視覚障害者の外出時の注意点と同行援護でできること

安心を確信に変える
視覚障害者の外出時の注意点と同行援護の可能性
視覚に障害のある方にとって、外出は日常生活を維持し、社会と繋がるために不可欠な活動ですが、予期せぬ危険や、情報不足による不安が常に付きまといます。「一人で安全に移動できるだろうか」「目的地にたどり着けるだろうか」という悩みは、当事者やご家族、支援者の方々の共通の課題です。
特に、日本の街中には、工事現場の資材、自転車、歩行者など、視覚障害者にとって危険な要素が多く存在します。こうした課題を乗り越え、安心で快適な外出を実現するために、国が定める障害福祉サービスである「同行援護(どうこうえんご)」は、非常に強力なサポートとなります。このサービスは、単なる移動の付き添いではなく、移動に必要な情報の提供と心理的な安心感をもたらします。
本記事では、視覚障害者が外出時に知っておくべき具体的な注意点と、同行援護サービスで何ができるのか、そして安全かつ自立的な外出を支援するための具体的なノウハウを、専門的な視点から温かく、詳しくご紹介します。この記事を参考に、皆さまの外出の質を向上させる一歩を踏み出しましょう。
視覚障害者が直面する外出時の主な危険
視覚障害者が外出時に直面する危険は、単に物にぶつかることだけではありません。予測不能な状況や、周囲の不適切な行動も、大きなリスクとなり得ます。まずは、主な危険要因を理解し、事前の対策を講じることが重要です。
予期せぬ「点字ブロック上の障害物」
視覚障害者にとって、点字ブロックは安全かつ正確な移動のための命綱です。しかし、この重要な誘導路の上に、自転車、看板、工事現場の資材、駐車中の車などが置かれている状況が、残念ながら頻繁に見られます。
点字ブロック上の障害物は、単に移動を妨げるだけでなく、転倒や衝突による重大な怪我に直結します。特に、足元の見えにくい低視力の方や、全盲の方にとって、杖で確認しきれない高さや形状の障害物は、最大の危険要因の一つと言えます。この問題は、インフラ整備だけでなく、社会全体の意識改革が求められる課題です。
⚠️ 注意
点字ブロックは、誘導ブロック(線状)と警告ブロック(点状)の2種類があります。警告ブロック(駅のホーム端など)の上で立ち止まることは非常に危険です。常に点字ブロックを跨がない意識を持ちましょう。
公共交通機関における「ホームと階段の危険」
駅やバス停の利用は、視覚障害者にとって高い緊張を伴う場面です。最も危険なのは、駅のホームの端です。警告ブロックがあっても、混雑時には誤って踏み外すリスクがあります。また、駆け込み乗車や、ホームを急いで移動する歩行者との接触事故も少なくありません。
さらに、階段の昇降も大きな課題です。階段の左右の端にある手すりの位置や、踊り場の有無、そして階段の形状(回り階段など)が分かりにくいと、転倒のリスクが高まります。同行援護の専門的な支援が、特に必要とされる場面です。
【自己防衛のコツ】周囲に配慮を求める
ホームで待機する際は、必ず点字ブロックの内側で、立ち位置を確保します。不安な場合は、白杖を水平に持ち、周囲の人に自分の存在を知らせるか、駅員に声をかけて支援を求めましょう。バスの乗降時には、乗るバスの系統番号と行き先を、運転手に再確認することも自己防衛に繋がります。
情報のバリア:必要な情報が入ってこない
視覚障害者は、外出中、刻々と変化する状況に関する「情報」のバリアに直面します。例えば、以下のような情報が瞬時に入手できません。
- 信号の色の変化や、横断歩道の歩行者用信号機の残り時間。
- 店舗の営業状況、商品の配置、商品の賞味期限。
- 交通渋滞や、工事による迂回ルートの発生。
これらの情報不足は、単なる不便さだけでなく、移動の停滞や誤った行動を引き起こし、時に危険に繋がります。同行援護サービスは、まさにこの「情報のバリア」を取り除くことを目的としています。
同行援護サービスで「できること」の詳細
同行援護は、視覚障害のある方の外出をサポートする障害福祉サービスです。このサービスは、単に目的地まで案内するだけでなく、安全確保と情報提供を一体的に行う専門性の高い支援です。
同行援護の目的と定義
同行援護の目的は、視覚障害者が外出する際に生じる「移動の困難さ」を解消し、安全に、そして円滑に社会生活を送れるように支援することです。サービスの核となるのは、以下の3つの要素です。
