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受傷直後の不安と混乱、支えてくれた言葉

📖 約28✍️ 鈴木 美咲
受傷直後の不安と混乱、支えてくれた言葉
身体障害を負った直後、筆者は動かない体への絶望と、家族への拒絶の感情に苛まれていた。しかし、リハビリ専門医から「再び歩ける可能性は低いが、新しい人生の始まりだ」と現実と未来を提示され、意識が変わった。看護師や理学療法士は「生きるための訓練」という視点や具体的な目標を与えてくれた。最も心の支えとなったのは、妻の「愛しているのは歩けるあなたではなく、あなた自身」という存在肯定の言葉、そして先輩当事者のユーモアを交えた励ましだった。受傷直後の混乱を乗り越えるには、悲しむことを自分に許し、周囲の支援に頼ることが大切である。

身体に大きな変化が起こった直後、世界が一変したかのような不安と混乱の中にいる当事者の方、そしてご家族の方に、今、私が何か語りかけるとしたら、どのような言葉を選ぶべきでしょうか。あの時の私自身が欲していたのは、現実を否定する甘い言葉ではなく、かといって突き放すような冷たい言葉でもありませんでした。

あの日、突然の事故や病気によって障害を負った瞬間から、人生の地図は真っ白になってしまいます。「これからどうなるんだろう」「もう元の生活には戻れない」という絶望感が、体の痛みよりもずっと重く、心を締め付けていました。

この体験談では、私が受傷直後に感じた生々しい感情の揺れ動きと、その暗闇の中で、リハビリ専門医、理学療法士、そして家族がかけてくれた、私をもう一度、前へ向かせてくれた「支えの言葉」をご紹介します。今、先の見えない不安に直面しているあなたの心に、そっと寄り添い、小さな希望の光を見つけるきっかけになれば幸いです。


絶望と拒絶の病室で

動かない体と、凍りついた心

事故から目を覚ました直後、感じたのは激しい痛みよりも、足の裏に力を入れても何も反応がないという、奇妙な感覚でした。医師からは淡々と、脊髄損傷という診断と、両下肢麻痺の状態を告げられました。それは、まるでSF映画のワンシーンのように、現実味のない言葉の羅列でした。

それまでの私の人生は、仕事も趣味も、自分の足で立ち、歩き、活動することが前提でした。それが突然、すべて奪われてしまったのです。「もう、以前のように走れない」「大好きな登山には行けない」という事実は、鉛のように重く、私の心を押しつぶしました。

病室の白い天井を見上げながら、湧き出てくるのは怒り、悲しみ、そして何よりも深い絶望感でした。「なぜ私だけがこんな目に」「こんな体で生きていて何になる」と、すべてを拒絶するような感情に支配されていました。

家族に向けた、冷たい拒絶の言葉

そんな私を、家族は毎日、優しく見舞いに来てくれました。妻は私の手を握り、「大丈夫、一緒に頑張ろう」と涙をこらえて声をかけてくれました。しかし、当時の私は、その優しささえも重荷に感じていました。

「大丈夫なわけないだろう!」「あなたは歩けるからそんなことが言えるんだ!」と、私は感情のままに、家族に冷たい言葉をぶつけました。心の中では感謝しているのに、「普通の生活」を続ける家族への嫉妬と、自分自身の情けない姿を認めたくないという抵抗感が、優しさを受け入れることを許さなかったのです。

妻や子どもたちの顔を見るたびに、彼らの人生にも暗い影を落としてしまったという罪悪感に苛まれ、私は次第に誰とも目を合わせなくなり、心のシャッターを固く閉ざしてしまいました。

⚠️ 注意

受傷直後の絶望や拒絶は、多くの方が経験する自然な感情のプロセスです。どうかご自身を責めないでください。まずはその感情を認め、受け入れることが、次のステップへの第一歩となります。


医師と看護師がくれた「現実と未来」の言葉

現実を突きつけた、専門医の静かな言葉

私が完全に心を閉ざしていたある日、リハビリテーション専門医の先生が、私のベッドサイドに座り、静かに話し始めました。先生の言葉は、それまでの医師たちが使っていた抽象的な説明とは異なり、非常に具体的でした。

