職場環境が合わないと感じたら?見直しと相談の手順

職場環境が合わないと感じたら?見直しと相談の手順:安心して働き続けるためのロードマップ
「朝起きると、仕事のことを考えると胃が痛くなる……」
「周りの同僚は平気そうだけど、この環境での働きにくさは自分の努力不足なのだろうか?」
就職が決まった時は嬉しかったはずなのに、いつしか職場に行くのがつらくなっていませんか。仕事で感じる「合わない」という感覚は、単なる気のせいではなく、ご自身の障害特性と職場の環境や文化の間に、深刻なミスマッチが生じているサインかもしれません。このミスマッチが放置されると、体調不良や二次障害につながり、結果として離職せざるを得ない状況に追い込まれてしまいます。
しかし、ご安心ください。「合わない」と感じた時、すぐに辞める必要はありません。大切なのは、感情的になるのではなく、冷静に原因を分析し、適切な手順で相談・交渉することです。
この記事では、「職場環境が合わない」と感じた時に、ご自身、家族、そして支援者が行うべき具体的な「見直しと相談の手順」を、ステップバイステップで詳細に解説します。このロードマップを活用し、ご自身にとって最適な職場環境を、企業と共に作り上げていく方法を見つけましょう。
ステップ1:冷静な現状分析と「しんどさ」の言語化
現状分析:何が、いつ、どこでつらいのか?
「職場が合わない」という感覚は、非常に抽象的です。感情論として相談しても、企業側は具体的な対応策を立てることができません。まずは、「何が、いつ、どこで、どのようにつらいのか」という事実を、客観的に記録することから始めましょう。
記録すべき3つの要素(ABC分析)
- A(Antecedent:先行事象): 「何が起こる前に」つらくなったか。例:急な電話対応を頼まれた時、蛍光灯がチカチカしている時、朝礼で大勢の前で発言を求められた時。
- B(Behavior:行動): つらい時に「どのような行動」を取ったか。例:パニックで席を離れた、頭痛で業務を中断した、過集中で休憩を取るのを忘れた、業務量をごまかしてしまった。
- C(Consequence:結果): その行動の後に「どんな結果」になったか。例:上司に注意された、同僚との関係が悪くなった、納期が遅れた、その日一日体調不良が続いた。
✅ 成功のコツ
この記録は、日記ではなく「データ」として捉えましょう。記録は最低でも2週間続けることで、特定の曜日や時間帯、業務内容など、つまずきのパターンが見えてきます。このパターンこそが、後の交渉材料となります。
「合わない」原因を障害特性と環境のミスマッチから特定する
記録したデータに基づいて、つらい原因を「障害特性」と「職場環境」のミスマッチとして特定します。この段階で、ご自身の特性に対する深い自己理解が重要になります。
- 聴覚過敏が原因の場合: 職場の「電話の音」や「キーボードの音」という環境刺激と、「聴覚過敏」という特性のミスマッチである。
- 時間管理の困難が原因の場合: 「締め切りが曖昧な業務」という環境刺激と、「時間の見積もりの困難」という特性のミスマッチである。
- コミュニケーションの困難が原因の場合: 「口頭中心の指示」という環境刺激と、「非言語コミュニケーションの読み取り困難」という特性のミスマッチである。
「自分が悪い」と責めるのではなく、「環境を整えれば解決できる問題」として捉え直すことが、次のステップへのエネルギーに繋がります。
求める配慮を「具体的な行動」として言語化する
原因が特定できたら、その問題を解決するために「何をどのように変えてほしいか」を、具体的で実行可能な行動として言語化します。抽象的な「優しくしてほしい」や「理解してほしい」では、企業側は動けません。
具体的要望のリスト作成例
- 口頭指示を受けた後、必ずメールで指示内容を要点化して送付してほしい。
- 毎日14時から14時15分まで、静かな休憩室で休憩を取ることを許可してほしい。
- 席を窓際の光の反射が少ない場所に変更してほしい。
⚠️ 注意
要望は、「企業の負担にならない範囲」を意識してリストアップしましょう。リストの作成には、この後のステップで登場するジョブコーチなどの専門家の意見を取り入れることが重要です。
ステップ2:社内での相談ルートの選定と交渉前の準備
相談先を選ぶ:直属の上司?人事?産業医?
