同居家族が感じた負担と、その乗り越え方

「もう限界だ」と思った夜
深夜2時、息子の部屋から大きな物音がしました。また、物を壊したようでした。翌朝は仕事があるのに、眠れませんでした。その時、私は心の中で叫びました——「もう限界だ」と。
統合失調症の息子と同居して3年。私は、毎日がギリギリの状態でした。仕事、家事、息子のケア、通院の付き添い——すべてを一人で抱えていました。「家族なんだから当然」と思っていましたが、心も体も悲鳴を上げていました。
この記事では、精神障害を抱える家族と同居する中で感じた負担と、それをどう乗り越えてきたかを、正直にお話しします。同じように負担を感じている家族の方に、少しでも参考になれば幸いです。
同居が始まった頃——予想以上の大変さ
「一緒に暮らせば支えられる」と思っていた
息子が統合失調症を発症したのは、20歳の時でした。一人暮らしをしていた息子は、症状が悪化して生活が成り立たなくなり、実家に戻ってきました。
当時の私は、「一緒に暮らせば、しっかり支えられる」と思っていました。食事を作り、服薬を管理し、通院に付き添う——それくらいなら、できると思っていました。
でも実際は、予想をはるかに超える大変さでした。
⚠️ 注意
精神障害を抱える家族との同居は、想像以上に負担が大きいことがあります。24時間気が抜けない状態、経済的負担、社会的孤立など、様々な負担が重なります。家族だけで抱え込まず、早めに支援を求めることが重要です。
24時間気が抜けない日々
最も辛かったのは、24時間気が抜けないことでした。
息子の症状は不安定でした。幻聴に苦しんで叫ぶ日もあれば、妄想にとらわれて部屋に閉じこもる日もありました。物を壊すこともあれば、突然外に飛び出そうとすることもありました。
私は、常に気を張っていました。仕事中も、息子のことが気になりました。夜も、物音がするたびに目が覚めました。ゆっくり休める時間が、ありませんでした。
| 時間帯 | 私の状態 | 息子の様子 |
|---|---|---|
| 早朝(6時) | 息子の起床を確認、服薬の準備 | 眠れなかった夜は機嫌が悪い |
| 午前(8時) | 仕事に出る(不安を抱えながら) | 一人で過ごす(デイケアに行く日も) |
| 昼間 | 仕事中も息子が心配 | 状態次第で訪問看護や通院 |
| 夕方(18時) | 帰宅、夕食の準備、服薬確認 | 調子が悪いと会話も困難 |
| 夜(21時以降) | 家事、翌日の準備、気が抜けない | 幻聴が強まることが多い |
| 深夜 | 物音で目が覚める、眠れない | 不眠、徘徊、物を壊すことも |
経済的な負担
経済的な負担も、大きかったです。
医療費、薬代、デイケアの費用——自立支援医療制度を使っても、月に数万円かかりました。息子は働けないため、生活費もすべて私が負担しました。
私の給料だけでは、ギリギリでした。自分のための支出は、ほとんどできませんでした。美容院に行くことも、友人と食事に行くことも、諦めました。
「家族の負担は、身体的、精神的、経済的、社会的——多岐にわたります。一つひとつは小さくても、積み重なると大きな負担になります。『家族だから当然』と我慢せず、支援を求めることが大切です」
— 後に家族会で学んだこと
孤立していく——誰にも言えない辛さ
友人との関係が薄れた
同居が始まってから、私は社会的に孤立していきました。
友人からの誘いを、何度も断りました。「息子が心配だから」と。最初は理解してくれた友人も、次第に誘ってくれなくなりました。
気づけば、誰とも会わない日々が続いていました。仕事と家の往復だけ——それが、私の生活でした。
「精神障害」を言えない
息子の病気のことを、誰にも話せませんでした。
「精神障害」という言葉への偏見を、私自身が感じていました。「変な目で見られるのでは」「距離を置かれるのでは」——そんな不安がありました。
職場でも、「息子が体調を崩して」とだけ言いました。本当のことは、言えませんでした。
誰にも話せないことで、私はさらに孤立していきました。
💡 ポイント
精神障害への偏見は、家族の孤立を深めます。でも、同じ経験を持つ家族と出会える場所(家族会など)では、安心して話せます。一人で抱え込まず、理解してくれる人とつながることが大切です。
「家族なんだから当然」という思い込み
私は、「家族なんだから、支えるのは当然」と思っていました。辛くても、疲れても、「これが親の役目」だと自分に言い聞かせていました。
助けを求めることは、「親失格」のように感じました。弱音を吐くことは、「息子を見捨てること」のように思えました。
この思い込みが、私を追い詰めていました。
