障害者雇用の現場で起きやすいトラブルと予防法

障害者雇用の現場で起きやすいトラブルと予防法
障害者雇用が進む中で、就職後に「思っていたのと違う」「人間関係で悩んでいる」という声を耳にすることがあります。新しい環境で働くことは誰にとっても緊張するものですが、障害があることで特有の壁に突き当たることも少なくありません。
この記事では、障害者雇用の現場で実際に起きやすいトラブルを具体的に挙げ、その予防策や解決のヒントを詳しく解説します。これから働く方、現在働いている方、そして支えるご家族の皆さまが、安心して長く働き続けるための道しるべとなれば幸いです。
業務遂行に関するトラブルと対策
指示の受け取り方による食い違い
仕事の現場で最も多いトラブルの一つが、指示の解釈ミスです。例えば「これ、適当にやっておいて」という曖昧な表現に対し、何をどこまで、いつまでに終わらせれば良いのか分からず、結果としてミスにつながってしまうケースがあります。
このようなトラブルを避けるためには、指示を「見える化」してもらうことが重要です。口頭だけでなく、メモやメール、チャットツールを使って文章で残してもらうようお願いしてみましょう。また、指示を受けた直後に「納期は明日まで、資料は3部でよろしいですか?」と復唱して確認する習慣をつけると、お互いの認識のズレを最小限に抑えられます。
作業量のキャパシティオーバー
「期待に応えたい」という思いが強すぎるあまり、自分の限界を超えた仕事を引き受けてしまうことがあります。その結果、体調を崩したり、締め切りを守れなくなったりして、信頼関係に影響が出てしまうのは避けたい事態です。
予防策としては、自分の処理能力や優先順位を常に周囲と共有しておくことが挙げられます。現在抱えているタスクをリスト化し、新しい仕事を頼まれた際に「今はこれとこれを進めているので、いつから着手できます」と具体的に伝えましょう。無理に「はい」と言わず、今の状況を正直に話す勇気を持つことが、長期的な活躍への第一歩となります。
マニュアルと実作業の乖離
障害者雇用では丁寧なマニュアルが用意されていることが多いですが、現場の状況によって手順が変更されることもあります。マニュアルにこだわりすぎて柔軟な対応ができず、周囲との摩擦が生じることがあります。
イレギュラーな事態が起きたときは、自己判断せず「マニュアルと状況が違いますが、どうすれば良いですか?」と質問する癖をつけましょう。状況に応じた判断基準を一つずつ確認し、自分だけの「応用編マニュアル」を書き足していくことで、少しずつ柔軟性を身につけていくことができます。
💡 ポイント
指示を受ける際は、5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)を意識して確認すると、作業のミスを格段に減らすことができます。
人間関係とコミュニケーションの悩み
周囲の理解不足からくる疎外感
職場の同僚が障害特性を正しく理解していないために、悪気なく「怠けている」「やる気がない」と誤解されてしまうことがあります。これが積み重なると、職場での居心地が悪くなり、孤独感を感じてしまう原因になります。
これを防ぐには、入社時や定期的な面談で、自分の得意なことと苦手なことを明確に伝えておくことが大切です。すべてをさらけ出す必要はありませんが、「急に話しかけられると混乱する」「大きな音が苦手」といった具体的な特性を共有しておくことで、周囲もどのように配慮すれば良いかが分かり、円滑な関係を築きやすくなります。
適切な相談相手がいない不安
仕事上の困りごとや体調の変化を感じたとき、誰に相談すれば良いか分からないという状況は非常にストレスです。一人で抱え込んだ結果、限界まで我慢してしまい、ある日突然出勤できなくなってしまうというケースも少なくありません。
職場内で「相談窓口」や「教育担当(メンター)」が決められているかを確認しましょう。もし決まっていない場合は、上司との定期面談の時間を設けてもらうよう提案するのが効果的です。また、職場の外に就労移行支援事業所の担当者やジョブコーチなどの相談相手を持っておくことも、心の安定につながります。
挨拶や雑談のタイミング
業務以外のコミュニケーション、例えば朝の挨拶や休憩時間の雑談に苦手意識を持つ方は多いです。過度に緊張して無視してしまったり、逆に空気を読まずに話しすぎてしまったりすることで、対人関係にヒビが入るトラブルがあります。
コミュニケーションは「質」より「形」から入るのがコツです。笑顔が作れなくても、相手の方を見て「おはようございます」と言うだけで十分です。雑談が苦手なら「今は作業に集中したいので」と一言断るか、聞き役に徹することを意識しましょう。無理に仲良くなろうとするのではなく、「協力して仕事をするための関係」を目指すことが大切です。
✅ 成功のコツ
