障害者向けの賃貸住宅探しのコツと注意点

障害を持つ方が「自分らしく、安心して暮らせる賃貸住宅」を見つける道のりは、一般の方に比べて多くのハードルがあるのが実情です。バリアフリーの物件の少なさや、入居時の保証人問題、さらには不動産会社や大家さんの理解の差など、さまざまな壁に直面することが少なくありません。ご家族や支援者の方も、「この物件で本当に介助はスムーズにできるだろうか」「もしもの時、誰が保証人になってくれるだろうか」と不安を感じていることでしょう。
しかし、近年は障害者差別解消法の施行や、福祉と不動産が連携する仕組みも整備されつつあり、以前に比べて選択肢は確実に広がっています。正しい知識と適切な手順で住まいを探せば、安心できる快適な賃貸住宅を見つけることは可能です。
この記事では、身体障害、知的障害、精神障害など、あらゆる特性を持つ方が賃貸住宅を探す際に知っておくべき具体的なコツと注意点を、契約から入居後の生活までフェーズごとに解説します。これらの情報を活用し、自立と安全を両立させる理想の住まいを手に入れるためのヒントを見つけましょう。
フェーズ1:賃貸住宅探しの初期準備と専門家との連携
準備①:譲れない条件と妥協点の明確化
賃貸住宅を探し始める前に、「絶対に譲れない条件」と「妥協できる点」を明確にしておくことが、効率的かつ成功率の高い住まい探しに繋がります。
- 必須条件(バリアフリー):車椅子や歩行器を使う方は、エレベーターの有無、玄関・水回りの段差、廊下幅(最低80cm)など、物理的なバリアフリーを最優先でリストアップします。
- 必須条件(生活支援):通所先(就労継続支援、生活介護など)へのアクセス、訪問介護事業所のサービス提供エリア内であること、近隣の病院や薬局への距離も重要なチェックポイントです。
- 妥協点:築年数や広さ、内装の綺麗さなど、生活の安全に直結しない要素は、必要に応じて柔軟に検討する姿勢も大切です。
このリストを事前に作成し、家族や相談支援専門員と共有することで、不動産会社への要望をスムーズに伝えることができます。
準備②:不動産会社への適切な情報の開示
賃貸契約において、障害の有無や必要な支援に関する情報は、入居後のトラブル防止や適切な物件選定のために、契約前に正直に開示することが重要です。
- 開示のタイミング:物件を紹介してもらう初期の段階で開示しましょう。「入居審査に落ちるのではないか」という不安から隠してしまうと、後から発覚した際に信頼関係の崩壊につながりかねません。
- 伝える内容:障害の種類と等級、必要な生活支援(訪問介護の頻度、夜間の見守りなど)、想定されるトラブル(例:声が出やすい、行動特性など)を具体的に伝えます。
- 交渉材料の提示:同時に、「連帯保証人代行の利用」や「支援事業者による定期的な訪問」など、安定した居住を裏付ける体制を提示することで、大家さんや管理会社の不安を取り除くことができます。
この際、障害者支援に理解のある不動産会社を選ぶことも非常に重要です。後述の福祉サポート連携を活用しましょう。
準備③:福祉専門家との「物件チェックチーム」編成
一般的な不動産会社の担当者は、障害特性や介護の視点を持っていません。そのため、物件を内見する際は、福祉の専門家を同行させることを強く推奨します。
具体的には、相談支援専門員、作業療法士(OT)、福祉住環境コーディネーターなどの専門家は、廊下幅やトイレ・浴室の動作空間がご本人の生活動線に適しているかを専門的な視点からチェックしてくれます。特に、車椅子を使用する場合、エレベーターの扉の幅や部屋の前の手すりの有無など、見落としがちなポイントを指摘してもらうことができます。
💡 ポイント
内見時には、普段使用している車椅子や杖を必ず持参し、実際に玄関からの出入り、トイレや浴槽への移乗をシミュレーションしてみましょう。数字上のバリアフリーだけでなく、「使いやすさ」を体感することが最も大切です。
フェーズ2:入居審査と契約のハードルをクリアするコツ
コツ①:連帯保証人問題を解決する「保証会社と制度」
民間賃貸住宅で最も大きなハードルとなるのが連帯保証人の確保です。近年は、この問題を解決するための仕組みが充実しています。
- 家賃債務保証会社の利用:多くの不動産会社で導入されている家賃債務保証会社を利用すれば、保証人が不要になります。審査はありますが、障害年金や生活保護費も安定収入と見なされるケースが増えています。
- 公的支援の活用(あんしん賃貸):一部の自治体が運営する「あんしん賃貸支援事業」では、高齢者や障害者などが入居しやすい賃貸住宅を登録しており、保証人の紹介や家賃債務保証会社の利用支援を行っている場合があります。
- 親族以外の保証人代行:ご家族が保証人になれない場合、一部のNPO法人や社会福祉協議会が、身元保証や緊急連絡先の代行サービスを提供していることがあります。
家賃債務保証会社を利用することで、大家さんの金銭的な不安を解消し、入居審査を有利に進めることができます。
コツ②:大家さん・管理会社との「相互理解」
最終的な入居可否を握るのは、物件の所有者である大家さんと管理会社です。彼らの不安を取り除き、相互の信頼関係を築くことが最も重要な交渉のコツです。
- 支援体制の提示:「週に○回、訪問介護が入る」「24時間対応の緊急時連絡先がある」など、生活が安定していることを示す具体的な福祉サービスの利用計画書を提示します。
