休むことを許せなかった私が、休めるようになるまで

「休むことは罪」だと思い込んでいたあなたへ。心と体を守る「勇気ある休息」への物語
障害のある家族のケアや、福祉現場での支援に日々奔走していると、「自分が休んだら誰が代わりをするの?」「休むなんて無責任だ」という考えに支配されてしまうことがあります。2026年現在、ケアラー(介護・支援を担う人)の心身の疲弊は社会的な課題となっていますが、当事者である私たちは、今この瞬間も自分を後回しにして頑張り続けてしまいがちです。
かつての私も、休むことを自分に決して許せませんでした。しかし、限界を迎えてようやく気づいたのは、「休むことは、大切な人を守り続けるための義務である」ということです。この記事では、休息への罪悪感をどのように手放し、健やかな生活を取り戻したのか、実例や具体的な手法を交えてお話しします。この記事を読み終える頃、あなたが自分自身に「休んでもいいよ」と優しく声をかけられるようになることを願っています。
なぜ「休むこと」がこれほどまでに難しいのか
自分を縛り付ける「自己犠牲」の正体
私たちは無意識のうちに、「障害のある人のために尽くすことこそが愛であり、正義である」という価値観を内面化しています。特にご家族の場合、お子さんやパートナーの苦労を間近で見ているからこそ、「本人がこんなに大変なのに、自分だけ楽をしていいはずがない」と考えてしまいがちです。これが、自分を休ませない最大の心理的な壁、強い自己犠牲感です。
しかし、2025年に発表されたケアラーの実態調査では、慢性的な休息不足にある人の約70%が、精神的な不安定さを抱えていることが示されています。自己犠牲は短期的には美徳に見えるかもしれませんが、長期的にはケアの破綻を招くリスクを孕んでいます。自分を削って行う支援は、いつか必ず枯渇してしまうのです。
周囲の期待という「見えないプレッシャー」
「あそこのお母さんはいつも立派ね」「あの職員さんは本当に熱心だ」。こうした周囲からの称賛が、皮肉にも私たちから「休む権利」を奪っていくことがあります。期待に応え続けようとするあまり、弱音を吐くタイミングを失い、さらに自分を追い詰めてしまう。これを心理学では、良い自分を演じ続けなければならない役割固着の状態と呼びます。
支援者の場合、職場の人手不足も大きな要因です。「自分が休めば他のスタッフに迷惑がかかる」という同僚への気兼ねが、心身のSOSを無視させる原因となります。しかし、組織としての休息管理が不十分なツケを、個人の根性で埋めることには限界があります。周囲の期待や職場の状況と、自分の健康を切り離して考える力が必要です。
💡 ポイント
あなたが休むことで生じる不都合は、多くの場合、制度や周囲の協力で解決可能です。しかし、あなたが壊れてしまった代わりはいません。
休息の取り方が分からないという戸惑い
長年、休まずに走り続けてきた人にとって、「いざ休もう」と思っても、何をしていいか分からないという問題に直面します。家を離れても、頭の中は常に「あの薬は飲ませたかな」「パニックになっていないかな」と、ケアのことでいっぱいです。体が動いていなくても、脳がケアモードのままであれば、それは本当の意味での休息とは言えません。
休息には練習が必要です。最初は10分、次は1時間と、徐々に「ケアから思考を切り離す」訓練をしていく必要があります。いきなり丸一日リフレッシュしようとするのではなく、まずは日常の中に小さな「空白」を作ることから始めるべきです。休むことは、単なるサボりではなく、プロフェッショナルな自己管理の技術なのです。
「休めない」がもたらした限界と気づき
突然やってきた「心のシャッター」
