職場で利用者と関わる中で学んだ大切なこと

「支援」とは何かを問い直す——福祉の現場で利用者様から教わった心のあり方
福祉の現場で働き始めたばかりの頃、私は「自分が利用者を助けなければならない」という強い使命感に燃えていました。しかし、現実は甘くありません。良かれと思ってしたことが裏目に出たり、コミュニケーションがうまくいかずに落ち込んだりする毎日。「自分は支援者に向いていないのではないか」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
実は、支援の質を決めるのは技術や知識だけではありません。現場で日々利用者様と向き合う中で、私は支援とは「与えること」ではなく「共に在ること」だと気づかされました。この記事では、私が職場で失敗し、悩み、その末に利用者様から学んだ大切な視点について詳しくお伝えします。今、現場で壁にぶつかっている支援者の方や、これから福祉の道を志す方の心が、少しでも軽くなるヒントを詰め込みました。
「正解」を押し付けていた新人の頃の失敗
効率と正論が支援を壊すとき
私が就労移行支援事業所で働き始めた頃、一番の目標は「利用者様を一日でも早く就職させること」でした。履歴書の書き方を指導し、面接の練習を繰り返し、生活リズムを整えるよう促す。それが私の仕事であり、利用者様のためだと信じて疑いませんでした。しかし、ある利用者様から言われた一言が、私の胸を深く突き刺しました。
「先生は、僕を就職という箱に詰め込みたいだけなんですね」。その方は、私の熱心な指導に疲れ果てていたのです。私は「就職=幸せ」という自分自身の価値観を、相手のペースを無視して押し付けていました。支援者が「正解」を急ぐあまり、本人の本当の願いを置き去りにしてしまう。これは支援の現場で最も陥りやすい罠の一つです。
「待つこと」ができない焦り
福祉の現場では、目に見える成果がすぐに出ないことも珍しくありません。当時の私は、利用者様が立ち止まっている姿を見ると、焦りから「こうすればもっと良くなりますよ」と、先回りして答えを出していました。しかし、その答えは私の頭の中から出たものであり、利用者様自身の納得感はありませんでした。
支援において何よりも大切なのは、本人が自分の力で一歩を踏み出すのをじっと待つことです。何もしていないように見える時間も、本人の心の中では葛藤や整理が行われています。その沈黙を、支援者の不安で埋めてはいけないのだと痛感しました。支援とは、相手の歩幅に合わせて歩く「伴走」であることを学んだのです。
⚠️ 注意
支援者が一方的に目標を決めると、利用者は「指示待ち」の状態になり、かえって自立から遠ざかってしまうことがあります。あくまで主体は利用者本人であることを忘れてはいけません。
「助ける人」と「助けられる人」の境界線
私は無意識のうちに、自分を「上の立場(支援する側)」、利用者を「下の立場(支援される側)」と分けて考えていました。この傲慢さが、無意識のうちに言葉の端々に出ていたのだと思います。支援者が「やってあげている」という意識を持つと、利用者様はそれを敏感に感じ取り、心のシャッターを閉めてしまいます。
関係性が対等でなくなったとき、本当の対話は失われます。私たちは、支援のプロである前に、一人の人間として向き合う必要があります。利用者様は、私の至らなさを許してくださる寛大な存在でもありました。支援の現場は、支援者が利用者を育てる場所ではなく、双方が影響を与え合い、共に成長する場なのだと気づかされました。
言葉に頼らないコミュニケーションの深さ
沈黙の中に流れるメッセージを聴く
知的障害のある利用者様との関わりの中で、私は「言葉の無力さ」と「沈黙の豊かさ」を学びました。複雑な説明は伝わらなくても、一緒に同じ景色を眺めたり、隣で静かに作業をしたりする時間。その穏やかな空気感の中にこそ、信頼関係の芽が隠されていました。
「何か話さなければ」という強迫観念を捨てたとき、利用者様の微細な表情の変化や、指先の動きに目が向くようになりました。言葉にならない非言語コミュニケーションを大切にすることで、心の距離がぐっと縮まったのです。相手を理解しようとする姿勢は、口から出る言葉よりも、その人の佇まいや眼差しに宿るものだと教わりました。
感情の波を否定せず受け止める
ある日、感情が昂って大声を出し始めた利用者様がいました。以前の私なら「落ち着いてください」とすぐに制止しようとしていたでしょう。しかし、その時はただ隣に座り、嵐が過ぎ去るのを待ちました。本人の「怒り」や「悲しみ」には、必ず理由があります。それを無理に抑え込むことは、その人の尊厳を否定することに繋がります。
しばらくして落ち着いたその方は、ポツリと「分かってくれて、ありがとう」と仰いました。支援者の役割は、問題を解決すること以上に、相手の感情をありのままに受容する器になることです。感情の波を共に乗り越える経験が、言葉以上の深い絆を作ってくれるのだと確信しました。