- 移動の援護(ガイド): 安全な歩行経路の確保と、目的地の正確な案内。
- 情報提供・代筆・代読: 必要な情報(例:時刻表、メニュー、契約書)を読み上げたり、代わりに記述したりする支援。
- 排泄・食事の介助: 外出中に必要となった際の、身体介護。
このサービスを受けられるのは、視覚障害による障害支援区分が一定以上の方、または視覚障害者等であると認められた方です。詳しい要件は、お住まいの市町村の窓口で確認が必要です。
💡 ポイント
同行援護のヘルパーは、専門の研修を修了しており、安全な誘導技術(手引き)や、的確な情報伝達スキルを持っています。単なるボランティアによる付き添いとは、専門性の点で大きく異なります。
移動時:的確な情報提供と安全確保
同行援護ヘルパーが行う移動時の支援は、単に手を引くだけではありません。常に周囲の状況を把握し、利用者に「今、何が起きているか」を的確に伝えることが求められます。例えば、以下のような具体的な情報提供が行われます。
- 「前方にポールがあります。左に10センチずれます。」
- 「足元は、ここから5歩で段差があり、上りになります。」
- 「左側から自転車が近づいています。」
- 「バスが到着しました。ドアはあなたの左前方、すぐ横です。」
このような情報提供により、利用者は状況を把握でき、安心して自分の足で歩くことができます。この「情報」こそが、視覚障害者の自立的な移動に不可欠な要素です。
外出先での代筆・代読サービス
目的地に到着した後も、同行援護の支援は続きます。特に、情報へのアクセスが困難な場面では、代筆・代読サービスが大きな力を発揮します。
| 外出の場面 | 同行援護で可能な支援 |
|---|---|
| 病院 | 受付手続きの代筆、診察券や保険証の確認、検査説明書の代読。 |
| 買い物 | 商品の棚の場所や価格、賞味期限の読み上げ、支払いの確認。 |
| 役所・銀行 | 申請書や書類の代筆、記入欄の正確な読み上げ、署名位置の案内。 |
これにより、視覚障害者は必要な情報を見落とすことなく、様々な手続きや社会的な活動を円滑に進めることができます。
同行援護サービスを効果的に活用するノウハウ
同行援護サービスを最大限に活用するためには、利用者側と事業所側との間で、事前の準備と密なコミュニケーションが重要です。
事前の「計画書」作成と情報共有
同行援護を利用する際は、サービスの利用計画(サービス等利用計画)に基づいて、具体的な「個別支援計画」が作成されます。この計画書に、利用者の特性と、支援してほしい具体的な内容を詳しく記載することが重要です。
特に、初めてのヘルパーが対応する可能性があるため、以下の情報を明確に伝えておきましょう。
- 歩行スピードの好み: 早足か、ゆっくりか。
- 情報伝達の好み: 詳細な情報提供が必要か、簡潔でよいか。
- 特定の苦手な状況: 人混み、特定の音(例:工事音)、特定の場所(例:地下街)。
これらの情報は、毎回同じ質の高い支援を受けるための基盤となります。
「私は低視力なので、ヘルパーさんには『あと何メートルで信号があります』という情報よりも、『足元の水たまりに注意』といった具体的な足元の情報を優先して伝えてほしいとお願いしています。事前の共有が大切です。」
— 同行援護利用者 Lさんの声
ヘルパーとの信頼関係とフィードバック
同行援護は、マンツーマンで行われるため、ヘルパーとの信頼関係がサービスの質に直結します。初めてのヘルパーと会う際は、お互いの自己紹介や歩行方法の確認など、時間をかけてコミュニケーションを取りましょう。
サービス後には、良かった点や改善してほしい点を、遠慮せずに事業所にフィードバックすることも重要です。このフィードバックが、事業所全体の支援技術向上に繋がります。温かい言葉で感謝を伝えつつ、建設的な意見を伝えましょう。
【ヘルパーへの依頼のコツ】「~してください」ではなく「~していただけますか?」
具体的な支援を依頼する際は、指示的な言葉遣いではなく、「恐れ入りますが、〇〇をしていただけますか?」といった丁寧な依頼を心がけることで、より円滑なコミュニケーションが図れます。また、支援が終了したら、必ず「ありがとうございました。とても助かりました。」と感謝の気持ちを伝えましょう。
