障害者雇用の基礎知識|採用の流れと必要な準備

「障害者雇用で働きたいけれど、何から手をつけていいかわからない」「採用までの流れが複雑そうで不安」と感じている方はいませんか?
障害者雇用は、一般の採用とは異なる独自のプロセスや、準備すべきことがあります。特に、ご自身の障害特性を理解し、企業に適切に伝えるための準備が非常に重要になります。
この記事では、障害者雇用で働くための基本的な知識から、具体的な採用フロー、そして安定して長く働き続けるために必要な4つの準備を、ステップごとにわかりやすく解説します。
この記事を読むことで、不安を解消し、自信を持って就職活動に臨むための具体的なロードマップを手に入れることができるでしょう。
障害者雇用で働くための最初のステップ
障害者手帳の必要性と種類
障害者雇用枠での就職活動を行う場合、原則として「障害者手帳」を保有していることが必須条件となります。手帳は、ご自身の障害の種別や程度を公的に証明するものであり、企業が合理的配慮を提供する際の根拠にもなります。
手帳には、以下の3種類があります。
- 身体障害者手帳:肢体不自由、視覚・聴覚障害、内部障害など。
- 療育手帳(愛の手帳など):知的障害のある方。名称は自治体により異なります。
- 精神障害者保健福祉手帳:統合失調症、うつ病、発達障害など。
手帳の交付を受けるためには、まず主治医に相談し、診断書を作成してもらう必要があります。その後、自治体に申請し、審査を経て交付されます。就職活動を始める前に、手帳の準備を完了させておくことが、スムーズなスタートにつながります。
「合理的配慮」の理解と準備
障害者雇用の核となるのが「合理的配慮」です。これは、障害者から提供を求められた際に、企業が業務遂行上の支障を改善するために必要な変更や調整を行うことです。ただし、企業に「過重な負担」となる場合は、配慮の提供は求められません。
合理的配慮の具体例としては、体調管理のための休憩時間の確保、通勤ラッシュを避けるための時差出勤、業務内容や量の調整、またはPCソフトやツールの導入などが挙げられます。重要なのは、ご自身で何が必要かを具体的に把握し、企業に明確に伝えることです。
💡 ポイント
合理的配慮は、企業の「義務」ですが、その内容は企業とご本人が話し合って決めるものです。まずは「何があれば安定して働けるか」を紙に書き出し、整理してみましょう。
利用できる就労支援サービス
障害者雇用での就職を目指す方のために、様々な公的支援サービスが用意されています。これらを活用することで、就職活動の準備から入社後の定着まで、専門家によるサポートを無料で受けることができます。
代表的な支援機関は以下の通りです。
- 就労移行支援事業所:就職に必要な知識やスキル(ビジネスマナー、PCスキルなど)を訓練し、就職活動全般をサポートします。原則2年間の利用期間があります。
- 障害者就業・生活支援センター(就労支援センター):就職準備から職場定着まで、仕事と日常生活両面の支援を一体的に行います。
- ハローワーク(専門援助部門):障害者専門の求人紹介、職業相談、各種セミナーを実施しています。
特に、就労移行支援事業所は、ご自身の障害特性の理解を深める訓練や、応募書類の作成指導、模擬面接などを集中的に行うことができ、初めて就職を目指す方やブランクがある方に強く推奨されます。
障害者雇用の採用フローと選考のポイント
求人情報の探し方と応募方法
障害者雇用の求人を探す方法は、大きく分けて3つあります。一つはハローワークの専門援助部門を利用することです。公的な機関であるため、地域に根ざした幅広い求人情報が入手できます。
二つ目は、民間の障害者専門転職エージェントの活用です。エージェントは非公開求人を含む多様な求人を取り扱っており、企業との条件交渉や入社後の調整も代行してくれるメリットがあります。
三つ目は、企業の採用ホームページや就労移行支援事業所からの紹介です。特に大企業では、独自に障害者採用枠を設けていることが多く、定期的にチェックする価値があります。