💡 ポイント
言葉でのやり取りが難しい場合は、表情、声のトーン、身体の向きなどに注目してみましょう。また、同じ動作を繰り返す「ミラーリング」も、親近感を高める有効な手法です。
「観察」ではなく「洞察」する姿勢
支援の現場では、利用者の行動を記録する「観察」が重視されます。しかし、記録用紙の項目を埋めるためだけの観察は、相手を「物」として扱っているのと変わりません。大切なのは、その行動の裏側にある背景や願いを推し量る「洞察」です。
なぜこの時間に落ち着かなくなるのか? なぜこの言葉を繰り返すのか? その背景には、体調の変化や過去の記憶、あるいは私たち支援者の振る舞いが影響しているかもしれません。表面的な行動だけを見て判断するのではなく、心の奥底にある物語を想像する想像力こそが、質の高い支援には欠かせないのです。
利用者様から教わった「当たり前」の尊さ
小さな「できた」を100回祝う心
福祉の現場は、ドラマチックな変化が毎日起こる場所ではありません。昨日と同じ今日を無事に過ごすことが、何よりの成果であることもあります。そんな中で、利用者様は「自分で靴を履けた」「笑顔で挨拶ができた」という、私たちが当たり前だと思っていることの尊さを教えてくれました。
支援者である私たちは、つい「もっと上を」と高みを目指してしまいがちですが、利用者様は「今、ここにある幸せ」を感じる天才です。彼らと共に過ごすことで、私の価値観も変わりました。100点満点の結果を求めるのではなく、0.1点の上積みを心から喜ぶ。そんな感性が、支援者としての私の心を豊かにしてくれました。
ありのままの自分を愛する勇気
多くの利用者様は、自分の障害や特性と向き合いながら、懸命に生きておられます。社会の厳しい目に晒されながらも、自分らしくあろうとするその姿は、私自身の生き方を問い直すきっかけになりました。「普通でなければならない」という強迫観念に縛られていたのは、私の方だったのです。
利用者様が自分の弱さをさらけ出し、それでも前を向く姿を見て、私も「完璧な支援者でなくてもいい、ありのままの自分で向き合おう」と思えるようになりました。利用者様が教えてくれたのは、自己受容の大切さです。私たちが自分自身を許し、愛することができて初めて、他者を心から尊重できるようになるのだと感じました。
| 学んだこと | 以前の考え方 | 利用者様から教わった新しい視点 |
|---|---|---|
| 成果の捉え方 | 大きな目標の達成が全て | 日々の小さな変化や維持そのものが尊い |
| 支援者の役割 | 問題を解決し、指導する立場 | ありのままを受け入れ、共に歩む伴走者 |
| コミュニケーション | 言葉で正しく伝えることが重要 | 沈黙や眼差しを通じた心の交流を大切にする |
| 関係性の構築 | プロとして一線を引くべき | 人間対人間として、互いに影響し合う |
「できない」を「助けて」と言い合える関係
障害を持つ方は、日常生活の中で多くの助けを必要とします。しかし、それは決して恥ずべきことではなく、人間が本来持っている「相互扶助」の形です。現場で「手伝ってください」と素直に言える利用者様を見て、私は自立の定義を書き換えました。自立とは一人で何でもすることではなく、適切に人を頼れることです。
また、支援者である私も「今日は少し疲れていて、うまく対応できないかもしれません」と素直に弱音を吐くことがあります。すると、利用者様が「無理しないでね」と励ましてくださることがあります。助け、助けられる関係が循環したとき、そこには支援の枠を超えた「あたたかなコミュニティ」が生まれるのです。
支援者のメンタルケアと「自己覚知」の大切さ
自分の感情の揺れを無視しない
支援の仕事は感情労働です。利用者様のパニックや暴言に直面し、心が折れそうになることもあります。そんな時、プロだからといって感情を押し殺してしまうと、いつかバーンアウト(燃え尽き)してしまいます。大切なのは、自分が今「怒っている」「悲しんでいる」「疲れている」ということを素直に認めることです。
自分の感情を客観的に観察することを自己覚知(じこかくち)と言います。なぜ自分はこの人の特定の行動にイライラするのか? それは過去の自分の経験と結びついているからではないか? 自分を知ることで、感情に振り回されずに一歩引いた視点で支援ができるようになります。利用者様を理解するためには、まず自分自身を深く知ることが不可欠です。
「頑張りすぎない」ことを頑張る
支援者は責任感が強い人が多いです。「自分がこの人を救わなければ」と抱え込み、プライベートの時間まで支援のことを考えてしまう。しかし、それでは長く続けることはできません。良質な支援を継続するためには、支援者自身が心身ともに健康で、人生を楽しんでいる必要があります。
