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進行する病気とどう向き合うか——私たちの選択

📖 約61✍️ 鈴木 美咲
進行する病気とどう向き合うか——私たちの選択
進行性の難病と知的障害を抱える娘を持つ親が、機能が失われていく過酷な現実といかに向き合ってきたかを綴った体験談です。告知当初の絶望から、医療・福祉・教育のチーム支援を受けることで「今を大切にする」という価値観に辿り着くまでの過程を詳しく解説しています。具体的なケアの工夫やレスパイトサービスの活用、夫婦・きょうだい児への配慮、そして親自身のメンタルケアの重要性についても言及。「失われるもの」ではなく「今ある輝き」に目を向けることの大切さを伝え、同じ境遇の家族へ希望のメッセージを届けます。

失われていく日常と、見つけた希望の形

「昨日までできていたことが、今日はできない」——進行性の病気を抱えるお子さんを持つご家族にとって、これほど残酷で、心を締め付ける言葉はないかもしれません。知的障害や身体機能の低下が少しずつ進む中で、将来への不安に押しつぶされそうになる夜もあるでしょう。

私自身も、娘の病気が「進行性」であると告げられたとき、時計の針を止めてしまいたいと何度も願いました。しかし、失われていくものばかりに目を向けていた私たちが、数年間の葛藤を経て辿り着いたのは、「今、この瞬間の輝き」を何よりも大切にするという選択でした。

この記事では、病気の進行という過酷な現実にどう向き合い、どのような支援を受け、家族としてどのような決断をしてきたか、ありのままの体験をお話しします。今、暗闇の中で立ち止まっているあなたに、少しでも寄り添う光を届けられれば幸いです。


進行性の告知を受けた日の絶望と葛藤

昨日が一番元気だったという現実

娘に難病の診断がついたのは、3歳の時でした。当初はゆっくりと成長していくものだと信じて疑いませんでしたが、医師から告げられたのは「進行性の変性疾患」という言葉でした。それは、成長のスピードが遅いだけでなく、獲得した機能が少しずつ失われていくことを意味していました。

医師の説明を聞きながら、私の頭の中は真っ白になりました。これまで必死に積み上げてきた療育の成果も、いつかは消えてしまうのか。そう思うと、目の前の娘が愛おしいと同時に、たまらなく切なく、自分の無力さに涙が止まりませんでした。

「明日が来るのが怖い」と感じる日々が始まりました。朝起きて、娘が昨日と同じように笑えるか、同じようにスプーンを持てるか。そんな確認作業のような毎日は、精神的に非常に過酷なものでした。進行性の病気は、未来から希望を奪っていくような感覚を私たちに与えました。

「なぜ」という問いのループ

告知から数ヶ月間、私は「なぜ私たちの娘だったのか」という答えのない問いを繰り返し続けました。家系に問題があったのか、妊娠中の生活がいけなかったのか。自分を責めることで、どうしようもない現実を必死にコントロールしようとしていたのかもしれません。

周りの子供たちが元気に成長し、新しい言葉を覚え、駆け回る姿を見るのが辛くなりました。以前は喜べていた友人のSNSも、今では心の傷を抉る凶器のように感じられ、次第に社会との繋がりを断ち切るようになっていきました。

しかし、そんな私の暗い表情は、敏感な娘にも伝わっていました。彼女が不安そうに私の顔を覗き込む姿を見て、私はハッとしました。病気が進んでいるのは娘の体なのに、心を病ませていたのは親である私自身だったのです。

小さな変化を見逃さない決意

ある日、訪問看護師さんが私にこう言いました。「お母さん、明日のことを心配しすぎて、今日の〇〇ちゃんの笑顔を見逃していませんか?」その一言で、私は自分の過ちに気づきました。

進行を止めることは今の医学では難しいかもしれません。でも、今日娘が笑っていること、私の手を握ってくれること。その「今、ここにある幸せ」は本物であり、誰にも奪うことはできないはずです。私は、時計の針を止めるのではなく、時計の針と一緒に歩んでいく決意をしました。

