医療ケアが必要な子の学校での過ごし方

医療的ケア児の学校生活——安心できる環境づくりと学びの両立を目指して
「うちの子、学校で医療的ケアを安全に受けられるのかしら」「親の付き添いはいつまで続くの?」そんな不安を抱えながら、お子さんの就学や通学に向き合っている親御さんは多いことでしょう。経管栄養や痰の吸引、導尿といった医療的ケアが必要な子供たちにとって、学校は学びの場であると同時に、命を守る場所でもあります。
近年、法改正により自治体の責務が明確化されましたが、実際の現場ではまだまだ課題も多く残されています。この記事では、医療的ケア児が学校でどのように過ごしているのか、最新の支援体制や成功の秘訣、そして家族が抱える葛藤の乗り越え方を詳しく解説します。この記事を通じて、お子さんにとって最適な学校生活の形を見つけるヒントを得ていただければ幸いです。
医療的ケア児を取り巻く学校の現状
医療的ケア児支援法の成立と変化
2021年9月に施行された「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(医療的ケア児支援法)」により、学校での支援体制は大きな転換期を迎えました。これまでは自治体の努力義務にとどまっていた支援が、明確な責務へと変わったのです。これにより、看護師の配置や環境整備が急速に進み始めました。
文部科学省の調査(令和4年度)によると、公立の特別支援学校や小中学校に在籍する医療的ケア児の数は、全国で約2万人を超えています。そのうち、特別支援学校に在籍する割合が高いものの、地域の小中学校で学ぶ子供たちも着実に増えています。制度が整うことで、教育の選択肢が少しずつ広がっているのが現状です。
学校における看護師配置の重要性
医療的ケア児が学校生活を送る上で欠かせないのが、学校看護師の存在です。看護師は医師の指示書に基づき、吸引、経管栄養、導尿、血糖値の測定などのケアを実施します。学校内に看護師がいることで、教員は教育に専念でき、子供たちは安全に授業を受けることが可能になります。
しかし、看護師不足という課題も依然として残っています。自治体によっては、派遣会社を通じて看護師を確保したり、地域の訪問看護ステーションと連携したりすることで対応しています。学校側と「どの時間帯にどのケアが必要か」を事前に細かく打ち合わせることが、スムーズな受け入れの鍵となります。
💡 ポイント
自治体ごとに看護師の配置基準や予算が異なるため、就学相談の段階で「学校看護師の配置状況」を確認しておくことが非常に重要です。
施設面でのバリアフリー化
医療的ケアを行うためには、プライバシーに配慮した「医務室」や「多目的トイレ」などの整備が必要です。ベッドの設置、電源の確保、手洗い場の完備など、ケアの内容に応じた環境が求められます。特に車椅子を使用している場合は、教室内のスペースやスロープの有無も確認が必要です。
最近では、最新の設備を整えた新築校も増えていますが、古い校舎では改修が必要なケースも多々あります。入学前に学校見学を行い、ケアを実施する動線や緊急時の対応場所を先生方と一緒に確認しておくことで、入学後のトラブルを防ぐことができます。学校側も親御さんからの具体的な要望を待っている場合が多いものです。
学校での具体的な一日の過ごし方
登校から午前中の授業まで
朝、スクールバスや親の送迎で登校した子供たちは、まず健康チェックを受けます。体温や顔色、酸素飽和度(SpO2)などを確認し、その日の体調を看護師や担任と共有します。朝の会が終わると授業が始まりますが、医療的ケアが必要な子供たちは、授業の合間にケアの時間を挟むことになります。
例えば、10時頃に痰の吸引が必要な子もいれば、水分補給のために経管栄養を行う子もいます。これらは授業を中断しすぎないよう、タイムスケジュールに基づいて行われます。ケアの間も、先生が絵本を読んでくれたり、友達が話しかけてくれたりと、学びや交流が途切れないような工夫がなされています。
給食の時間と食事のサポート
医療的ケア児にとって、給食の時間は最も注意が必要な時間の一つです。経管栄養(胃瘻や鼻腔栄養)の子は、他の子と同じテーブルで注入を受けることもあれば、静かな場所へ移動することもあります。最近では、交流を重視してクラスメイトと一緒に過ごす形が推奨される傾向にあります。
また、嚥下障害がある子の場合は、刻み食やペースト食といった形態の変更が必要です。学校の給食調理員と連携し、どこまで対応可能かを相談します。食後の口腔ケアも大切です。誤嚥性肺炎を防ぐため、丁寧なブラッシングや清拭が行われます。以下の表は、代表的な医療的ケアと学校での対応例をまとめたものです。
| ケアの内容 | 学校での主な対応方法 | 必要な備品 |
|---|---|---|
| 痰の吸引 | 授業中や休み時間、必要時に随時実施 | 吸引器、カテーテル、消毒液 |
| 経管栄養(胃瘻等) | 給食時間や中間注入として実施 | 注入器、栄養剤、接続チューブ |
| 導尿 | 数時間おきに保健室等で実施 | カテーテル、潤滑剤、洗浄綿 |
| 血糖測定・インスリン | 食事前後や運動前に実施 | 測定器、穿刺器具、記録ノート |
休み時間と放課後の活動
休み時間は、友達との交流を深める絶好の機会です。医療的ケアがあるからといって、ずっと保健室にいるわけではありません。見守りを受けながら、校庭に出たり教室でゲームをしたりして過ごします。周囲の子供たちも、ケアの様子を見たり説明を受けたりすることで、自然と「その子の特性」として受け入れるようになっていきます。
