障害者向け賃貸住宅の探し方と契約のポイント

安心できる暮らしへ:障害者向け賃貸住宅の探し方と契約のポイント
新しい生活を始める上で、ご本人にとって安全で快適、そして家族や支援者にとっても安心できる住まいを見つけることは、大きな一歩となります。
しかし、障害のある方が賃貸住宅を探す際、「入居を断られたらどうしよう」「どんな物件が自分に合っているかわからない」といった不安を感じることも少なくありません。
この記事では、障害のある方が賃貸住宅をスムーズに見つけ、安心して契約するための具体的な手順や、交渉のポイントを、温かい視点から詳しく解説します。
公的な支援制度や、物件選びのチェックリストなど、すぐに役立つ情報を提供し、皆様の理想の住まい探しをサポートします。
🔍 理想の住まいを見つけるための事前準備と目標設定
住まい探しを成功させるためには、物件を探し始める前に、自分自身のニーズと、利用できる支援体制を明確にしておくことが非常に重要です。
生活上のニーズと障害特性の明確化
まず、ご本人の障害特性(身体、知的、精神、難病など)に基づいて、日々の生活で「何が必要か」「何が困るか」を具体的に洗い出しましょう。
例えば、車椅子を利用される方であれば、「玄関や廊下の幅」「エレベーターの有無」「水回りの広さ」が最優先のチェックポイントになります。知的障害のある方であれば、「セキュリティの高さ」や「生活ルーティンを妨げない環境」が重要かもしれません。
このニーズの明確化は、物件の条件を絞り込むだけでなく、不動産会社や大家さんへの説明材料としても役立ちます。必要な支援や配慮が具体的であればあるほど、相手も理解しやすくなります。
ぜひ、ご家族や相談支援専門員と一緒に、以下のリストを作成してみましょう。
- 絶対に譲れない条件(例:車椅子での出入りが可能、ヘルパーの訪問が可能)
- あれば嬉しい条件(例:日当たりが良い、静かな環境、オール電化)
- 費用の上限(家賃、管理費など)
💡 ポイント
特に精神障害や発達障害のある方の場合、感覚過敏(音、光、匂いなど)への配慮が重要です。幹線道路や騒音源から離れているか、照明の色や強さを調整できるかなどもチェックリストに加えましょう。
福祉サービスと地域資源の確認
賃貸住宅の場所選びは、その後の生活の質に大きく影響します。
現在利用している、または今後利用を予定している福祉サービス(居宅介護、訪問看護など)の事業所が、物件から無理なく訪問できる範囲にあるかを確認しましょう。
また、生活に必要な地域資源(スーパー、病院、コンビニ、駅やバス停)へのアクセスも非常に重要です。地図上でこれらの施設との距離や移動ルートを事前に確認し、利便性を評価してください。
例えば、駅までの道のりに大きな段差や急な坂道がないか、車椅子での移動が困難でないかなど、実際に歩いてみる(または支援者に確認してもらう)のが最も確実です。
地域の障害者サポートセンターや、相談支援事業所が近くにあると、生活の中で困りごとが発生した際にすぐに相談できるという大きな安心感を得られます。
🤝 物件探しの専門ルートと連携の重要性
一般的な不動産会社に相談するだけでは、障害者への理解が不十分な場合、選択肢が狭まってしまうことがあります。専門的な知識を持つルートや支援者と連携することが、成功への鍵となります。
専門特化した不動産会社と団体
近年、バリアフリー物件や障害者の入居支援に特化した不動産会社やNPO団体が増えています。
これらの専門事業者は、大家さんや管理会社との間に立ち、障害特性や必要な支援について事前に説明し、理解を得るノウハウを持っています。これにより、入居をスムーズに進めることができます。
「障害者 賃貸 専門」「バリアフリー 不動産」といったキーワードで、地域の支援団体や不動産会社を検索してみましょう。特に、地域包括ケアの一環として、福祉に特化した不動産ネットワークを構築している地域もあります。
専門の会社は、物件の物理的なバリアフリー度だけでなく、地域の福祉サービスの情報も持っていることが多く、総合的なアドバイスを受けられるメリットがあります。
✅ 成功のコツ
