障害のある人が仕事でつまずくポイント10選

障害のある人が仕事でつまずくポイント10選:定着を妨げる壁と具体的な乗り越え方
「真面目に頑張っているのに、なぜか仕事がうまくいかない……」
「職場の同僚とのコミュニケーションが難しく、孤立してしまうのではないか不安……」
障害のある方にとって、就職は大きな目標であり、社会参加への重要な一歩です。しかし、実際に働き始めると、業務内容や職場環境、人間関係など、様々な要因で予期せぬ「つまずき」に直面することがあります。この「つまずき」は、能力や意欲の問題ではなく、障害特性と職場の環境や文化が合わない「ミスマッチ」から生じることがほとんどです。
この記事では、障害種別を問わず、就労の継続や定着を妨げやすい具体的な「つまずくポイント」を10個厳選し、それぞれの原因を深く掘り下げます。そして、その壁を乗り越えるために、本人、家族、そして企業が実践すべき具体的かつ建設的な対策(合理的配慮の具体例)を詳細にご紹介します。
つまずきを事前に予測し、適切な対策を講じることで、誰もが安心して長く働き続けられる職場環境を築くためのヒントを、ここで一緒に見つけましょう。
【業務遂行の壁】仕事の進め方でつまずく3つのポイント
つまずき1:あいまいな指示、抽象的な指示の理解困難
多くの職場で使われる「適当にやっておいて」「常識で考えて」といった抽象的で曖昧な指示は、特に発達障害や知的障害を持つ方にとって、大きなつまずきの原因となります。
原因と影響:
- 指示の誤解: 言葉通りに受け取ってしまい、意図とは違う結果になってしまう。例:「急いで」と言われて、質を無視してとにかく速さだけを優先してしまう。
- 行動のフリーズ: 「何から手をつけていいか分からない」状態になり、不安から作業を停止してしまう。
- 優先順位の誤り: 複数のタスクを同時に指示された際、どれが最も重要か判断できず、緊急性の低いものから手をつけてしまう。
対策の鍵は、指示を「構造化」し、「具体化」することです。企業側には、指示の出し方を標準化する努力が求められます。
💡 ポイント(本人・支援者向け)
あいまいな指示を受けた際は、その場で「具体的に、何を、いつまでに、どういう状態にすれば完了ですか?」と遠慮なく質問し、確認する習慣をつけましょう。質問を遠慮すると、後の大きなミスに繋がります。
つまずき2:マルチタスク(複数作業)と予期せぬ変更への対応
多くのオフィス業務では、電話対応をしながら書類を作成したり、急な来客に対応したりといったマルチタスクが日常的に発生します。また、業務手順や納期が予期せず変更されることも多々あります。
原因と影響:
- 切り替えの困難: 一つの作業から別の作業への注意の切り替えに時間がかかるため、並行して作業すると混乱し、ミスが多発する。
- 集中力の分散: 複数の情報が同時に処理しきれず、「フリーズ」や「パニック」に陥り、全てのタスクが滞ってしまう。
- 手順変更への抵抗: 一度覚えたルーティン(手順)が変更されると、それまでの努力が否定されたように感じ、強い不安や抵抗感を示してしまう。
このつまずきを解消するためには、「一つずつ完了させる」という原則を確立することが重要です。
対策:マルチタスクの回避と構造化
- 業務を時間で区切り、「午前中はA業務のみ」と明確に分断する(タスク・ブロック)。
- 予期せぬ業務が入った場合、既存のタスクの進捗状況を必ず上司に報告し、優先順位の指示を改めてもらう。
- 手順変更があった際は、口頭だけでなく文書化された新しいマニュアルを提供する。
つまずき3:報連相(報告・連絡・相談)のタイミングと内容の不足
社会人の基本とされる報連相(ほうれんそう)ですが、障害特性によってはそのタイミングや内容でつまずくことがあります。特に、「いつ」「何を」報告すればよいかの判断が難しい場合があります。
原因と影響:
- 報告の遅れ: 失敗を恐れて報告をためらい、問題が手遅れになってから発覚する。
- 詳細の伝えすぎ: 報告内容に不要な情報(経緯、感想など)が多すぎ、最も重要な結論や事実が伝わりにくくなる。
- 相談の不足: 自分で解決しようと抱え込みすぎたり、「こんなことを聞いてもいいのか」と過度に遠慮したりして、必要なサポートを受けられない。
✅ 成功のコツ(企業向け)
報連相の「ルール」を明確に言語化しましょう。「業務が50%以上進まない時は報告」「いつもと違う状況が起きたら相談」など、具体的な判断基準を本人と合意し、チェックシートを作成することが有効です。
【対人関係の壁】コミュニケーションでつまずく3つのポイント