コミュニケーションに困ったら、まずは「ありがとうございます」と「すみません」の二つの言葉を大切にしましょう。これだけで職場の雰囲気はぐっと和らぎます。
環境の変化と体調管理の難しさ
オフィスの環境設定による疲労
照明の明るさ、電話の音、空調の温度、デスクの配置など、職場の物理的な環境が合わずに体調を崩すことがあります。感覚過敏がある方にとっては、これらは単なる「不快感」ではなく、激しい疲労や頭痛、パニックを引き起こす深刻な要因となります。
まずは自分がどのような環境でストレスを感じやすいかを自己分析しましょう。その上で、「デスクの端に座らせてほしい」「ノイズキャンセリングイヤホンの使用を許可してほしい」といった合理的配慮を会社側に相談することが重要です。会社側も、少しの工夫でパフォーマンスが上がるのであれば、前向きに検討してくれる場合が多いものです。
通勤ストレスとモチベーションの低下
満員電車での通勤や長距離の移動は、私たちが想像する以上にエネルギーを消耗します。入社当初は気力で乗り切れても、数ヶ月経つと蓄積した疲労から朝起きられなくなり、欠勤が増えてしまうというトラブルも散見されます。
通勤の負担を減らすためには、時差出勤や短時間勤務からスタートし、徐々に時間を延ばしていく「スモールステップ」が有効です。また、通勤経路で落ち着ける場所を見つけておくなど、自分なりのリラックス方法を確立しましょう。もしどうしても通勤が困難な場合は、テレワークの導入について相談してみるのも一つの手段です。
生活リズムの崩れと二次障害
仕事を頑張りすぎるあまり、帰宅後に寝込んでしまったり、食事が摂れなくなったりして生活リズムが崩れることがあります。これが続くと精神的な不調(二次障害)を招き、最悪の場合、休職や退職を余儀なくされることもあります。
安定して働くための基盤は、会社ではなく「家庭での生活」にあります。平日の夜や休日はしっかり休息を取り、仕事以外の活動を詰め込みすぎないように注意しましょう。自分の体調を数値化(例えば10点満点で今日は7点など)して記録するセルフモニタリングを行うと、不調の兆しに早く気づき、早めに対策を打てるようになります。
| チェック項目 | 良好な状態 | 注意が必要な状態 |
|---|---|---|
| 睡眠 | ぐっすり眠れている | 中途覚醒や寝不足が続く |
| 食事 | 3食おいしく食べられる | 食欲不振または過食気味 |
| 気力 | 仕事に行く意欲がある | 朝、体が重くて動けない |
合理的配慮をめぐるトラブルと解決策
配慮と「わがまま」の境界線
会社に求めている配慮が、周囲から「特別扱い」「わがまま」と捉えられてしまうトラブルがあります。これは、配慮が必要な理由が明確に伝わっていないか、あるいは配慮によって生じる周囲の負担を考慮できていない場合に起こりやすい問題です。
合理的配慮とは、あくまで「対等に働くための条件」を整えるものです。相談する際は、単に「やってほしい」と伝えるのではなく、「○○という配慮があれば、××の業務がスムーズに遂行できます」というように、業務上のメリットをセットで提示しましょう。また、配慮を受けた際には周囲への感謝を言葉にすることで、チーム全体の調和が保たれます。
会社側ができる配慮の限界
企業にも「過重な負担」となる配慮は断ることができるというルールがあります。希望する配慮がすべて通らないことで、不満を感じてしまうケースも少なくありません。例えば、高額な専用設備の導入や、特定の社員一人が付きっきりでサポートすることなどは、会社にとって困難な場合があります。
一つの希望が通らなくても、代わりの案(代替案)を一緒に考える姿勢が大切です。「このツールが使えないなら、こういうアプリを代用できませんか?」といった建設的な話し合いを重ねることで、会社側も「一緒に解決しよう」という気持ちになります。お互いの妥協点を見つけていくプロセスこそが、真の合理的配慮の構築です。厚生労働省の指針なども参考にしつつ、対話を続けましょう。
情報の共有範囲に関するトラブル
自分の障害についてどこまで周囲に知らせるか(カミングアウトの範囲)は非常にデリケートな問題です。上司だけが知っているはずが、いつの間にか部署全体に広まっていた、あるいは誰にも知らせていないために必要なサポートが得られないといったトラブルが起こります。
入社前に、誰に、どのような内容を、どういう方法で伝えるかを書面で合意しておくことが重要です。「同じチームのメンバーには、パニック時の対応方法だけ伝えてほしい」といった具合に、範囲と内容を細かく指定しましょう。情報のコントロール権は自分にあることを理解し、プライバシーを守りつつ必要な支援を受けるバランスを整えていきます。
⚠️ 注意
合理的配慮は一度決めたら終わりではありません。仕事の内容や体調の変化に合わせて、定期的に見直しを行うことが、長期雇用の鍵となります。
よくある質問と具体的な対処法
Q1. 職場でミスをしてパニックになりそうな時は?