限界の瞬間——「私も壊れる」
体調を崩した
同居から1年半が経った頃、私は体調を崩しました。
不眠、頭痛、めまい、胃痛——様々な症状が出ました。仕事中に倒れそうになったこともありました。
医師からは「ストレスが原因です。休養が必要です」と言われました。でも、休めませんでした。息子がいるのに、休めるわけがない——そう思っていました。
感情が爆発した夜
ある夜、私の感情が爆発しました。
その日は仕事で大きなミスをし、上司に怒られました。疲れて帰宅すると、息子が部屋を散らかし放題にしていました。幻聴に苦しんでいた息子は、私に怒鳴りました。
その瞬間、私の中で何かが切れました。「もう嫌だ! 限界だ!」と叫んでしまいました。
息子は驚いて黙りました。私は自分の部屋に逃げ込み、泣きました。「私も壊れる」——そう感じました。
「このままでは共倒れだ」
翌朝、冷静になって考えました。このままでは、息子も私も共倒れになる——と。
私が倒れたら、息子を支えられなくなります。息子のためにも、私自身を守る必要がある——ようやく、そう気づきました。
そして、助けを求める決心をしました。
✅ 成功のコツ
家族が限界を感じた時は、すでに危険信号です。「まだ大丈夫」と我慢せず、早めに支援を求めることが大切です。家族が健康でなければ、本人も支えられません。「自分を守ること」が、結果的に本人を守ることにつながります。
支援を求める——変化の始まり
家族会との出会い
息子の主治医に相談すると、家族会を紹介されました。
最初は抵抗がありました。「他人に家族の問題を話すなんて」と思いました。でも、藁にもすがる思いで、参加しました。
そこには、同じように精神障害を抱える家族と暮らす人たちがいました。皆、私と同じような悩みを抱え、同じような疲弊を経験していました。
「自分だけじゃない」——その実感が、大きな救いになりました。
福祉サービスの利用
家族会で、様々な福祉サービスがあることを知りました。
訪問看護、デイケア、ショートステイ、ホームヘルプ——これらのサービスを、私は知りませんでした。「家族が面倒を見るべき」と思い込んでいたのです。
相談支援専門員と一緒に、息子に合ったサービスを探しました。そして少しずつ、サービスを利用し始めました。
- 訪問看護:週2回、看護師が自宅を訪問。服薬確認や健康チェック
- デイケア:週3日、日中の居場所。生活リズムの安定に
- ショートステイ:月に数日、施設に宿泊。私の休息時間に
- ホームヘルプ:週1回、家事や買い物のサポート
負担が軽くなった
サービスを利用し始めてから、私の負担は大きく軽減されました。
訪問看護師が服薬管理をしてくれるので、私が毎日確認する必要がなくなりました。デイケアに行く日は、私も安心して仕事に集中できました。
何より、ショートステイの日は、私が自由に使える時間でした。友人と会ったり、趣味を楽しんだり——久しぶりに、自分の時間を持てました。
境界線を引く——「できること」と「できないこと」
「すべてを背負わなくていい」
家族会やカウンセリングで、私は重要なことを学びました——「すべてを背負わなくていい」ということです。
私は、息子のすべてを支えようとしていました。でもそれは、不可能なことでした。そして、必要なことでもありませんでした。
専門家がいます。福祉サービスがあります。それらを使うことは、「親失格」ではなく、賢明な判断なのだと理解しました。
自分の生活も大切にする
もう一つ学んだのは、自分の生活も大切にすることでした。
息子のことばかり考えていた私は、自分の人生を犠牲にしていました。でもそれでは、長く支え続けることはできません。
私も、自分の楽しみを持つ。友人と会う。趣味を楽しむ——こうした時間が、私を支えてくれました。
罪悪感もありました。でもカウンセラーは言いました——「あなたが元気でいることが、最大のサポートです」と。
息子との適度な距離
息子との距離感も、見直しました。
以前は、常に息子の様子を気にしていました。でも今は、適度な距離を保つようにしています。
息子のプライバシーを尊重する。できることは息子にやってもらう。すべてを管理しようとしない——こうした距離感が、お互いにとって良かったようです。
2年後の今——負担と共に生きる
負担がなくなったわけではない
支援を利用し始めて2年が経った今、負担が完全になくなったわけではありません。
息子の症状は、今も不安定な時があります。通院の付き添いも続けています。経済的な負担も、まだあります。
でも、以前と違うのは、一人で抱え込んでいないことです。
サポートネットワークができた
今、私にはサポートネットワークがあります。
