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障害を理解してもらえない職場でどう動く?

📖 約30✍️ 鈴木 美咲
障害を理解してもらえない職場でどう動く?
障害を理解してもらえない職場で心身を守りながら働くための戦略を解説。まず、理解不足の原因を「知識不足(無知)」か「意識的な拒否」かに分類。次に、困りごとが「特性による困難」であることを明確にする「配慮のトリセツ」を作成し、合理的配慮を文書で再要求する方法を詳述します。配慮が拒否された場合は、ジョブコーチによる介入、労働局への相談、休職制度の活用、そして理解のある職場への戦略的な転職を推奨し、当事者の権利と健康を守るための具体的な行動ロードマップを提供します。

障害を理解してもらえない職場でどう動く?特性を「武器」に変えるための戦略的ロードマップ

「何度も説明したのに、『やる気がない』と片付けられてしまう……」

「必要な配慮を求めても『特別扱いはできない』と拒否され、毎日が苦しい……」

障害者雇用が進む現代においても、残念ながら職場での障害理解が進んでいないケースは少なくありません。特に目に見えない発達障害や精神障害の特性は、「努力でどうにかなる問題」と誤解されがちです。

障害を理解してもらえない職場で働き続けることは、心身の健康を著しく損ない、二次障害を引き起こす最大の原因となります。しかし、絶望する必要はありません。

この記事では、障害理解がない職場を「変える」ための戦略と、「自分を守る」ための戦略を、4つのステップに分けて徹底的に解説します。感情的にならず、外部の力を借りて、あなたの権利(合理的配慮)を主張し、安心して働くための道筋を、ここで一緒に確認しましょう。


ステップ1:現状の冷静な分析と「理解不足」のタイプ特定

分析1:理解不足は「無知」か「拒否」か

「理解してもらえない」という状況は、大きく分けて二つのパターンがあります。原因によって対処法が全く異なるため、まずはあなたの職場のタイプを冷静に分析しましょう。

理解不足の2つのタイプ

  • タイプA:知識不足(無知)障害の特性や必要な配慮について、単純に知識がない。悪意はなく、説明すれば理解の余地がある。
  • タイプB:意識的な拒否:知識はあっても、「特別扱いしたくない」「面倒だ」という意識や、合理的配慮の義務自体を否定している。差別的意識やハラスメントに繋がる。

もし、あなたの職場がタイプA(知識不足)であれば、次ステップの「情報提供」が有効です。しかし、タイプB(意識的な拒否)の場合は、当事者だけで解決しようとせず、ステップ3の「外部支援による介入」を直ちに検討する必要があります。

💡 ポイント

判断の目安は、具体的な文書(医師の診断書や支援機関の意見書)を提出した後の反応です。文書提出後も具体的な改善努力が見られない場合は、タイプBと判断すべきです。

分析2:「努力」と「特性」の境界線を再確認する

「理解してもらえない」と感じる時、職場の人は「それは努力で何とかなるだろう」と考えていることが多いです。この認識のズレを埋めるために、あなたの困りごとが「特性による困難」であることを、明確に言語化しましょう。

「努力」で解決できない特性の困難の例

  • 聴覚過敏: 騒音に対する不快感は、集中力の問題ではなく、身体的な苦痛である(努力で克服不可)。必要なのは静かな環境
  • ワーキングメモリ不足: 口頭指示を記憶できないのは、注意力の問題ではなく、脳の容量の問題である(努力で克服不可)。必要なのは指示の文書化
  • 過集中: 一つのタスクに集中しすぎて休憩を取れないのは、サボっているのではなく、注意の切り替えが苦手な特性である(努力で克服困難)。必要なのは外部からのアラート

これらの困りごとを「特性による困難」として捉え直し、「改善策は、私の努力ではなく、環境の調整です」という主張を裏付けるための情報を整理しましょう。

分析3:職場が「合理的配慮」を拒否する理由を分析する

企業が合理的配慮を拒否する裏側には、しばしば「過重な負担」という考えがあります。支援者は、企業側の懸念を把握し、それを解消する提案を考える必要があります。

企業が懸念する主な理由

  • コストの問題: 特別な機器導入や、人事配置変更にかかる費用。
  • 公平性の問題: 他の社員から「特別扱いだ」と不満が出るのではないかという懸念。
  • ノウハウの問題: 具体的にどう配慮していいか、企業側にノウハウがない。
  • 負担の問題: 上司や同僚の業務負担が増えることへの懸念。

