障害者と家族が知っておくべき住環境改善の基礎

障害者と家族が知っておくべき住環境改善の基礎知識と進め方
ご本人、ご家族、そして支援者の皆様、住み慣れたご自宅は、最も安心できる生活の拠点です。しかし、障害の状況や加齢によって身体機能が変化すると、「家の構造が使いにくい」「移動が大変で不安」といった住環境の課題が日々生じてきます。
住環境の改善は、単にバリアフリー工事をすることではなく、ご本人の能力を最大限に引き出し、自立した生活と安全を確保するための「生活空間のデザイン」です。どこから手をつければいいのか、どんな制度が使えるのか、迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。
この記事では、障害のある方とご家族が知っておくべき「住環境改善」の基本的な考え方から、専門家の選び方、公的支援制度の基礎までを網羅的に解説します。この基礎知識を身につけて、より快適で安全な在宅生活を実現するための一歩を踏み出しましょう。
🏠 基礎知識:住環境改善がもたらす効果と基本原則
住環境の改善は、単なる「便利」で終わるものではありません。それは、ご本人の自信とご家族の安心につながる、生活全体の質を高めるための重要な投資です。
住環境改善がもたらす五つの効果
適切な住環境の改善は、生活に様々なプラスの効果をもたらします。
- 転倒・事故リスクの軽減: 段差の解消や手すりの設置により、自宅内での事故原因を根本から取り除きます。
- 自立度の向上: 自分でできる動作(トイレ、入浴、移動など)が増え、生活への主体性が高まります。
- 介護負担の軽減: 介助が必要な動作が安全・容易になることで、ご家族やヘルパーの身体的・精神的な負担が軽減されます。
- 生活の質の向上(QOL): 快適で安全な環境は、ストレスを減らし、日々の生活を前向きに楽しむことにつながります。
- 心理的な安定: 「自分でできる」という自信がつき、不安や焦燥感が減り、精神的な安定に貢献します。
特に、介護負担の軽減は、ご家族が在宅生活を継続していくための最も重要な要素の一つです。
💡 ポイント
住環境改善は、「今の状態」だけではなく、「将来の状態」を見越して計画することが大切です。例えば、今は杖歩行でも将来的に車椅子になる可能性を考慮し、廊下の幅や出入口の開口部を確保しておくと、後々の再改修の費用を抑えられます。
福祉住環境整備の三原則
福祉住環境の整備において、専門家が必ず守るべき基本原則があります。この原則を知っておくと、業者や専門家との話し合いがスムーズになります。
- 原則1:自立支援の原則: 整備は、ご本人が持つ能力を最大限に活かし、できる限り自立した生活を送れるように支援することを最優先とします。過剰な介助を前提とした設備導入は避けるべきです。
- 原則2:安全性の原則: 転倒や火傷など、事故の危険性のある場所を特定し、それを徹底的に排除することが絶対条件です。
- 原則3:経済性の原則: 費用対効果を常に考慮し、公的支援制度を最大限に活用するなど、費用負担が過大にならない方法を選択します。
この三つの原則に照らし合わせることで、本当に必要な改修と、そうでない改修を見極めることができます。
🔍 最初にやるべきこと:困りごとの「見える化」
住環境改善を成功させるには、漠然とした「不便」ではなく、具体的な「困りごと」を特定し、「見える化」することが第一歩です。ご本人とご家族が一緒になって、日々の生活を振り返りましょう。
動作分析による具体的な課題の特定
どの場所で、どんな動作に、どれくらいの困難があるのかを記録することで、改修の優先順位が見えてきます。
- 場所と動作の記録: 「玄関の上がり框(あがりかまち)」で「立ち上がるとき」に「手すりがなく、ふらつく」といった具合に、具体的な場所と動作を記録します。
- 介助量の記録: 介助者がどの動作で、どれくらいの力や時間を使っているかを記録します(例:入浴時、浴槽への出入りに介助者2名で5分かかる)。
- 危険箇所の把握: 特に夜間や疲れているときに、どこでつまずきそうになるか、どこでヒヤリハット(事故には至らなかった危険な出来事)があったかをリストアップします。
この記録は、後で専門家(作業療法士やコーディネーター)に相談する際の最も重要な資料となります。具体的なデータがあることで、説得力のある支援プランを立てやすくなります。
「ヒヤリハット記録をつけたら、夜間のトイレまでの廊下に毎日つまずきそうになっていることがわかりました。すぐに足元灯を設置し、大掛かりな工事なしに危険を回避できました。」
— 家族からのエピソード
誰に相談するか:専門家マップ