「残念ながら、脊髄の損傷は修復できません。現状、あなたが再び自力で歩けるようになる可能性は、医学的に見て、非常に低いです。しかし、私たちはもう一度『あなたらしい人生』を再構築するためにここにいます。それは諦めではありません。新しい人生の始まりです。」

— リハビリテーション専門医

この言葉は、私にとって強烈なショックでした。「非常に低い」という言葉は、ほとんど「ゼロ」を意味していました。しかし、同時に「新しい人生の始まり」というフレーズが、私の心に深く突き刺さりました。

先生は私の絶望を否定せず、現実の厳しさを真正面から提示した上で、「でも、終わりではない」という未来を示してくれたのです。私はこの時初めて、「歩くこと」だけに固執していた思考から、少しだけ自由になれた気がしました。

看護師さんが教えてくれた、小さな希望

絶望の病棟生活の中で、優しくも厳しかったベテランの看護師さんが、私にこう話してくれたことがありました。当時、私は車椅子への移乗訓練を嫌がり、何度も失敗していました。

「〇〇さん、焦らないで。私たちは、あなたに『元の体に戻す』手伝いはできません。でも、私たちは、あなたが『新しい体で、最高の生活を送れるようになる』手伝いはできます。訓練は、そのための道具です。歩くための訓練じゃなく、生きるための訓練よ。」

— ベテラン看護師

この言葉を聞いた瞬間、私の目の前が少し明るくなったのを覚えています。私のやっていることは、「失ったものを取り戻すための無駄な努力」ではなく、「まだ見ぬ未来の生活を豊かにするための準備」なのだと理解できたからです。

その日から、訓練に対する私の姿勢は少しずつ変わっていきました。歩くことはできなくても、車椅子を操る、着替える、食事をする、一つ一つの動作が、新しい生活を築くための「希望のピース」に見え始めたのです。

リハビリスタッフがくれた、具体的な目標設定

特に理学療法士さんや作業療法士さんが、私の小さな成功を大げさなくらいに褒めてくれたことも、私には大きな支えになりました。彼らは決して「歩けますよ」とは言いませんでしたが、常に「次の具体的な目標」を提示してくれました。

  • 「今日は、ベッドの端に10秒間、一人で座ることを目標にしましょう。」
  • 「週末までには、この短い廊下を自力で車椅子で往復できるようになりましょう。」
  • 「来月は、車椅子で外出できる技術を習得しましょう。」

この段階的な目標設定のおかげで、私は「できないこと」ではなく、「次にできること」に意識を集中させることができました。これは、受傷直後の混乱した心を整理し、前向きなエネルギーに変えるための、最も重要な手法だったと今になって思います。


家族と当事者の仲間がくれた「存在肯定」の言葉

「あなたの価値は変わらない」という妻の言葉

私が一番恐れていたのは、障害を負ったことで、夫として、父としての価値を失うことでした。自分が家族の重荷になってしまうのではないかという恐怖に怯えていました。そんな私の心情を見透かしたかのように、妻は病院のベンチで、私の手を握りながら、強く、そして優しい声で語りかけてくれました。

「あなた、勘違いしないで。私が愛しているのは、歩けるあなたじゃなくて、あなた自身よ。車椅子に乗っても、あなたの魅力も、優しさも、頭の良さも、何も変わらない。私たちは、あなたを支えるんじゃなくて、一緒に生きるの。だから、もう自分を責めるのはやめて。」

— 私の妻

この言葉は、凍りついていた私の心を、一瞬にして溶かしました。私は、自分の存在価値が「身体機能」にはないということを、妻の愛を通して初めて理解できたのです。私は、人として、家族の一員として、何も失っていないのだと。

それ以来、私は「元の体に戻りたい」ではなく、「この体で、妻や子どもたちを幸せにするにはどうしたらいいか」と、思考の軸を完全に切り替えることができました。

先輩当事者の、ユーモアと現実の言葉

リハビリテーションセンターに入院した後、私よりも数年先に障害を負った先輩当事者の方が面会に来てくれました。彼は、私の前で車椅子を巧みに操り、自分の障害をユーモアを交えて話してくれました。

「最初は本当に辛いだろう。俺もそうだった。でもな、この車椅子、究極のバリアフリー探知機だぜ? 段差ひとつで、その街の優しさが分かるんだ。人生ってのは、歩いてた時より、車椅子になってからのほうが面白いこと、いっぱいあるぞ。保証する。」