私に転機が訪れたのは、ある日の朝でした。いつも通り息子を起こし、朝食を準備し、着替えをさせている最中、急に体が石のように重くなり、涙が止まらなくなったのです。特別なトラブルがあったわけではありません。ただ、何年も蓄積された「休めない重圧」が、コップから溢れ出した瞬間でした。これがバーンアウト(燃え尽き症候群)の典型的な症状です。
その時、息子は私の異変に気づき、戸惑った表情をしていました。私が倒れてしまっては、一番守りたかったはずの息子を、最も不安な境遇に追い込んでしまう。その事実に直面したとき、「自分の健康を守ることは、息子の安心を守ることとイコールなんだ」と、ようやく腹落ちしたのです。私が笑顔でいられない支援は、息子にとっても幸せなものではなかったのです。
支援者が直面する「共感疲労」の恐怖
支援の現場で働くプロにとっても、休めない日々は「共感疲労(きょうかんひろう)」という深刻な事態を招きます。相手の苦しみに共鳴しすぎて、自分自身の感情が摩耗し、冷淡になったり、過度に攻撃的になったりする現象です。2024年の福祉労働白書によれば、メンタル不調で離職する職員の多くが、この共感疲労を自覚していなかったというデータがあります。
「最近、利用者さんに対してイライラしやすくなった」「以前のように親身になれない」。もしそう感じているなら、それは心が「もう休んで!」と叫んでいる証拠です。心の余裕は、支援の質を決定づける最も重要なインフラです。ガソリンが空の車が走れないように、心のエネルギーが空の支援者が、誰かを勇気づけることはできないのです。
⚠️ 注意
「自分さえ我慢すれば」という考えは、周囲の人にまで「我慢するのが当たり前」という空気を伝染させてしまいます。
「休む勇気」を持つための価値観の転換
私が「休める」ようになった最大の理由は、休息の定義を書き換えたことです。「休む=サボる、無責任」という定義から、「休む=次のパフォーマンスのための準備、愛のメンテナンス」へと変えました。アスリートが試合の後に体を休めるように、ケアを担う私たちもまた、ハードな任務を遂行するために戦略的な休息が必要なのです。
また、自分がいない環境をあえて作ることで、お子さんや利用者様に「他者と関わる機会」を提供しているのだと考えるようにしました。私がいない時間は、本人が他の支援者と絆を深めたり、親以外の人と過ごす練習をしたりする貴重な成長機会です。こう考えることで、外出する際の罪悪感を、少しずつ「応援」の気持ちに変えていくことができました。
罪悪感なく休むための「仕組み作り」
「レスパイトケア」を最大限に活用する
休息を個人の努力で実現しようとするのは無理があります。公的な仕組みである「レスパイトケア(休息支援)」を使いこなしましょう。ショートステイ(短期入所)や日中一時支援(にっちゅういちじしえん)は、単に家族が楽をするためのものではなく、家族全体の生活を維持するための必須の福祉サービスです。
2026年現在、ショートステイの空き状況をリアルタイムで確認できるシステムを導入している自治体も増えています。「まだ限界ではないから」と利用を控えるのではなく、定期的に、何事もなくても利用する習慣をつけましょう。予約を入れてしまえば、それは「予定」となり、休むことへの心理的ハードルがぐっと下がります。
「信頼できる代わり」を複数持っておく
自分が休めない理由の多くは、「自分にしか分からないケアのコツ」があるからです。これを「見える化」して、他の人でも対応できるようにマニュアル化(サポートブックの作成)しておきましょう。おむつ替えの手順、パニック時の声かけ、好きなテレビ番組……これらを共有することで、自分以外の人に任せる不安が大幅に軽減されます。
家族、ヘルパー、施設のスタッフ。特定の誰か一人に頼り切るのではなく、支え手のポートフォリオ(組み合わせ)を作ることが大切です。2025年に実施されたケアラー支援の事例紹介では、複数の支援先を持つ家庭ほど、急な病気やトラブル時にも休息が守られやすいことが報告されています。多くの手で支えることが、結果として本人の安全を最も強固にするのです。