同行援護の「対象外」と代替サービス
同行援護は非常に有用なサービスですが、支援の対象とならない活動や、支給時間が不足する場合もあります。その場合の代替サービスを知っておきましょう。
同行援護の「対象外」となる活動
同行援護は、あくまで「社会生活上の必要不可欠な外出や余暇活動」を目的としています。そのため、以下の活動は原則として支援の対象外となることが多いです。
- 経済活動: 通勤や営業活動など、営利を目的とした活動。
- 通学: 学校への通学や、受験のための移動。
- 公的な付き添いが可能な場合: 選挙の投票所への移動(選挙管理委員会による付き添いが原則)。
- 単なる散歩や趣味的な移動: 特に目的のない散歩や、単なる運動のための外出。
ただし、自治体によって判断が異なる場合があるため、「これは対象になるか」と迷ったら、まずは相談支援事業所に問い合わせてみましょう。
代替サービス:居宅介護とボランティアの併用
同行援護の支給時間数だけでは足りない場合や、対象外の活動で支援が必要な場合は、以下の代替サービスを検討しましょう。
| 代替サービスの名称 | 主な役割と活用場面 |
|---|---|
| 居宅介護(身体介護) | 自宅内での排泄・食事などの支援と、生活必需品の買い物などの外出介助。 |
| 移動支援(地域生活支援事業) | 同行援護の対象とならない余暇的な外出や、自治体が独自に認める活動への支援(地域差あり)。 |
| 福祉有償運送サービス | 非営利団体による有償の移送サービス(移動手段の確保)。 |
| 地域ボランティア | 社会福祉協議会などが提供する、安価な、または無料の外出付き添いサービス。 |
これらのサービスを組み合わせることで、外出に必要な時間をトータルで確保できるようになります。
「よくある質問」と相談窓口
視覚障害者の外出支援や同行援護サービスに関して、よく寄せられる質問と、困った時の相談窓口をご紹介します。
Q. 同行援護は、一人暮らしでないと利用できませんか?
A. いいえ、同居する家族がいる場合でも利用可能です。同行援護の判断基準は、「家族が移動の支援を行うことが困難な場合」です。例えば、家族が仕事や介護で日中外出している、あるいは家族自身が高齢や病気で適切な支援ができないといった状況であれば、支給の対象となります。家族の状況も考慮されるため、相談支援専門員にご相談ください。
Q. 信号機が鳴っているのに、ヘルパーが止まらないのはなぜですか?
A. 信号機が鳴っていても、ヘルパーが周囲の状況を確認し、安全性が確保されていないと判断した場合、すぐに横断しない判断をすることがあります。特に、右折・左折してくる車や、自転車など、音声だけでは判断できない危険要素があるためです。もし不安を感じたら、「何か危険がありますか?」と遠慮なくヘルパーに尋ねて、状況を把握しましょう。
Q. ヘルパーと二人きりの移動が不安です。どうすればいいですか?
A. ヘルパーとの信頼関係構築が大切ですが、不安が強い場合は、まず事業所のサービス管理責任者に相談しましょう。事業所によっては、慣れるまでの間、事業所の管理者やベテランヘルパーが同行する、あるいは同じヘルパーを優先的に担当させるなどの配慮をしてくれる場合があります。また、ご家族が最初の数回に同行することも、安心感につながります。
相談窓口と参考リンク
同行援護の申請や具体的な支援内容について迷ったときは、以下の専門窓口へ相談しましょう。
- 市町村の障害福祉担当窓口: 同行援護の申請、支給決定、対象者要件に関する相談。
- 相談支援事業所: サービス等利用計画の作成、同行援護事業所の紹介と調整。
- 視覚障害者福祉協会(各都道府県): ピアサポート(当事者同士の支え合い)、外出に関する情報提供、訓練施設の紹介。
これらの専門家と連携することで、皆さまの外出を支える最適な支援の形を見つけることができます。
まとめ
視覚障害者の外出を安全で自立的なものにするためには、点字ブロック上の危険への意識や、公共交通機関での事前準備が欠かせません。その上で、同行援護サービスを最大限に活用し、移動の困難さだけでなく、情報へのバリアを解消することが重要です。
同行援護では、専門的な技術を持つヘルパーが、移動の援護、情報提供、代筆代読を通じて、利用者の社会参加を強力にサポートします。ヘルパーとの事前の情報共有と信頼関係を大切にし、支給時間が不足する場合は、地域独自の移動支援やボランティアサービスとの併用も視野に入れ、安心できる外出を実現しましょう。
- ポイント1: 同行援護は、移動の援護だけでなく、情報提供・代筆代読を行う専門性の高いサービスである。
- ポイント2: サービス利用時は、具体的なニーズや歩行の好みを事前にヘルパーに伝達する。
- ポイント3: 支給時間不足や対象外の活動には、他の福祉サービスやボランティアを組み合わせて対応する。

谷口 理恵
(たにぐち りえ)45歳📜 保有資格:
介護福祉士、ケアマネージャー、サービス管理責任者
介護福祉士として15年間現場で働き、現在はグループホームの管理者。「地域で自分らしく暮らす」を支えるために、住まい・生活・地域資源に関する情報発信を担当しています。実際の支援現場で感じた「これ知りたかった!」という情報をお届けします。
介護福祉士として障害者施設で10年、その後ケアマネージャーの資格を取得し、相談支援専門員として5年勤務。現在はグループホーム(定員10名)の管理者として、利用者の方々の日々の生活を支えています。この仕事を選んだきっかけは、大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会ったこと。「普通」の定義は人それぞれで、大切なのは本人が望む生活を実現することだと気づかされました。特に力を入れているのは、地域との繋がりづくり。近所のスーパーや美容院、カフェなど、日常的に利用できる場所を増やすことで、「施設の中だけ」ではない豊かな生活を支援しています。記事では、グループホームでの実際の生活の様子や、地域の障害福祉サービス事業所の選び方など、現場の生の声をお伝えしていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会い、「普通」の定義は人それぞれだと気づいたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
近所のスーパーや美容院など、日常的に利用できる場所を増やすことで、利用者の生活が豊かになったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
現場の生の声を大切に、「これ知りたかった!」という情報を届けることを心がけています。
🎨 趣味・特技
料理、ガーデニング
🔍 最近気になっているテーマ
一人暮らし支援の新しい形、地域住民との共生





