就職準備のために必要な生活リズム・コミュニケーション整備

「就職活動を始める前に、まず何をすべきだろうか?」「ブランクが長くて、いきなり仕事ができるか不安だ」と感じている方も多いのではないでしょうか。障害者雇用、あるいは一般就労を目指す上で、履歴書や面接対策と同じくらい、あるいはそれ以上に大切なのが、「安定した生活リズム」と「基本的なコミュニケーション能力」の整備です。
どんなに高いスキルや専門知識を持っていても、毎朝決まった時間に起きられず、出勤が不安定では、企業からの信頼を得て仕事を続けることは困難です。仕事の基礎は、まず「決まった時間に、決まった場所で、安定して活動できること」にあります。
この記事では、安定就労の土台となる「生活リズムの確立」と、職場でのストレスを減らすための「コミュニケーションの整備」について、具体的なステップと実践的な訓練方法を徹底解説します。特に、就労移行支援などの支援機関を活用した、効果的な準備方法をご紹介します。
この記事を読んで、不安を自信に変え、無理なく安定して働き続けられる自分を作るための、確かな一歩を踏み出しましょう。
ステップ1:安定就労のための「生活リズム」の確立
(1)就労を想定した「起床・就寝」時間の固定
就職準備の最初のステップは、応募を予定している企業の始業時間に合わせて、起床時間を逆算して固定することです。仮に9時始業の会社に応募する場合、通勤時間も含め、7時や7時半には起きられる生活を毎日続ける必要があります。
- 訓練目標:最低でも、週5日、毎日同じ時刻に起床し、活動を開始できる状態を目指す。
- 重要性:規則正しい睡眠と覚醒のリズム(サーカディアンリズム)を整えることは、精神的な安定や、集中力、体力の回復に直結します。
もし、一人での固定が難しい場合は、家族や支援機関に協力を依頼し、毎日決まった時間に声かけをしてもらうなど、外部の力を借りてでもリズムを崩さない工夫が必要です。
(2)「活動時間」と「休憩・休息」のバランスの調整
ただ早起きするだけでなく、日中の「活動時間」を業務時間に近づけていくことも大切です。例えば、午前中に集中して2〜3時間、就職活動や訓練に取り組むなど、脳と体を「仕事モード」に慣らしていきます。
一方で、障害のある方にとって「休憩・休息」の取り方は非常に重要です。体調のサインを見逃さず、疲労が溜まる前に休息を取るセルフケアの習慣を身につけましょう。仕事に就いてからも、この適切な休息の取り方が、長期的な安定就労を左右します。
就労移行支援事業所の利用は、実際の業務時間に近い環境で訓練を受けながら、疲労のピークや適切な休息のタイミングを客観的に見つけるための非常に有効な手段となります。
(3)日報・体調記録による「自己管理能力」の可視化
生活リズムが安定してきたら、毎日の「日報」や「体調記録」をつける習慣を身につけましょう。これは、単なる記録ではなく、あなたの「自己管理能力」を企業に示すための客観的な証拠となります。
- 記載内容:起床・就寝時間、その日の体調(気分、集中力など)、活動内容、休憩時間、服薬状況。
- 活用方法:面接時や就職後に、「私は〇〇という工夫をして体調を安定させています」と、具体的な事実をもって説明するための根拠として活用できます。
特に精神・発達障害の方にとって、体調の波を自分で把握し、それを言語化して伝えられる能力は、合理的配慮を適切に求めるための前提スキルとなります。
ステップ2:職場における「コミュニケーション」の整備
(1)報連相(報告・連絡・相談)の基本ルールの習得
職場でのコミュニケーションの基本は、「報連相」です。障害特性によっては、この報連相に困難を抱える方が少なくありません。しかし、報連相の不足は、業務の遅延やミスの原因となり、職場の人間関係に亀裂を生じさせます。
- 報告:仕事の進捗状況を、「結論から」簡潔に、客観的な事実に基づいて伝える練習をする。
- 連絡:会議の場所や時間の変更など、必要な情報を正確に伝える習慣をつける。
- 相談:自分で解決できない問題は、必ず上司や支援機関に、早めの段階で相談する訓練をする。
特に、発達障害などで「あいまいな指示」が苦手な方は、「この指示で合っていますか?」「作業の優先順位はこれで正しいですか?」と、積極的に質問・確認する習慣を身につけることが重要です。
(2)「アサーション」による適切な自己表現の練習
アサーション(Assertiveness)とは、相手を尊重しつつ、自分の意見や気持ち、必要な配慮を適切に伝える自己表現の技術です。障害者雇用で長く働くためには、このアサーションスキルが不可欠です。
- 過度な我慢の回避:苦手な業務や、体調が悪い時に「大丈夫です」と無理をしてしまい、結果的に体調を崩すことを防ぐ。
- 配慮の要求:面接や入社後、「このやり方だとミスをするので、指示を文書でお願いします」といった、配慮を求める際の適切な言葉遣いと態度を習得する。
多くの就労移行支援事業所では、このアサーショントレーニングがプログラムに組み込まれています。ロールプレイングなどを通じて、繰り返し練習し、緊張せずに自然に配慮を伝えられるようになることが目標です。
(3)非言語コミュニケーションと職場のマナー
言葉以外で伝わる情報(非言語コミュニケーション)も、職場の人間関係に大きな影響を与えます。例えば、目線を合わせない、挨拶をしない、服装が乱れている、といった態度は、「働く意欲がない」と誤解される原因となります。
- 基本的なマナー:適切な声量での挨拶、出退勤時の声かけ、来客時の対応など、社会人としての基本的なマナーを身につける。