- 支援者による説明:相談支援専門員やケースワーカーに同席してもらい、第三者の視点から入居の安定性を説明してもらうことが有効です。
- 原状回復の保証:壁や床に傷をつけた場合の修繕費用について、保証会社や支援者が責任を持つことを明記することで、物件の毀損に対する大家さんの不安を軽減できます。
物件を借りることは、お互いの安心の上に成り立つ契約であることを理解し、誠意を持って交渉に臨みましょう。
コツ③:家賃補助制度の最大限の活用
障害を持つ方が利用できる家賃補助や居住費の助成制度を漏れなく活用することで、経済的な安定を図り、入居審査を通りやすくします。
主な制度としては、生活保護の住宅扶助、特定障害者特別給付による家賃補助(グループホームから移行する際など)、そして自治体独自の家賃補助制度などがあります。これらの補助を申請する際には、家賃額の上限が設定されている場合が多いため、補助額を考慮した物件選びが必須となります。補助金に関する手続きは、社会福祉協議会やケースワーカーに相談しましょう。
✅ 成功のコツ
障害者支援に特化した「福祉サポート不動産」やNPO法人と提携している不動産会社を選ぶことです。これらの業者は、大家さんへの説明方法や保証会社の利用に慣れており、入居審査のノウンスキルが高いため、成功率が飛躍的に上がります。
フェーズ3:入居後の生活と環境整備の注意点
注意点①:共同生活への配慮とトラブル防止
賃貸住宅での生活は、近隣住民との共同生活が前提となります。特に聴覚過敏や行動特性により、騒音や予期せぬ行動が発生する可能性がある場合は、事前の配慮が必要です。
- 事前の挨拶と説明:入居前に、大家さんや隣近所の住民に対して、支援者や家族が同行し、障害特性や緊急時の連絡先を丁寧に説明することで、相互の理解を深める努力をしましょう。
- 騒音対策:生活音が響きにくいよう、防音マットや厚手のラグを敷く、夜間の活動時間を配慮するなど、予防的な対策を講じます。
- 緊急時の対応:トラブルや体調急変時に、すぐに駆けつけられる支援者や親族の連絡先を、管理会社と近隣住民の両方に伝えておきましょう。
賃貸住宅での円滑な共同生活は、事前の情報開示と、問題発生時の迅速かつ誠実な対応にかかっています。
注意点②:原状回復と住宅改修のルール
賃貸住宅では、契約内容の範囲内でのみ、住居に手を加えることができます。無許可での改修は契約違反となるため、特に注意が必要です。
- 改修の範囲:手すりの設置、段差解消のスロープなど、生活に必要な改修を行う場合は、必ず事前に大家さんや管理会社の書面による許可を得ましょう。
- 原状回復の義務:契約終了時には、借りたときの状態に戻す「原状回復」が原則です。ただし、経年劣化による自然な摩耗は原状回復の対象外です。
- 公的補助の利用:介護保険の住宅改修費や自治体の補助金を利用する場合も、補助金申請前に大家さんの許可が必要です。補助金制度の窓口に提出する理由書に、大家さんの署名・捺印が求められることが多いです。
許可を得たうえで実施する改修であっても、退去時の原状回復費用を見積もり、契約書に特約として明記しておくと安心です。
注意点③:将来的な見守り・支援体制の継続的な見直し
障害を持つ方が賃貸住宅で自立生活を続けるためには、環境の変化や加齢に伴い、必要な支援体制を継続的に見直す必要があります。
3ヶ月~半年に一度、相談支援専門員と共に、住環境(現在のレイアウト、バリアフリー状況)と利用中の福祉サービス(訪問介護、デイサービスなど)が、現在のニーズに合っているかを確認しましょう。もし、生活の継続が困難になった場合は、住み替え(グループホームや施設への移行)を含めた「ライフプラン」を早めに検討し、選択肢を増やしておくことが、将来の安心に繋がります。
⚠️ 注意
不動産会社や大家さんから、「障害があるから」という理由だけで入居を拒否された場合は、障害者差別解消法に抵触する可能性があります。不当な拒否だと感じた場合は、すぐに自治体の相談窓口や法テラスに相談しましょう。ただし、経済的な問題や過去のトラブル歴を理由とする拒否は、差別にはあたりません。
まとめ
障害者向けの賃貸住宅探しを成功させるためには、事前の入念な準備と福祉・不動産の専門家との連携が不可欠です。まず、バリアフリー、支援サービスへのアクセスといった譲れない条件を明確にし、家賃債務保証会社や自治体の補助制度を活用して、経済的な安定と保証人問題をクリアしましょう。
特に、大家さんや近隣住民には、誠実な情報開示と支援体制の提示を通じて相互理解を深めることが、入居審査を乗り越える鍵となります。入居後も改修ルールの遵守と定期的な支援体制の見直しを行い、安全で快適な自立生活を維持していきましょう。
まとめ
- 住まい探しでは、バリアフリーと福祉サービスのアクセスを最優先し、福祉住環境コーディネーターと内見しましょう。
- 家賃債務保証会社の利用や自治体の家賃補助を積極的に活用し、入居時の経済的・保証人問題を解決しましょう。
- 入居後も、近隣住民への事前の説明と、支援者と共に継続的な見直しを行うことが、安定した自立生活の鍵です。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





