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障害者雇用で働くために必要な“合理的配慮”とは

📖 約31✍️ 菅原 聡
障害者雇用で働くために必要な“合理的配慮”とは
合理的配慮は、障害者雇用における安定就労の鍵であり、障害のある方が能力を平等に発揮するための環境調整です。企業には法的な提供義務がありますが、過重な負担となる場合は拒否が認められます。身体、精神、発達障害の種別ごとに具体的な配慮事例(時差出勤、残業免除、マニュアル作成など)を解説し、その必要性を強調しました。効果的に配慮を引き出すためには、まず徹底的な自己理解に基づいた「障害版トリセツ」を作成し、面接や職場実習で企業と具体的に交渉することが不可欠です。配慮は「優遇」ではなく、変化に応じて調整していくべきものであり、支援機関との連携が成功の鍵となります。

「障害者雇用で働くには『合理的配慮』が必要と聞くけれど、具体的にどんな内容を企業に求められるの?」「配慮を求めることで、採用に不利にならないか不安…」といった疑問や悩みを抱えていませんか?

合理的配慮は、障害のある方が他の人々と平等に、能力を最大限に発揮して働くための環境調整であり、障害者雇用の根幹をなす非常に重要な概念です。この配慮を適切に理解し、企業に明確に伝えることが、就職の成功と長期的な安定就労に直結します。

この記事では、合理的配慮の法的な定義から、身体・精神・発達障害の種別ごとの具体的な事例、そして企業が「過重な負担」として配慮を拒否できるラインまでを詳細に解説します。さらに、企業に配慮を上手に伝えるための3つのステップもご紹介します。

この記事を読むことで、合理的配慮に対する不安を解消し、自信を持って企業と話し合いを進めるための知識と方法を手に入れることができるでしょう。


合理的配慮とは?法的な定義と基本原則

合理的配慮の定義と目的

合理的配慮とは、「障害者から提供を求められた際に、その障害の特性に応じて、業務遂行上の支障となっている事項を改善するために必要な変更や調整を行うこと」を指します。これは、2016年に施行された「障害者差別解消法」や「障害者雇用促進法」によって、企業に義務付けられています。

この制度の目的は、単に障害のある人を優遇することではなく、障害のない人と同じスタートラインに立つための環境を整えることにあります。障害特性によって生じるハンディキャップを解消し、その人が持つ能力やスキルを十分に発揮できるようにすることが狙いです。

「合理的配慮」と「過重な負担」の線引き

企業が合理的配慮を提供する義務がある一方で、その配慮が企業に対して「過重な負担」となる場合は、配慮の提供を拒否することが認められています。この「過重な負担」の判断は、以下の要素を総合的に考慮して行われます。

  • 企業規模と財務状況:大企業と中小企業では、かけられるコストが異なります。
  • 費用の額:配慮にかかる金銭的な負担が過度に大きい場合。
  • 実施の困難度:物理的に工事が不可能な場合など、代替措置がない場合。
  • 業務への影響:配慮によって他の社員の業務が著しく滞る場合。

この線引きはケースバイケースですが、企業はまず配慮を提供するための代替措置(負担の少ない別の方法)を検討することが求められます。合理的配慮は、企業と障害のある方が対話を通じて、互いに協力し合いながら見つけていくものです。

合理的配慮が「義務」となる働き方

合理的配慮の提供が法的に義務付けられるのは、原則として「障害者雇用枠」で採用された場合です。この枠で働く場合、企業は配慮を前提とした雇用契約を結びます。

一方、障害を隠して一般就労(クローズ就労)で働く場合、企業に合理的配慮の提供義務はありません。仮に体調を崩して配慮を求めても、それは企業の「任意」に委ねられることになり、拒否されるリスクがあるため、配慮が必要な方は必ず障害者雇用枠を選ぶべきです。

💡 ポイント

合理的配慮は、あなた自身が企業に具体的に提案するものです。企業が勝手に「これが最適」と決めるものではありません。まずは「何があれば安心して働けるか」を自己分析することがスタートです。


障害種別ごとの具体的な配慮事例

事例1:身体障害(肢体不自由・内部障害など)

身体障害のある方への配慮は、主に物理的な環境整備や通勤の負担軽減に関するものが中心となります。

  • 環境整備:車いすで利用できるスロープ、エレベーター、多目的トイレの設置、専用駐車場の確保、デスクの高さの調整、補助機器(特殊なマウスやキーボードなど)の導入。
  • 通勤・勤務時間:通勤ラッシュを避けるための時差出勤、体調が優れない日の在宅勤務(テレワーク)許可、通院日やリハビリテーションのための柔軟な休暇取得。
  • 業務内容:重い物の運搬や頻繁な移動を伴う業務の免除。