困りごとが特定できたら、次のステップは専門家に相談することです。住環境改善に関わる専門家には、それぞれ得意分野があります。
| 専門家の種類 | 役割・得意分野 | 最初に相談すべきこと |
|---|---|---|
| 相談支援専門員 | 障害福祉サービス全体の利用計画策定、制度の案内 | サービス利用全般、助成制度の概要 |
| 福祉住環境コーディネーター | 福祉と建築の橋渡し、改修プランニング、業者選定 | 具体的な改修プラン、助成金申請書類作成 |
| 作業療法士・理学療法士 | 動作分析、機能評価、適切な手すりの位置・高さの提案 | 身体機能の評価、自助具の選定 |
特に、作業療法士による動作評価は、改修の効果を最大化するために不可欠です。体の使い方に合わせた改修でなければ、かえって使いにくくなることがあるからです。
💰 費用負担を軽減する公的支援制度の基礎
住環境の改善を諦めてしまう最大の理由は費用です。しかし、公的な支援制度を賢く活用すれば、費用負担を大幅に軽減することが可能です。制度には、主に「介護保険」と「障害者総合支援法」の二つのルートがあります。
介護保険による住宅改修費の支給
この制度は、要介護・要支援認定を受けている方が対象です。障害者手帳の有無は関係ありません。
- 支給限度額: 原則として一生涯で20万円です。この20万円に対し、所得に応じて1割(または2割、3割)の自己負担で改修ができます。
- 対象となる工事: 手すりの取り付け、段差の解消、滑り止め床材への変更、引き戸への扉の交換、洋式便器への交換の5種類に厳しく限定されています。
最も重要なルールは、必ず工事着工前に市町村に申請し、許可を得ることです。このルールを破ると、助成金は一切支給されません。
✅ 成功のコツ
介護保険の支給限度額20万円は、転居した場合や、要介護度が3段階以上重くなった場合に、再度利用できる可能性があります。計画を立てる際は、これらの「再支給」の条件も頭に入れておきましょう。
障害者総合支援法による日常生活用具給付事業
この制度は、主に障害者手帳(身体、療育、精神)を持っている方が対象です。介護保険の対象外となる改修や用具の給付を受けられる場合があります。
- 対象となる工事・用具: 居宅生活動作補助用具(住宅改修費)として、自治体が定める範囲の改修費用が助成されます。介護保険では対象外となる、より大規模な改修(ホームエレベーターの一部、車椅子対応キッチンなど)が、自治体独自の判断で対象となることがあります。
- 費用の特徴: 費用の上限額は自治体によりますが、利用者の所得に応じて月額の負担上限額が設定される「応能負担」であるため、低所得者世帯には特に手厚い支援となります。
この制度は市町村が行う「地域生活支援事業」であるため、助成の対象品目や上限額は、お住まいの自治体によって大きく異なることを理解しておきましょう。
🛠️ 障害特性別:具体的な住環境改善のアイデア
障害の特性が異なれば、必要な住環境の改善内容も異なります。それぞれの特性に合わせた具体的なアイデアを知っておきましょう。
肢体不自由(車椅子・歩行器利用者)への対応
移動のしやすさと安全性の確保が最大のテーマです。
- 扉の改善: 開き戸は車椅子で操作しにくいため、廊下や部屋の扉を引き戸や折れ戸に交換します。
- 動線の確保: 廊下や主要な通路幅を最低80cm以上、部屋の角やトイレ前など、車椅子が回転する場所には直径150cm以上のスペースを確保します。
- 操作性の向上: コンセントや照明スイッチは、車椅子から手を伸ばしやすい床上80cm~100cm程度の高さに移設します。
家具の配置一つでも動線は大きく変わります。床に物を置かない、コード類はモールで固定するなど、小さな工夫も積み重ねましょう。
知的障害・精神障害(認知・行動特性)への対応
物理的なバリアよりも、環境のわかりやすさや安全管理が重要になります。
- 視覚的誘導: 目的の場所(トイレ、自分の部屋など)のドアを、他のドアと違う色にしたり、大きなピクトグラム(絵文字)を貼ったりして、空間のわかりやすさを高めます。
- 危険物の管理: 薬や刃物、火の元など、触れると危険なものは、鍵付きの収納に厳重に管理します。
- 落ち着ける空間の確保: パニックや強い不安を感じたときに、一人で落ち着ける「クールダウンスペース(静かな部屋の隅など)」を明確に確保し、過剰な刺激(騒音、強い光)を遮断できるようにします。
環境をシンプルに整理し、物を減らすことが、不安や混乱を減らすための第一歩となります。
✍️ 計画から完了まで:スムーズな改善プロセスの流れ