仕事が終わったら意識的にスイッチを切り、趣味や休息の時間を確保する。同僚と悩みを共有し、「今日はダメだったね」と笑い飛ばす余裕を持つ。自分を大切にできない人に、他者を大切にすることはできません。利用者様のためにも、まずは自分を愛し、余裕を持った「幸せな支援者」でいることを目指しましょう。
✅ 成功のコツ
一日の終わりに「今日良かったこと(自分への褒め言葉)」を3つ書き出してみましょう。どんなに大変な日でも、自分の頑張りを認める習慣がメンタルを守ります。
チーム支援の力:一人で背負わない
どんなに優秀な支援者でも、一人でできることには限界があります。難しいケースに直面したときは、迷わずチームに相談しましょう。多職種の視点(相談支援専門員、医師、看護師、理学療法士など)が入ることで、凝り固まっていた視界がパッと開けることがあります。
個別支援計画を作成するプロセスも、一人で悩むのではなく、みんなで知恵を出し合う場です。利用者様を「360度から支える」チームの一員として動くことで、プレッシャーを分散し、より多角的な支援が可能になります。助けを求めるのは、利用者様だけでなく支援者も同じです。仲間の力を信じ、連携の輪を広げていきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 利用者様と信頼関係を築くのに、どれくらいの期間が必要ですか?
信頼関係の構築に「正解」の期間はありません。数日で打ち解けられる場合もあれば、数年かかる場合もあります。大切なのは、焦らずに「一貫性」のある態度で接し続けることです。「この人はいつも同じように自分を受け入れてくれる」という安心感が、時間をかけて信頼へと変わります。1,000回の挨拶の積み重ねが、ある日突然、一本の心の橋になるのです。
Q. 利用者様にひどい言葉をぶつけられて、立ち直れません。どうすればいいですか?
それはとても辛い経験でしたね。まず、その傷を否定しないでください。ただし、多くの場合、その怒りは「あなた個人」に向けられたものではなく、本人が抱えている「生きづらさや苦しさ」の爆発です。たまたま目の前にいたのがあなただっただけかもしれません。自分を責めず、一度現場から離れて深呼吸をしましょう。信頼できる同僚に話を聴いてもらい、感情をデトックスすることが大切です。
Q. 福祉の知識が浅いのですが、こんな私でも良い支援ができるでしょうか?
専門知識はもちろん武器になりますが、最も強力な武器は「相手を尊重し、知ろうとする心」です。知識は後からいくらでも学べますが、純粋な好奇心や敬意は教わって身につくものではありません。分からないことは「分かりません。教えてください」と利用者様や先輩に聞けばいいのです。その謙虚な姿勢こそが、利用者様にとっては最大の安心感に繋がります。
「支援」の先にある、共生社会の実現を夢見て
全ての経験があなたの糧になる
福祉の仕事は、毎日が学びの連続です。失敗して落ち込んだ日も、利用者様と一緒に笑い転げた日も、その全ての経験があなたの「人間力」を形作っています。現場で出会う一人ひとりの利用者様は、あなたの人生における最高の「師」です。彼らが命をかけて見せてくれる姿から、私たちは「人間とは何か」「幸せとは何か」という深い問いの答えを学び取ることができます。
私自身、今でも迷うことはあります。しかし、利用者様との関わりを通じて得た「人間への信頼」があるからこそ、この仕事を続けてこれました。あなたが現場で流した汗や涙は、決して無駄にはなりません。それはいつか、誰もが自分らしく生きられる共生社会を築くための、尊い礎になるのです。
今日から取り組めるアクション提案
明日からの現場を少しだけ変えるために、以下のどれか一つを試してみてください。
- 利用者様の話を、一切否定せずに「最後まで」聴き切ってみる。
- 何かをお願いする際、「~してください」ではなく「~していただけると助かります」と言い換えてみる。
- 一日のどこかで、利用者様と「ただ隣に座って過ごす時間」を5分だけ作る。
- 同僚に対して、今日頑張っていた姿を具体的に一つ褒めてみる。
まとめ
職場で利用者様と関わる中で学んだのは、支援の本質とは「技術」ではなく「心の在り方」であるということです。迷いながらも向き合い続けるその姿勢こそが、何よりも尊い支援になります。
- 対等な関係性:支援する・されるの枠を超え、一人の人間として尊重し合い、共に成長すること。
- 非言語の対話:言葉の正論に頼らず、沈黙や感情の揺れを丸ごと受け止める器になること。
- 自己覚知とケア:自分自身の感情を知り、大切にすることで、持続可能な「幸せな支援」を実現すること。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