応募の際は、履歴書や職務経歴書に加え、多くの企業で「障害に関する情報」を記載する専用の書類(オープンシートなど)の提出が求められます。この書類の記載内容が、選考において最も重視される要素の一つとなります。
書類選考と面接で重視される点
障害者雇用の選考において、企業が最も重視するのは、「長く安定して働き続けられるか」という点です。
書類選考では、これまでの職務経歴やスキルはもちろんですが、病状の経過、通院状況、服薬状況などが安定しているか、そして必要な配慮事項が具体的で実現可能かが確認されます。抽象的な表現ではなく、「〇〇の作業は集中力が持続しないため、1時間ごとに10分休憩を希望します」といった具体的な記載が求められます。
面接では、書類に記載した内容の深掘りが行われます。特に、「ご自身の障害特性とどのように向き合っているか」「体調不良のサインは何か」「体調が悪くなった時の対応策」など、自己管理能力と問題解決能力について詳しく聞かれます。
⚠️ 注意
面接で障害について話すときは、ネガティブな経験を語るだけでなく、それを乗り越えて「どのように業務で貢献できるか」という前向きな姿勢で話すことが大切です。
職場実習(トライアル雇用)の重要性
多くの企業では、本採用の前に職場実習(インターンシップ)やトライアル雇用を設けています。これは、求職者と企業側双方が、職場の雰囲気や業務内容、必要な配慮事項などが本当にマッチしているかを確認するための、非常に重要な期間です。
職場実習は、期間が数日〜数週間程度、トライアル雇用は原則3ヶ月間の有期雇用契約で行われます。この期間中に、求職者は実際の業務を体験し、企業側は安定した出勤率や業務遂行能力、職場の定着可能性を見極めます。
この実習期間を成功させるためには、出勤時刻の厳守や、体調の自己管理を徹底し、企業から求められた配慮事項を遠慮せずに伝え、実際に試していく姿勢が求められます。
安定就労に不可欠な4つの準備
準備1:自己理解を深める(障害特性の明確化)
安定して働くための最初の準備は、ご自身の障害特性を誰よりも深く理解することです。ご自身の体調の波、得意なこと、苦手なこと、ストレスを感じやすい状況などを具体的に把握できていますか?
特に精神障害や発達障害のある方は、ご自身の特性を客観視することが難しい場合があります。就労移行支援などの支援機関では、専門のプログラムを通じて、「どんな環境なら力を発揮できるか」を明確にする作業を手伝ってくれます。
この自己理解が深まることで、企業に伝えるべき「合理的配慮」が具体的になり、ミスマッチのない求人選びができるようになります。このステップを飛ばして就職活動を始めてしまうと、入社後に「こんなはずじゃなかった」と早期離職につながりやすくなります。
準備2:「働くイメージ」を具体化する
漠然と「事務職がいい」「PCを使った仕事がいい」という希望だけでは、企業も適切な配置をすることができません。可能な限り、「働くイメージ」を具体化しましょう。
具体的には、以下の要素を明確にします。
- 時間帯・頻度:残業は可能か、毎日フルタイムがベストか、午前のみ・午後のみの勤務は可能か。
- 業務内容:単純作業の繰り返しが得意か、変化のある作業が得意か。データ入力、電話対応、書類整理など具体的に。
- 環境:オープンスペースと個室のどちらが集中できるか。騒音の有無、照明の明るさなど。
このイメージを具体化するためにも、支援機関での職業訓練や職場実習の経験は非常に役立ちます。実際に試してみることで、机上の空論ではなく、現実的な希望条件が見えてきます。
準備3:キャリアシート(障害版トリセツ)の作成
前述の「自己理解」と「働くイメージ」を一つのドキュメントにまとめたものが、「キャリアシート」や「障害版トリセツ(取扱説明書)」と呼ばれるものです。これは、企業に応募する際や、入社後に上司・同僚に共有するために作成します。
記載すべき必須項目は、以下の通りです。
- 障害名・等級・通院頻度・服薬状況
- これまでの症状の経過と現在の安定度