つまずき4:暗黙の了解・職場の文化の理解困難
どの職場にも存在する「暗黙のルール」や「文化」は、言語化されていないため、特性を持つ方にとって最も理解が難しいつまずきポイントです。
原因と影響:
- 場の空気: 周囲の表情や雰囲気の変化から、「今、休憩すべきか」「話しかけても大丈夫か」といった状況判断ができない。
- 業務外の交流: 休憩中の雑談や飲み会など、業務と関係のないコミュニケーションの目的や振る舞いが理解できず、参加を避けたり、場違いな言動をしてしまったりする。
- 適切な距離感: 同僚との適切な人間関係の距離感が分からず、馴れ馴れしくなりすぎたり、逆に過度に避けて孤立したりする。
対策は、「空気を言語化する」という、一見不可能なことを試みることです。これは、本人だけでなく、職場の同僚全員の意識改革に繋がります。
対策:職場の文化の「マニュアル化」
- ソーシャルマニュアル: 職場の「雑談のタイミング」「休憩時間のルール」「服装の基準(暗黙のカジュアル度)」など、言語化されていなかったルールを文書化する。
- サポート役の指定: 「メンター(相談役)」として、職場の文化や暗黙のルールを解説してくれる先輩社員を明確に指定し、定期的な相談時間(週に一度15分など)を設ける。
つまずき5:非言語コミュニケーションの読み取り困難
言葉(言語)以外の要素、つまり表情、ジェスチャー、声のトーンといった非言語コミュニケーションの読み取りが苦手な特性を持つ方は多くいます。これにより、相手の意図を誤解してしまいます。
原因と影響:
- 感情の誤解: 上司の「真剣な表情」を「怒っている」と捉えてしまい、過度な不安や緊張を感じてしまう。
- 皮肉や冗談の理解: 冗談や皮肉を文字通りに受け取ってしまい、人間関係の摩擦や混乱を引き起こす。
- 会話のテンポ: 会話の間の取り方や、相槌のタイミングが分からず、会話が途切れたり、一方的になったりする。
⚠️ 注意
非言語コミュニケーションの読み取りを本人に「努力しろ」と強要することは、特性上非常に困難です。企業側が、「話す側のルール」を変える合理的配慮が不可欠です。
対策としては、コミュニケーションの手段を「言語(文字)」に限定することを検討します。
つまずき6:適切な自己開示と支援の求め方
障害や特性について、「どこまで、いつ、誰に」伝えるかという自己開示の難しさは、つまずきを生む大きな要因です。
原因と影響:
- 過度な自己開示: 不安から全てを話しすぎてしまい、職場で誤解や偏見を生んでしまう。
- 自己開示の不足: 困難を抱えているにもかかわらず、全く伝えず、必要な合理的配慮を求められない。
- 支援の求め方の問題: 「助けてください」と抽象的に伝えるだけで、「具体的に何をしてほしいか」が伝わらず、職場の同僚が困惑してしまう。
✅ 成功のコツ(支援者向け)
自己開示は、特性の全てではなく、「仕事をする上で必要な配慮」と「得意なこと」に絞り込むよう指導しましょう。支援の要求も「メモ書きで指示を出してほしい」「〇分間席を立って休憩したい」など、具体的な行動として伝える練習をしましょう。
【環境・体調管理の壁】働き方でつまずく3つのポイント
つまずき7:感覚過敏による職場環境へのストレス
特に発達障害や精神障害を持つ方の中には、感覚過敏によって、職場の一般的な環境が大きなストレスとなり、集中力の低下や体調不良を引き起こすことがあります。
原因と影響:
- 聴覚過敏: 電話のベル、キーボードの音、隣の人の雑談など、複数の音が同時に処理しきれず、頭痛や疲労を引き起こす。
- 視覚過敏: 蛍光灯のチラつき、人の動き、乱雑なデスク周りが、視覚的な情報の氾濫となり、集中を妨げる。
- 嗅覚過敏: 職場の芳香剤、同僚の香水、昼食の匂いなどが吐き気や不快感を引き起こす。
このつまずきへの対策は、合理的配慮として職場環境を物理的に調整することに尽きます。感覚過敏は我慢で解決できる問題ではありません。
対策:物理的な環境調整(合理的配慮の具体例)
- 聴覚: パーテーションで区切られた席、イヤーマフやノイズキャンセリングイヤホンの使用許可。
- 視覚: 窓や照明からの光を遮るサンバイザーやサングラスの使用許可、机上に集中を促す衝立の設置。
- 嗅覚: 席を換気扇の近くにする、または同僚に香りの強い製品の使用を控えてもらうよう依頼する。
つまずき8:体調の自己管理、休息のタイミングの困難
障害の種類によっては、疲れやストレスを感じ取るのが遅い、あるいは逆に過度に不安を感じてしまうなど、体調の自己管理や休息の取り方でつまずくことがあります。
原因と影響:
