住宅改修費の助成制度をわかりやすく解説

住宅改修費の助成制度をわかりやすく解説
ご自宅は、障害を持つ方にとって、最も安心できる生活の基盤であるはずです。しかし、車いすでの移動が必要になったり、身体機能が変化したりすると、自宅の段差や階段、狭い浴室などが、大きな危険や生活の妨げになってしまいます。「自宅を安全で快適なバリアフリーにしたいけれど、改修費用が高額で手が出せない」と悩んでいるご家族も多いのではないでしょうか。安心して日常生活を送るためには、住環境を整えることが非常に重要です。
そこで国や自治体は、障害を持つ方が安全に自立した生活を送れるよう、「住宅改修費の助成制度」を設けています。この制度には、国の障害者総合支援法に基づく助成と、介護保険の住宅改修費、そして自治体独自の補助金など、いくつかの種類があります。この記事では、これらの制度の全体像を分かりやすく解説し、特に障害を持つ方やそのご家族が知っておくべき助成の対象範囲、上限額、そして申請の注意点を詳しくご紹介します。制度を理解し、不安なく自宅の改修を進めるための具体的な一歩を踏み出しましょう。
障害者総合支援法に基づく住宅改修費の支給
制度の目的と対象となる障害者
障害者総合支援法に基づく住宅改修費の支給制度は、身体障害者手帳や療育手帳などを持ち、在宅で生活する方が、自立した日常生活を営むために必要な住宅の改修費用を支援することを目的としています。この制度の大きな特徴は、年齢制限がないことで、18歳未満の障害児から高齢の障害者まで幅広く利用できます。
ただし、支給の対象となるのは、障害の種類や程度によって、その改修が必要不可欠であると認められた場合です。例えば、車いすを使用している方に対する段差解消や通路の拡張など、障害の特性に基づいた改修が該当します。改修の必要性は、市区町村の福祉担当課による調査や、専門職の意見によって判断されます。
支給対象となる改修の種類と上限額
障害者総合支援法で支給対象となる住宅改修は、主に以下のものが挙げられます。
- 手すりの取り付け:廊下、トイレ、浴室など。
- 段差の解消:玄関、居室、浴室などの段差スロープ設置や床上げ。
- 引き戸などへの扉の交換:車いすでの移動を容易にするため。
- 洋式便器への便器の取り替え:和式から洋式へ。
- 通路や廊下の拡幅:車いすの通行を可能にするため。
支給額には上限が設定されており、自治体によって差はありますが、概ね20万円程度とされています。この上限額は、原則として一度きりの支給であり、再度改修が必要になった場合は、再度の支給が認められないことが多い点に注意が必要です。
利用者負担の仕組み:原則1割負担と上限額
この制度を利用した場合の自己負担も、他の障害福祉サービスと同様に原則として費用の1割です。しかし、この1割負担にも、世帯の所得状況に応じた月額の上限額が適用されます。
住宅改修費は一度に支払う性質のものであり、通常の月額上限額(37,200円など)を超えることがほとんどですが、一度の支給決定に対して総額の1割が自己負担となります。ただし、低所得世帯(住民税非課税世帯)であれば、自己負担が無料(0円)となるため、大きな助けとなります。まずは、ご自身の世帯の所得区分を確認することが重要です。
介護保険の住宅改修費との違いと併用戦略
介護保険制度の住宅改修の概要(20万円上限)
65歳以上の方や、40歳から64歳で特定疾病により要介護(要支援)認定を受けている方は、介護保険の住宅改修費支給制度も利用できます。この制度も、自宅のバリアフリー化を目的としています。
介護保険の改修費支給は、支給限度基準額が20万円と定められています。利用者は、費用の9割または8割、7割の給付を受け、残りの1割~3割が自己負担となります。例えば、20万円の改修を行った場合、利用者の自己負担は2万円~6万円程度に抑えられます。この制度は、生涯を通じて20万円という上限額が設けられていますが、転居や要介護度が3段階以上進んだ場合には再度の支給が認められる特例もあります。
介護保険と障害者総合支援法の対象範囲の違い
二つの制度は目的が似ていますが、対象となる改修範囲が異なります。
- 介護保険:主に加齢に伴う生活動作の困難を解消するための改修(手すりの取り付け、段差解消、滑り防止、扉の交換、洋式便器への取り替え)に限定されます。