- 傾聴と共感:相手の話を遮らずに最後まで聞く「傾聴」の姿勢は、良好な人間関係を築くための基本です。
これらのスキルは、短期間では習得できません。就労移行支援や職業訓練を通じて、「実践とフィードバック」を繰り返すことで、徐々に職場にふさわしい振る舞いが身についていきます。
ステップ3:支援機関を活用した「就労準備性」のチェック
(1)就労移行支援事業所での「生活訓練プログラム」
就職へのブランクが長い方や、生活リズムに不安がある方は、就労移行支援事業所の「生活訓練プログラム」を積極的に活用しましょう。このプログラムは、就職に必要なスキルだけでなく、生活面全般をサポートします。
- 擬似的な職場環境:事業所に毎日通所することで、実際の通勤や業務時間に近い生活リズムを強制的に確立できる。
- 体調管理指導:専門員や看護師から、服薬管理、睡眠改善、ストレス対処法など、医学的知見に基づいた生活指導を受けられる。
- 金銭管理:就職後の生活を見据え、収支の管理や、障害年金・手当などの適切な活用方法についても相談できる。
就労移行支援は、「スキルを学ぶ場」であると同時に、「体調を整え、生活を安定させるためのリハビリテーションの場」であることを認識しましょう。
(2)職場実習・トライアル雇用による「最終チェック」
生活リズムとコミュニケーションの訓練がある程度進んだら、実際の企業で行う「職場実習」や「トライアル雇用」に挑戦しましょう。これは、あなたの就労準備性が実際の職場で通用するかどうかをチェックする最終ステップです。
- 実習での確認事項:朝の出勤が安定しているか、休憩時間の使い方、疲労の回復度合いなど、生活リズムの安定性を検証する。
- コミュニケーションの検証:上司や同僚からの指示に対して、適切な報連相ができているか、配慮を適切に伝えられているかを検証する。
実習中に問題点が見つかった場合も、それは失敗ではありません。問題点を支援機関に持ち帰り、訓練プログラムにフィードバックする貴重な機会となります。実習の結果を通じて、あなたの準備性を企業へ客観的に証明することもできます。
(3)家族・主治医との連携体制の構築
安定就労の土台を維持するには、家族や主治医といった、外部の「サポートチーム」との連携が不可欠です。就職活動を始める前に、以下の体制を構築しておきましょう。
- 家族の協力:出勤前の声かけ、体調不良時の対応、服薬管理など、家庭内での協力体制を明確にする。
- 主治医との相談:主治医に就職活動の意向を伝え、「就労可能である」という客観的な判断をもらっておく。体調の波がある場合は、服薬の調整についても相談する。
特に、入社後に体調が悪化した場合に備え、「誰に、いつ、どのように相談するか」という危機管理マニュアルを支援機関と協力して作成しておくと、精神的な安心感が得られます。
まとめ
就職準備において、最も時間をかけて取り組むべきなのは、「安定した生活リズムの確立」と「職場に通用するコミュニケーションの整備」です。この土台がしっかりしていなければ、どんなに高いスキルを持っていても、長期的な安定就労は望めません。
まずは、就労を想定した起床・就寝時間を固定し、日報などで自己管理能力を可視化しましょう。そして、就労移行支援などの専門機関で報連相、アサーションといった実践的なコミュニケーションを訓練し、職場実習で最終チェックを行います。体調管理に不安がある方は、すぐに支援機関に相談し、安定就労に向けた土台作りから始めましょう。
- 安定就労の第一歩は、企業の始業時間に合わせた「起床時間」の固定である。
- 日報や体調記録により、自己管理能力を客観的なデータとして可視化する。
- 職場では、「報連相」と「アサーション」による適切な自己表現が不可欠である。
- 就労移行支援を活用し、生活リズム、コミュニケーションスキルを体系的に訓練する。

伊藤 真由美
(いとう まゆみ)33歳📜 保有資格:
特別支援学校教諭免許、社会福祉士
特別支援学校で5年教員を務めた後、就労継続支援B型事業所で5年勤務。「学校から社会へ」の移行支援と、「自分のペースで働く」を応援します。進路選択や作業所選びの情報をお届けします。
大学で特別支援教育を学び、卒業後は特別支援学校の教員として5年間勤務。知的障害や発達障害のある生徒たちの進路指導を担当する中で、「卒業後の支援」の重要性を痛感しました。そこで教員を辞め、就労継続支援B型事業所に転職。現在は生活支援員として、様々な障害のある方が自分のペースで働く姿を日々見守っています。特に大切にしているのは、「働くことがすべてではない」という視点。一般就労が難しくても、作業所での仕事や日中活動を通じて、生きがいや居場所を見つけることは十分可能です。記事では、特別支援学校卒業後の進路選択、就労継続支援A型・B型の違い、作業所での実際の仕事内容など、「自分らしい働き方・過ごし方」を見つけるための情報を発信します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
特別支援教育を学び、「卒業後の支援」の重要性を感じたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
作業所での仕事や日中活動を通じて、生きがいや居場所を見つけた方々を見守ってきたこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
「働くことがすべてではない」という視点を大切に、自分らしい過ごし方を見つける情報を発信します。
🎨 趣味・特技
ハンドメイド、音楽鑑賞
🔍 最近気になっているテーマ
発達障害のある方の就労支援、工賃向上の取り組み