- 疲労の蓄積: 集中力が高く、タスクを完璧にこなそうとするあまり、休憩を取らずに働き続け、知らぬ間に疲労が限界に達してしまう(過集中)。
- 体調不良の放置: 軽い体調不良や異変を無視してしまい、急な欠勤や休職に繋がってしまう。
- 睡眠リズムの乱れ: 薬の影響や特性により睡眠リズムが乱れ、出勤時間や午後の集中力に影響が出る。
✅ 成功のコツ(本人・企業向け)
休息を「義務化」しましょう。「1時間に1回は必ず5分間席を立つ」「ランチタイム後に15分間は静かな場所で休憩する」など、休憩のタイミングをスケジュールに組み込み、上司や支援者がその実行をモニタリングしましょう。
また、体調の変化を記録する「体調記録シート」を作成し、客観的なデータとして上司と共有することで、体調不良の早期発見と対策に繋がります。
つまずき9:勤務時間、休憩時間など「時間」の感覚のズレ
時間管理(タイムマネジメント)の困難は、多くの障害を持つ方に見られるつまずきです。これにより、遅刻や休憩時間のオーバー、締め切り遅延などが生じます。
原因と影響:
- 時間の見積もり: ある作業にどれくらいの時間がかかるか、客観的に見積もることが苦手である。
- 開始の遅れ: 作業の準備や開始に手間取り、「始められない」時間が長くなってしまう。
- 過度な集中: 興味のある作業に過度に集中(過集中)しすぎてしまい、休憩や次の作業への切り替えが遅れる。
対策は、時間を「見える化」し、本人の内的な時間感覚ではなく、客観的なツールに頼ることです。
- 可視化ツール: 残り時間を色で示す「タイムタイマー」などの視覚的なツールを机上に設置し、休憩や作業終了の時間を明確にする。
- 時間割り: 業務内容と所要時間を細かく記載した「仕事の時間割」を作成し、その通りに進めることを訓練する。
【組織・制度の壁】定着を妨げる最後の1つのポイント
つまずき10:職場の理解不足と合理的配慮の不徹底
これまでの9つのつまずきは、全てこの「職場の理解と対応」という最後の壁に集約されます。企業が障害特性への理解が乏しく、適切な合理的配慮を提供しない場合、定着は困難になります。
原因と影響:
- 特性の誤解: 多動や離席を「やる気がない」、報連相の不足を「非常識」と誤解し、指導が不適切になる。
- 配慮の個別化不足: 全ての障害者を一律に捉え、本人に合ったオーダーメイドの配慮を提供しない(例:聴覚過敏なのに、口頭指示を続ける)。
- 職場全体の協力不足: 合理的配慮が特定の部署や担当者任せになり、職場全体で支援する体制が構築されていない。
このつまずきを防ぐ唯一の方法は、企業が障害者差別解消法を遵守し、組織的に合理的配慮を提供する仕組みを構築することです。
対策:組織的な仕組みの構築
- 社内研修の実施: 全社員を対象に、障害特性や合理的配慮に関する専門家による研修を定期的に実施する。
- ジョブコーチの活用: 外部のジョブコーチや障害者就業・生活支援センターと連携し、支援者が職場に直接入り、特性の評価と必要な配慮を企業に提案してもらう。
- 定着支援計画の作成: 配慮内容、相談窓口、評価基準などを明記した「定着支援計画」を本人と企業、支援者が合意のもと作成し、定期的に見直す。
⚠️ 注意
合理的配慮は、本人が求める支援と、企業が提供できる支援を話し合い、合意することが重要です。企業側の「過度な負担」とならないよう、支援者を含めて建設的に交渉しましょう。
定着支援は、採用したら終わりではなく、入社後半年から1年が最も重要な期間であるという認識を企業全体で持つことが、つまずきを防ぐ最後の砦となります。
よくある質問(FAQ)と次へのアクション
Q1: 上司に相談しても「頑張りが足りない」と言われてしまいます。
A: 相談内容を「感情」ではなく「事実と対策」で再構成しましょう。
「頑張りが足りない」と言われる背景には、「何に困っているか」が具体的に伝わっていない可能性があります。相談する際は、以下の構成で伝えてみましょう。
- 【事実】:「〇〇の業務で、先月3回ミスをしました。(客観的事実)」
- 【原因の分析】:「原因は、口頭指示が複雑で覚えきれなかったためと考えられます。(特性に基づく分析)」
- 【具体的な要望】:「ミスを防ぐために、指示はメモで残すか、口頭指示の後にメールで確認させていただけますか。(具体的な解決策)」
感情論ではなく、具体的な事実と、それに対する「企業の利益(ミス防止)」に繋がる解決策として提案することで、上司の受け入れられやすさが格段に向上します。
Q2: 障害者雇用枠で働いていますが、周りの同僚に障害を伝えた方が良いですか?
