車いすユーザー向け「外出時の困りごと」と解決アイデア

車いすユーザーの外出をもっと快適に
「困りごと」を「解決アイデア」に変える実践ガイド
車いすをご利用の方にとって、外出は日常生活の質(QOL)を大きく左右する重要な活動です。しかし、どれほど計画を立てても、予期せぬ段差や、エレベーターの故障、利用しにくいトイレなど、様々な「困りごと」に直面し、外出をためらってしまうこともあるでしょう。
「このお店は入れるだろうか」「駅のエレベーターが使えなかったらどうしよう」といった不安は、車いすユーザーご本人だけでなく、ご家族や支援者の方々にとっても大きな課題です。本記事では、車いすユーザーが外出時に直面しやすい具体的な「困りごと」を深掘りし、最新のITツールや公的サービス、そして地域連携を駆使した実践的な「解決アイデア」を詳しくご紹介します。
この記事を参考に、日々の困りごとを乗り越える具体的な手段を知り、より自由で快適な外出を実現するための一歩を踏み出していただければ幸いです。
移動の壁:公共交通機関と街中の段差
車いすユーザーの外出における最大の障壁は、やはり移動そのもの、特に駅やバス、そして歩道に存在する「段差」と「情報不足」です。
駅・電車の利用でよくある困りごと
鉄道は長距離移動に不可欠ですが、駅の利用には多くの課題があります。最も多いのは、エレベーターやエスカレーターの位置が分かりにくい、あるいは点検・故障で使えないという問題です。代替ルートを探すのに時間がかかり、予定が大幅に狂うことも少なくありません。
また、ホームと車両の間にできる「段差や隙間」も深刻な困りごとです。駅員さんにスロープの設置を依頼する必要があるものの、駅員さんがすぐに駆けつけられない状況もあります。特に、無人駅や早朝・深夜の利用時には、支援を求めること自体が難しい場合があります。
💡 ポイント
多くの鉄道会社では、主要駅のバリアフリー情報や、エレベーターの運行状況をウェブサイトやアプリでリアルタイムに提供しています。外出直前に、鉄道会社の公式サイトでエレベーターの状況をチェックする習慣をつけましょう。
【解決アイデア】事前の情報連携とアプリ活用
エレベーターの不具合やスロープの要請に備えるには、事前の情報連携が欠かせません。鉄道会社によっては、電話一本で、乗車駅、乗換駅、降車駅の全てにスロープ手配の連携をしてくれるサービスがあります。
- 出発の30分~1時間前に、利用する鉄道会社の電話窓口に連絡し、乗降駅と利用時間を伝える。
- 経路検索アプリ(例:駅すぱあと)のバリアフリールート検索機能で、エレベーター優先ルートを確認する。
- 初めての駅を利用する際は、駅の構内図を事前にダウンロードし、エレベーターの位置を把握しておく。
この事前連携により、当日の移動が格段にスムーズになり、安心して利用できます。
街中の段差、傾斜、舗装の悪い道
駅を降りてからも、車いすユーザーの移動には多くの障害物が待ち受けています。歩道と車道の境の小さな段差、舗装が剥がれたガタガタの道、そして店先に設置された「たった一段」の段差は、外出を諦めさせる大きな要因です。
特に、観光地や昔ながらの商店街など、歴史的な背景を持つ場所では、バリアフリー化が進んでいないことが多く、ルート変更を余儀なくされます。また、雨の日などは、傾斜のある道や、点字ブロックの凹凸が滑りやすくなり、転倒のリスクも高まります。
【解決アイデア】携帯型スロープと地域情報アプリ
小さな段差をクリアするためには、携帯できる折りたたみ式のスロープを用意しておくことが有効です。軽量で持ち運びやすいものが販売されており、ご家族や介助者がいる場合に、ちょっとした段差を解消するのに役立ちます。
また、近年は地域住民や車いすユーザー自身がバリアフリー情報を投稿するアプリ(例:WheeLog!など)が登場しています。これらのアプリを活用して、目的地の周辺の道の状態や、段差の有無を事前にチェックすることで、安全なルートを選びやすくなります。
「外出先で見つけた『この道は舗装が悪い』といった情報をアプリに投稿することで、誰かの役に立っていると思うと、移動のモチベーションにも繋がります。」
— 車いすユーザー Jさんの声
施設の利用:トイレと飲食店の課題
目的地に到着した後も、トイレの利用や飲食店の利用において、車いすユーザーならではの困りごとが発生します。
多目的トイレの「満室」と「使い勝手」
外出時、最も切実な困りごとは、多目的トイレ(車いす対応トイレ)の確保です。設置されている場所が限られている上、多くの利用者が多目的トイレを必要とするため、長時間「満室」になっていることが頻繁にあります。
さらに、トイレの設備も課題です。広さは十分でも、手すりの位置や高さが合わない、オストメイト対応設備が不足している、荷物置き場がないなど、利用者の多様なニーズに対応しきれていない場合があります。これは、特に長時間のお出かけを躊躇させる大きな理由となります。
⚠️ 注意