支援者は、これらの懸念に対し、「コストゼロでできる配慮」や「他の社員にもメリットがある配慮」を戦略的に提案できるように準備しましょう。


ステップ2:戦略的な情報開示と配慮の再要求

戦略1:「配慮のトリセツ」で必要な情報を構造化する

障害への理解がない職場に対し、医学的な診断名や複雑な特性を長々と説明しても、かえって混乱を招きます。「配慮のトリセツ(取扱説明書)」を作成し、必要な情報だけを簡潔に伝えましょう。

「配慮のトリセツ」に含めるべき3つの要素

項目 内容(例) 職場への影響
① 困りごと 口頭での指示を覚えていられません。 指示が抜ける、ミスに繋がります。
② 必要な配慮 指示は必ずメールで箇条書きでお願いします。 メール確認によりミスを90%防げます。
③ 私の強み マニュアル作成とデータ入力は高い正確性があります。 配慮が実現すれば、この分野で貢献できます。

このトリセツは、上司や人事担当など、配慮に直接関わる人物に限定して提出します。この文書により、感情論ではなく、具体的な業務上の必要性として配慮を要求できます。

✅ 成功のコツ

必要な配慮は、「〜してもらう」という表現ではなく、「〇〇という困難があるため、△△をすることで、企業に貢献します」という形で、企業メリットを強調しましょう。

戦略2:配慮の再要求は「文書」と「期限」を明記する

口頭での要求は、「言った」「言わない」の水掛け論になりがちです。配慮の要求を再度行う際は、必ず文書化し、企業に回答の期限を設けることが重要です。

  • 要求書の提出: 「合理的配慮要望書」を作成し、医師の意見書や支援機関の所見を添付して、人事部門または社長宛てに提出する。
  • 回答期限の設定: 文書には、「〇月〇日までに、配慮の実施可否および、不可の場合はその理由(過重な負担の内容)を文書でご回答ください」と明確に記載する。
  • 法的な根拠の提示: 要求書の中で、「障害者差別解消法に基づく合理的配慮の提供義務」に言及し、企業側の義務であることを明確に伝える。

この戦略は、後の行政による調停や、法的な手続きに進む可能性を視野に入れ、企業側の対応を記録に残すための重要なプロセスとなります。

戦略3:コストゼロでできる「ソフトな配慮」から始める

企業が「過重な負担」を理由に配慮を拒否する場合、「コストがほとんどかからない、業務上の仕組みの変更」から導入を提案しましょう。これを「ソフトな配慮」と呼びます。

コストゼロのソフトな配慮の例

  • 指示系統の統一: 指示役を上司の〇〇さんに一人に限定し、指示内容を一本化する。
  • フィードバックの構造化: ミスを指摘する際、感情的にならず、「ポジティブな点」「課題」「次の具体的な行動」の3つのパートで伝えるルールを設ける。
  • 離席・休憩ルールの緩和: 集中力が切れた際に、許可なく静かな場所で10分間休憩できることを認める。

ソフトな配慮から成功体験を積み重ねることで、企業側も「配慮は可能だ」と理解し、より大きな配慮(ハードな配慮)へと進みやすくなります。


ステップ3:外部支援機関による「専門的介入」

介入1:ジョブコーチ・なかぽつによる「職場への説明責任」

当事者や家族の言葉では理解してもらえない場合、中立的で専門的な立場である外部支援機関(障害者就業・生活支援センター、地域障害者職業センターなど)の介入が、最も強力な手段となります。

外部支援の介入の具体的な流れ

  1. 情報共有: 支援機関が、当事者からこれまでの経緯や必要な配慮について詳細にヒアリングする。
  2. 企業訪問: 支援機関の職員(ジョブコーチなど)が企業を訪問し、人事や上司に対し、障害の特性と合理的配慮の法的義務について説明責任を果たす。
  3. 配慮の交渉仲介: 支援機関が、当事者のトリセツに基づき、企業側の懸念を考慮しつつ、実現可能な配慮案を第三者として提案・交渉する。

ジョブコーチは、「あなたの特性は、こういうことです。だから、こう対応してください」と、具体的かつ専門的な言葉で企業側に伝えることができるため、理解不足の壁を崩すのに非常に有効です。

介入2:ハラスメント・差別事例の記録と労働局への相談

配慮の拒否が、差別的な言動やいじめ(ハラスメント)のレベルに達していると判断した場合、労働局への相談を視野に入れます。

  • 記録の徹底: 「いつ、誰に、何を言われたか、その時の体調はどうか」を詳細に記録する。メールやチャットでの差別的なやり取りは、スクリーンショットなどで保存する。
  • 労働局への相談: 労働局の総合労働相談コーナーに連絡し、障害者差別解消法違反、またはパワーハラスメントの疑いで相談する。
  • 行政による調停: 労働局は、企業に対し、事情聴取や指導、助言を行い、必要に応じて紛争解決の斡旋(調停)を行います。