A: 伝える範囲は本人の自由ですが、支援者と相談して慎重に判断しましょう。
障害をオープンにするかクローズにするか(または部分的に開示するか)は、本人の判断と権利です。しかし、定着を考える上では、以下の点を考慮すべきです。
- クローズドのデメリット: 配慮が得られず、特性によるミスが「能力不足」と誤解され、二次障害のリスクが高まる。
- 部分開示のメリット: 「特定の感覚過敏がある」など、配慮に必要な情報だけを、直属の上司や一部の同僚に伝えることで、人間関係を保ちつつ支援を得やすくなる。
入社前にジョブコーチや就労移行支援事業所の担当者と十分話し合い、「開示戦略」を立てておくことが重要です。
Q3: 業務に必要なスキルが足りていないと感じます。どこで学べますか?
A: 地域の就労支援機関で、実践的なスキルアップを目指しましょう。
仕事で必要なスキル(PC操作、ビジネスマナー、時間管理など)は、地域の就労移行支援事業所や、ポリテクセンターなどで学ぶことができます。
- 就労移行支援: 職場への定着に特化しており、模擬職場での実践的な訓練や、特性に合わせた時間管理の個別トレーニングを受けられます。
- 職務定着支援: 働き始めた後も、これらの支援機関に相談することで、職場定着支援(ジョブコーチ支援など)を受けることが可能です。
仕事でつまずきを感じたら、一人で抱え込まず、外部の専門機関に相談して、必要なスキルを計画的に習得することが、長く働き続けるための鍵です。
まとめ
- ✅ 構造化と具体化: 業務上のつまずき(1〜3)は、指示やタスクをメモ、チェックリストなどで構造化・具体化することで、ほとんどが解消可能です。
- 🗣️ コミュニケーションの言語化: 暗黙のルールや非言語コミュニケーションの困難(4〜6)は、職場の文化を「マニュアル化」し、支援要求を具体的な行動で伝えることで乗り越えられます。
- 🛡️ 合理的配慮の実現: 感覚過敏や体調管理の困難(7〜9)には、パーテーション、タイマーなど物理的な環境調整を合理的配慮として実現し、休息を義務化しましょう。

金子 匠
(かねこ たくみ)55歳📜 保有資格:
社会福祉士、精神保健福祉士
障害者支援施設で30年間勤務し、施設長を経験。現在はすぐサポ編集長として、障害のある方とご家族が必要な情報にアクセスできる環境づくりに取り組んでいます。「制度は複雑だけど、使えば生活が楽になる」という信念のもと、分かりやすい情報発信を心がけています。
大学卒業後、障害者支援施設に就職し、30年間にわたり現場で支援に携わってきました。生活支援員として10年、サービス管理責任者として15年、そして施設長として5年の経験があります。特に印象に残っているのは、重度の知的障害があり、施設入所が当然と思われていた方が、適切な支援と環境調整により地域での一人暮らしを実現したケースです。「できない」と決めつけず、その人に合った支援を考えることの大切さを学びました。現在は現場を離れ、すぐサポの編集長として、これまでの経験を記事という形で多くの方に届けることをミッションとしています。制度や法律の解説記事では、「専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で」を心がけています。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学で社会福祉を学び、実習で出会った利用者の方々の笑顔に感動したことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
重度の知的障害のある方が、適切な支援により地域での一人暮らしを実現したこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で伝えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
読書、散歩
🔍 最近気になっているテーマ
障害者総合支援法の改正動向、ICTを活用した新しい支援の形