「できないこと」を数えるのをやめて、「今日できたこと」や「今日楽しかったこと」を記録するノートを作りました。それが、私たちが進行性の病気と向き合うための、最初の武器になりました。


医療・福祉・教育との連携と選択

チームで支える体制の構築

進行性の病気と向き合うためには、家族だけで抱え込むのは不可能です。私たちはまず、「チーム娘」と呼べる支援ネットワークを作ることに奔走しました。主治医、訪問看護師、理学療法士、相談支援専門員。それぞれの専門家と情報を密に共有することにしました。

進行性の疾患では、体調の変化が激しいため、迅速な連携が欠かせません。「最近、少し嚥下(飲み込み)が落ちてきた気がする」「足の緊張が強まっている」といった細かな情報を共有することで、先回りの対策が可能になります。

支援者の方々は、単なる技術提供だけでなく、私の精神的な支えにもなってくれました。特に相談支援専門員さんは、複雑な福祉制度を私たちの状況に合わせてカスタマイズして提案してくれる心強い伴走者です。

教育環境の選択と「今」の優先

学齢期を迎える際、特別支援学校への就学を選択しました。地元の小学校への希望もありましたが、進行性の娘にとっては、医療的ケアが常に受けられ、専門的なリハビリがカリキュラムに組み込まれている環境が最も「今」を輝かせると判断したからです。

支援学校では、娘の体調に合わせて柔軟に活動内容を調整してくれます。機能が低下しても、その時々の娘が楽しめる「遊びを通じた学び」を提案してくれる先生方の姿勢に、私たちは何度も救われました。

「将来のために訓練する」のではなく、「今を楽しむために環境を整える」。この視点の転換が、娘の学校生活を豊かなものにしました。友達と車椅子で散歩する時間、音楽に合わせて体を揺らす時間。それらすべてが、彼女にとってかけがえのない人生の1ページです。

レスパイトサービスの活用

親が倒れてしまっては、娘の生活は立ち行きません。私たちは、短期入所(ショートステイ)などのレスパイトサービスを定期的に利用することを選択しました。最初は「子供を預けるなんて」という罪悪感もありましたが、今では家族全員のメンタル維持に不可欠なものと考えています。

💡 ポイント

レスパイト(Respite)とは「一時的な休息」という意味です。親が休息をとることは、子供に質の高いケアを提供し続けるための「前向きな戦略」です。罪悪感を持つ必要はありません。

娘も、施設での生活を通じて私以外の大人や友達と接する機会が増え、彼女なりの社会性が育まれているのを感じます。私たちがリフレッシュして笑顔で迎えることが、娘にとっても一番の喜びなのだと、今なら心から思えます。


身体機能の変化と向き合うケアの工夫

環境調整による「できる」の維持

病気が進行し、手指の力が弱くなってきたとき、私たちは「自助具」や「ICT機器」の活用を積極的に取り入れました。重いスプーンが持てなくなれば軽い素材のものに変え、ページを捲るのが難しくなれば視線入力装置を導入しました。

身体機能が落ちても、「自分の意思で何かを動かす」という体験を奪わないように工夫しました。視線を使って画面上のスイッチを押し、音楽を鳴らしたりテレビをつけたりする。そんな小さな成功体験が、娘の瞳に力を与え続けています。

住環境も、進行を見越して早めにリフォームを行いました。段差をなくし、介護用ベッドを導入し、お風呂の介助がしやすいようにスペースを確保しました。環境を整えることは、本人の安楽だけでなく、介助者の腰痛予防など持続可能な介護にも繋がります。

食事と栄養へのこだわりと決断

進行性の疾患において、避けて通れないのが「食事」の問題です。娘も徐々に咀嚼や嚥下の力が弱まり、誤嚥(ごえん)のリスクが高まってきました。私たちは言語聴覚士(ST)のアドバイスを受けながら、食形態の調整を丁寧に行いました。

とろみの付け方一つで、娘が「美味しい」と感じるかどうかが変わります。少しでも長く口から食べる喜びを感じてほしいと願う一方で、無理をさせて肺炎を起こすことは避けなければなりません。そのバランスを見極めるのは、常に緊張感の伴う作業でした。