- 障害者総合支援法:障害の特性(特に重度障害)に対応するための、より大がかりな改修(車いす昇降機設置、広い生活空間の確保、浴室全体の改修、自動ドア化など)も対象となる場合があります。
65歳未満の障害者は、介護保険が利用できないため、障害者総合支援法が唯一の国の助成制度となります。65歳以上の方は、原則として介護保険が優先されます。
65歳以上の方の「併用」と「上乗せ」戦略
65歳以上の障害者の方は、原則として介護保険が優先されますが、介護保険の対象外となる改修が必要な場合は、障害者総合支援法の上乗せ支給を受けられる可能性があります。
- 介護保険の利用:まず、20万円の上限内で介護保険の対象となる改修(手すり、段差解消など)を行います。自己負担は1割~3割です。
- 障害者総合支援法の上乗せ:介護保険の対象外となる、障害の特性に基づいた特別な改修(例:電動車いすのための玄関アプローチのスロープ設置)が必要な場合、残りの費用や介護保険の上限を超えた費用に対して、障害者総合支援法の助成を申請します。
この併用戦略を成功させるためには、ケアマネジャーと相談支援専門員が連携し、改修の必要性を正確に判断することが不可欠です。
申請手続きのステップと専門職との連携
重要な原則:「事前申請」と「事後承認」は不可
住宅改修費の助成制度を利用する上で、最も重要なルールは「必ず改修工事を行う前に申請し、自治体の承認を得る」ことです。これを「事前申請」の原則といいます。
⚠️ 注意
自治体の承認を受ける前に工事を始めてしまうと、その費用は全額自己負担となり、後から助成金は一切支給されません。これは、介護保険、障害者総合支援法、自治体独自の補助金の全てに共通する鉄則です。
申請から承認までには数週間から1ヶ月程度かかることがありますので、工事の計画は余裕を持って進めましょう。工事の着工は、必ず支給決定通知書を受け取ってから行ってください。
ケアマネジャーや相談支援専門員との連携
住宅改修の計画には、専門家の視点が不可欠です。申請の際には、以下の専門職の関与が求められます。
- 介護保険の場合:ケアマネジャー(介護支援専門員)が、利用者の身体状況と生活環境を評価し、改修が必要な理由を記した理由書を作成します。
- 障害者総合支援法の場合:相談支援専門員が、利用者の意向を踏まえたサービス等利用計画を作成し、改修の必要性を文書化します。
彼らは、制度の対象範囲、上限額、そして改修業者の選定についてもアドバイスをくれる、申請のキーパーソンです。まずは、これらの専門職に相談することから始めましょう。
申請に必要な具体的な書類と流れ
一般的な申請手続きの流れと必要書類は以下の通りです。
- 相談・専門職の意見書作成:ケアマネジャーや相談支援専門員に相談し、改修理由書を作成してもらいます。
- 見積もりの取得:改修業者に、工事内容ごとの内訳を明記した詳細な見積書を作成してもらいます。
- 申請書類の提出:申請書、理由書、見積書、改修前の写真、改修箇所の図面を、市区町村の窓口に提出します。
- 審査・支給決定:自治体の審査を経て、支給決定通知書が交付されます。
- 工事実施:通知書を確認後、工事に着工します。
- 完了後の手続き:工事完了後の写真と領収書を提出し、助成金が支給されます。
特に、改修前後の写真は、改修の必要性を証明するために極めて重要ですので、忘れずに撮影しましょう。
自治体独自の補助金と他の助成制度
地方自治体独自の「上乗せ助成」の存在
国の制度(介護保険、障害者総合支援法)の助成は、上限額が20万円程度と定められており、大規模な改修には十分ではありません。そこで、多くの地方自治体(都道府県や市区町村)が、独自の補助金制度を設けています。
これらの制度は、国の制度の上限額を超えた部分をさらに助成する「上乗せ助成」や、国の制度では対象とならない特定の改修(例:障害児のための特別な改修)を支援するものです。独自の補助金は、国の制度とは別に独自の要件や予算枠を持っているため、早めに情報を確認することが重要です。
✅ 成功のコツ
助成金申請の相談は、まず国の制度(介護保険または障害者総合支援法)の窓口に。相談時に「他に自治体独自の上乗せ補助金はありませんか?」と尋ねることで、申請漏れを防ぐことができます。
よくある質問:賃貸住宅での改修は可能か?
