パートナーが心の病気になったとき、私が学んだ支え方

「もう、限界かもしれない」と言われた日
「ごめん、もう限界かもしれない」——夫がそう言った時、私は戸惑いました。結婚3年目、仕事も順調で、これからだと思っていた矢先のことでした。夫の顔には生気がなく、目は虚ろでした。「何が限界なの?」と聞くと、夫は答えました——「全部。仕事も、生活も、自分も」。
その数日後、夫はうつ病と診断されました。パートナーシップとは、お互いを支え合うもの——そう思っていましたが、心の病気を抱えたパートナーをどう支えればいいのか、私にはわかりませんでした。試行錯誤の2年間で、私が学んだ「支え方」についてお話しします。
この記事では、パートナーの精神疾患に向き合う中で、私が失敗したこと、学んだこと、そして今だから言える大切なことを共有します。同じ立場にいる方の参考になれば幸いです。
最初の失敗——「励まし」という名の重圧
「頑張って」と言い続けた
診断を受けた直後、私は励まそうとしました。「大丈夫」「すぐ良くなるよ」「頑張って」——そんな言葉を、毎日かけていました。
でも夫の表情は、日に日に暗くなっていきました。私の励ましが、夫を追い詰めていることに、私は気づいていませんでした。
ある日、夫が言いました——「頑張れないから、こうなったんだ。これ以上、何を頑張ればいいの?」
その言葉を聞いて、私は初めて理解しました。夫は十分頑張っていた。限界まで頑張って、壊れてしまったのだと。私の「頑張って」は、重圧にしかなっていなかったのです。
⚠️ 注意
精神疾患を抱える人に「頑張って」という言葉は、多くの場合プレッシャーになります。本人は既に限界まで頑張っています。必要なのは励ましではなく、「十分頑張っている」という承認と、「休んでいい」という許可です。
「普通」を求めてしまった
もう一つの失敗は、夫に「普通」を求めてしまったことでした。
「なんで朝起きられないの?」「少しは外に出たら?」「他の人は働いているのに」——こうした言葉を、私は何度も口にしてしまいました。
私は、夫に「病気になる前の夫」に戻ってほしかったのです。でもそれは、病気の夫を否定することでした。
夫は言いました——「僕だって、普通に戻りたい。でも、できないんだ」。
その時、私は気づきました。私が求めていた「普通」が、夫をさらに苦しめていたことに。
| 言ってしまった言葉 | 夫への影響 | 言えば良かった言葉 |
|---|---|---|
| 「いつまで寝ているの?」 | 罪悪感、自己否定 | 「ゆっくり休んでね」 |
| 「少しは動いたら?」 | プレッシャー、焦り | 「無理しないで」 |
| 「他の人は頑張ってるよ」 | 比較による劣等感 | 「あなたも十分頑張ってる」 |
| 「早く良くなってね」 | 焦燥感 | 「焦らなくていいよ」 |
| 「私も大変なんだよ」 | 罪悪感、孤立感 | 「一緒に乗り越えよう」 |
感情的になってしまった
さらに私は、感情的になってしまうこともありました。
夫の症状が良くならないことへの焦り。経済的な不安。将来への恐れ——こうした感情を、私は夫にぶつけてしまいました。
「いつになったら働けるの?」「このままじゃ、私が倒れる」——そんな言葉を、言ってしまったこともあります。
後になってわかりました。これらの言葉が、どれほど夫を傷つけたか。夫も苦しんでいるのに、私が追い打ちをかけていたのだと。
「パートナーの病気は、家族全体の危機です。でも、感情的になることは自然なことです。大切なのは、その感情をパートナーにぶつけるのではなく、適切な場所で処理することです」
— 後にカウンセラーが教えてくれた言葉
学び始めた頃——カウンセリングとの出会い
「私もカウンセリングを受ける」という決断
診断から3ヶ月後、私は限界を感じていました。夫を支えたいけれど、どうすればいいかわからない。自分の感情もコントロールできない——私自身が助けを必要としていました。
夫の主治医に相談すると、「ご家族もカウンセリングを受けることをお勧めします」と言われました。
最初は抵抗がありました。「病気なのは夫で、私じゃない」と思いました。でも、藁にもすがる思いで、カウンセリングを受けることにしました。
この決断が、大きな転機になりました。
💡 ポイント
家族がカウンセリングを受けることは、決して恥ずかしいことではありません。むしろ、適切にパートナーを支えるために必要なことです。家族自身のメンタルヘルスを保つことが、長期的なサポートの鍵です。
病気について学んだ
カウンセラーの勧めで、うつ病について徹底的に学びました。
本を読み、家族向けの心理教育プログラムに参加し、家族会にも足を運びました。そこで、うつ病が脳の病気であること、本人の弱さではないこと、回復には時間がかかることを学びました。
この知識が、私の夫への接し方を変えました。夫を責めることがなくなり、病気と闘う夫を支えるという姿勢になれました。