- 得意な業務、苦手な業務、特に困難な状況
- 体調不良のサインと、その際の具体的な対応策(例:サインが出たら席を離れて休憩室で15分休む)
- 企業に求める合理的配慮(通勤、休憩、業務内容など)
このトリセツは、ご自身と企業との共通認識を持つための最重要ツールです。これがあることで、企業側も安心して配慮を提供しやすくなります。
準備4:第三者による支援体制の確保
就職はゴールではなく、スタートです。長く働き続けるためには、ご自身の努力だけでなく、第三者によるサポート体制を確保しておくことが非常に重要です。
入社後も継続してサポートを受けられる支援機関(就労支援センター、就労移行支援事業所など)を決めておきましょう。何か困ったことがあった時、企業とご本人の間に立って、客観的に調整役を担ってくれる存在がいるだけで、大きな安心感につながります。
また、ご家族や主治医とも、仕事の状況を定期的に共有し、体調の変化に早く気づいてもらえるような体制を整えておくことも、安定就労のための重要な準備です。
障害者雇用の採用後に待っていること
入社後の配属とオリエンテーション
採用が決定し、入社すると、まずは配属先の部署でオリエンテーションを受けます。この際、人事担当者や上司、そして現場のメンバーと、事前に話し合った合理的配慮の内容を再度共有し、認識をすり合わせる機会が設けられます。
初めから全ての配慮が完璧に実行されるわけではありません。実際に働きながら、「この配慮は有効だが、この配慮は不要かもしれない」といった試行錯誤が必要になります。入社直後は、柔軟な姿勢と、遠慮せずに意見を伝えるコミュニケーションが大切です。
特に、最初は体力的・精神的な負担を考慮し、業務量を少なめに設定してもらえることが多いです。焦らず、まずは職場の雰囲気や業務の流れに慣れることを最優先にしましょう。
定着支援(ジョブコーチ)の活用
前述の通り、入社後の定着を支援するための強力な助っ人が、「ジョブコーチ(職場適応援助者)」です。ジョブコーチは、企業と障害者本人の間に立って、職場に定着できるよう専門的な支援を行います。
ジョブコーチの主な役割は以下の通りです。
| 役割 | 具体的な支援内容 |
|---|---|
| 本人への支援 | 業務遂行方法の指導、体調管理の助言、コミュニケーションの練習 |
| 企業への支援 | 障害特性に関する理解促進、適切な配慮方法の提案、他の社員との連携サポート |
| 関係機関との連携 | 主治医や支援機関との情報共有・調整 |
ジョブコーチ支援は、原則として3〜6ヶ月間行われ、支援期間を終えた後も、必要に応じて再度の支援を受けることができます。このサービスを積極的に活用することが、長期的な安定就労のカギとなります。
昇進・昇給の可能性について
「障害者雇用だと昇給や昇進はできないのでは?」と不安に感じる方もいますが、決してそのようなことはありません。多くの企業では、障害者雇用枠で採用された方でも、一般社員と同様の人事評価制度に基づき、昇給や昇進の機会が設けられています。
ただし、合理的配慮の結果、業務内容や責任範囲が限定的になっている場合は、評価の基準が一般社員と異なることもあります。大切なのは、与えられた環境の中で、最大のパフォーマンスを発揮することです。
面談の際などに、「将来的にどのようなキャリアを目指したいか」「そのためにはどのようなスキルを身につけるべきか」を上司と定期的に話し合う機会を持つことで、キャリアアップの道筋を明確にすることができます。
よくある疑問と次のアクション
Q1:支援機関の利用は必須ですか?
A:必須ではありませんが、強く推奨します。
支援機関を利用せず、ハローワーク経由などで直接就職する方もいますが、支援機関を利用する最大のメリットは、自己理解を深める訓練と、客観的な目線でのアドバイスが得られることです。特に初めて就職を目指す方や、離職経験がある方は、訓練を通じて安定した生活リズムを確立してから就職活動に臨む方が、成功率が格段に上がります。
Q2:障害者であることを隠して一般就労できますか?
