職場で働きづらい…障害当事者が抱えやすい問題とは?

障害のある方にとって、働くことは生活の柱であり、自己実現の大きな喜びとなります。しかし、実際に職場という環境に身を置くと、「能力を発揮できない」「人間関係でつまずく」「体調が不安定になる」など、さまざまな「働きづらさ」に直面することがあります。これは、決して個人の努力や能力の不足ではなく、個々人の障害特性と、職場の環境、文化、支援体制との間に生じる「ミスマッチ」が原因である場合がほとんどです。
この「働きづらさ」を放置してしまうと、症状の悪化、モチベーションの低下、そして最悪の場合、離職につながりかねません。そのため、当事者自身が自分の困りごとの構造を理解し、企業や支援機関がその問題に適切に対処するための知識を持つことが極めて重要です。
この記事では、精神障害、発達障害(ADHD/ASD)、身体障害、知的障害など、多様な障害特性を持つ方々が職場で特に抱えやすい具体的な問題を、その根深い原因と共に深掘りします。そして、それぞれの問題に対して、当事者、企業、支援者の三者が協働して取り組むべき解決策(合理的配慮の具体例)を、詳細なガイドとして提供します。
働きづらさを感じるすべての方々へ。あなたの抱える問題は決してあなた一人だけのものではありません。この情報が、あなたが職場での安心と活躍を取り戻すための一助となることを心から願っています。
障害当事者が抱えやすい「働きづらい」問題の4大類型
職場で感じる「働きづらさ」は、原因や特性に応じて、以下の4つの類型に分類できます。ご自身の状況がどの類型に該当するかを把握しましょう。
類型1:業務遂行上の課題(認知特性と職務のミスマッチ)
この問題は、業務内容そのものが難しいのではなく、情報の受け取り方、処理の仕方、タスクの進め方といった「認知特性」と、職場の慣習的なやり方が衝突することで生じます。主に発達障害(特にADHDやASD)を持つ方に多く見られます。
- 具体的な困りごと:
- 指示の理解困難:上司からの口頭や抽象的な指示(例:「適当にやっておいて」「善処して」)を、具体的な行動に落とし込めない。
- マルチタスクの困難:複数の業務を同時に、または短い間隔で切り替えることができず、ミスや漏れが発生しやすい。
- 実行機能の困難:業務の優先順位付けや、段取り(計画)を立てることができず、締切に間に合わない。
- 根本原因:ワーキングメモリ(作業記憶)の容量不足、注意の切り替えの困難、実行機能の障害。
【求められる対策:構造化と視覚化】業務を細分化・視覚化し、抽象度を下げた指示に変える合理的配慮が不可欠です。
類型2:コミュニケーションと人間関係の課題(社会性のバリア)
職場は、業務スキル以外にも、暗黙の了解、非言語的サイン、集団の「空気」といった複雑な社会性が求められる場です。この課題は、精神障害やASDを持つ方に深刻なストレスをもたらします。
- 具体的な困りごと:
- 誤解の発生:表情や声のトーン、冗談などが理解できず、意図せず相手を不快にさせてしまう、または逆に不快に受け取ってしまう。
- 自己開示の困難:体調の変動や必要な配慮を、適切なタイミングや方法で上司や同僚に伝えられず、問題を一人で抱え込む。
- 孤立感:休憩時間の雑談や社内イベントなど、フォーマルでない交流の場に参加できず、チームから孤立していると感じる。
- 根本原因:社会的コミュニケーションの困難、感情や状況の読み取りの偏り、不安障害の併発。
【求められる対策:情報共有と仲介】コミュニケーションのルールを明確化し、仲介役(メンターやジョブコーチ)を立てて相互理解を深めることが有効です。
類型3:環境・感覚の課題(物理的・感覚的なバリア)
これは、身体障害の方が直面する物理的なバリアだけでなく、感覚過敏を持つ発達障害や精神障害の方が職場で感じる感覚的なストレスも含みます。このストレスは、集中力と体調を著しく低下させます。
- 具体的な困りごと:
- 騒音・光の過負荷:オープンオフィスの電話の音、キーボードの音、蛍光灯の光などが、脳を疲弊させ、業務に集中できない(聴覚・視覚過敏)。
- 移動の困難:車いすでの移動が必要な際に、エレベーターや多目的トイレの設置場所が遠く、休憩や移動に時間がかかりすぎる(身体障害)。
- 休憩場所の不足:急な体調不良や疲労時に、静かで刺激の少ない場所で横になったり、休憩したりするスペースがない。