「賃貸住宅に住んでいる場合でも、住宅改修費の助成制度は利用できるのか?」という質問も多くあります。答えは「原則として可能」です。
ただし、賃貸住宅を改修する場合、必ず家主(大家さん)の承諾が必要です。申請の際には、家主からの「改修工事承諾書」の提出が必須となります。将来的に原状回復の義務が生じる可能性もあるため、家主との十分な話し合いと、書面での合意形成が大切です。
特定の疾病・状態に特化した支援(難病など)
国の制度や自治体の一般的な補助金以外にも、特定の疾病や状態に特化した支援が存在する場合があります。例えば、難病を持つ方や、小児慢性特定疾病を持つ児童の生活環境を整えるための改修費用を、独自の財源から補助する制度を設けている自治体があります。
これらの制度は、対象となる疾病や改修の要件が非常に限定的ですが、大規模な改修が必要なケースでは大きな助けとなります。ご自身やご家族が特定の疾病をお持ちの場合は、地域の保健所や難病相談支援センターにも、住宅改修に関する情報がないか問い合わせてみましょう。
住宅改修後の手続きと注意点
助成金を受け取るための「償還払い」と「受領委任払い」
助成金の受け取り方には、主に二つの方法があります。
- 償還払い(原則):利用者が工事費用全額を業者に支払い、その後、自治体へ申請することで、後日助成金(9割など)が払い戻される方法です。一時的に高額な費用を立て替える必要があります。
- 受領委任払い(代理受領):利用者は自己負担分(1割など)のみを業者に支払い、残りの助成金分を自治体が直接業者に支払う方法です。一時的な立て替えが不要となるため、利用者の負担が軽減されます。
受領委任払いを採用しているかどうかは自治体によって異なりますので、申請時に「受領委任払いは可能か」を窓口で確認しましょう。これが可能な場合は、資金繰りの心配を減らすことができます。
助成対象外の費用を明確に区別する
改修工事を行う際、助成対象となる工事と対象外の工事(例:内装のグレードアップ、単なる老朽化対策)を明確に区別することが重要です。
業者に提出してもらう見積書には、助成対象となる工事費用と、対象外となる工事費用を分けて記載してもらう必要があります。助成金は、あくまでバリアフリー化や障害による生活の困難を解消する部分にのみ適用されるため、自己都合による工事と混同しないよう注意しましょう。
住宅改修に伴う固定資産税の優遇
自宅をバリアフリー改修した場合、その改修内容によっては、固定資産税の優遇措置を受けられる可能性があります。これは、所得税の控除とは別の制度です。
具体的な優遇措置の内容や適用条件は、税制改正によって変わることがありますので、改修工事完了後、翌年の1月末までに、お住まいの市区町村の税務担当課に問い合わせて確認しましょう。減税措置は自動的に適用されるわけではないため、申請手続きが必要です。
相談窓口と次の一歩の提案
申請に関する相談窓口一覧
住宅改修の相談と申請は、以下の窓口で対応しています。
- 市区町村の福祉担当課:障害者総合支援法に基づく助成、および自治体独自の補助金の申請窓口です。
- 市区町村の介護保険担当課:介護保険に基づく助成の申請窓口です(65歳以上または特定疾病の要介護認定者)。
- 地域包括支援センター:主に高齢者やその家族を対象に、介護保険制度の利用相談やケアマネジャーの紹介を行っています。
- 相談支援事業所:障害のある方を対象に、障害者総合支援法に基づくサービス利用計画の作成や相談を行っています。
まずは、ご自身の年齢や障害に応じて、適切な窓口に電話で問い合わせることから始めましょう。
建築業者選定のポイントとリスク回避
助成制度を利用する改修工事では、専門知識を持った業者選びが非常に重要です。