特に内部障害のある方に対しては、定期的な休憩時間の確保や、負担の大きい業務の調整が重要な配慮となります。これらの配慮は、助成金を活用して企業負担を軽減できるケースが多いです。

事例2:精神障害(うつ病・統合失調症など)

精神障害のある方への配慮は、体調管理とストレス軽減に焦点を当てたものが多く、目に見えない配慮が求められます。

  • 体調管理:体調の波に合わせた勤務時間や日数の調整(短時間勤務からのスタートなど)、残業の原則免除、定期的な休憩時間の確保。
  • コミュニケーション:業務指示は口頭だけでなく、必ず文書(メール、チャット)でも明確に伝える、複雑な対人業務(クレーム対応など)の免除。
  • メンタルヘルス:直属の上司との定期的な面談(週に一度など)の機会を設ける、ストレスレベルが高まった際に相談しやすい環境を確保する。

精神障害の場合、「体調が悪化する前のサイン」を事前に上司に共有しておくことが、最悪の事態を防ぐための非常に重要な合理的配慮となります。

事例3:発達障害(ASD・ADHDなど)

発達障害のある方への配慮は、特性を活かすための環境と、苦手な部分をカバーする仕組みの構築が中心となります。

  • 環境整備:騒音を遮断できるパーティション付きのデスクや、照明を調整できる個別スペースの提供(感覚過敏への対応)。
  • 業務指示:抽象的な指示ではなく、タスクを細かく分解し、「いつまでに、何を、どのように」行うかを明確にしたチェックリストやマニュアルを作成する。
  • 業務内容:高い集中力を要するルーティンワークへの集中配置(データ入力、検品など)、苦手なマルチタスクや電話対応の免除。

発達障害の場合、「得意なこと(強み)」を最大限に活かせる業務に配置することも、重要な合理的配慮の一つと見なされます。


合理的配慮を効果的に引き出すための3つのステップ

ステップ1:徹底的な「自己理解」と「必要な配慮の明確化」

合理的配慮を企業に求める前に、まずご自身で「何があれば、安定して働けるのか」を徹底的に明確にしましょう。

この自己理解は、主治医や就労移行支援事業所の担当者と連携しながら進めるのが最も効果的です。特に、「配慮がない場合と、配慮がある場合の業務遂行能力の違い」を具体的に示すことが、企業を納得させるための鍵となります。

  • NG例:「疲れやすいので、休憩が欲しい」
  • OK例:「集中力が継続するのは90分が限界なので、90分ごとに10分間の休憩を確保したい。これにより、午後の集中力を維持できる。」

このように、配慮が「なぜ必要か」と、配慮によって「どのような貢献ができるか」をセットで説明できるように準備しましょう。

ステップ2:「障害版トリセツ」の作成と応募時の提示

自己理解の結果を、「自分自身の取扱説明書(障害版トリセツ)」として文書化し、選考の初期段階(応募書類や面接時)で企業に提示しましょう。これは、企業側の不安を解消するための最重要ツールです。

トリセツに記載すべき必須事項は以下の通りです。

  1. 現在の障害の状態と通院状況、安定度
  2. 業務遂行における得意な点と苦手な点(具体的な事例を挙げる)
  3. 企業に求める具体的な合理的配慮(通勤、休憩、業務内容など)
  4. 体調不良のサインと、その際の企業に求める具体的な対応(例:サインが出たら、すぐに上司に報告し、休憩室で30分休む)

このトリセツがあることで、企業は採用後の配慮の実現可能性を検討しやすくなり、ミスマッチによる早期離職のリスクを低減できます。

ステップ3:職場実習での「試行錯誤」と最終合意

面接で合意した配慮事項が、必ずしも職場で最適とは限りません。採用前に設けられることが多い職場実習(トライアル雇用)の期間こそが、配慮の最終調整を行う重要な機会です。

この実習期間中に、実際に配慮を受けて業務を試行し、効果を検証しましょう。「時差出勤を試したが、始業時刻が遅すぎた」「この業務は集中できたが、あの業務は予想以上に負荷が高かった」など、具体的なフィードバックを企業に伝えます。

最終的な配慮の内容は、企業とご本人が十分に話し合い、双方が納得した上で合意し、雇用契約書や配慮覚書に明記されることが理想的です。支援機関の担当者が、この話し合いをサポートすることも可能です。


