えば、「高価な遮音壁を立てる」代わりに「パーティションの向きを変える」「空いている会議室を使う」といった案です。また、助成金(障害者雇用納付金制度など)が利用できる場合もあるので、ハローワークや支援機関に相談して、会社に情報提供するのも一つの手です。
Q. 相談しても聞き入れてもらえないときは?
会社との話し合いが平行線になったり、不当に拒否されたりする場合は、一人で抱え込まずに外部の機関を頼りましょう。ハローワークの障害者専門窓口や、障害者就業・生活支援センター、労働局の相談コーナーなどが力になってくれます。また、2026年現在は多くの自治体で「紛争解決の援助」も行っています。対立を深めるためではなく、客観的な視点を入れて解決を目指すために、専門家の力を借りるのは非常に有効な手段です。
まとめ
合理的配慮を追加でお願いすることは、あなたが今の職場で「長く、元気に、活躍し続ける」ためのポジティブなアクションです。入社時の配慮が正解であり続ける必要はありません。自分自身の変化や環境の変化に合わせて、勇気を持って声を上げてみましょう。
- 現状を数字や事実で可視化する:感情だけでなく、業務への影響を伝えましょう。
- 代替案(解決策)をセットで提案する:会社が判断しやすい選択肢を用意しましょう。
- 「長く貢献したい」という熱意を添える:会社にとってのメリットを強調することが合意の鍵です。
まずは今日、自分が感じている「ちょっとした不自由」を紙に書き出してみませんか。それが、より良い明日への第一歩になります。もし自分一人で話すのが不安なら、支援員さんに同席してもらうことから始めても構いません。あなたがあなたらしく、笑顔で働ける環境は、あなた自身の対話から生まれます。私たちは、その一歩を全力で応援しています。

伊藤 真由美
(いとう まゆみ)33歳📜 保有資格:
特別支援学校教諭免許、社会福祉士
特別支援学校で5年教員を務めた後、就労継続支援B型事業所で5年勤務。「学校から社会へ」の移行支援と、「自分のペースで働く」を応援します。進路選択や作業所選びの情報をお届けします。
大学で特別支援教育を学び、卒業後は特別支援学校の教員として5年間勤務。知的障害や発達障害のある生徒たちの進路指導を担当する中で、「卒業後の支援」の重要性を痛感しました。そこで教員を辞め、就労継続支援B型事業所に転職。現在は生活支援員として、様々な障害のある方が自分のペースで働く姿を日々見守っています。特に大切にしているのは、「働くことがすべてではない」という視点。一般就労が難しくても、作業所での仕事や日中活動を通じて、生きがいや居場所を見つけることは十分可能です。記事では、特別支援学校卒業後の進路選択、就労継続支援A型・B型の違い、作業所での実際の仕事内容など、「自分らしい働き方・過ごし方」を見つけるための情報を発信します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
特別支援教育を学び、「卒業後の支援」の重要性を感じたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
作業所での仕事や日中活動を通じて、生きがいや居場所を見つけた方々を見守ってきたこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
「働くことがすべてではない」という視点を大切に、自分らしい過ごし方を見つける情報を発信します。
🎨 趣味・特技
ハンドメイド、音楽鑑賞
🔍 最近気になっているテーマ
発達障害のある方の就労支援、工賃向上の取り組み