やがて胃ろう(お腹に小さな穴を開けて栄養を流す処置)を検討する時期が来ました。最初は「体に穴を開けるなんて」と抵抗がありましたが、結果的に胃ろうは、娘の体力を維持し、脱水の不安を解消する大きな助けとなりました。これも「今を楽に過ごす」ための大切な選択でした。

痛みと緊張を和らげるリラクゼーション

病気の進行に伴い、体の緊張(痙性)が強まることがあります。娘も手足が突っ張り、痛みを訴えることが増えました。私たちは、リハビリに加えてアロマテラピーや音楽療法を取り入れ、五感を癒すケアを大切にしています。

✅ 成功のコツ

お風呂上がりに大好きな香りのオイルで優しくマッサージすると、筋肉の緊張がふっと緩む瞬間があります。言葉はなくても、表情が和らぐことで「伝わっている」と感じられます。触れ合いは最高のコミュニケーションです。

緊張を和らげるお薬の調整も、主治医と頻繁に相談しています。「今日は天気が悪いから緊張が強いね」といった家族にしか分からない変化を医師に伝え、きめ細かな調整を行うことで、娘の不快な時間を最小限にするよう努めています。


家族の形と心のメンテナンス

夫婦の対話と役割分担

24時間の介護が必要になる中で、夫婦の協力体制は生命線です。私たちは、どちらか一方に負担が偏らないよう、役割を明確に分けました。食事の介助は私、入浴の補助は夫、といった具体的な分担だけでなく、「悩みを聞き合う時間」を意識的に作っています。

進行性の病気は、時に夫婦の間に溝を作ることがあります。「もっとこうすればよかった」「あなたのせいで」という感情が芽生えるのは、それだけお互いが必死だからです。私たちは、「敵は病気であり、パートナーではない」という言葉を合言葉にしてきました。

月1回、娘を預けて2人で食事に行く時間は、親としてではなく「夫婦」に戻る大切な儀式です。そこで現状を整理し、これからの選択について落ち着いて話し合うことで、私たちは「チーム家族」としての絆を維持できています。

きょうだい児への配慮と愛情

娘には、2歳下の弟がいます。進行性の姉を持つ彼もまた、幼いながらに多くのことを感じ取っています。どうしても手のかかる姉が優先されがちな日常の中で、私たちは弟の「心の居場所」を確保することに心を砕いています。

  • 週に一度は、弟とだけ過ごす「マンツーマンの時間」を作る
  • 姉の病気について、年齢に合わせた正しい情報を伝え、隠し事をしない
  • 弟が自分の好きなことに没頭できる環境(習い事や遊び)を尊重する

「お姉ちゃんがいるから我慢しなきゃ」という思いをさせないよう、彼の頑張りを常に言葉で褒めるようにしています。姉の病気は家族の課題であっても、彼の人生の重荷にしてはならない。それが私たちの強い信念です。

親自身の「自分時間」の確保

介護が中心の生活であっても、私自身が一人の人間として輝く時間を捨てることはありませんでした。短時間のパートタイム仕事を続け、趣味の読書や友人との交流を細々と継続しています。社会と繋がっている感覚は、私を「母親」という役割から一時的に解放してくれます。

⚠️ 注意

「自分だけ楽しんでいいのか」という罪悪感は、多くの親御さんが抱えます。しかし、親が枯渇してしまえば、子供に与える愛情の泉もいつか干上がってしまいます。自分が満たされることは、最大のケアなのです。

SNSで同じ境遇の親御さんと繋がることも、大きな支えになりました。進行性の悩みは、経験した人にしか分からない独特の痛みがあります。「うちもそうだったよ」「その選択で間違っていないよ」という言葉に、何度涙し、勇気づけられたか分かりません。


進行性の病気に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 機能が失われていくのを見るのが辛いです。どう心を保てばいいですか?