合理的配慮を巡るよくある誤解と注意点

誤解1:「配慮」は「優遇」ではない

合理的配慮は、障害のない社員よりも「楽をする」「優遇される」ことではありません。あくまでも「ハンディキャップを解消し、対等に能力を発揮できるようにする」ための手段です。配慮を受けることに対して、罪悪感を持つ必要はありません。

一方で、配慮を受けたからには、その環境で最大限の成果を出す責任があります。例えば、残業を免除してもらった分、勤務時間内に集中して業務を完遂する、といったプロ意識が求められます。

誤解2:一度決めた配慮は変更できない

合理的配慮は、ご自身の体調や職務経験に応じて、変化・進化していくものです。体調が安定すれば、配慮のレベルを下げて業務範囲を広げることも可能ですし、逆に体調が悪化すれば、より手厚い配慮を求めることも可能です。

大切なのは、体調や状況の変化があった際に、すぐに上司や人事担当者に相談し、配慮の必要性を明確に伝えることです。支援機関(ジョブコーチなど)が、この調整役を担ってくれることもあります。

注意点:配慮の「具体性」が企業の判断を左右する

企業が最も困るのは、抽象的な配慮要求です。「ストレスがかからないようにしてほしい」「体調に合わせて休ませてほしい」といった抽象的な要求では、企業は「過重な負担」と判断しやすくなります。

配慮を求める際は、「どのような状況で」「どのような配慮を」「どのように行うか」を数字や行動で具体的に定義しましょう。この具体性が、企業の「採用後のリスク」に対する不安を解消し、採用を前向きに検討する大きな要因となります。


まとめ

合理的配慮は、障害者雇用で働くあなたにとって、安定就労を実現するための最も重要な土台です。その法的な義務付けは、一般就労にはない大きな安心感を与えてくれます。

しかし、配慮は受け身で得るものではなく、あなた自身が自己理解を深め、「障害版トリセツ」を作成し、企業と建設的な対話を行うことで、初めて効果的に引き出せるものです。ぜひ、就労移行支援などの専門機関の力を借りながら、あなたにとって最適な合理的配慮を見つけ出してください。

  • 合理的配慮は、障害のある方が対等に働くための環境調整であり、企業には義務がある(過重な負担を除く)。
  • 身体、精神、発達障害の種別ごとに、環境、体調管理、コミュニケーションに関する具体的な配慮事例がある。
  • 効果的に配慮を引き出すためには、自己理解の徹底、具体的な「トリセツ」の作成、職場実習での試行錯誤が不可欠である。
  • 配慮は「優遇」ではなく、状況に応じて変化するものであり、企業との対話を通じて常に調整していく意識が大切である。

菅原 聡

菅原 聡

すがわら さとし38
デスク📚 実務経験 12
🎯 就労支援🎯 進路支援

📜 保有資格:
職業指導員、キャリアコンサルタント、精神保健福祉士

就労移行支援事業所で10年以上、障害のある方の「働く」を支援してきました。一般就労への移行支援から就労継続支援まで、幅広い経験をもとに、「自分に合った働き方」を見つけるための情報をお届けします。

大学で社会福祉を学び、卒業後すぐに就労移行支援事業所に就職。当初は「障害があっても一般企業で働けるんだ」という驚きと感動の連続でした。これまで150名以上の方の就労支援に携わり、その8割が一般企業への就職を実現。ただし、「就職がゴール」ではなく、「長く働き続けられること」が本当のゴールだと考えています。印象的だったのは、精神障害のある方が、障害をオープンにして自分のペースで働ける職場を見つけ、「初めて仕事が楽しいと思えた」と言ってくださったこと。その笑顔が忘れられません。記事では、就労移行支援と就労継続支援の違い、企業選びのポイント、障害者雇用の現実など、実際の支援経験に基づいた実践的な情報をお伝えします。

もっと詳しく

💭 福祉の道を選んだ理由

大学で社会福祉を学び、「障害があっても一般企業で働ける」という可能性に感動したことがきっかけです。

✨ 印象に残っている出来事

精神障害のある方が、自分のペースで働ける職場を見つけ、「初めて仕事が楽しいと思えた」と言ってくださったこと。

✍️ 記事を書く上で大切にしていること

「就職がゴール」ではなく、「長く働き続けられること」を大切に、実践的な情報を発信します。

🎨 趣味・特技

ランニング、ビジネス書を読むこと

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リモートワークと障害者雇用、週20時間未満の短時間雇用

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