放課後は、放課後等デイサービスを利用する子も多くいます。学校からデイサービスへの引き継ぎの際にも、その日のケアの実施状況や体調の変化を記録した連絡帳が重要な役割を果たします。学校、家庭、施設が三位一体となって子供を支える体制が、安定した生活を支える土台となるのです。
✅ 成功のコツ
写真や動画付きの「ケア手順書」を作成して学校に渡すと、看護師や先生が視覚的に理解しやすくなり、ミス防止に繋がります。
親の付き添いに関する葛藤と解決策
「いつまで付き添うのか」という不安
多くの医療的ケア児の親御さんが直面するのが、学校からの「親の付き添い」の要請です。特に入学当初や体調が不安定な時期は、緊急時の対応のために付き添いを求められることが一般的です。しかし、これが数ヶ月、数年と続くと、親の就労が困難になったり、心身ともに疲弊してしまったりする問題が生じます。
「付き添いが条件なら入学できない」と言われてしまうのではないかという恐怖心から、無理を重ねてしまう方も少なくありません。しかし、現在の法律では「保護者の付き添いを前提としない支援体制の構築」が求められています。付き添いを減らしていくためのステップを、学校側と明確に話し合うことが大切です。
段階的な付き添い解除のステップ
付き添いを解除するためには、学校側の「安心感」を醸成することが不可欠です。まずは1時間だけ離れてみる、次に給食の時間まで離れてみる、といったスモールステップを踏みます。その際、緊急連絡先の確保はもちろんのこと、ケアの手順が完全に看護師に伝わっているかを相互に確認します。
具体的には、以下のようなステップで進める家庭が多いようです:
- 入学後1ヶ月:教室または別室で終日待機(ケアの手順を伝える)
- 2ヶ月目:午前中のみ待機、午後は学校近くで待機
- 3ヶ月目:特定のケア時のみ来校(または看護師のみで実施)
- 4ヶ月目以降:完全に看護師へ委託し、緊急時のみ来校
家族の時間を守るための制度利用
親の付き添いが必要な期間、兄弟姉妹のケアや家事が疎かになってしまうこともあります。そんな時は、居宅介護(身体介護)や移動支援などの福祉サービスを積極的に活用しましょう。学校の行き帰りの送迎をヘルパーさんに依頼できる場合もあります(自治体により条件が異なります)。
また、自治体によっては「付き添いボランティア」を派遣しているケースもあります。親だけが全ての責任を負うのではなく、社会全体で支えてもらうという意識を持つことが、長く続く学校生活を乗り切るためのポイントです。自分自身の休息も、子供の笑顔を守るための立派な「仕事」だと考えてください。
「最初は離れるのが不安で仕方がありませんでしたが、学校を信じて任せることで、息子も私以外の大人との信頼関係を築けるようになりました。」
— 小学校3年生(経管栄養児)の保護者
知的障害を伴う場合の教育とケアの工夫
本人の意思を尊重したケアの進め方
知的障害を伴う医療的ケア児の場合、ケアの必要性を本人が十分に理解できず、拒否反応を示したりパニックになったりすることがあります。無理やりケアを行うことはトラウマに繋がるため、本人が見通しを持てるような工夫が必要です。「これから吸引をするよ」という絵カードを見せたり、終わった後の楽しみを提示したりします。
学校の先生や看護師は、教育のプロ、看護のプロとして様々な手法を試してくれます。家庭での「お気に入りの声かけ」や「落ち着く姿勢」をあらかじめ伝えておくことで、学校でもスムーズにケアを受け入れられるようになります。本人が自分で自分の体を大切に思う気持ちを育てることも、立派な教育の一環です。
遊びや交流の中での学び
「ケアがあるから運動会に出られない」「遠足に行けない」と諦める必要はありません。医療機器を持っての移動が大変な場合は、酸素ボンベの予備を用意したり、吸引器のバッテリーを確認したりといった準備を万全にすることで、参加できる行事はたくさんあります。先生方は、どうすればその子がみんなと一緒に楽しめるかを一緒に考えてくれるはずです。
例えば、リレーで車椅子を押して参加したり、音楽発表会でスイッチを使って楽器を鳴らしたり。医療的ケアがあることは、その子の一部であって全てではありません。できることに目を向け、それをどう伸ばしていくかを考えるのが特別支援教育の本質です。周囲の子供たちにとっても、多様な友達と一緒に過ごす経験は大きな財産となります。
⚠️ 注意
知的障害や難病を伴う場合、体温調節が苦手だったり、疲れやすかったりすることがあります。ケアだけでなく、こまめな休憩や室温調整を学校側に依頼しておくことも忘れずに。
個別教育支援計画(IEP)の活用
医療的ケア児には、通常の「個別指導計画」に加え、「個別教育支援計画」が作成されます。これには、将来の自立に向けた目標や、必要な支援の内容が詳細に記載されます。この計画書を作成する際、親の希望をしっかりと盛り込んでもらいましょう。「学校でどんな経験をさせたいか」を具体的に伝えることが、質の高い支援に繋がります。
また、この計画書は数年ごとの見直しが行われます。成長に伴い必要なケアの内容が変わったり、本人が自分でできることが増えたりした場合は、柔軟に内容を更新していきます。学校、主治医、家庭がこの計画書を共有することで、一貫性のあるサポートが可能になります。
よくある質問(FAQ)