多目的トイレは、車いすユーザーだけでなく、オストメイト、乳幼児連れ、介護が必要な方など、様々な方が利用します。利用後は、次に利用する方がスムーズに使えるよう、きれいに利用し、手すりなどの位置を元に戻すといった配慮を心がけましょう。
【解決アイデア】トイレマップアプリとマイマップ作成
多目的トイレを探す手間を減らすためには、多目的トイレの場所を検索できる専門の地図アプリ(例:日本トイレ協会が提供するものなど)を事前にスマートフォンにインストールしておきましょう。これらのアプリは、詳細な設備情報(オストメイト、おむつ交換台の有無など)も掲載していることが多いです。
また、Googleマップのマイマップ機能などを利用して、普段利用するエリアの多目的トイレを事前にマークしておくと、いざという時に素早く確認できます。周辺のカフェや公共施設など、トイレ利用が可能な場所も一緒にメモしておくと安心です。
飲食店・宿泊施設の入店拒否と狭さ
飲食店や宿泊施設において、物理的なバリア(段差や狭い通路)のために利用を断念せざるを得ないケースは今も少なくありません。特に昔ながらの店舗や、スペースが限られた店舗では、「車いすが入れるか」という問題以前に、「他の客の邪魔になる」と懸念され、入店をためらわれることがあります。
テーブルの高さが合わない、車いすのまま利用できる席が少ない、エレベーターがないために上の階の宴会場が利用できないなど、快適に食事や滞在を楽しむための環境が整っていないことも大きな困りごとです。
【解決アイデア】電話での事前確認とバリアフリー評価サイト
飲食店や宿泊施設を利用する際は、必ず事前に電話で問い合わせることを強くおすすめします。その際、単に「車いすで入れますか」と聞くだけでなく、以下の具体的な情報を確認しましょう。
- 段差の有無: 入り口に段差があるか、スロープの用意があるか。
- テーブルの高さ: 車いすのまま食事ができるテーブルの高さか。
- 通路の広さ: 車いすで移動可能な通路幅が確保されているか。
- トイレ: 車いす対応トイレの有無と、その詳細(広さ、手すりなど)。
また、最近では、車いすユーザーや介助者が実際に利用した感想を投稿するバリアフリー評価サイトも増えています。これらの口コミ情報も参考に、安心して利用できる場所を選びましょう。
支援の壁:介助者の手配と周囲の理解
快適な外出には、適切な介助と、周囲の理解が欠かせません。しかし、介助者の確保や、公共の場での周囲の視線や無理解も、車いすユーザーの外出を妨げる大きな壁となります。
移動支援(ガイドヘルプ)の支給不足
国の制度である移動支援(ガイドヘルプ)は、外出時の介助者確保の重要な手段ですが、その支給時間数が生活に必要な分量に満たないという問題が多くの地域で発生しています。特に、趣味や友人との交流といった「余暇的な外出」の時間が削られがちです。
支給時間が不足すると、ご家族が介助を担うことになり、ご家族の負担が増大し、レスパイト(休息)が取れなくなってしまうという悪循環が生じます。また、土日や夜間など、ヘルパーの確保が難しい時間帯の外出も大きな課題です。
【解決アイデア】公的サービス+民間サービス+ボランティアの併用
移動支援の支給時間不足を補うためには、公的サービス、民間サービス、ボランティアの三つを併用する戦略が有効です。公的支援で基本的な生活外出をカバーし、不足する余暇や土日の外出には、以下のサービスを組み合わせましょう。
- 民間の介護タクシー・付き添いサービス: 有料ですが、必要な時間帯に柔軟に対応してくれることが多いです。
- 地域のボランティア: 社会福祉協議会などが運営するボランティアによる外出支援サービスを探してみましょう。費用が安価、または無料の場合があります。
- 自治体独自の助成制度: 前述の通り、自治体独自の交通費助成やタクシー券も、移動の選択肢を広げます。
公共の場での周囲の視線・無理解
外出時に感じる精神的なストレスの一つが、周囲からの好奇の視線や、不適切な声かけ、無関心です。「大変ね」「頑張ってね」といった善意の言葉であっても、状況によってはプレッシャーや不快感を与えることがあります。また、エレベーター待ちをしている際に、健常者が無言で割り込んでくるなど、マナーや理解の欠如に直面することも少なくありません。
【解決アイデア】ヘルプマークと情報発信
周囲からの無理解を減らすためには、情報発信と啓発が重要です。車いすユーザーであることを示すヘルプマークを常に着用し、周囲に「支援が必要な可能性がある」ことを伝えましょう。
また、当事者やご家族がSNSなどで日々の困りごとや必要な配慮を具体的に発信していくことも、社会全体のバリアフリー意識の向上に繋がります。最近では、車いすの利用マナーや、適切な声かけ方法を伝える啓発動画なども増えており、積極的に共有していきましょう。
✅ 成功のコツ
公共の場で支援を求めるときは、「すみません」ではなく「〇〇(具体的な支援内容)をお願いします」と、簡潔で具体的な言葉で依頼しましょう。具体的な依頼は、周囲の人が行動を起こしやすくします。