家族会の仲間、相談支援専門員、訪問看護師、主治医——様々な人が、私たちを支えてくれています。
困った時は相談できる。辛い時は話を聞いてもらえる——この安心感が、大きいです。
自分の人生も楽しめるように
そして今、私は自分の人生も楽しめるようになりました。
週に一度は友人と会います。趣味のサークルにも参加しています。旅行にも行けるようになりました(息子はショートステイを利用)。
息子を支えることも大切。でも、自分の人生を生きることも大切——そのバランスを、ようやく取れるようになりました。
同じ立場の家族へ伝えたいこと
一人で抱え込まないで
もし今、同居家族として大きな負担を感じているなら、まず知ってほしいことがあります——一人で抱え込まないでください。
家族だからといって、すべてを背負う必要はありません。様々な支援があります。使えるものは、すべて使ってください。
それは「逃げ」ではなく、「賢い選択」です。
「助けて」と言っていい
「助けて」と言うことを、恥ずかしがらないでください。
私も最初は、助けを求めることに抵抗がありました。でも今は、早く助けを求めればよかったと思っています。
相談支援事業所、精神保健福祉センター、保健所、家族会——様々な相談窓口があります。ぜひ、連絡してみてください。
自分も大切にして
そして、自分自身を大切にしてください。
あなたが倒れたら、本人も支えられません。自分の健康、自分の時間、自分の人生——これらを犠牲にする必要はありません。
自分を大切にすることが、長く支え続けるための鍵です。
完璧を目指さない
最後に、これだけは伝えたいです——完璧を目指さないでください。
できない日もあります。失敗する日もあります。感情的になる日もあります——それでいいのです。
「十分良い」で十分です。あなたは、十分頑張っています。
「同居家族の負担は、外からは見えにくいものです。でもその負担は、確実にあなたを消耗させています。『家族だから当然』と我慢せず、自分を守ってください。それが、結果的に本人も守ることになるのです」
— 家族会の先輩が言ってくれた言葉
よくある質問
Q1: 福祉サービスを使うのは、親として無責任ですか?
いいえ、決してそうではありません。むしろ、適切な支援を活用することは、本人のためにも家族のためにも良いことです。専門的なケアを受けられ、家族の負担も軽減され、結果的に関係も良くなります。「家族だけで支える」必要はありません。
Q2: 経済的に余裕がなく、サービスを使えません
多くの福祉サービスは、所得に応じた負担上限があります。障害福祉サービスは、多くの場合無料または低額で利用できます。また、障害年金、生活保護など、経済的支援制度もあります。市区町村の障害福祉課や相談支援事業所に相談してください。
Q3: 本人がサービス利用を拒否します
最初は抵抗する方も多いです。まず、なぜ拒否しているのか話を聞いてください。不安、プライドの問題、病識の欠如など、理由は様々です。体験利用から始める、信頼できる人から勧めてもらうなど、段階的なアプローチが有効です。相談支援専門員に相談しながら進めましょう。
Q4: 自分の時間を持つことに罪悪感があります
その気持ちは自然ですが、罪悪感を持つ必要はありません。あなたが健康で元気でいることが、本人にとっても最良のサポートです。適度な休息とリフレッシュは、長期的なケアに不可欠です。「自分を大切にすること」は、「本人を大切にすること」でもあるのです。
Q5: 将来が不安です。いつまで同居を続けるべきですか?
「いつまで」に正解はありません。本人の状態、家族の状況によって異なります。グループホームなどの選択肢もあります。重要なのは、「今できる最善」を選ぶことです。将来のことは、相談支援専門員や主治医と一緒に、段階的に考えていきましょう。焦る必要はありません。
まとめ
この記事では、精神障害を抱える息子との同居で感じた負担と、その乗り越え方についてお話ししました。
- 同居家族の負担は、想像以上に大きく多岐にわたります
- 「家族だから当然」と我慢せず、早めに支援を求めることが大切です
- 福祉サービスを活用し、サポートネットワークを作りましょう
- 自分自身を大切にすることが、長く支え続ける鍵です
もし今、大きな負担を感じているなら、一人で抱え込まないでください。様々な支援があります。助けを求めることは、弱さではなく、賢明な判断です。あなた自身を守りながら、本人も支えていく——そのバランスを、一緒に見つけていきましょう。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