— 先輩当事者

この言葉は、私にとって大きな衝撃でした。彼は自分の障害を悲劇として捉えるのではなく、「新しい視点」として受け入れ、楽しんでいるように見えたからです。特に「究極のバリアフリー探知機」という表現は、私の凝り固まった自意識を笑い飛ばしてくれました。

先輩の存在は、「自分もこの先の人生、不幸ではないかもしれない」という、具体的な希望を見せてくれました。言葉だけでなく、その生き様こそが、私にとって何よりの支えになったのです。

💡 ポイント

当事者の体験談や、先輩との交流は、医療的な情報よりも、心の回復に大きな影響を与えます。同じ立場を経験した人にしか言えないリアルな言葉は、絶望している心の奥底に届く力を持っています。


受傷後の混乱を乗り越えるためのヒント

心の回復に必要な「時間」と「許し」

受傷直後の混乱と絶望を乗り越えるために、今振り返って最も必要だったのは、「時間」と「自分を許すこと」だったと感じています。心の傷は、身体の傷よりも治るのに時間がかかります。

  1. 悲しむことを許す:失ったもの、変わってしまった現実について、十分に悲しみ、怒る時間を自分に与えてあげましょう。感情を抑え込む必要はありません。
  2. 完璧を求めない:リハビリの失敗や、家族に優しくできなかった自分を責めすぎないことです。誰もが完璧にはなれないし、あなたも人間です。
  3. 小さな成功を認識する:昨日できなかったことが今日できた、という小さな進歩を、意識的に認識し、自分を褒めてあげましょう。

「すぐに前向きにならなければならない」というプレッシャーは、かえって心を疲弊させます。どうか、自分のペースで心の回復を進めてください。

支えを求めることの重要性

混乱の時期は、助けを求めること、誰かに頼ることが非常に難しいと感じるものです。しかし、良い事業所、良い支援者、良い家族との出会いこそが、その後の人生を決定づけます。

  • 相談支援専門員:福祉サービス利用のプロフェッショナルです。不安を隠さず伝え、あなたに合ったサービスを探してもらいましょう。
  • ピアサポート同じ障害を持つ仲間との交流は、何よりも心の薬になります。地域のピアサポート団体などを探してみましょう。

あなたは一人ではありません。周りには、あなたを支えたいと願う人たちがたくさんいます。勇気を出して手を伸ばすことが、出口を見つける最初の行動になります。

最後に、今、苦しんでいるあなたへ

もし今、あなたが暗闇の中にいるのなら、どうか知ってください。あなたの体は変わってしまっても、あなたの価値や、あなたの可能性は、何も失われていないということ。受傷直後の混乱と絶望は、必ず乗り越えられる一時の感情です。

私がリハビリの先生から教わった最も大切なことは、「今日一日を生きること」に集中することでした。遠い未来を考えると不安になりますが、まずは今日の訓練、今日の食事、今日の小さな笑いを大切にしましょう。一歩一歩、あなたの新しい人生は、必ず開けていきます。


まとめ

受傷直後の絶望と混乱の時期は、誰もが経験する感情のプロセスです。しかし、その時期を支えてくれたのは、現実の厳しさを認めつつも未来を示してくれる専門家の言葉と、存在価値を肯定してくれる家族や当事者の仲間の言葉でした。

今、あなたが苦しんでいるなら、まずはその感情を否定せず、自分自身に許しを与えてください。そして、勇気を出して、周りのサポートに手を伸ばしてください。あなたの新しい人生の物語は、まだ始まったばかりです。

まとめ

  • 受傷直後の絶望や拒絶は自然な感情であり、自分を責める必要はありません。
  • 専門家の言葉は、現実の厳しさと同時に「新しい人生の始まり」という希望を示してくれました。
  • 家族や仲間からの「あなたの価値は変わらない」という存在肯定の言葉が、心の回復に最も重要でした。

鈴木 美咲

鈴木 美咲

すずき みさき42
担当📚 実務経験 15
🎯 相談支援🎯 当事者・家族支援

📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員

相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。

社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。

🎨 趣味・特技

ヨガ、カフェ巡り

🔍 最近気になっているテーマ

ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア

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