具体的な要望リストができたら、いよいよ相談です。誰に相談するかによって、話の通りやすさや、その後の職場内の雰囲気への影響が変わってきます。適切な相談ルートを選びましょう。
主な相談ルートとメリット・デメリット
| 相談先 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 直属の上司 | 業務に直結する配慮を迅速に実施しやすい。 | 上司自身の理解度が低い場合、ハラスメントに繋がるリスクがある。 |
| 人事・障害者採用担当者 | 組織的な対応や配置転換の相談が可能。 | 現場の業務内容を把握しておらず、具体策の検討に時間がかかる。 |
| 産業医・保健師 | 体調不良やメンタルヘルスの面から専門的な意見書を出してもらえる。 | 業務内容の深い改善交渉には介入しにくい。 |
| 社内の相談窓口 | 匿名性が高く、ハラスメントの証拠を残しやすい。 | 解決までに時間がかかることが多い。 |
最も推奨されるのは、直属の上司にまず相談しつつ、人事や産業医に「相談の事実」を報告し、組織的なバックアップ体制を整えることです。ただし、上司との関係性が既に悪化している場合は、人事や産業医を優先すべきです。
交渉準備:支援者(ジョブコーチ等)の同席を求める
職場環境の改善交渉は、本人一人で行うと感情的になったり、必要な配慮を遠慮したりしがちです。可能であれば、外部の専門家であるジョブコーチや就労支援員に相談し、企業との面談に同席してもらいましょう。
- ジョブコーチの役割: 中立的な立場で、本人の特性と企業の状況を客観的に評価し、実現可能な合理的配慮を提案する。
- 心理的サポート: 専門家が同席することで、本人は交渉時の不安を大幅に軽減できる。
- 専門性の担保: 専門家が提示する配慮は、「障害者差別解消法に基づく配慮」として企業側も真剣に検討せざるを得なくなる。
この支援を受けるには、地域の障害者就業・生活支援センターや、就労移行支援事業所に連絡し、「職場定着支援」のサービスを受ける必要があります。
配慮交渉の「トリセツ」と文書化の準備
相談時には、ステップ1で作成した具体的な要望リストを、「トリセツ」(取扱説明書)としてまとめて提出します。そして、交渉によって合意した配慮内容を、必ず文書(合理的配慮確認書)として残してもらうことを目標とします。
⚠️ 注意
口頭での合意は、後のトラブルの元になります。配慮の内容、実施期間、担当者、そして「配慮が守られなかった場合の再交渉のルール」までを文書化し、本人と企業側双方が署名または記名押印しましょう。
文書化することで、その配慮は個人の要求から「組織的なルール」へと昇格し、担当者が変わっても支援が継続される確実性が高まります。
ステップ3:社外の専門機関を活用した環境の再構築
ジョブコーチによる「職場訪問支援」の実施
交渉が成立したら、ジョブコーチによる「職場訪問支援」を具体的に開始します。これは、ジョブコーチが実際に職場を訪問し、配慮が正しく機能しているかをモニタリングし、微調整を行う支援です。
ジョブコーチが実施する具体的な支援
- 環境の微調整: 席の明るさ、パーテーションの高さ、休憩室の静かさなど、物理的な環境を即座に調整する。
- 指導方法の改善: 上司や同僚に対し、指示の出し方、フィードバックの方法など、具体的なコミュニケーションのコツを指導する。
- 定着ミーティング: 定期的に本人、上司、ジョブコーチの三者でミーティングを行い、支援の機能度を評価し、計画を修正する。
ジョブコーチは、最長で8ヶ月程度の集中的な支援を提供することが一般的です。この期間に、職場環境と本人の特性を最大限に近づけるための努力をしましょう。データによると、ジョブコーチの支援を受けた方の定着率は、受けていない方よりも高い傾向にあります。
職務の見直しと配置転換の検討
環境の調整や指示方法の改善を行っても、根本的な業務内容(職務)がお子さんの特性と合わない場合は、職務内容の見直しや配置転換を検討します。これは「最終手段」ではなく、定着を確実にするための重要な「合理的配慮」の一つです。
- 職務の再設計(ジョブ・リデザイン): 苦手な業務(例:電話対応)を他の社員に任せ、得意な業務(例:データ入力、資料作成)に特化するなど、職務の分担や再構成を行う。
- 配置転換の提案: 騒音の多いオフィスから静かなバックオフィスへ、または対人業務から一人で行う専門業務へと部署を移ることを提案する。
💡 ポイント
配置転換は、企業の組織体制や人員配置に関わるため、慎重な交渉が必要です。ジョブコーチを通じて、本人が企業にもたらす利益(例:データ入力の正確性)を明確にし、配置転換が企業全体の生産性向上に繋がることを論理的に伝えましょう。
この段階での交渉は、企業と本人が互いに譲歩し、双方のニーズを満たす着地点を見つけることが成功の鍵となります。
並行して行うべき心理的・福祉的サポート
職場環境の交渉を進めている間は、精神的な負担が非常に大きくなります。この時期にこそ、福祉的なサポートを並行して利用し、本人のメンタルヘルスを守ることが不可欠です。
- カウンセリングの継続: 精神科クリニックや地域のカウンセリング機関で、仕事のストレスや不安について相談を続ける。
- 生活支援の活用: 地域の障害者就業・生活支援センターで、睡眠リズムの調整、金銭管理、家事のサポートなど、生活面での負担を軽減する。
- 家族の理解: 家族やパートナーは、本人の話に耳を傾け、「いつでも休んでいい」という安心感を与えることが、何よりも大きなサポートとなります。