住環境改善は、行き当たりばったりで進めると失敗や二度手直しにつながります。以下の手順で計画的に進めましょう。
ステップ1:多職種チームの結成
まずは、以下の専門家と連携できる体制を整えます。
- ご本人の状態を把握している主治医、作業療法士(リハビリ担当)。
- 制度利用や計画を立てる相談支援専門員(またはケアマネジャー)。
- 改修プランを設計し、業者と調整する福祉住環境コーディネーター。
特に、改修プランの決定前に、必ずリハビリ専門職に「改修後の動作」をシミュレーションしてもらい、図面上で問題がないかを確認することが重要です。
ステップ2:助成金・補助金制度の確認と申請
改修プランが決まったら、すぐに費用の確認に移ります。
- 制度の選択: 介護保険と障害者総合支援法のどちらが優先・適用可能か、また、自治体独自の補助金制度があるかを確認します。
- 事前申請: 業者からの見積書、改修が必要な理由書、改修前の写真など、必要書類を揃え、市町村の窓口に提出し、承認を待ちます。この承認が下りるまで、絶対に工事を始めないでください。
⚠️ 注意
助成金や補助金は、多くの場合、申請受付期間が限られていたり、年度の予算がなくなり次第終了したりします。計画が決まったら、すぐに窓口に相談することが肝心です。
ステップ3:工事と完了後の評価
承認が下りたら、工事を開始します。工事完了後も重要なステップが残っています。
- 完了後の確認: 工事完了後、すぐにリハビリ専門職と一緒に現場を確認し、計画通りに改修が完了しているか、実際に動作に支障がないかをチェックします。
- 完了報告: 領収書、請求書、改修後の写真を添えて、市町村に完了報告を行い、助成金を受け取ります。
改修後に用具の高さや配置を微調整する必要がある場合は、作業療法士に相談し、最終調整を行いましょう。
✨ まとめと次の一歩の提案
障害のある方とご家族のための住環境改善は、自立支援、安全性、そして経済性という三つの原則に基づき、計画的に進めるべき大切なプロジェクトです。成功の鍵は、ご本人の「困りごと」を具体的に特定し、作業療法士や福祉住環境コーディネーターといった専門家を巻き込んだ多職種連携を組むことです。
また、費用負担を軽減するため、介護保険と障害者総合支援法の両制度、そして自治体独自の補助金の情報を収集し、必ず工事前に申請・承認を得る手続きを踏みましょう。
次の一歩の提案
まずは、現在自宅に来られている作業療法士や相談支援専門員に、住環境改善について相談を持ちかけてみましょう。「特に不便はない」と感じていても、専門家の視点から見れば、小さな危険や改善点が見つかるかもしれません。
まとめ
- 住環境改善は、自立、安全、経済性の三原則に基づき、「将来の状態」を見越した計画を立てるべきである。
- 計画の初期段階で、動作分析を行い、具体的な「困りごと」を可視化し、リハビリ専門職に相談する。
- 費用助成は、必ず工事着工前に、介護保険または障害者総合支援法(日常生活用具)に基づき、市町村に申請し、承認を得る。

原田 彩
(はらだ あや)35歳📜 保有資格:
社会福祉士、相談支援専門員
相談支援専門員として10年、地域の福祉資源の発掘と繋ぎに力を入れています。「この街で暮らす」を支えるために、施設情報だけでなく、バリアフリースポットや割引施設など、生活を豊かにする地域情報をお届けします。
大学で福祉を学び、卒業後は地域の相談支援事業所に就職。当初は「障害福祉サービス」だけが支援だと思っていましたが、地域の中には使える資源がたくさんあることに気づきました。例えば、障害者割引が使える映画館、バリアフリー対応のカフェ、当事者の方が集まれるコミュニティスペースなど。こういった情報を知っているかどうかで、生活の質が大きく変わります。特に印象的だったのは、引きこもりがちだった方が、近所のバリアフリー図書館を知り、そこで読書会に参加するようになったこと。「外に出るのが楽しくなった」と言ってくださいました。記事では、すぐサポの26万件の施設データベースを活用しながら、地域ごとの福祉サービスの特徴や、知って得する地域情報をお伝えします。
もっと詳しく▼
💭 福祉の道を選んだ理由
大学で福祉を学び、地域の中に使える資源がたくさんあることに気づいたことがきっかけです。
✨ 印象に残っている出来事
引きこもりがちだった方が、バリアフリー図書館を知り、読書会に参加するようになったこと。
✍️ 記事を書く上で大切にしていること
すぐサポの施設データベースを活用し、地域ごとの特徴や知って得する情報を発信します。
🎨 趣味・特技
街歩き、写真撮影
🔍 最近気になっているテーマ
インクルーシブな街づくり、ユニバーサルデザイン