契約交渉の初期段階で、障害者サポートに理解のある保証会社を利用することを提案しましょう。これにより、大家さんの「家賃滞納リスク」や「孤立リスク」への懸念を和らげることができます。
相談支援専門員・ケアマネジャーとの協力
住まい探しは、単なる物件契約ではなく、生活全体の計画の一部です。現在、サービス利用のために関わっている相談支援専門員やケアマネジャーは、強力な協力者となります。
彼らは、ご本人の心身の状況を最もよく理解しており、新しい住まいで必要となる具体的な支援(ヘルパーの訪問時間、頻度など)を明確に伝えられます。この情報は、大家さんや管理会社にとって、入居後の具体的なイメージを持つ上で非常に役立ちます。
物件の内見に同行してもらい、専門家の視点から「この玄関の段差は危険」「この場所なら夜間の訪問もスムーズ」といった専門的な意見を出してもらうことも有効です。
専門員が不動産会社との間に立って、必要な情報だけを適切に伝えることで、ご本人が不必要な個人情報を開示するリスクを避けることもできます。
🔑 契約交渉を有利に進めるための具体的なポイント
良い物件が見つかっても、最終的に大家さんの承諾を得られなければ入居はできません。入居審査を通過し、安心して暮らすための条件を引き出すための交渉術を見ていきましょう。
家主への「安心材料」の提供
大家さんが最も懸念するのは、「家賃の支払い」と「退去時のトラブル」です。この懸念を払拭する「安心材料」を積極的に提供しましょう。
- 保証体制の明確化: 信頼できる連帯保証人(ご家族など)を立てる、または、前述した福祉系保証会社を利用することを提案する。
- 財源の安定性: 生活保護や障害年金を受給している場合、その受給証明を提示し、収入が安定していることを明確に伝える。
- 見守り・支援体制: 「週に○回、ヘルパーが訪問し、状況を確認する体制がある」「相談支援専門員が常時サポートする」など、孤立しない見守り体制を具体的に説明する。
特に、精神障害や知的障害のある方の場合、定期的にご家族や支援者が訪問し、状況を報告する体制があることを伝えるのは、大きな安心材料となります。家主との信頼関係構築が、契約成立の最大のポイントです。
⚠️ 注意
障害があることを契約直前まで隠すのは得策ではありません。後からトラブルになったり、必要な配慮を受けられなくなったりする可能性があります。可能な限り、入居申込時にオープンに伝え、理解を得る努力をしましょう。
原状回復と軽微な改修の交渉
賃貸物件で最も難しい交渉の一つが、「軽微な改修」と「原状回復の免除」です。
手すりの取り付け、滑り止めマットの設置、段差解消のためのスロープ設置など、生活に不可欠な改修について、事前に大家さんに許可を得る必要があります。
交渉の際は、「壁に穴を開けない吸盤式や突っ張り式の用具を使う」「退去時に穴を塞ぐ補修費用は負担する」など、大家さんの負担を最小限に抑える提案をしましょう。
特に、公的制度(日常生活用具給付事業など)を利用して改修を行う場合、その制度についても併せて説明すると、改修の必要性と信頼性が高まります。改修の許可と原状回復の特約は、必ず書面(賃貸借契約書)に明記してもらうように交渉してください。
「最初、大家さんは手すりの取り付けに難色を示されましたが、『介護保険で設置し、福祉住環境コーディネーターが責任をもって原状回復する』と説明したら、安心して承諾してもらえました。」
— 家族からのエピソード
🏡 物件選びの最終チェックリストと内見時の注意点
内見は、カタログや写真ではわからない、実際の生活のしやすさを確認するための最も重要なステップです。物理的なバリアだけでなく、周辺環境も含めて細かくチェックしましょう。
バリアフリーと生活動線の確認
内見時には、以下の具体的な生活動作をシミュレーションしながらチェックリストを埋めていきましょう。
- 玄関・アプローチ: 門から玄関までの段差、玄関のドアの開閉(車椅子での操作のしやすさ)、玄関の上がり框の高さ。
- 廊下・通路: 廊下の幅(車椅子の回転や介助者の同行が可能か)、敷居の有無。
- 水回り(トイレ・浴室): トイレの個室の広さ(介助スペース、手すりの取り付け可否)、浴槽のまたぎ高さ、床の滑りにくさ。