Q. 通常の小学校(地域校)と特別支援学校、どちらが良いですか?
お子さんのケアの頻度、体調の安定度、そして「どのような環境で学ばせたいか」という親御さんの意向によります。特別支援学校は看護師や設備が充実しており安心感が強い一方、地域校は近所の友達との交流が魅力です。両方の学校を見学し、それぞれのメリット・デメリットを比較して、就学相談で納得いくまで話し合うことをお勧めします。
Q. 遠足や修学旅行などの行事に親の同伴は必須ですか?
原則として、学校側は親の同伴なしで行事に参加できるよう体制を整える努力が求められます。しかし、宿泊を伴う修学旅行や、看護師が確保できない野外活動などでは、安全確保のために同伴を依頼されるケースもまだ多いのが実情です。早い段階で行事予定を確認し、看護師の派遣が可能かなどを学校と協議しましょう。
Q. ケア用品の費用負担はどうなっていますか?
カテーテルや栄養剤などの消耗品は、基本的には医療保険や自立支援医療などの枠組みで家庭が用意し、学校へ持参します。ただし、学校で共通して使用する備品(消毒液や処置用シーツなど)については、学校側が予算で負担してくれる場合もあります。自治体のルールを確認してみてください。
未来への一歩:学校生活を豊かにするために
主治医や訪問看護との連携を強める
学校での安心を支えるのは、学校外の専門家の力です。主治医が書く「指示書」が曖昧だと、学校看護師も不安でケアが制限されてしまうことがあります。具体的に「どの程度の症状が出たら救急車を呼ぶか」「吸引の回数に制限はあるか」などを、主治医に詳しく書いてもらうよう依頼しましょう。
また、普段家庭に来ている訪問看護師さんに、学校見学に同行してもらったり、学校看護師への技術指導を行ってもらったりすることも有効です。プロ同士の橋渡しをすることで、より高度で安全なケア体制が整います。地域のリソースを最大限に活用するコーディネーターの役割を、親御さんが少しずつ担っていくことになります。
子供の「やりたい」という気持ちを信じる
医療的ケアが必要だと、つい「危ないから」「無理だから」と制限をかけてしまいがちです。しかし、子供の適応能力は想像以上に高いものです。友達と一緒にいたい、外で遊びたいという強い気持ちが、リハビリや学習の大きな原動力になります。ケアを理由に可能性を狭めないよう、大人たちが知恵を絞ることが大切です。
学校生活を通じて、子供たちは社会性を身につけ、自己肯定感を高めていきます。ケアを受けながらも堂々と学び、笑い、時には友達と喧嘩をする。そんな「当たり前」の日常が、医療的ケア児にとっても当たり前になる社会を目指しましょう。そのための第一歩は、親御さんが一人で悩まず、周囲に声を上げることから始まります。
今すぐできるアクションの提案
まずは、以下のチェックリストを参考に、次の一歩を踏み出してみませんか?
- 現在のケア内容と、学校で必要な時間帯をリストアップする。
- 自治体の「医療的ケア児相談支援センター」の場所を調べ、連絡してみる。
- 学校に提出する「ケア手順書」のドラフトを作成してみる(写真撮影など)。
- 同じ医療的ケア児を持つ親のコミュニティやSNSで、地域の情報を集める。
まとめ
医療的ケアが必要な子の学校生活は、多くの壁があるかもしれません。しかし、2021年の法改正以降、社会の風向きは確実に変わってきています。親の付き添いに頼り切るのではなく、看護師や教員とチームを組んで子供を支える形が標準になりつつあります。
- 情報収集と対話が鍵:自治体の制度や学校の現状を把握し、こちらの要望を具体的に伝え続けましょう。
- 福祉サービスの積極活用:親が一人で背負わず、ヘルパーや訪問看護などのプロの助けを借りて、家族の生活を守りましょう。
- 子供の可能性を信じる:ケアは命を守るための手段であり、目的は豊かな「教育」と「成長」であることを忘れないでください。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