A:法律上は可能ですが、推奨されません(特に配慮が必要な場合)。
障害をオープンにするかどうかは、個人の自由ですが、体調の波や通院が必要など、働く上で何らかの配慮が必要な場合は、後々トラブルや早期離職の原因となる可能性が非常に高いです。一般就労で配慮を求めずに働くことができるのは、障害特性による業務上の支障がほとんどない場合に限られます。
「以前、障害を伏せて一般就労しましたが、体調を崩しても休みにくく、結局短期間で辞めてしまいました。今は障害者雇用で必要な配慮をもらい、安定して働けています。」
— 40代・利用者の方の声
Q3:就労移行支援の費用はどれくらいかかりますか?
A:前年度の収入に応じて、費用負担が発生しないケースが多いです。
就労移行支援は福祉サービスのため、利用者の前年度の収入に応じて9割以上の方が無料で利用しています。費用が心配で利用をためらっている方は、まずは最寄りの事業所に相談し、費用の自己負担額について確認してみることをお勧めします。
✅ 次のアクション
まずは、お住まいの地域にある障害者就業・生活支援センターまたは就労移行支援事業所に連絡を取り、個別相談を予約してみましょう。専門家にご自身の状況を話すことが、就職への最初の一歩です。
まとめ
障害者雇用での就職は、一般就労とは異なる準備とプロセスが必要ですが、その分、ご自身の特性に合った環境で、安定して長く働くための土台を築くことができます。
就職活動を成功させる鍵は、「障害者手帳の準備」「自己理解の徹底」「キャリアシートの作成」「支援機関の活用」という4つの準備を丁寧に進めることです。特に、ご自身のトリセツを作成し、必要な配慮を具体的に伝える能力は、入社後の安定的な勤務にも直結します。
一歩踏み出すことに不安を感じる必要はありません。この記事で解説したステップを参考に、各種支援機関の力を借りながら、あなたに合った最適な働き方を一緒に見つけていきましょう。
- 障害者雇用には、障害者手帳の保有と合理的配慮の明確化が不可欠である。
- 採用選考では、「長く安定して働けるか」を証明するための自己管理能力と具体的な配慮事項が重視される。
- 安定就労のためには、自己理解・働くイメージの具体化・キャリアシート作成・支援体制の確保という4つの準備が重要である。
- 入社後も、ジョブコーチなどの定着支援を積極的に活用し、企業との連携を密にすることが安定勤務のカギとなる。

菅原 聡
(すがわら さとし)38歳📜 保有資格:
職業指導員、キャリアコンサルタント、精神保健福祉士
就労移行支援事業所で10年以上、障害のある方の「働く」を支援してきました。一般就労への移行支援から就労継続支援まで、幅広い経験をもとに、「自分に合った働き方」を見つけるための情報をお届けします。
大学で社会福祉を学び、卒業後すぐに就労移行支援事業所に就職。当初は「障害があっても一般企業で働けるんだ」という驚きと感動の連続でした。これまで150名以上の方の就労支援に携わり、その8割が一般企業への就職を実現。ただし、「就職がゴール」ではなく、「長く働き続けられること」が本当のゴールだと考えています。印象的だったのは、精神障害のある方が、障害をオープンにして自分のペースで働ける職場を見つけ、「初めて仕事が楽しいと思えた」と言ってくださったこと。その笑顔が忘れられません。記事では、就労移行支援と就労継続支援の違い、企業選びのポイント、障害者雇用の現実など、実際の支援経験に基づいた実践的な情報をお伝えします。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学で社会福祉を学び、「障害があっても一般企業で働ける」という可能性に感動したことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
精神障害のある方が、自分のペースで働ける職場を見つけ、「初めて仕事が楽しいと思えた」と言ってくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
「就職がゴール」ではなく、「長く働き続けられること」を大切に、実践的な情報を発信します。
🎨 趣味・特技
ランニング、ビジネス書を読むこと
🔍 最近気になっているテーマ
リモートワークと障害者雇用、週20時間未満の短時間雇用





