子どもが精神障害と向き合うことになった日

「お母さん、僕は病気なの?」
「お母さん、僕は病気なの? 頭がおかしくなったの?」——14歳の息子がそう聞いた時、私は言葉に詰まりました。心療内科を受診し、統合失調症と診断された直後のことでした。息子の不安そうな顔を見て、私は何と答えればいいのかわかりませんでした。
「病気だけど、治療できる病気だよ」と言いながら、私自身が受け入れられていませんでした。まだ中学生の息子が、精神障害を抱えて生きていく——その現実に、どう向き合えばいいのか。息子も私も、これから長い道のりを歩むことになりました。
この記事では、息子が統合失調症と診断されてからの2年間、子どもと家族がどう病気と向き合ってきたかをお話しします。同じように若年での発症に向き合っているご家族の参考になれば幸いです。
最初の兆候——「思春期の反抗」だと思っていた
変化は中学1年の秋から
振り返ってみると、息子の変化は中学1年の秋頃から始まっていました。
それまで明るく友達も多かった息子が、だんだんと部屋に引きこもるようになりました。学校から帰ると、すぐに自分の部屋に入り、夕食の時以外はほとんど出てきませんでした。
夫と私は、「思春期だからね」「反抗期なんだろう」と話していました。中学生になれば、親から距離を置きたくなるもの——そう思っていました。
でも今思えば、それは病気の始まりでした。
⚠️ 注意
統合失調症の好発年齢は思春期から青年期です。「思春期の変化」と病気の初期症状を見分けるのは難しいですが、極端な引きこもり、妄想的な発言、幻聴の訴えなどがある場合は、早めに専門家に相談することが重要です。
「誰かが監視している」
中学2年になった春、息子は奇妙なことを言い始めました。「誰かが僕を監視している」「盗聴器が仕掛けられている」——そんな言葉でした。
最初は冗談だと思いました。でも息子は真剣でした。部屋中を探し回り、「盗聴器はどこだ」と叫びました。
学校でも問題が起き始めました。担任の先生から電話があり、「最近、授業中に独り言を言ったり、突然笑い出したりします。保健室に行きたがることも増えています」と言われました。
私は、何かがおかしいと感じ始めました。
初めての受診——拒否と説得
担任の先生と相談し、スクールカウンセラーに会うことになりました。カウンセラーは息子と何度か面談した後、私たち夫婦にこう言いました——「専門医を受診されることをお勧めします」。
でも息子は、受診を拒否しました。「僕は病気じゃない」「頭がおかしいと思っているんでしょ」——激しく抵抗しました。
私は、何度も何度も説得しました。「病気かどうか確かめるだけ」「ちょっと相談してみよう」——そう言い続けて、ようやく息子は同意してくれました。
「若年発症の場合、本人が受診を拒否することも多いです。でも早期発見・早期治療が予後を大きく左右します。根気強く説得し、信頼関係を保ちながら受診につなげることが大切です」
— 後に主治医が教えてくれた言葉
診断の日——「統合失調症」という現実
2時間に及ぶ問診
初めて心療内科を訪れた日のことは、今でも鮮明に覚えています。息子は緊張して、私の隣でじっとしていました。
医師との面談は2時間近くに及びました。医師は丁寧に、息子の話を聞いてくれました。「いつから監視されていると感じるのか」「どんな声が聞こえるのか」——息子は、少しずつ話し始めました。
「女の人の声が聞こえる」「僕の悪口を言っている」「誰かが僕を狙っている」——息子の言葉を聞きながら、私は涙をこらえるのに必死でした。
「統合失調症」の告知
診察の後、医師は私たち夫婦だけを別室に呼びました。そして告げました——「統合失調症の可能性が高いです」。
頭が真っ白になりました。「統合失調症」——その言葉は知っていました。でも、まさか自分の息子が、と。
医師は続けて説明してくれました。統合失調症は脳の病気であること。薬物療法で症状をコントロールできること。早期治療が重要であること。若年発症でも、適切な治療とサポートで日常生活を送れること——。
でも私の頭には、何も入ってきませんでした。「息子の将来はどうなるのか」——その不安だけが、頭を支配していました。
| 私の不安 | 医師の説明 |