まずはその場から離れ、トイレや休憩スペースなど、一人になれる場所へ移動しましょう。深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、冷静に状況を振り返ります。事前に「パニックになりそうな時は10分ほど席を外します」と上司に伝えておくと、周囲も安心して見守ってくれます。落ち着いたら、ミスの報告と謝罪、そして今後の対策を簡潔に伝えましょう。
Q2. 上司が忙しそうで相談できません
「今お時間よろしいですか?」と突然聞くのではなく、あらかじめ「明日、10分ほどお話ししたいことがあるのですが、ご都合の良い時間はありますか?」と予約を取るようにしましょう。メールやチャットで相談内容の要点を送っておくのも親切です。上司も、急に話しかけられるより、予定を立てて話を聞く方が丁寧に対応できるものです。
Q3. 同僚からの何気ない言葉に傷つきました
相手に悪気がない場合がほとんどですが、心が傷ついたままでは仕事に集中できません。まずは「今の言葉はこういう理由で少し悲しかったです」と冷静に伝えてみるか、それが難しければ信頼できる上司や支援者に相談しましょう。第三者を介すことで、角を立てずに「相手に悪意はなかったこと」「今後は気をつけてほしいこと」を整理でき、わだかまりを解消できます。
Q4. 給与や労働条件について誰に相談すべき?
給与や勤務時間などの雇用契約に関することは、直属の上司よりも人事担当者に相談するのが適切です。もし障害者雇用枠での採用であれば、ハローワークの担当者や就労支援員を介して確認してもらうのが最も確実で安全な方法です。自分一人で交渉しようとせず、公的な支援機関をフル活用しましょう。
「最初は不安だらけでしたが、自分の取扱説明書を作成して会社に渡したことで、驚くほど働きやすくなりました。困ったときに助けてと言えることも、大切なスキルの一つだと思います。」
— 障害者雇用で働くAさん(勤続3年)
まとめ
障害者雇用の現場では、コミュニケーションのすれ違いや体調の変化、環境への適応など、さまざまなトラブルが起こる可能性があります。しかし、その多くは事前の準備や、ちょっとした勇気を持った「対話」によって防ぐことができるものです。完璧にこなそうとせず、周囲の力を借りながら一歩ずつ進んでいくことが、あなたらしい働き方を見つける近道になります。
大切なのは、トラブルを「失敗」と捉えるのではなく、より良い職場環境を作るための「改善のヒント」と捉えることです。もし今、一人で悩んでいるのなら、まずは身近な支援者や職場の相談窓口に声をかけてみてください。あなたの声を待っている人は必ずいます。
まとめ
- 指示の受け取りミスを防ぐために、メモやメールで「見える化」し、必ず復唱確認を行いましょう。
- 自分の得意・不得意や必要な配慮を具体的に伝え、周囲との相互理解を深めることが大切です。
- 体調の変化を記録するセルフモニタリングを習慣化し、不調のサインを早めにキャッチしましょう。
- 合理的配慮については会社側と建設的な対話を重ね、お互いの妥協点を見つけていく姿勢が重要です。

伊藤 真由美
(いとう まゆみ)33歳📜 保有資格:
特別支援学校教諭免許、社会福祉士
特別支援学校で5年教員を務めた後、就労継続支援B型事業所で5年勤務。「学校から社会へ」の移行支援と、「自分のペースで働く」を応援します。進路選択や作業所選びの情報をお届けします。
大学で特別支援教育を学び、卒業後は特別支援学校の教員として5年間勤務。知的障害や発達障害のある生徒たちの進路指導を担当する中で、「卒業後の支援」の重要性を痛感しました。そこで教員を辞め、就労継続支援B型事業所に転職。現在は生活支援員として、様々な障害のある方が自分のペースで働く姿を日々見守っています。特に大切にしているのは、「働くことがすべてではない」という視点。一般就労が難しくても、作業所での仕事や日中活動を通じて、生きがいや居場所を見つけることは十分可能です。記事では、特別支援学校卒業後の進路選択、就労継続支援A型・B型の違い、作業所での実際の仕事内容など、「自分らしい働き方・過ごし方」を見つけるための情報を発信します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
特別支援教育を学び、「卒業後の支援」の重要性を感じたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
作業所での仕事や日中活動を通じて、生きがいや居場所を見つけた方々を見守ってきたこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
「働くことがすべてではない」という視点を大切に、自分らしい過ごし方を見つける情報を発信します。
🎨 趣味・特技
ハンドメイド、音楽鑑賞
🔍 最近気になっているテーマ
発達障害のある方の就労支援、工賃向上の取り組み