自分の感情を処理する場所を持った
カウンセリングは、私にとって感情を吐き出せる場所になりました。
不安、焦り、怒り、悲しみ——様々な感情を、カウンセラーに話しました。否定されることなく、ただ聞いてもらえる——その経験が、私を楽にしてくれました。
感情を適切に処理できるようになると、夫に感情的になることが減りました。カウンセリングルームで感情を出せるから、家では穏やかでいられるようになったのです。
支え方を学ぶ——できること、できないこと
「聞く」ことを学んだ
カウンセリングで最も役立ったのは、「傾聴」のスキルでした。
夫の話を、アドバイスせず、否定せず、ただ聞く——これが、どれほど夫を支えるか。
以前の私は、夫が辛いと言えば、すぐに解決策を提示していました。でも夫が求めていたのは、解決策ではなく、ただ聞いてもらうことだったのです。
それからは、夫の話をただ聞くようにしました。「辛いね」「大変だったね」——そう受け止めるだけで、夫の表情が和らぐことに気づきました。
できることとできないことの区別
もう一つ学んだのは、私にできることとできないことの区別でした。
私にできること:
- 話を聞く
- そばにいる
- 日常生活のサポート(家事、通院の付き添いなど)
- 治療環境を整える
- 経済的な支え(働ける間)
- 理解しようとし続ける
私にできないこと:
- 病気を治すこと
- 夫の代わりに回復すること
- 夫の気持ちを完全に理解すること
- すべての苦しみを取り除くこと
この区別を理解してから、私は楽になりました。「私は治療者じゃない。パートナーだ」——そう思えるようになったのです。
✅ 成功のコツ
パートナーの役割は、「治すこと」ではなく「そばにいること」です。治療は専門家に任せ、あなたはパートナーとして、日常を支えることに専念しましょう。完璧である必要はありません。
「待つ」ことができるようになった
回復には時間がかかります。焦っても、急かしても、良くなりません。
私は、夫のペースを尊重することを学びました。「早く良くなってほしい」という気持ちを抑え、夫が回復する準備ができるまで、じっと待つことを。
この「待つ」姿勢が、夫に安心感を与えたようでした。夫は言いました——「焦らせないでいてくれて、ありがとう」と。
関係性の変化——新しいパートナーシップ
役割の変化を受け入れる
病気になる前、夫は主な稼ぎ手でした。でも休職してからは、私が働き、夫が家事をする——役割が逆転しました。
最初は、お互いに戸惑いました。夫は「男として情けない」と言い、私は「なんで私ばかり」と思いました。
でもカウンセラーが言いました——「役割は固定されたものではありません。状況に応じて柔軟に変えていいんです」。
この言葉で、私たちは楽になりました。今できる人が、できることをやる——そう割り切ることができました。
コミュニケーションの質が変わった
病気をきっかけに、私たちのコミュニケーションは深くなりました。
以前は、表面的な会話が多かったです。でも今は、お互いの気持ちを正直に話せるようになりました。
「今日は調子が悪い」「ちょっと疲れた」——こうした言葉を、お互いに言えるようになりました。弱さを見せ合える関係——それが、新しいパートナーシップの形でした。
お互いの限界を尊重する
もう一つ変わったのは、お互いの限界を尊重するようになったことでした。
夫には「できないこと」があります。でも私にも、「できないこと」があります。それを認め合い、無理を強いらない——この姿勢が、関係を楽にしてくれました。
「できないことは、できない」——そう言い合える関係が、心地よかったです。
自分を大切にすること
「共倒れ」を防ぐために
カウンセラーから繰り返し言われたのは、「あなた自身を大切にしてください」ということでした。
「パートナーを支えるには、あなた自身が健康でなければなりません。共倒れになったら、誰も助けられません」
この言葉を受けて、私は意識的に自分の時間を持つようにしました。
自分の時間を確保する
週に一度は、友人と会う。趣味の時間を持つ。一人でリラックスする——こうした自分の時間が、私を支えてくれました。
最初は罪悪感がありました。「夫を置いて、楽しんでいいのか」と。でもカウンセラーは言いました——「それでいいんです。あなたが元気でいることが、最大のサポートです」。
自分の時間を持つことで、夫と過ごす時間もより良いものになりました。
サポートネットワークを作る
一人で抱え込まないことも学びました。
家族会で出会った仲間、カウンセラー、親しい友人——様々な人に、話を聞いてもらいました。
同じ経験をした人と話すことで、「自分だけじゃない」と感じられました。このサポートネットワークが、私の大きな支えになりました。
2年後の今——ともに歩む
夫の回復