|---|---|
| 治るのか? | 症状のコントロールは可能。寛解状態を目指せる |
| 学校は続けられるか? | 症状が安定すれば可能。配慮が必要な場合もある |
| 将来、働けるか? | 多くの人が働いている。サポートを使えば可能 |
| 一人で生活できるか? | 自立している人も多い。時間をかけて準備する |
| 結婚できるか? | 結婚している人もいる。まずは今を大切に |
息子にどう伝えるか
最も難しかったのは、息子にどう伝えるかでした。
医師は「年齢を考慮しながら、本人に説明することが大切です」と言いました。でも、14歳の子どもに、どう伝えればいいのか。
医師と相談し、まず私たちから伝えることにしました。できるだけわかりやすく、希望を持てるように——そう心がけました。
「脳の中の、情報を整理する部分が、ちょっとうまく働いていないんだって。だから、実際にはない声が聞こえたり、監視されていると感じたりするの。でも、お薬を飲むことで、良くなっていくって」
息子は聞きました——「お母さん、僕は病気なの? 頭がおかしくなったの?」
私は答えました——「病気だよ。でも、頭がおかしいとか、そういうことじゃない。風邪をひくみたいに、脳が病気になっただけ。ちゃんと治療すれば、良くなるから」
💡 ポイント
子どもへの病気の説明は、年齢や理解度に応じて調整が必要です。「頭がおかしい」「一生治らない」といった誤解を与えないよう、希望を持てる伝え方が大切です。医師やカウンセラーと相談しながら進めましょう。
治療の開始——薬と副作用と闘う日々
服薬への抵抗
診断後、すぐに抗精神病薬の服用が始まりました。でも息子は、薬を飲むことに抵抗しました。
「僕は病気じゃない」「薬なんか必要ない」——そう言って、薬を拒否する日もありました。
私は、毎日説得しました。時には厳しく、時には優しく——息子が薬を飲むよう、様々な工夫をしました。薬を飲んだら好きなお菓子を買う、飲み忘れ防止のアラームを設定する——できることはすべてやりました。
副作用の苦しみ
薬を飲み始めて数週間、副作用が出ました。強い眠気、体重増加、手の震え——息子は、これらの副作用に苦しみました。
「体がだるい」「眠くて学校で授業に集中できない」——息子の訴えを聞きながら、私も辛かったです。
主治医に相談し、薬の種類や量を調整してもらいました。何度も調整を繰り返し、半年ほどかけて、ようやく息子に合った薬が見つかりました。
症状の改善
適切な薬が見つかってから、徐々に症状が改善していきました。
「監視されている」という思いが弱くなり、幻聴も減っていきました。独り言も少なくなり、表情も穏やかになっていきました。
3ヶ月後、息子は言いました——「最近、調子がいい気がする」。その言葉を聞いて、私は初めて希望を感じました。
✅ 成功のコツ
薬物療法は統合失調症治療の基本ですが、適切な薬を見つけるまで時間がかかることがあります。副作用が辛い時は我慢せず、主治医に相談して調整してもらいましょう。焦らず、根気強く続けることが大切です。
学校生活——理解と偏見の狭間で
学校への説明
病気のことを、学校にどう伝えるか——これも大きな悩みでした。
主治医は「学校の理解とサポートは重要です」と言いました。でも私は躊躇しました。「偏見を持たれるのでは」「いじめられるのでは」——そんな不安がありました。
でも結局、担任の先生と学年主任、養護教諭に説明することにしました。息子をサポートしてもらうためには、理解してもらう必要があると判断しました。
先生方は、理解を示してくれました。「できる限りサポートします」「何かあればいつでも相談してください」——その言葉に、救われました。
クラスメイトとの関係
クラスメイトには、病名は伝えませんでした。でも息子の様子が以前と違うことに、友達は気づいていました。
最初は、友達が距離を置くようになりました。「変わったね」「怖い」——そんな声も聞こえてきました。息子は、孤立していきました。
でも、数人の友達は、変わらず接してくれました。「大丈夫?」「また一緒に遊ぼうよ」——その優しさが、息子を支えてくれました。
通級指導教室の利用