職場での戦いに集中しすぎると、私生活が崩壊し、結局は休職・離職につながりかねません。仕事の改善だけでなく、「生活基盤の安定」を最優先に考えましょう。
ステップ4:改善が見られない場合の最終的な選択肢
選択肢1:休職の検討と適切な期間の設定
環境調整の努力をしても体調が回復しない、または精神的に限界が来ている場合、まず休職を検討します。休職は、負けではありません。心身のエネルギーを回復させるための「戦略的な一時停止」です。
- 医師の診断: まず産業医や主治医に相談し、診断書を作成してもらいます。診断書には「休養が必要な期間」を明記してもらいましょう。
- 休職中の支援: 休職中も、ジョブコーチや就労移行支援事業所と連携し、復職に向けたプログラム(生活リズムの再構築、ストレスマネジメントなど)を実施する。
- 復職の条件: 復職後の合理的配慮の再交渉を休職期間中に完了させ、復職時には必ず「配慮の合意書」がある状態を目指しましょう。
💡 ポイント
休職期間は、特性や症状にもよりますが、最低でも3ヶ月~半年は必要となるケースが多いです。焦って早期復帰を目指すと、再休職のリスクが高まるため、ゆとりを持った計画を立てましょう。
選択肢2:転職を前提とした「次のアクション」の準備
環境改善や職務調整の交渉を尽くしたにもかかわらず、企業側が合理的配慮を提供しなかった場合、あるいは職場の文化自体が根本的に合わないと判断した場合、転職を視野に入れます。
転職準備で重要なこと:
- 退職前の準備: 現職で「何が合わなかったか」を明確に言語化し、次の職場で求める合理的配慮のリストをより詳細に作成しておく。
- 就労移行支援事業所の活用: 転職活動を一人で行うのではなく、就労移行支援事業所に登録し、企業研究、面接練習、応募書類の作成といった専門的なサポートを受けながら進める。
- 職場見学の実施: 次の職場を決める際は、必ず事前に職場見学や体験実習を行い、実際の環境(音、光、人の雰囲気)をご自身の目で確認しましょう。
転職は、「失敗の繰り返し」ではなく、「より良い環境を選ぶための成長」であると前向きに捉えることが大切です。特に障害者雇用の場合、企業とのミスマッチは当然起こりうるものとして、次のステップに活かすことが重要です。
最終的な相談窓口と法的サポート
企業が合理的配慮の提供を拒否したり、ハラスメントがあったりするなど、深刻な問題に直面した場合は、法的・公的なサポートを遠慮なく活用しましょう。
- 労働局(総合労働相談コーナー): 職場のトラブル全般について相談できます。無料で相談でき、行政による指導や助言を受けられることもあります。
- 法テラス(日本司法支援センター): 弁護士による無料相談を受けられる可能性があります。特に障害者差別解消法に基づく配慮の拒否や、不当な解雇の相談に有効です。
- ハローワーク(専門援助部門): 就職活動の支援だけでなく、企業への働きかけや情報提供を担ってくれます。
⚠️ 注意
ハラスメントや差別があった場合は、日時、場所、言動、目撃者、本人の反応などを詳細に記録したメモを証拠として残しておきましょう。客観的な証拠が、後の交渉や訴訟において最も重要となります。
あなた自身が、安心して働ける環境を求める権利を持っていることを忘れないでください。その権利を守るために、これらの相談窓口は存在しています。
まとめ
- 📝 冷静なデータ分析: 「合わない」と感じたら、ABC分析で「何が、いつ、どこでつらいか」を客観的に記録し、具体的な要望リストを作成しましょう。
- 🤝 支援者との交渉: 相談・交渉時には、ジョブコーチや支援員に同席してもらい、合意した配慮内容は必ず文書(合理的配慮確認書)として残しましょう。
- 🚪 最終選択肢の準備: 改善が見込めない場合は、休職や転職も視野に入れ、外部の福祉的・法的サポートを活用しながら、次のステップに備えましょう。

酒井 勝利
(さかい かつとし)38歳📜 保有資格:
作業療法士、福祉住環境コーディネーター
作業療法士として病院・施設で12年勤務。「できないこと」を「できる」に変える福祉用具や環境調整の専門家です。車椅子、杖、リフトなどの選び方から、住宅改修まで、実践的な情報をお届けします。
リハビリテーション専門学校を卒業後、総合病院で5年、障害者支援施設で7年、作業療法士として勤務してきました。特に力を入れているのは、福祉用具を活用した「できることを増やす」支援。例えば、片麻痺がある方が自助具を使って料理ができるようになったり、車椅子の選び方一つで外出の頻度が劇的に変わったりします。印象的だったのは、重度の身体障害がある方が、適切な電動車椅子と環境調整により、念願だった一人での買い物を実現したこと。「自分でできる」という自信が、その方の人生を大きく変えました。記事では、福祉用具の選び方、住宅改修のポイント、補助金の活用方法など、「生活をより便利に、より自立的に」するための情報を発信します。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
リハビリの仕事を通じて、「できないこと」を「できる」に変える喜びを知ったことがきっかけです。
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重度の身体障害がある方が、適切な電動車椅子で一人での買い物を実現したこと。
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福祉用具を活用して「生活をより便利に、より自立的に」する情報を発信します。
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