失われた機能ではなく、「今残っている機能」で何ができるかを考えるようにシフトしてみてください。また、悲しみ(グリーフ)を感じるのは自然な反応です。無理に前向きになろうとせず、信頼できる支援者やカウンセラーにその苦しさを吐き出してください。一人で抱えないことが、心を保つ唯一の方法です。

Q2. 新しい治療法や研究の情報はどうやって入手すればいいですか?

まずは主治医に相談するのが最も確実です。また、難病センターや患者会なども信頼できる情報源となります。インターネット上には不確かな情報や高額な未承認療法も溢れているため、情報を鵜呑みにせず、必ず専門家に確認する姿勢が大切です。以下のテーブルは、情報収集の際のチェックポイントです。

情報源 メリット 注意点
主治医・専門医 医学的根拠に基づいた正確な情報 多忙でゆっくり話せない場合がある
患者会・親の会 実体験に基づいた生活の知恵 症状の個人差が大きく、全てには当てはまらない
難病相談支援センター 福祉・就労を含めた総合的な相談 最新の医学研究については医師ほど詳しくない場合も

Q3. 進行を遅らせるために、無理にでもリハビリをさせるべきでしょうか?

リハビリの目的は「機能の回復」だけではありません。現在の機能を維持すること、痛みを予防すること、そして何より「本人が心地よく過ごすこと」が重要です。無理な訓練が本人のストレスになり、笑顔が消えてしまうのは本末転倒です。セラピストと相談し、生活の中で楽しく取り入れられる形を探しましょう。

Q4. 将来の見通しが立たず、経済的な不安があります。

指定難病の受給者証や、身体障害者手帳、療育手帳を取得することで、医療費の助成や各種手当(特別児童扶養手当など)を受けることができます。また、将来の「親亡き後」に備えて、成年後見制度や信託の仕組みを学ぶことも安心に繋がります。自治体の福祉課やソーシャルワーカーに早めに相談してみてください。


まとめ:今日を最高の一日にするために

進行は「人生」を奪うものではない

病気が進行するということは、確かに過酷な現実です。しかし、機能が一つ失われたからといって、娘の「人生の価値」が一つ減るわけではありません。彼女は今も、彼女らしくこの世界を感じ、喜び、私たちを愛してくれています。

私たちは、失われていく未来を嘆く時間を、「今を豊かにする時間」に作り替えてきました。その選択は間違っていなかったと、娘の穏やかな寝顔を見るたびに確信しています。進行性の病気と共に生きることは、誰よりも「今日」という日の尊さを知ることでもあります。

もし今、告知を受けて絶望の中にいる方がいたら、どうか覚えておいてください。暗闇に目が慣れてくると、そこにある小さな光が見えるようになります。あなたと、あなたのお子さんの「今日」が、穏やかで優しいものであることを心から願っています。

次の一歩へのアクション

この記事を読み終えたあなたに、今日ぜひやってみてほしいことがあります。それは、お子さんの「今ある素晴らしいところ」を一つだけ、言葉にして伝えてあげることです。病気や障害に関係なく、その子がその子であるだけで、どれほどあなたが幸せか。その温かな想いは、どんな薬よりも強く、お子さんの心を支えるはずです。

✅ 成功のコツ

ノートの端っこでもスマホのメモでも構いません。「今日の娘の可愛い瞬間」をメモしてみましょう。後で見返したとき、それは失われない「家族の宝物」になります。

まとめ

  • 「今、ここ」の幸せを最優先にする:進行を嘆くのではなく、今日の笑顔を何よりも大切にするという選択をする。
  • 支援ネットワークを積極的に構築する:医療・福祉・教育のプロと連携し、家族だけで抱え込まない体制を整える。
  • 親自身の心と生活を大切にする:レスパイトサービスや自分時間を活用し、持続可能なケアを目指す。

鈴木 美咲

鈴木 美咲

すずき みさき42
担当📚 実務経験 15
🎯 相談支援🎯 当事者・家族支援

📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員

相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。

社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。

🎨 趣味・特技

ヨガ、カフェ巡り

🔍 最近気になっているテーマ

ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア

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