- 根本原因:職場のバリアフリーデザインの不足、感覚統合の偏りへの理解不足。
【求められる対策:物理的環境の調整】刺激の少ない作業スペースの確保や、柔軟な遮断具の使用許可といった物理的改善が急務です。
類型4:体調管理と持続性の課題(病状の波と勤務形態のミスマッチ)
特に精神障害を持つ方にとって、病状の波と安定した勤務の両立は最も困難な課題です。体調不良を「自己責任」と捉えがちな職場の文化も、問題を悪化させます。
- 具体的な困りごと:
- 出勤の困難:朝の抑うつ状態や、服薬の影響で覚醒が遅れるため、定時出勤が続かない。
- パフォーマンスの変動:体調が良い日と悪い日の業務の質と量に大きな差が生じ、同僚からの不公平感を招く。
- 休職・復職の不安:体調が悪化しそうになっても、休職することへの罪悪感や、復職後の業務量への不安から、無理を重ねてしまう。
- 根本原因:病状の不安定性、画一的な勤務時間や制度、体調を優先できない企業文化。
【求められる対策:柔軟な勤務形態の導入】時差出勤、短時間勤務、そして休職・復職のルールの明確化といった柔軟な制度が必要です。
働きづらさ解消のための「合理的配慮」実践ガイド
問題の類型ごとに、当事者、企業、支援機関が協働して取り組むべき具体的な合理的配慮(対策)をまとめます。
対策1:業務遂行能力を高める合理的配慮
| 配慮の目標 | 当事者ができること | 企業・上司が提供すること |
|---|---|---|
| 指示の明確化 | 口頭指示を受けた後、必ずメールで内容を復唱確認し、不明点があればその場で質問する。 | 指示は「誰が、いつまでに、何を、どのように」という5W1Hで文字化(メール、チャット)して伝える。 |
| 実行機能の補完 | 「やることリスト」を毎日作成し、優先順位を色分けする。タイマーで作業時間を区切る。 | 業務を「見える化(タスク管理ツール)」し、週に一度、進捗と優先順位を一緒に確認する時間(30分など)を設ける。 |
| マルチタスク軽減 | 一日のうちで「集中作業時間」を決め、その時間は連絡を制限してもらうよう事前に伝える。 | 一度に複数の業務を割り当てず、「この業務が完了してから次」と明確に区切って指示を出す。 |
対策2:コミュニケーション・人間関係の摩擦を減らす合理的配慮
| 配慮の目標 | 当事者ができること | 企業・上司が提供すること |
|---|---|---|
| 相互理解促進 | 「自分のトリセツ」を作成し、上司を通じてチームメンバーに配慮してほしい点を伝える。 | 障害特性と合理的配慮に関する研修を定期的に実施し、チーム全体の理解度を高める。 |
| 意見交換の円滑化 | 感情的になりそうな議論は、休憩を挟む時間や、文書でのやり取りを希望する。 | 雑談や非業務的な交流への参加を「自由」とし、参加できないことでの評価を下げない。 |
| 相談のしやすさ | 月に一度など、定期的な個別面談をセッティングし、困りごとをため込まずに伝える。 | 産業医やカウンセラー、メンターなどの第三者的な相談窓口を明確に提示する。 |
対策3:環境・感覚的なバリアを取り除く合理的配慮
| 配慮の目標 | 当事者ができること | 企業・上司が提供すること |
|---|---|---|
| 感覚刺激の調整 | ノイズキャンセリングヘッドホンやサングラスの使用を申請する。 | 刺激の少ない壁際の席や、衝立で区切られた集中ブースを確保し、利用を許可する。 |
| 休憩場所の確保 | 休憩時間以外に、静かな場所での「リフレッシュタイム」が必要であることを申請する。 | 静かで照明を落とせる休憩室や仮眠室を確保し、体調不良時に利用できるルールを設ける。 |
| 物理的なバリア解消 | 車いすのサイズや必要な移動ルートを事前に正確に伝える。 | 多目的トイレや手すりの設置はもちろん、エレベーターからデスクまでのルートの障害物を取り除く。 |
対策4:体調管理と持続性をサポートする合理的配慮
| 配慮の目標 | 当事者ができること | 企業・上司が提供すること |
|---|---|---|
| 体調変化の予測 | 体調の波を記録する日誌をつけ、症状が重くなる前に上司に相談する。 | 体調の変化を敏感に察知し、「休むように」と声をかけるなど、無理をさせない配慮を行う。 |
| 柔軟な勤務形態 | 服薬時間や覚醒時間を考慮した、具体的な時差出勤の時間を提案する。 | フレックスタイム制度、短時間勤務、週の出勤日数の調整など、勤務形態を柔軟に適用する。 |