症状が落ち着いてから、通級指導教室を利用することになりました。週に数時間、個別のサポートを受けられる場所です。
そこで息子は、ストレス対処法やコミュニケーションスキルを学びました。同じような困難を抱える仲間とも出会えました。
この通級指導教室が、息子の学校生活を支える大きな助けになりました。
家族の変化——支え合うということ
兄の反応
息子には、2歳年上の兄がいます。兄もまた、弟の病気に戸惑いました。
最初は「なんで弟ばっかり」と不満を言いました。確かに、私たちの注意は息子に向きがちでした。兄は、寂しかったのだと思います。
でも、家族で話し合いました。病気のこと、みんなで支え合うこと、兄も大切な家族であること——時間をかけて、兄も理解してくれるようになりました。
今では、兄が弟を気にかけてくれます。「大丈夫?」「薬飲んだ?」——そんな言葉をかけてくれるようになりました。
夫婦で支え合う
夫も私も、最初は混乱していました。「なぜうちの子が」「何が悪かったのか」——お互いを責めることもありました。
でも、家族教室に一緒に参加し、病気について学ぶうちに、協力し合えるようになりました。
今では、役割分担をしています。私は日常のケアと通院のサポート、夫は経済的なサポートと息子との余暇活動——それぞれができることをやっています。
自分たちの時間も大切に
家族教室で学んだ大切なことの一つは、「家族自身の時間も大切にする」ことでした。
息子のことばかり考えていると、家族全員が疲弊します。だから意識的に、家族それぞれの時間も作るようにしました。
夫婦でデートに行く、兄が友達と遊ぶ、私が趣味を楽しむ——こうした時間が、家族全体のバランスを保ってくれています。
2年後の今——少しずつ前へ
症状は安定している
診断から2年が経った今、息子の症状は安定しています。
幻聴はほとんどなくなりました。妄想的な発言も減りました。薬も、副作用の少ないものに調整できました。
定期的な通院と服薬は続けていますが、日常生活はほぼ普通に送れています。
高校進学という目標
今年、息子は高校受験を控えています。病気のことを考えると、不安もあります。でも息子は、前を向いています。
「通える範囲で、自分に合った高校を探したい」——そう言って、学校見学にも積極的に行っています。
主治医や学校の先生とも相談しながら、息子に合った進路を一緒に探しています。
将来への希望
2年前、私は息子の将来が見えませんでした。でも今は、希望を持てています。
病気はあっても、息子は息子です。夢もあるし、好きなこともある。友達もいるし、笑うこともある。
病気と上手く付き合いながら、自分らしく生きていける——そう信じています。
同じ立場の家族へ伝えたいこと
早期発見・早期治療が大切
もし子どもに気になる症状があるなら、早めに専門家に相談してください。
「思春期だから」「そのうち治る」と様子を見るのではなく、専門家の意見を聞くことが大切です。
統合失調症は、早期治療で予後が大きく改善します。私たちも、もっと早く気づけていれば、と今でも思います。
子どもを信じて
病気だからといって、子どもの可能性を諦めないでください。
適切な治療とサポートがあれば、子どもは自分の人生を生きていけます。
「病気の子」として見るのではなく、「一人の人間」として尊重する——その姿勢が大切だと思います。
一人で抱え込まないで
家族だけで抱え込まず、様々なサポートを使ってください。
医療機関、学校、福祉サービス、家族会——たくさんの支援があります。ぜひ活用してください。
私たち家族も、多くの人に支えられて、ここまで来られました。一人じゃない——その実感が、大きな力になります。
希望を持って
最後に、これだけは伝えたいです——希望を持ってください。
診断を受けた直後は、絶望するかもしれません。でも、時間とともに、希望が見えてきます。
子どもの成長を信じて、一緒に歩んでいってください。必ず、道は開けます。
「若年発症は、確かに課題も多いです。でも、若いからこそ可塑性も高く、適切な支援で大きく成長できます。焦らず、子どものペースで、一歩ずつ進んでいきましょう」
— 主治医の言葉
よくある質問
Q1: 子どもが統合失調症になったのは、育て方が悪かったからですか?