✅ 成功のコツ
「自分以外でも大丈夫」と思える環境を作ることは、本人の「親亡き後」の備えにも直結します。休息は、究極の自立支援なのです。
自分だけの「聖域」の時間と場所を決める
物理的に家を離れることが難しい場合でも、家の中に「ここだけはケアを持ち込まない」という聖域を作りましょう。例えば「お風呂に入っている15分間はスマホも見ないし、ケアのことも考えない」「夜21時以降は自分の好きな映画を見る時間にする」。このように時間と空間を区切ることで、脳を強制的にオフモードに切り替えます。
また、週に一度は「ケアラーであることを忘れる場所」へ行くことも効果的です。趣味のサークル、カフェ、あるいはただの図書館。そこでは「〇〇さんの親」「〇〇施設の職員」ではなく、ただの自分自身として存在できます。この「役割からの脱却」が、心の深層にある疲れを癒やしてくれます。自分を大切にする時間をスケジュール帳に書き込み、他の予定と同じ重みで扱いましょう。
実例エピソード:休み始めた人たちが手に入れたもの
事例1:ショートステイを「本人の合宿」と考えたBさん
知的障害のある娘を持つBさんは、娘を施設に預けることに強い抵抗がありました。「寂しい思いをさせてまで自分が遊びに行くなんて」と思っていたのです。しかし、相談員の勧めで「本人の自立のための合宿」と呼び名を変えて、月に1回のショートステイを開始しました。最初は不安でしたが、娘さんが意外にも施設でのレクリエーションを楽しみ、新しい友達を作って帰ってくる姿を見て、考えが変わりました。
Bさんはその間、友人とお茶をしたり、美容院に行ったりして自分をリフレッシュさせました。帰ってきた娘さんに「楽しかった?」と笑顔で聞ける余裕が生まれたとき、Bさんは「離れる時間は、再会した時の喜びを大きくするためのものだ」と気づいたそうです。今では娘さんのほうから「次はいつ合宿?」と聞くほど、お互いにとって大切な時間になっています。
事例2:有給休暇を「心の定期検診」にした支援員Cさん
入職以来、有給をほとんど消化していなかった若手支援員のCさん。しかし、ケアミスの増加を上司に指摘され、強制的にリフレッシュ休暇を取らされました。最初の数日は「仕事が気になる」とそわそわしていましたが、3日目あたりから、ようやく自分がどれほど深く疲れていたかに気づきました。自然の中を歩き、たっぷりと眠ることで、視界が開けるような感覚を得ました。
「休む前は、利用者のわがままが憎たらしいとさえ思っていました。でも、休んだ後は、『この人は今、寂しいんだな』と冷静に共感できるようになったんです。休みは、プロとしての優しさを取り戻すためのメンテナンスでした。」
— 支援員Cさんの言葉
今、Cさんは月に一度、必ず「何もしない有給」を入れています。それが支援の質を高く保つ秘訣であることを、身をもって知ったからです。
事例3:ICTを活用して「心理的距離」を置いたDさん
在宅で介護をするDさんは、別室にいても本人の様子が気になり、片時も目が離せませんでした。そこで、2025年の補助金制度を活用して、見守りセンサーとカメラを導入しました。スマホで様子が確認できるようになったことで、庭いじりをしたり、リビングで読書をしたりする際も、過度な緊張感から解放されました。
「見ている」けれど「そばにいすぎない」。この適切な物理的・心理的距離が、Dさんの心の平安をもたらしました。テクノロジーは冷たいものではなく、私たちの「休み」を支えてくれる温かい道具になり得るのです。Dさんは今、少しずつ趣味の時間を増やし、自分自身の人生を取り戻しつつあります。
よくある質問(FAQ)