| 復職後の支援 | 主治医やジョブコーチからの復職プログラムを提出し、段階的な復帰を提案する。 | 復職直後は業務量を段階的に調整し、焦らせず慣らし期間を設ける。 |
支援機関(ジョブコーチ、相談支援専門員)の重要な役割
働きづらさの解消は、当事者と企業だけでは難しい場合が多々あります。そこで、中立的な立場で支援のプロとして関わる支援機関の存在が極めて重要になります。
- 企業への働きかけ:ジョブコーチは、職場の環境アセスメント(評価)を行い、企業が気づきにくい具体的な改善点や、合理的配慮の提案を専門的な見地から行います。
- 当事者への支援:相談支援専門員は、福祉サービス(就労移行支援、放課後等デイサービスなど)と連携し、職場での困りごとを事前に訓練したり、解決するためのスキルを身につけるサポートを行います。
- 連携のハブ:福祉・医療・企業間の情報共有を仲介し、支援が途切れない体制(シームレスな支援)を構築する上で、中心的な役割を果たします。
働きづらさを感じたら、まずは地域の就労支援機関や相談支援事業所に相談し、専門家の力を借りて問題解決に乗り出すことが、最も効果的かつ迅速な方法です。
まとめ
障害当事者が職場で抱えやすい問題は、業務遂行、人間関係、環境・感覚、体調管理の4つの類型に分類され、その根本原因は、障害特性と職場の環境とのミスマッチにあります。
- このミスマッチを解消するためには、指示の視覚化、柔軟な勤務形態の導入、刺激の少ない作業スペースの確保といった、具体的な合理的配慮を当事者、企業、支援機関の三者が協働して実践することが不可欠です。
- 特に、ジョブコーチや相談支援専門員は、企業と当事者の間に立ち、中立的な立場から円滑な支援体制を築く上で、決定的な役割を果たします。
働きづらさを感じている方は、自分の問題を構造的に理解し、勇気を持って相談してください。適切な支援と配慮があれば、誰もが能力を最大限に発揮し、充実した職業生活を送ることが可能です。
✅ 次のアクション
ご自身の抱える「働きづらさ」について、この4つの類型から最も当てはまるものを一つ選び、その対策として提示されている「合理的配慮」のうち、最も簡単に試せそうなものを一つ実行してみましょう。例えば、「指示の復唱確認」から始めてみてください。

谷口 理恵
(たにぐち りえ)45歳📜 保有資格:
介護福祉士、ケアマネージャー、サービス管理責任者
介護福祉士として15年間現場で働き、現在はグループホームの管理者。「地域で自分らしく暮らす」を支えるために、住まい・生活・地域資源に関する情報発信を担当しています。実際の支援現場で感じた「これ知りたかった!」という情報をお届けします。
介護福祉士として障害者施設で10年、その後ケアマネージャーの資格を取得し、相談支援専門員として5年勤務。現在はグループホーム(定員10名)の管理者として、利用者の方々の日々の生活を支えています。この仕事を選んだきっかけは、大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会ったこと。「普通」の定義は人それぞれで、大切なのは本人が望む生活を実現することだと気づかされました。特に力を入れているのは、地域との繋がりづくり。近所のスーパーや美容院、カフェなど、日常的に利用できる場所を増やすことで、「施設の中だけ」ではない豊かな生活を支援しています。記事では、グループホームでの実際の生活の様子や、地域の障害福祉サービス事業所の選び方など、現場の生の声をお伝えしていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学時代のボランティアで知的障害のある方と出会い、「普通」の定義は人それぞれだと気づいたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
近所のスーパーや美容院など、日常的に利用できる場所を増やすことで、利用者の生活が豊かになったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
現場の生の声を大切に、「これ知りたかった!」という情報を届けることを心がけています。
🎨 趣味・特技
料理、ガーデニング
🔍 最近気になっているテーマ
一人暮らし支援の新しい形、地域住民との共生