いいえ、違います。統合失調症は脳の病気であり、育て方が原因ではありません。遺伝的要因、脳の発達、環境ストレスなど、様々な要因が複雑に関係して発症します。自分を責める必要はありません。
Q2: 学校には病気のことを伝えるべきですか?
基本的には、適切なサポートを受けるために、学校(特に担任、養護教諭)に伝えることをお勧めします。ただし、どこまで伝えるか、クラスメイトに伝えるかは、本人や家族の意向、状況に応じて判断してください。学校と相談しながら決めることが大切です。
Q3: 薬は一生飲み続けなければならないのですか?
多くの場合、長期的な服薬が必要ですが、「一生」とは限りません。症状が安定すれば、減薬や中止も検討できる場合があります。ただし、自己判断での中止は再発リスクが高いため、必ず主治医と相談しながら進めてください。
Q4: 兄弟姉妹にも影響はありますか?
統合失調症には遺伝的要因もありますが、必ず発症するわけではありません。また、家族の注意が病気の子に向きがちになり、兄弟姉妹が寂しさを感じることもあります。兄弟姉妹へのケアも大切にし、家族全体でバランスを取ることが重要です。
Q5: 将来、自立して生活できますか?
多くの方が自立して生活しています。適切な治療を続け、必要なサポートを使いながら、就労し、一人暮らしをし、結婚している人もいます。時間をかけて準備し、段階的に自立を目指していくことが大切です。焦らず、本人のペースで進めましょう。
まとめ
この記事では、14歳で統合失調症と診断された息子と、家族が歩んだ2年間をお話ししました。
- 若年発症でも、早期発見・早期治療で予後は改善できます
- 子どもへの説明は、年齢に応じて希望を持てる伝え方が大切です
- 学校や医療機関、福祉サービスと連携しながら支えていきましょう
- 家族自身のケアも忘れず、一人で抱え込まないことが重要です
もし今、子どもの精神障害に向き合っているなら、希望を持ってください。子どもの可能性を信じて、一緒に歩んでいってください。適切なサポートがあれば、子どもは自分らしく生きていけます。一人で抱え込まず、支援を使いながら、一歩ずつ進んでいきましょう。

鈴木 美咲
(すずき みさき)42歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として15年、障害のある方とそのご家族の「困った」に寄り添ってきました。実際の相談事例をもとに、当事者やご家族のリアルな声、具体的な解決策をお届けします。「一人で悩まないで」がモットーです。
社会福祉士として障害者相談支援事業所に勤務し15年。年間約100件の相談に対応し、サービス等利用計画の作成や、関係機関との調整を行っています。この仕事の魅力は、「困っている」状態から「解決した!」という笑顔に変わる瞬間に立ち会えること。ただし、制度が複雑で「どこに相談すればいいか分からない」という声を本当によく聞きます。特に印象深いのは、お子さんの障害を受け入れられず孤立していたお母さんが、同じ境遇の親の会に繋がり、「一人じゃないと分かって救われた」と涙ながらに話してくださったこと。情報と繋がりの大切さを実感しました。記事では、実際の相談事例(もちろん個人情報は特定できないよう配慮)をベースに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えていきます。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学のボランティアで障害のある方と出会い、「困っている」を「解決した!」に変える仕事がしたいと思ったことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
孤立していたお母さんが、親の会に繋がり「一人じゃないと分かって救われた」と話してくださったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
実際の相談事例をもとに、「こんなとき、どうすればいい?」という疑問に答えることを大切にしています。
🎨 趣味・特技
ヨガ、カフェ巡り
🔍 最近気になっているテーマ
ヤングケアラー支援、家族のレスパイトケア