- 居室: 部屋の照明の明るさや色、コンセントやスイッチの位置(低すぎないか、高すぎないか)。
特に、日中の日当たりや風通しは、精神的な健康に大きく影響します。窓を開けて、外の騒音レベルも確認しましょう。
また、集合住宅の場合は、ゴミ捨て場や駐輪場へのアクセスも、意外と日常の負担になるため、確認が必要です。
| チェック項目 | 推奨される状態 |
|---|---|
| 玄関ドア幅 | 80cm以上(車椅子の場合) |
| 廊下幅 | 75cm以上(車椅子でのすれ違いは90cm以上) |
| トイレ | 引き戸または外開き戸、介助スペースがあるか |
| エレベーター | 入口幅と内部の回転スペース(集合住宅の場合) |
周辺環境と緊急時対応の確認
周辺環境のチェックは、特に見落とされがちですが、非常に重要です。
- 通勤・通学ルート: 最寄りのバス停や駅までのルートに、大きな段差や危険な交差点がないか。
- 夜間の治安: 夜間に街灯が少なく暗い場所がないか、周辺住民の雰囲気がどうか。
- 緊急時の医療機関: かかりつけの病院や緊急搬送先となる医療機関までの距離と、移動手段を確認する。
- 防災・避難経路: 地域のハザードマップを確認し、浸水や土砂災害のリスクがないか。避難場所へのルートがバリアフリー化されているか。
内見は、ぜひ昼と夜の2回行ってみることをお勧めします。日中と夜間とでは、街の雰囲気や騒音レベルが大きく異なるからです。
❓ よくある質問(Q&A)と相談窓口
賃貸契約に関する、障害のある方からのよくある質問にお答えします。
Q1. 精神障害を理由に入居を拒否されました。違法ではないですか?
A. 賃貸借契約において、家主には「契約の自由」があるため、残念ながら一律に違法とは言えません。しかし、近年は障害者差別解消法の精神に基づき、正当な理由のない入居拒否は避けるべきという考え方が主流です。
入居拒否された場合は、理由を明確に聞き、上記で述べたような保証体制や支援体制を具体的に説明し、再交渉を試みましょう。解決しない場合は、地域の人権擁護委員や、行政の相談窓口に相談することも検討してください。
Q2. 生活保護や年金受給者でも審査は通りますか?
A. はい、通ります。生活保護や障害年金は、むしろ国が保証する安定した収入源と見なされるため、審査に有利に働くこともあります。
重要なのは、家賃の支払い能力が安定していることを証明することです。自治体によっては、住宅扶助(生活保護の家賃補助)が適用されることも、大家さんにとっては安心材料となります。
Q3. 賃貸物件でヘルパーが訪問することを事前に伝えるべきですか?
A. はい、必ず伝えるべきです。ヘルパーが頻繁に出入りすることは、大家さんや他の入居者にとって、セキュリティや共用部分の使用に関わる重要な情報です。
事前に説明することで、入居後の誤解やトラブルを防ぐことができます。「何時から何時まで、週に何回程度訪問する予定か」を具体的に伝え、協力を求めましょう。
✨ まとめと次の一歩
障害のある方の賃貸住宅探しは、情報収集、交渉、そして何よりも信頼関係の構築が鍵となります。適切な準備と、専門家との連携があれば、必ず安心できる住まいを見つけることができます。
住まいは、生活の基盤です。この記事が、皆様の新たな一歩を力強く支える情報となることを願っております。
最初の一歩として、まずは地域の相談支援事業所に連絡を取り、住まい探しの意向を伝え、支援計画に組み込んでもらうことから始めましょう。
まとめ
- 住まい探しは、まず生活上のニーズと障害特性を明確にし、物件の条件と地域の福祉サービスを総合的に検討する。
- 入居交渉を成功させるため、専門の不動産会社や相談支援専門員と連携し、保証体制や支援体制といった「安心材料」を家主に提供する。
- 内見時には、物理的なバリアフリーだけでなく、生活動線、周辺環境、緊急時の対応を多角的にチェックし、軽微な改修の許可は必ず書面で交渉する。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