診断から2年が経った今、夫はパートタイムで働いています。週3日、1日5時間から始め、徐々に増やしてきました。
完全に病気前の状態に戻ったわけではありません。でも、日常生活は送れるようになりました。趣味も楽しめるようになりました。笑顔も戻ってきました。
何より、夫が「生きていてよかった」と言えるようになったことが、嬉しいです。
私たちの関係
病気を経て、私たちの関係はより深くなりました。
以前より、お互いを大切にできるようになりました。感謝の言葉を伝え合えるようになりました。弱さも見せ合えるようになりました。
病気は、私たちから多くを奪いました。でも同時に、大切なものも教えてくれました。
今も続く課題
再発への不安は、今もあります。経済的な不安も、完全には消えていません。
でも、これらの不安とも向き合えるようになりました。一人で抱え込まず、夫と話し合い、専門家にも相談しながら、一つずつ対処しています。
完璧ではないけれど、それでいい——そう思えるようになりました。
同じ立場の人へ伝えたいこと
あなたは一人じゃない
もし今、パートナーの精神疾患に向き合っているなら、まず知ってほしいことがあります——あなたは一人じゃありません。
同じように悩んでいる人は、たくさんいます。家族会、オンラインコミュニティ、カウンセリング——様々な場所で、仲間と出会えます。
一人で抱え込まず、助けを求めてください。
完璧なパートナーである必要はない
私も、たくさんの過ちを犯しました。言ってはいけないことを言ったり、感情的になったり——でもそれでも、夫は回復しました。
大切なのは、完璧であることではなく、学び続けることです。失敗したら認めて、次は違う方法を試す——その姿勢があれば、大丈夫です。
自分も大切にして
パートナーを支えることは大切です。でも、自分を犠牲にする必要はありません。
あなた自身が健康で、幸せであることが、最良のサポートです。自分の時間を持ち、自分の感情をケアし、自分の人生も大切にしてください。
希望を持って
最後に、これだけは伝えたいです——希望を持ってください。
診断を受けた直後は、絶望するかもしれません。でも、適切な治療とサポートで、回復は可能です。
時間はかかります。でも、必ず道は開けます。一緒に、一歩ずつ進んでいってください。
「パートナーの病気は、二人の危機であり、二人の成長の機会でもあります。支え合うことで、より深い絆が生まれることもあるのです」
— カウンセラーの言葉
よくある質問
Q1: パートナーの病気を、周囲に話すべきですか?
基本的には、パートナーの同意を得てから話すことをお勧めします。ただし、あなた自身がサポートを必要とする場合、信頼できる友人や家族には相談してもよいでしょう。誰に、どこまで話すかは、パートナーと相談しながら決めてください。
Q2: 経済的に不安です。どうすればいいですか?
傷病手当金、障害年金、自立支援医療制度など、様々な経済的サポートがあります。市区町村の障害福祉課や社会保険労務士に相談してください。また、家計の見直しや、必要に応じてあなたが働くことも選択肢です。ファイナンシャルプランナーへの相談も有効です。
Q3: パートナーが治療を拒否します
無理強いは逆効果です。まず、なぜ拒否しているのか、話を聞いてください。治療への不安、副作用への恐れ、病気の否認など、理由は様々です。主治医やカウンセラーと相談しながら、タイミングを見計らって提案してください。緊急性が高い場合は、すぐに専門機関に相談してください。
Q4: 自分の限界を感じています
それは自然な感情です。すぐにカウンセリングを受けることをお勧めします。また、レスパイトケア(一時的な休息)も検討してください。自分が疲弊したら、パートナーを支えられません。「助けてほしい」と言うことは、弱さではなく、賢明な判断です。
Q5: 関係を続けるべきか悩んでいます
非常に難しい問題です。病気があっても関係を続けている人もいれば、別れを選ぶ人もいます。どちらも、間違いではありません。カウンセラーと一緒に、あなたの気持ちを整理し、最善の選択を見つけてください。焦らず、時間をかけて考えることが大切です。
まとめ
この記事では、パートナーのうつ病に向き合った2年間で学んだ「支え方」についてお話ししました。
- 励ましや普通を求めるのではなく、「聞く」「待つ」ことが大切です
- 家族もカウンセリングを受け、病気について学ぶことが重要です
- 自分自身を大切にし、サポートネットワークを作りましょう
- 完璧である必要はなく、一緒に学び、成長していけば大丈夫です
もし今、パートナーの精神疾患に向き合っているなら、一人で抱え込まないでください。様々なサポートがあります。希望を持って、一歩ずつ進んでいってください。ともに歩むパートナーシップは、きっと新しい形で続いていきます。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