- 助成制度の経験:介護保険や障害者総合支援法の住宅改修実績が豊富な業者を選びましょう。制度の複雑な手続きに慣れているため、トラブルを避けられます。
- 福祉住環境コーディネーター:福祉住環境コーディネーターなどの資格を持つ担当者がいる業者は、より専門的で的確なアドバイスが期待できます。
- 複数の見積もり:必ず複数の業者から見積もりを取り、工事内容と費用を比較検討しましょう。
不当に安価な工事や、助成金を全額使えるように勧誘する業者には、特に注意が必要です。
次のアクションへの具体的な提案
住宅改修の実現に向けた、具体的な次の一歩を提案します。
- 相談窓口の決定:ご自身の年齢(65歳未満か以上か)に応じて、福祉担当課または介護保険担当課へ、まず制度を利用したい旨を相談してください。
- 専門家の確保:相談支援専門員またはケアマネジャーに連絡を取り、改修の必要性を記した理由書作成のサポートを依頼しましょう。
- 工事費用の確認:制度に詳しい改修業者を選定し、改修予定箇所の見積もりと図面を作成してもらってください。
住宅改修は、時間と手間がかかるプロジェクトですが、この助成制度を賢く利用することで、ご家族の負担を軽減し、より安全で快適な生活空間を実現できます。
まとめ
住宅改修費の助成制度は、障害を持つ方が在宅で安全に自立した生活を送るための住環境整備を支援する、大切な制度です。
- 障害者総合支援法と介護保険制度の二つがあり、65歳以上の方は原則として介護保険が優先されます。
- 助成金は必ず工事前の事前申請と自治体の承認が必要であり、事後の申請は認められません。
- 支給の上限額(概ね20万円など)を超えた部分や、国の制度で対象とならない改修には、自治体独自の補助金の上乗せを利用できないか確認しましょう。
専門家と連携し、制度を最大限に活用することで、誰もが安心して暮らせるバリアフリーな住まいを実現してください。

阿部 菜摘
(あべ なつみ)36歳📜 保有資格:
社会保険労務士、精神保健福祉士
社会保険労務士として障害年金の申請支援を専門に12年。「難しい」と言われる障害年金を、分かりやすく解説します。医療費助成、各種手当など、お金に関する制度情報をお届けします。
大学卒業後、社会保険労務士事務所に就職し、障害年金の申請支援を専門に担当してきました。これまで500件以上の申請をサポートし、多くの方の生活を支えるお手伝いをしてきました。障害年金は「難しい」「通らない」と諦めている方が多いですが、適切な書類準備と申請を行えば、受給できる可能性は十分あります。実際、初診日の証明が難しいケースでも工夫して認定を受けた例もあります。特に心に残っているのは、精神障害で長年苦しんでいた方が障害年金を受給できたことで、「経済的な不安が減り、治療に専念できるようになった」と感謝されたこと。制度を知ることの大切さを実感しました。記事では、障害年金の申請方法、特別障害者手当、医療費助成など、「知らないと損する」お金の制度を、専門家として正確かつ分かりやすく解説します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
社会保険労務士として、障害年金の申請支援を通じて多くの方の生活を支えたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
精神障害のある方が障害年金を受給でき、「経済的な不安が減り、治療に専念できるようになった」と感謝されたこと。
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「知らないと損する」お金の制度を、専門家として正確かつ分かりやすく解説します。
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