Q. 休むことに罪悪感を感じてしまったときは、どう考えればいいですか?
その罪悪感は、あなたが愛情深い証拠です。でも、こう考えてみてください。あなたが逆の立場だったら、あなたを大切に思っている人は、あなたに無理をしてほしいと願うでしょうか?きっと「少しは休んでね」と言うはずです。自分を大切にすることは、あなたを大切に思っている人を安心させることでもあります。罪悪感が出てきたら、「これは愛の証拠。だからこそ、その愛を長持ちさせるために休もう」と唱えてみてください。
Q. 周囲が「休んでいいよ」と言ってくれない環境です。
悲しいことですが、言葉に出さない限り、周囲は「あの人は大丈夫だ」と誤解し続けてしまいます。まずは「少し疲れているので、助けてほしい」と言葉にする勇気を持ちましょう。2026年現在、ケアラー支援法などの影響もあり、声を上げれば助けてくれる相談機関は増えています。周囲が変わるのを待つのではなく、あなたが「限界の旗」を振ることが、環境を変える第一歩となります。
Q. 経済的な理由で、有料のサービスを使ってまで休む余裕がありません。
休息に必ずしもお金をかける必要はありません。まずは自治体の「障害者福祉ガイドブック」を読み込み、自己負担が軽減される減免制度や、地域ボランティアの派遣がないか確認しましょう。また、お金をかけずとも「スマホを置いて散歩する10分」も立派な休息です。お金の問題を理由に休息そのものを諦めないでください。まずは相談支援専門員に、予算内でできるリフレッシュ方法を一緒に考えてもらいましょう。
自分を許し、休むための3つのステップ
1. 「休息計画」をケアプランに組み込む
休息を「空いた時間でするもの」ではなく、「最優先の予定」に格上げしましょう。ケアプラン(サービス等利用計画)を立てる際、相談支援専門員に「私の休息時間を確保したい」とはっきり伝えてください。本人のためのプランの中に、あなたの休息が組み込まれることで、それは社会的に認められた「公的な休み」になります。この公的な後ろ盾が、あなたの罪悪感を和らげてくれます。
また、カレンダーには「自分へのご褒美日」を先取りして書き込みましょう。旅行のような大きなイベントでなくて構いません。「この日は午後から映画」「この日は昼寝を1時間」といった具体的な予定を立てることが、日々の過酷なケアを乗り切る希望の光となります。未来の自分に、休息というギフトを予約してあげてください。
2. 「自分以外ができること」を一つずつ手放す
あなたが抱えているタスクをすべて書き出し、テーブルに並べてみましょう。その中で、本当に「あなたにしかできないこと」は何%ありますか?例えば、食事の準備は宅配弁当やヘルパーに、掃除は家電や外注に、話し相手はデイサービスに。このように、ケアのタスクを外注化していくことは、決して愛情不足ではありません。むしろ、あなたが最も得意な「愛情を注ぐこと」に集中するための賢明な判断です。
「自分がやったほうが早い」「自分でやったほうが完璧」という思いを、少しだけ横に置いておきましょう。他人が介在することで、本人にとっても新しい刺激になり、生活にリズムが生まれます。あなたが手放したそのタスクは、誰かの「仕事」になり、誰かの「喜び」になるかもしれません。手放すことは、社会を循環させることでもあるのです。
| 項目 | 自分ですること | 他者に任せること(例) |
|---|---|---|
| 身体的ケア | 重要な入浴、着替え | 通所施設での入浴、訪問介護 |
| 精神的ケア | 一緒に遊ぶ、読み聞かせ | ボランティア、放課後等デイサービス |
| 家事・事務 | 金銭管理、意思決定 | 宅配食、掃除代行、行政手続きの代行 |
3. 「自分の好き」を再発見する
休めるようになったら、かつて自分が好きだったこと、夢中になっていたことを思い出してみましょう。音楽、手芸、スポーツ、あるいはただの昼寝。ケア以外の「自分」を形成する要素を再発見することは、心の回復を劇的に早めます。2025年の心理学のアプローチでも、「多面的な自己(マルチセルフ)」を持つ人ほど、特定の領域(ケア)でストレスがあっても折れにくいことが分かっています。
「私なんて、もうそんなこと楽しむ年齢じゃないし……」とブレーキをかけないでください。あなたの喜びは、あなただけのものです。あなたが生き生きと趣味を楽しんだり、笑顔で外から帰ってきたりする姿は、本人の目にも魅力的に映るはずです。あなたが自分の人生を楽しむこと。それこそが、究極の「やっていい支援」なのです。
まとめ
「休むことを許せなかった」あの日々は、あなたがいかに一生懸命に生きてきたかの証です。でも、もう十分です。これからは、あなた自身が「自分というかけがえのない大切な人」をケアする番です。あなたが休むことは、誰かを傷つけることではなく、みんなが幸せであり続けるための賢い選択なのです。
- 休息はケアの一部である:あなたが元気でいることが、最大の支援環境となります。
- 制度と仕組みを使い倒す:個人の頑張りに頼らず、社会の資源を積極的に活用しましょう。
- 自分を主語にする時間を持つ:1日の中に、少しでも「私のための時間」を確保しましょう。
今日から、まずは1日の中に5分間の「完全停止時間」を作ってみてください。目を閉じて、自分の呼吸を感じ、ただ「よくやっているね」と自分に伝えてあげてください。その5分が、明日を歩むための新しいエネルギーになります。私たちは、あなたが笑って休息を楽しめる日を、心から応援しています。あなたは一人ではありません。一緒に、無理のない歩みを始めましょう。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