⚠️ 注意

ハラスメントの疑いがある場合、当事者だけで企業と対峙することは危険です。必ず外部支援者や専門家と連携し、心身の安全を確保した上で行動してください。

介入3:弁護士による法的な権利主張の検討

企業が合理的配慮を完全に拒否し続け、就労継続が不可能な状態になった場合、弁護士に相談し、法的な手続き(損害賠償請求、地位確認請求など)を検討することも、最終的な選択肢として存在します。

  • 相談窓口: 法テラスや障害者専門の弁護士に相談する。
  • 法的な根拠: 労働契約法、障害者差別解消法、障害者雇用促進法などに基づき、企業側の「配慮をしないことの不当性」を主張します。

法的な手続きは時間も費用もかかりますが、あなたの権利を守り、将来的なキャリアを再構築するための最後の砦となります。


ステップ4:最終的な判断とキャリア戦略の構築

戦略1:「次の職場」を想定した情報収集

現在の職場で改善が見られない場合、「この職場で無理に消耗し続ける」ことよりも、「理解のある次の職場を探す」ことの方が、長期的なキャリアにとって賢明な戦略となることがあります。

  • 就労移行支援事業所の活用: 就労移行支援事業所に相談し、「次に働くなら、どのような配慮が必須か」を明確にし、その条件に合った企業を探すサポートを受ける。
  • 転職エージェントの活用: 障害者雇用専門の転職エージェントを利用し、事前に企業の障害理解度や配慮の実績を調査してもらう。
  • 退職理由の明確化: 退職する際は、「仕事内容ではなく、合理的配慮が得られなかったため」という理由を明確にし、次の面接で活かせるように整理しておく。

退職は、失敗ではなく、「特性に合わない環境からの戦略的な撤退」であり、次の成功へのステップだと前向きに捉えましょう。

戦略2:休職制度の活用と心身の回復

心身が限界に達している場合は、すぐに退職せず、「休職制度」の活用を検討しましょう。休職期間は、体調を回復させ、同時に次のアクション(転職活動、支援機関への相談など)を冷静に検討するための貴重な時間です。

  • 主治医との相談: ストレスにより体調不良がある場合、主治医に相談し、「療養のための休職が必要である」という診断書を作成してもらう。
  • 傷病手当金の申請: 休職中は、健康保険組合を通じて傷病手当金の支給を受けることができます(加入条件による)。経済的な不安を減らすためにも活用を検討しましょう。
  • 支援機関への相談開始: 休職中に、障害者就業・生活支援センターなどへ相談を開始し、復職または転職に向けた計画を立てる。

何よりもあなたの健康が最優先です。無理をして働き続けた結果、復帰が困難になる事態は避けなければなりません。

戦略3:自己肯定感の回復とセルフケアの徹底

理解してもらえない環境での経験は、自己肯定感を大きく傷つけます。次のステップに進むためにも、セルフケアと心理的サポートは不可欠です。

  • 心の安全基地の確保: 職場とは切り離された、安心して感情を吐き出せる場(カウンセラー、支援者、家族)を意図的に確保する。
  • セルフコンパッション: 「理解してもらえないのは自分のせいだ」と責めるのをやめ、「これは環境とのミスマッチであり、自分はよく頑張った」と優しく自分をいたわる練習をする。
  • 得意なことの再認識: 職場でのミスや否定的な経験から離れ、自分の得意なこと、価値観、強みを再認識する活動(趣味、ボランティアなど)を行う。

あなたが持つ能力や価値は、理解のない職場で評価されないからといって、決して失われるものではありません。自信を取り戻し、次の職場での活躍に備えましょう。


まとめ

  • 🛡️ 自分を守る戦略: 理解不足のタイプ(無知か拒否か)を冷静に分析し、困りごとを「努力ではなく特性による困難」として明確に言語化しましょう。
  • 📢 外部支援の活用: 配慮要求は文書と期限を明記し、拒否された場合はジョブコーチ、労働局、弁護士などの外部専門家を直ちに介入させましょう。
  • 💡 次のキャリア: 心身が限界に達する前に休職制度を活用し、理解のある次の職場へ戦略的に転職することも、最も賢明な選択肢の一つです。

鈴木 美咲

鈴木 美咲

すずき みさき42
担当📚 実務経験 15
🎯 相談支援🎯 当事者・家族支援

📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員

相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。

社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。

🎨 趣味・特技

ヨガ、カフェ巡り

🔍 最近気になっているテーマ

ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア

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