「よくある質問」と相談窓口
車いすでの外出に関する困りごとについて、よくある質問とその解決策、そして相談窓口をご紹介します。
Q. 車いすで移動する際、段差や傾斜がある場所では介助者がいるべきですか?
A. 安全のためには、介助者がいることが理想的です。特に、5cm以上の段差や、急な傾斜、雨で滑りやすい場所では、介助者の力が必要です。ご自身で運転する電動車いすの場合でも、転倒や故障のリスクを考慮し、移動支援のヘルパーやご家族の同行を強くおすすめします。事前にルートの危険度を把握しておくことが大切です。
Q. 宿泊施設でバリアフリーの部屋が予約できなかった場合、どうすればいいですか?
A. バリアフリーの部屋が満室でも、諦めずに施設に相談してみましょう。施設によっては、通常の部屋でもポータブルスロープを用意してくれたり、車いすで利用しやすい大浴場や多目的トイレの利用を案内してくれたりする場合があります。「具体的な困りごと」(例:ベッドへの移乗の仕方など)を伝えると、より具体的な解決策を提示してくれることがあります。
Q. 地方への旅行を計画しています。現地のバリアフリー情報をどう調べたら良いですか?
A. 地方や観光地の情報収集は、以下の手段を組み合わせましょう。
- 観光協会のウェブサイト: 現地の観光協会が発行しているバリアフリーマップを確認する。
- 観光案内所への電話: 現地の観光案内所に電話し、直接、施設の段差情報や多目的トイレの場所を尋ねる。
- バリアフリー情報アプリ: 前述の「WheeLog!」などのアプリで、現地のユーザー投稿を確認する。
情報を多角的に集め、必ず予備ルートや予備の宿泊先も想定しておきましょう。
相談窓口と参考リンク
外出や移動に関する困りごと、支援サービス利用について迷ったときは、以下の窓口へ相談しましょう。
- 市町村の障害福祉担当窓口: 移動支援の申請、福祉移送サービスやタクシー券など、自治体独自のサービスに関する相談。
- 相談支援事業所: サービス等利用計画の作成、移動支援の時間数の調整、他の民間サービスとの連携相談。
- 地域のリハビリテーションセンターや作業療法士(OT): 車いすの操作技術向上、自助具の紹介、ご自宅周辺のバリアフリー化の相談。
専門家と連携し、困りごとを具体的な解決策に変えていきましょう。
まとめ
車いすユーザーの外出を快適にするためには、事前準備、情報収集、そして支援サービスの組み合わせが不可欠です。駅のエレベーターや多目的トイレの利用といった困りごとに対しては、アプリでのリアルタイム情報チェックや電話による事前連携が大きな解決策となります。
また、移動支援の支給時間不足は、民間サービスやボランティアを組み合わせることで補いましょう。周囲の無理解に対しては、ヘルプマークの着用や積極的な情報発信を通じて、社会全体のバリアフリー意識の向上に貢献していくことが、長期的な快適さにつながります。困りごとを乗り越え、より多くの場所へ安全に出かけましょう。
- ポイント1: 鉄道利用時は、出発前の事前連絡とエレベーター情報アプリの活用を徹底する。
- ポイント2: トイレや飲食店は、専門の地図アプリや電話での詳細確認で失敗を防ぐ。
- ポイント3: 介助者不足は、移動支援、民間サービス、ボランティアの三本柱でカバーする。

藤原 洋平
(ふじわら ようへい)40歳📜 保有資格:
一級建築士、福祉住環境コーディネーター
バリアフリー設計専門の建築士として15年。公共施設や商業施設のユニバーサルデザインに携わってきました。「誰もが使いやすい」施設情報と、バリアフリーの実践的な知識をお届けします。
大学で建築を学び、卒業後は設計事務所に就職。当初は一般的な建築設計をしていましたが、車椅子を使う友人から「段差一つで行けない場所がたくさんある」と聞き、バリアフリー設計の重要性に目覚めました。その後、ユニバーサルデザインを専門とする設計事務所に転職し、学校、図書館、商業施設など、様々な公共建築のバリアフリー化に携わってきました。特に印象深いのは、地域の古い商店街のバリアフリー改修プロジェクト。車椅子の方も、ベビーカーの方も、高齢者も、みんなが安心して買い物できる街になり、「誰にとっても便利」なデザインの素晴らしさを実感しました。記事では、すぐサポの施設データベースを活用しながら、バリアフリー施設の見つけ方、チェックポイント、外出時の工夫など、実際に役立つ情報を建築の専門家の視点で発信します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
車椅子を使う友人から「段差一つで行けない場所がたくさんある」と聞き、バリアフリー設計の重要性に目覚めました。
✨ 印象に残っている出来事
古い商店街のバリアフリー改修で、誰もが安心して買い物できる街を実現したこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
建築の専門家の視点で、実際に役立つバリアフリー情報を発信します。
🎨 趣味・特技
街歩き、建築巡り
🔍 最近気になっているテーマ
心のバリアフリー、センサリールーム





